太陽系の第三惑星、正式名称「Sol-3 ソラリス 」。
無機物、有機物含む万物が周波数で成り立つ世界。最初の「悲鳴」から旧時代の法則は尽く力を失い、文明と人類は存続の危機に立たされ、歳主の導きの下、各地で国家を維持している。
「悲鳴」という未曾有の災害を前に、人類は文明という灯火を掲げ、未知の危機の到来に備えている。
では、「悲鳴」とは何なのか。
とある研究記録では、ソラリスが天空海に覆われるずっと前─────すなわち、最初の「悲鳴」が発生する前には、ソラリスでは大規模な大量絶滅が5回あったという。原因は隕石の衝突、火山の大規模噴火、宇宙からのガンマ線バースト、地磁気逆転が挙げれ、「悲鳴」もその一つという説だった。そしてなにより面白いと思ったのが「悲鳴」という異変はソラリスという惑星の自浄作用なのではという説だ。
増えすぎた人類。発展しすぎた文明。消費量の増加に伴う供給不足。そもそも星の資源は有限であると分かっていながら増え続けた結果、「悲鳴」という災害の形を持って間引いていく。正しくソラリスという惑星の「悲鳴」。誰にも届かない、聞こえないのであれば直接見える形で現れる。
なんとも荒唐無稽だと思いながらも、あながちないとも言いきれない。また次の資料を捲ると、デバイスが鳴った。
『久しぶりだな、ソルよ』
「今休暇中だ、組織長」
そう言って通信を切った。最近何時もこうだ。前回はネオユニオンに行き、副組織長である『エリス』のサポート、その前は葦ノ原まで行き『座敷童子』の話し相手、その前はリナシータに行き、クリストフォロに夜通し脚本の修正に強制的に付き合わされた。
いい加減にして欲しい。こっちは一日でもいいから休みが欲しいのに。このままだと気が狂ってしまいそうだ。
するとまた、デバイスが鳴る。
『久しぶりだな、ソルよ』
「・・・・・何の用だ」
『そう警戒するな。お前に次の仕事を任せようと思ってな』
「・・・・・・場所は」
『今州だ。スカーとフローヴァをサポートしてやれ』
「今州?監察二人もいるのに俺が行く意味はあるのか?」
『もうじき今州の鳴式が復活する。お前も知ってると思うが、私の「作品」を作る為により正確なデータが欲しいのだ』
「今州の辺庭に潜り込めと?それとも華胥研究院か?」
『そこまでせずとも良い。お前に限ってそんな事はないと思うが、今州の令尹は鼻が利く』
今令尹。今州を統治する最高執政官にして歳主の共鳴者。年端もいかない少女でありながら、その実力は歳主の共鳴者の名に違わぬ強者でもある。合間見えるのは御免被りたい。
『完全な鳴式の共鳴者であるお前なら、令尹相手に遅れは取らないだろうがわざわざ危険を犯すまでもない』
「わかった・・・・・・ところで組織長」
『なんだ?』
「その姿はなんだ」
デバイスから表示されている画面には可愛らしい帽子を被った少女の姿が映っていた。僅かに見える肌の模様、服装から見るとロイ人だろうか。今度は誰の身分を奪ったのか。
『どうだ?中々良いだろう?少し疲れやすいが、ラハイロイに居る時は何かとこの身体は都合がいい』
「そうか」
『そうだ、試しにこう呼んでやろう。ソルお兄ちゃ─────』
ブツリと通信を切る。
びっくりした。お兄ちゃんと呼ばれたかと思った。あまりの悍ましさに、背筋に嫌な汗が垂れる。
「完全な鳴式の共鳴者か・・・・・・・」
手の甲に刻まれた音痕に視線を落とす。
文明と人類の敵である鳴式。
ソレは残像と呼ばれる周波数エネルギーから構成される生命体に似た存在の中でも規格外の残像として区分される。人類が誇りとする精神を打ち砕くために、崩壊した人間の意志を糧として、「悲鳴」と共に生まれ落ちる残像。文明が滅びない限り、何度でも蘇る不死不滅の存在。
