新世界☆ハッピーエンド計画進行中~世界の破滅フラグは人力でごり押し回避するに限る~ 作:簾烏賊
◇加筆修正・訂正
◇
彼の名前はホシザキ。昨晩、潜入捜査の末、星嵜の計画の上で必要とみなされたアクシを奴隷市場から確保し連れ出した。
普通なら商品を盗んだ罪人として追われる身になるのだが、”奴隷を盗む”のは全世界に反映される『大精霊法』によると罪に問えないとなっている。仮に奴隷商売人が被害を訴えても非人道的な行為で金を稼いでいる人間たちである。社会を味方につけるのも絶対に無理である。
「でも、どうしてすぐに契約する必要があるの?」
「契約は己の身を固めるもんだ。アンタも俺も、大精霊から力をもらっていても、ただの人間だってことには変わらない」
だからといってこのままでは反撃される。多勢に無勢なのはホシザキも分かっていた。自分が、自分たちが、簡単に殺されないようにしっかりとした環境と身分と功績を得ることが最優先課題だった。ホシザキはその課題を解決するために、今こうして必要な準備をしているのだ。
「アクシ、アンタは精霊契約について知ってるか?」
「うん。人間と精霊で同じ大精霊の派閥なら一人一体の契約が可能。契約した精霊は人間に魔力の補給とか戦いのお手伝いとか色々してくれるって」
「だいたい分かってるじゃないか」
ホシザキはバイクを走らせる。精霊契約はこの世界のアドバンテージ。この”異世界ファンタジー”ならではの人生を上手に生きるための仕組み。それを利用しないわけがないと、ホシザキは最初から考えていた。
「そのためにアンタを連れる前から仕込んでる物があるんだよ」
「仕込み?」
数十分ほど道なりを進めば、野宿をしていた都市の森から見知らぬ森の前に辿り着く。これまでの二人の移動だが、アクシが捕まっていたのが【十六番都市】の外れ、そこからバイクで移動し【十五番都市】の森へ。そして今着いたのは【十四番都市】のまた外れの森。入口前の看板には【奇縁の森】と名称が大きく書かれていた。
「ここに精霊がいるの?」
「そのはずだ」
「ちなみに精霊は
「有形の方だ」
精霊。彼らの原初の姿は霧である。人の目では特殊な人間以外認識することはできない。人に紛れ人の感情や食べ物の気配を吸って生きている。次第に蓄えた感情が強まり意思が芽生え始める。そうすると肉体の分岐が始まり、液状の姿『無形』か小人の姿『有形』に変化する。
『この世界の精霊はスライムであり小人である』
ホシザキが読んだ精霊博士の本はそう書いてあった。それもアクシは知っているようだ。能力者は全くなれる存在ではないと嘘を教えられても、精霊についての知識はしっかりと入っているみたいだった。
「そんじゃ、移動して疲れたし中で昼にするか」
「動物でもいたらどうするの。クマとか……」
「そんな危険な奴ここにはいねぇよ。まあ、万が一は俺がどうにかする。俺は自分についていく仲間を易々と殺させはしない」
我ながら臭いセリフを吐くと、ホシザキは気まずさに顔をアクシから背ける。何かを言われる前に行こう。恥ずかしさのあまり静かなこの森で叫んでしまうだろう。
「行くぞ」
「うん……!」
「笑うな」
バイクを置いて荷物を背負い、二人で道に沿って進んでいく。
都市の外れに位置する森だが、看板や整備された道路に並ぶ施設がある。ホシザキの下調べでは森の中に平原があり、涼しい温度と野生動物が少ないのもあって、野宿やピクニックで利用される場所になっているみたいだった。
精霊は人気のあるところに潜みながら暮らしている。路地裏や森の中、地下に屋根裏と気に入る餌場を探している。こういったっ場所はまさにうってつけであった。
「人がいるね」
「まあいるだろ。文明があって多少発展してて余裕があるなら誰しも楽しみを追求するだろ」
「そういうものなんだ」
一理あるかも。とアクシは変な顔(ホシザキ評価)をしながらホシザキの持論に納得する。まばらに森の中の平原を歩きある場所で止まる。近くに人はいない平原の中でも一番東側。
「よし、昼にするか」
「おおー。契約は?」
「同時進行で」
「?」
バイクに積んでいた荷物から、ホシザキは昨晩使っていた布を取り出し地面に引く。そしてアクシから見てよく分からない白い箱か機械装置みたいなものをまた取り出し地面に置いた。
