新世界☆ハッピーエンド計画進行中~世界の破滅フラグは人力でごり押し回避するに限る~ 作:簾烏賊
◇
気絶したままのアクシと精霊が一体。頭突き衝突事故を起こしたのはホシザキのせいだが、それも彼にとっては計算か都合の内だった。説得をするよりも既成事実を作った方が色々と早い。その彼の時短思考がこのような結果を生んだのだ。
「俺らも契約するか。精霊、手を出せ」
「ん!」
そんな二人を放っておいて、ホシザキは罠にかけた精霊と手の甲を合わせる。眩くもない微細な光と共に手の甲に文様が浮かびあがる。契約が上手くいった証である。精霊の小さな手にもしっかりと白色に模様がついている。
「あたしはピュラ! 愛情の精霊!」
「俺はホシザキ。世界を旅してるただの寂しがりだ」
「寂しいの? ならあたしがいつもいるから大丈夫よ!」
「それはありがたいな。んじゃ俺はこいつ等を起こすからアンタは姉を連れてきな」
「お姉ちゃんね! わかったわ!」
──お姉ーちゃん!
と大きな声を出しながら末っ子のピュラはこの場にいない方の姉を探しに森へ入っていった。迷子になるという懸念はない。契約した精霊と人間はお互いのことを曖昧だがわかることができる。居場所も何を考えているのかも。
ホシザキは一息つくと、寝転がる精霊とアクシの体を揺らす。アクシは唸りつつも起きないが、精霊の方は案外するっと目を覚まし起き上がった。
「わ、私……契約を結んでしまいましたわ!」
「よかったじゃねぇか」
「よ、良いかどうかは契約した者が決めますの! どうしましょうこれでは妹たちと──ハッ!」
契約が強制的に結ばれてしまったことに慌てた表情をしていたが、すぐに何かに気づき今度を安堵の表情を見せる。感情が忙しい生き物だ。何があってそんな驚きと安心を行き来するのだろうと、ホシザキは傍目で見ていたが、原因はどう考えてもこの男である。
「あなたが首謀者ですわね。私たちと契約を結ぶなんて一体何を企んでいますの」
「わかるのか。賢いなアンタ。余ったケーキやるよ」
「まあ! 素敵なケーキ──って、勝手にはぐらかさないでもらいます!?」
気持ちのいい乗りツッコミをする精霊だが、ホシザキが彼女を賢いと思ったのは本当である。感心までしているほどだ。
精霊契約をすることは
「確かに企みを持ってアンタらと契約をしに来た。それは事実だ認める」
「私が聞きたいのは理由です。この世には人間ほどではありませんが、それでも精霊の数はそれなりにいますのにケーキまで用意して罠にかけるその周到さ、怪しまないはずがないでしょう」
「俺だって、企み全部を知ってるわけじゃない。言われた通りのことをただしてるだけだ。こいつを助けるのもアンタらと契約することも、この先のことも多少……」
「貴方、もしかして悪い人間に唆されて動いてますの?」
「くっくっく。そんなこと、そんな……こと」
──とてもありえる!!!!