鳴式を完全に滅ぼすためには、文明諸共自分たちも滅びるしか方法がない盛大な道連れ。何とも残酷なものだ。
『歳主にとって共鳴者は現世に留まるための楔、だが鳴式にとって
自分と組織長の関係はなんと言えばいいだろうか。上司と部下、盟友、同士、ビジネスパートナー、どれが当てはまるだろうか。
『力の使い方を学ぶ必要があるな、ソルよ。無闇に鳴式の能力を暴走させては器が持たない。制御出来てこそ、真の器なのだ』
『食事を摂っているか?・・・・・・何?味気がないから要らない?味付けは自分でやれと言っただろう』
『お前は鳴式の能力を完全に扱える共鳴者だ。お前ほどの逸材はもう現れないかもしれない。そこで私は思いついたのだ、だったら人工的に作ってしまえばいいと。お前にも協力して欲しい。────具体的に?お前の体細胞を少し分けて・・・・・・なぜ逃げるのだ、ソルよ』
親子?ないな、絶対。
あんな気狂いと親子など願い下げだ。
「・・・・・・・」
軽く息を吐き、稷廷の研究施設跡を後にする。機巧技術を極めた研究機関らしいが、どうも色々な分野にも手を出していたらしい。
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瑝瓏
広大かつ豊かな領土を誇っており、一つの首都を中心とした六つの地方行政区画、「一庭六州」で構成されている。それぞれの場所に歳主が存在しており、ソラリスに存在する国の中で最も多くの歳主を抱えている国で有名である。
そして、組織長からの指示で行く今州とは、瑝瓏の中でも最も新しい行政区画でもある。
北方から侵攻してくる残像潮に対抗するために最前線に設置されているため、関内に位置する一庭五州に対して、今州は関外に存在している特徴がある。比較的新しいとは言っても、今州だけでも数百年の歴史を持っているらしい。
そんな今州の僻地で、広大な景色を眺める。
残星組織という国際的テロ組織に所属している自分にも、景色を眺める権利くらいあっていいはずだ。
「はは、まさかお前と一緒に仕事が出来るなんてな。嬉しいぜ、兄弟」
「お前は相変わらずだ、スカー」
肩を組んでくる男を一瞥する。
「組織長から聞いてるだろ?俺たちの仕事は鳴式無相燹主を復活させる事だ」
「ああ。それで、フローヴァはどこに行った?一緒じゃないのか?」
「さぁな。あのお嬢さまの事は俺にも分からねぇ」
「お前なぁ・・・・・・・」
早速頭が痛い。そもそも残星組織に仲間意識など皆無だと思っていたが、仕事くらい割り切って欲しい。
それを抜きにしてもこのスカーという男とフローヴァの相性は良好とも言い難い。
かつて彼女が言っていたことを思い出す。
『あの狂人には、常識が通用しない。気まぐれ、美意識の欠片もない。私が丹念に用意したものを、呆気なく台無しにする。早いところ、私からできる限り遠い所へ行ってほしいわ。クリストフォロ、あなたもよ』
(そう言えば、最後にクリストフォロの事も刺していたな)
「監察様」
一人のアーティファイサーが片膝をついた。
「辺庭から妙な気配を察知しました。頃合いかと」
「令尹が動き出したということは、あいつが今州城に着いた頃か」
「噂の漂泊者か?」
「お前も気に入るぜ?」
「何をするつもりだ、俺たちの任務は・・・・・」
「そう言うなよ、兄弟。ちょっと挨拶しに行くだけさ。お前も来るだろ?ソル」
肩で風を切りながら歩いていくスカーに、着いていく。
スカーはスカーで何をするのか分からないし、フローヴァはどこに行ったか分からないし。
何なんすか、この組織。
あーあ、やめようかな〜〜〜〜。