「なにこれ」
「飯代を浮かせる万能なやつだ」
ホシザキがアクシの前に見せたのは不思議な機械装置。これは食材いらずで飯を食べれる常識外れの代物。そう説明するとアクシが疑問を投げてくる。
「普通に考えて無から有は生まれないでしょ」
「普通だったらな。こいつは普通じゃない」
アクシはホシザキの言葉に納得していないようだ。何もない何をするか分からないこの装置から、一体どうすれば飯代を浮かせることができるのだろうか。なら実践して納得させればいい。ということで、ホシザキは装置を起動させる。音と振動を立てながら、軽快な音と共に装置から何かが出てくる。
「お、出た出た」
「わー……! すごい……!」
装置から出てきたのは何ともおいしそうなシチューだった。色とりどりの具材に良い匂いと湯気が食欲を掻き立てて仕方がない。アクシは装置の不可解さよりも、目の前のおいしそうな料理に見とれていた。そしてすぐにハッと気づきホシザキに説明を求めた。
「なんで? どうして、急においしそうな料理が……」
「精霊教会の教本にも載ってるだろ。これに似た常識範囲外の存在」
「──―【
「大正解。褒美にお肉増量な」
ホシザキはアクシにシチューを渡す。装置はスプーンも出していたようで、その便利さにアクシは感嘆する。おいしそうな匂いが鼻の先に香ってくる。
「ありがとう。食べていいの?」
「ああ。俺が何度も使ってるから保証する。他人にも食わせたことあるからな」
息を吹きかけ冷ましながらスプーンですくって食べる。舌先が火傷しないよう気をつけながら味わっていく。まろやかな風味にゴロゴロと入った大きな人参や肉にイモがうまい。アクシは自分の頬が緩むほどおいしさに感動していた。
「【心葬兵器】ってこういうのもあるんだね」
「まあな。世界的に有名なのはだいたい殺傷能力を持つ型の兵器だが、こうして楽しめるものもいっぱいあるから。俺は結構そっちの方を集めてたりするぜ」
「”創造の大精霊”様の恵みだね」
「そうだな……」
人に精霊に力を分け与える完全な上位存在がこの世界にいる。それが大精霊。全部で八体。その中にはいないがかつて【創造の大精霊】というのがいた。色々あって殺され、その遺体から流れ出た因子が世界中に散らばり生まれたのが【心葬兵器】である。精霊信者はアクシのようにこの兵器によるすべての効果を”大精霊の恵み”と祝福として受け取る。
「どういった方法で料理が出たの?」
「これは使用者の記憶を頼りに料理を生み出す。【思い出の料理人】って言われる兵器だな。あらかじめ記憶を読み込ませて、このスイッチから食べたいのを選んで押すだけだ」
「なるほど便利だね」
「ああ。これのおかげで時短にコスパも良い」
そんなこんなで昼飯を食べ終えると、ホシザキは装置とは別に用意した白い箱を手に持つ。
「それは何?」
「え、ケーキが入った箱」
冷蔵技術工夫するの大変だった。っと何か言っているが、アクシの驚きはそこではなかった。なぜこの場でケーキを用意するのかもしかして食べるのか。
「食べるのは精霊だぞ」
「もしかしてそれで精霊をおびき寄せるの?」
「ああ、前にも言ったが都合がいい精霊がここに来るんだ。俺は3体欲しい。俺とアンタともう一人分でな。その中で一番釣れるのが俺が契約したい精霊。そいつは飯やお菓子が好きだからな」
「でもいつの間に用意したの?」
「アンタを助ける一日前だな」
「へー……」
「あと俺の手作り」
「そ、そうなんだ」
彼の予定忙しすぎるのでは? と疑問に思えど、それが彼のやり方かとアクシは心の中で納得していた。白い箱の中から茶色のケーキが出てくる。甘い匂いが薄っすらと漂っているのが嗅げば分かる。ひんやりとした温度も感じることができる。ホシザキ曰く、ケーキを日持ちさせるにはチョコケーキで冷蔵する必要があったと。
「てことでだ、ケーキと罠を設置します」
「そんな古典的な罠で引っかかるわけないでしょ」
ホシザキが精霊を誘うために用意したのは、まさに古典的で原始的な罠だった。ケーキの上に大きめのザル、それを支える木の棒に縄を括り付けて手に持っている。それで捕まえられたら苦労しないだろう。アクシが住んでいた都市は契約精霊以外いなかったのだから。それもきっと隠されているだけだろうに。