と、納得してしまうホシザキがいた。自分が前へ出て行動することになった経緯は、いずれはアクシなどに伝えるつもりではあった。確かに第三者から指摘されて自分がやっていることは、自分と同じ名前と顔を持つ人間から意味不明の計画の実役を任されている。これは正に──
「闇バイトじゃねぇか。くそ、俺は死ぬまで悪銭に手を伸ばすことはしないと誓ったのに! いやこれ無給だし──だとしても酷ぇ!!」
一人急に膝から崩れ落ちて泣きわめき始める。その様子にドン引きの視線を送る精霊が一体。未だねているアクシ。とてもカオスな状況である。
「なんか同情しますわ」
「やめろ精霊が憐れむな。悲しくなるだろ」
「それで、私たちと契約した理由は」
「──アンタら全員属性が違うからだ。破壊、憎悪、愛情ってな。ただそれだけだ」
嘘はつかない。そう彼女に宣言のように一言付け加える。実際そうだ。三姉妹の精霊で既に色合いが異なっている。末っ子の彼女は白色、長女の精霊は紫色である。色は大精霊の派閥を表わす。兄弟姉妹で異なるのは珍しい。それどころか兄弟姉妹がいることが珍しい。彼女たちは自覚があるのか分からないが、大変貴重な存在である。それは星嵜も目をつけることだろう。
「まあいいですわ。私は姉妹で離れ離れにならないなら構いませんし」
「肝が据わった精霊だな。安心しろ寂しい思いはさせねぇから。約束する」
「ん”~何の話してるの?」
ここでやっとアクシが起き上がった。目をこすりながら、頭突きでぶつかった額を手で撫でている。紫色の小さな文様が前髪がかかっていても目立っている。これは工夫が必要かとホシザキが考えていると、精霊がアクシに向かって挨拶をする。
「ごきげんよう。私は破壊の精霊フィーマですわ。どうぞよろしくお願いいたしますわ」
「僕はアクシです──―で、なんのこと?」
「アンタの契約精霊だ。その挨拶ってことだ。名乗りは大事だからな」
「へえ、契約──契約!!? いつしたの?」
「さっき頭ぶつけてそのままなったぞ」
「こういうのってなんか儀式的じゃなかった!!?」
「そういうのは形式上やってるだけだろ。契約したい同じ属性の精霊と同じ部位を重ねればいいだけだし。まー宗教って、そういった何でもないことや大層でもないことを意味あるかのように大袈裟にするよな~」
「急な宗教批判やめて! 意味があるかないかは人それぞれの考え次第でしょ!」
挨拶どころか宗教批判まで飛躍しているところに、草むらから音が聞こえてきた。二人で振り向けば葉っぱにまみれたピュラと手を引かれて後ろを歩く、くすんだ赤色の髪をした色々薄い精霊がいた。
「連れてきたわ! お姉ちゃんのシーラよ!」
「……ほ、本当に人だ。……しかも契約してる」
「二人とも来ましたのね」
長女のフィーマ。次女のシーラ。末っ子のピュラ。三姉妹の精霊が揃ってくっつきあう。あれは精霊の儀式か何かだろうか。いや、普通にまともな再会に喜んでいるだけだろう。だがホシザキにとっては、その長い抱擁を見ていても寂れた動物園より断然面白みが無い。
「んじゃ行くぞ」
「もう少し余韻に浸らせてもいいんじゃない?」
「いや無理だ。行くね」
「あの……」
「なんだ」
「あたし契約するなら怖くない人がいい……」
「ふーん、そう」
シーラの言葉を分かっているのかそうでないか判断がつかない返答でホシザキは流す。そうこうしている場合ではないので、時短思考のホシザキは三体まとめて担ぎ上げると、そのままアクシも連れてバイクの元へ向かった。
◆◇◆◇◆
流れるまま。流されるまま。二ケツどころか五ケツしているバイクで町の方まで走っていく。三姉妹は乗り物に乗ったのは初めてなのか、楽しそうに風を浴びている。
「一体どこに向かうの?」
「ちょっと寄り道だ」
森のあった場所から次は十四番都市の町の方へ繰り出していく。時短思考のホシザキだが、それはあくまで物事の停滞が分かりきっていたりする時に発揮される。これ以上時間をかけたって無駄だと気づけば、速攻で思考し次の行動に移す。しかし、もし必要事項が出ればその解決にだって時間も費用もかけて向かう。それが例えハッピーエンド計画進捗にあまり関係のないことだったとしても。