ケーキを仕掛けて早数分。遠くの方から茂みの音が聞こえた。人がいないからか音がよく聞こえてくる。ホシザキもアクシも音がした茂みの方を凝視する。
「ケーキ! ケーキ!」
「なんか声が聞こえるような……」
「甘ーいケーキ!!!!!」
茂みの方から勢いよく小さな人型の影が飛び出してきた。飛んできたかと思えば、目にもとまらぬスピードで罠の中のケーキにかじりついた。そのままホシザキは縄を引っ張り人影はケーキごと一緒にお縄になってしまった。
「ふっ……」
「そ、そんな古典的な方法で!?」
まさか原始的な罠に引っかかるとは野生動物と変わりない。ケーキの言葉の叫び声、見えた人影から精霊なのは確定だが、それにしても精霊として威厳がないのはアクシから見れば若干ショックな出来事でもあった。
「はぐっ、はぐっ!」
「おいしいか?」
「おいしい! すっごく甘くてふわふわでおいしい!」
中の精霊はケーキに夢中で罠にかかっていることには気づいていないが、受け答えはできているみたいだ。ホシザキは自分のケーキの腕を褒められて嬉しそうな顔をしている。カオスだ。この状況にツッコミを入れるものがいない。
「俺はコイツだから、次はアンタのだな。まあすぐ来るだろ」
「来るってさっきの方角から……?」
「出迎えとしてもう少し近づいてみろ」
「え、うん」
ホシザキは茂みを指さしアクシを誘導する。アクシはその指示に従って指をさされた茂みに体と顔を近づける。すると目線の先に何か別の人影が見えてきた。その正体を捕えようとアクシは顔を近づけて目を細める。
「私の妹に何してるんですの──―!!!!!!」
◆◇◆◇◆
薄れゆく意識の中で、長女の精霊は今までの人生を振り返っていた。
ひっそりと暮らす三姉妹の精霊がいた。しっかり者でとても強い長女、恥ずかしがりやでも信念が強い次女、まだ赤ん坊でわがままだけど健気で誰よりも勇気がある末っ子。
人間に媚びず慎ましく生きる。それは妹たちを守るため。それが長女の願いで思いだった。姉妹はそれぞれ大精霊の派閥が違っていた。誰かと契約すればきっと姉妹が離れ離れになってしまう。連れ去られて一生会えなくなってしまう。敵になるかもしれない。杞憂になれない不安が長女の心を支配していた。
そして今、自分の末っ子が誘惑につられて捕まった以上、人間に危害を加えるのも仕方がない。それは精霊としては悪いこと。それでも彼女にとっては、なにより自分の妹が大事だった。
二度と辛い目には遭わせないと、長女は決めていた。そしてなぜ、薄れゆく意識の中でという枕詞が出てきたのか。正解はすぐにわかる。
「私の妹に何してるんですの──―!!!!!!」
「え」
「エ?」
間抜けな顔をして
「お、契約成立したな」
「おいしい! ってあれ、あたしなんでこんな狭いところにいるの!?」
「なあ、精霊。契約したら毎日三時のおやつ作ってやるよ」
「本当!!? じゃあ契約する! あたし、ケーキにクッキーにパンも食べたい! おいしい料理いっぱい食べたい!」
「代わりに俺の仕事手伝ってもらうし、俺を楽しませてもらうからな」
「楽しませる?」
「アンタら三姉妹、俺の料理で喜んで一緒にいてくれる──”家族”でいてくれるならそれでいい」
妹を捕えた人間が妹と楽しく話す声が耳に届く。楽しそうに家族というものを、楽しく生きることについて話す内容は、長女にとって心に響くものだった。
賢い長女は彼が悪い人間ではないと判断した。むしろ彼に姉妹でついて行けば、自分の欲しい安定安寧の未来が手に入る。そう勘に過ぎないはずの妄想が現実になってほしい。そんな願望を抱えてしまった。
長女が望むのはたった一つ。三姉妹で仲良く過ごせる未来を手に入れること。彼女は薄れゆく意識の中、それが手に入る可能性を二人の声色から感じ満足そうに気絶するのだった。
「いやアンタら気絶してる場合か。さっさと行くぞ」
都市:○番都市と呼ばれている 壱~十番の都市は無い 面積は全部異なっている
精霊:見えない霧→液体or人型の姿 大精霊の派閥によって精霊の色が決まっている
心葬兵器:創造の大精霊の因子を持つ兵器 様々な姿と性能を持っている 能力者のみ使用可能