「よしついた」
「洋服屋ですわね」
「アクシのその薄汚い恰好をそろそろ一新したくて」
「汚くて悪かったね」
「いや、顔は中性的で綺麗だと思う」
「え、照れる」
「何ふざけた会話してますの。確かにアクシ殿は布の品質が悪いものを着ていますのね」
フィーマがアクシの服装を見る。元々奴隷市場の時に強制的に着せられた服だ。薄汚れていてとにかく生地が薄い。このままではホシザキの罪悪感パラメーターが基準値を超えてしまう。それを懸念して彼の服を見るために店に来たのだ。
「好きなの選びな。もしくは長女が見繕ってくれるだろ」
「ありがとう。ちなみに予算は」
「ふっ、大胆に5万までな」
アクシにホシザキはお金を渡し、長女と一緒に服屋に入れる。ホシザキも同行して良かったが、服のセンスに自信がないのでここは彼らの好きなように任せようと考えた。
服屋の前にバイクを止めながら他の店を見回る。次女と末っ子はホシザキの肩に掴まりながら目を輝かせて眺めている。店が並んでいるはずだというのに人の歩く数が少ない。
「これは嫌な予感がするな」
「……嫌なこと。起きるの」
「ああ。絶対起きる」
嫌な空気が流れている。辺りを見渡していると、その嫌な予感は屋根からやって来た。
亡霊による奇襲が目の前で起きていた。全身漆黒の体は下半身は二足歩行、上半身は巨大な翼を生やして不安定な肉体をゆらゆらと動かしている。ぐぐぐと体を動かしてホシザキの方に大きな目を向けてきた。
「ほらやっぱり」
「ホシザキ君! 一体何があったの!?」
「亡霊が出た──ってアンタその服クソダサいな!!?」
ホシザキは亡霊による襲撃から身を挺して躱した。地面に着地する大きな音にアクシとフィーマが店から顔を出して声を出すが、あまりにも着ている店の服にホシザキはツッコミをいれずにはいられなかった。色の組み合わせ(紫やら緑)から上下まで何もかもがサイケデリックで似合っていない。なんだその黄色の奇抜のサングラス。一体誰のセンスによるものなのだと、怒りがふつふつと湧き上がりそうになったが、今はそれに構っている場合ではない。
襲撃を起こした亡霊は倒せていない。あくまで躱して吹っ飛ばしただけ。次なる被害を減らすためには追って倒さなくてはならない。
「アクシ、その服買ったのか?」
「いやまだ……」
「
「どこ行くの?」
「さっきの亡霊をやりにいく。長女、アンタちょっくら付き合え。選手交代だ」
「分かりましたわ。それが最善の手だというのであれば」
肩に乗っていた姉妹をアクシに預け、今度は長女を連れて亡霊退治に駆り出した。戦える人材を連れて行く方が良いそう判断したからだ。この三姉妹で一番戦いができるのは長女、それはホシザキが前もって聞いていた精霊の情報に入っていた事項である。
逃亡した亡霊を追いかけていると、向こうも気配に気づいたようで家々を多少破壊しながら破片をホシザキ側に投げつけてきた。
「破壊ならお任せくださいまし!」
「頼りにしてるぜ、長女」
そのがれきすべてを先行してフィーマがパンチで破壊していく。破壊の精霊なだけあってその力は凄まじい。
すると亡霊が少し動きを変えて、大きながれきが店で優雅にお茶をする人間の方にぶん投げられた。亡霊がわざとやったのだろう。客の方も全く気が付いていない。このままでは頭に直撃する未来が見える。
亡霊退治を取るかそれとも目の前の人間を助けるのに手を伸ばすか。考え抜くよりも先に体は正義感が全身に巡るように動いた。
「あっぶねぇぇぇぇな!!」
「──っ」
ホシザキの一瞬の行動により、テラス客を飛来物から救い出すことができた。救われた客は目を見開きながらホシザキのことを見ている。それは救われたことに対する希望の視線と言うには、ずっと絶望と疑問を抱いた黒の瞳によるものだった。
「だ、大丈夫!? ホシザキ君!!」
「あー大丈夫だぜ。まさかガチ危機的状況から人助けするとはな」
客を抱えたまま、後から服装を戻して走ってきたアクシに生存報告をする。本来客がいた席は飛来物のがれきで埋もれており、机や椅子は形を完全に崩していた。一歩出て居なければ、時間をかけてしまっていたら、ホシザキの腕の中にいるこの白衣を着た男は死んでいただろう。彼は人の死体を見るのはフィクション以外では嫌いだからだ。
「亡霊が町に現れるって、よくあることだけど──それにしても人気が少ない場所に出るのは」
「珍しい──だろ。ゼロではないからな。人間さえいれば何時も場所も関係なく狙われる」
先ほど物を落とした亡霊をホシザキは見失ってしまった。しかし、方向は繁華街の方ではなく森が生い茂る静かそうなところへ行ってしまったのは憶えている。亡霊なら人に向かうのだが、一体何か目的を持った奴なのだろうか。
ホシザキは男をゆっくりと地面に降ろす。若々しい見た目にくたびれた雰囲気。その白衣を身にまとったいかにも科学者のような容姿。仲間にするなら知識豊富な人材は良いな、そう思った瞬間だった。
「君たちにお礼がしたいな」
男はにこやかな笑みを浮かべて二人に話しかけてきた。
◆◇◆◇◆
「僕はこの町で科学者をしていてね。好きに研究している毎日──かな」
「へぇー科学者ってすごい人ですね! 本物は初めて見ました」
「いやはや本当に助かったよ。いや、全然死ぬつもりだったけどね」
「あー避ける気一切無かったもんな。絶対めっちゃ強いのにアンタ」
科学者は背を向けながら前を歩く。ホシザキの言葉に返事することもなく、ただ絶望を背負った背中を見せるだけ。灰色の髪をオールバックに正面で見たときに分かったあの瞳。隈がついたすべてに諦観して絶望した黒色。それでも瞳にオレンジ色も微かに混じっている。
精霊三姉妹を二人でおんぶにだっこをしながら、科学者の案内についていく。人気もほとんどない空き地だらけの静かな道をただ歩いていく。
「ようこそ。僕の研究室に」
一室の扉を開け中に誘われる。彼の研究室らしい。その内装は実に散乱した産物で溢れており、足場を踏むのにも一苦労である。主に紙が散らかされていて、内容は小難しい文章にたまに鉛筆で書かれた生き物や写真が貼ってある。
「なんか生き物というよりは亡霊みたいだね」
「ああそうだよ。僕はそれらすべて自力での亡霊の研究の結果資料だね」
科学者は椅子に腰かけ、机に向かって何かを書き出す。座れと言われていないどころか、座れる場所がない二人はただ立ち尽くして部屋を眺める。
「僕はね。あのまま死んでも良かったよ。最高の仕事をできないのなら、最悪の死を迎えたって良かった。それが僕の望みだからね」
「余計な事だったのかな?」
「はっ、絶望に侵されてるからそう言えるだけだ」
科学者の男の瞳は濁っている。思考も既に絶望に侵されている。彼は本来もっと綺麗なオレンジ色の瞳をしていたのだろう。最初にその属性をもらっても、後々人生を占める感情の割合が変化すると、別の大精霊が鞍替えを狙ってくる。
ホシザキは地面をかき分けて科学者の傍に近寄る。壁や机の周りも埋め尽くす何かについての資料。描かれているものは、どれも動物や人の形をしても何か歪でグロテスクな見た目をしている。夢にでも出てきそうだ。
「もともと何か研究熱心だったんだろ。それが色々あって疲弊してすり減っていって、その結果、絶望の大精霊に目を付けられてる。だが元々の欲望と合わせて二体の大精霊に引っ張られ絶賛不安定状態。もう、自分がいま生きてるのかよくわかってないだろ」
「君は物知りだね。まるで今までの僕の人生を覗かれている気分だ」
「──っ!」
科学者の言葉にアクシは体を少し跳ねさせる。ホシザキは最初不思議に思ったが、すぐに星嵜の仕業だと勘付き、俺は違うことを証明する言葉を科学者に言った。大方、あの男は脅しの為に使ったのだろう。
「バーカ。俺は他人の人生なんか考察しても記憶する趣味はねえよ」
「ほっ……」
「そうか。それで僕を生かした君は何か企みでもあるのかい?」
「おー話が早いな。アンタの方が俺よりよっぽど頭が回ってる」
賢そうな人間が客が何もできない部屋に誘うとは思わない。それにただついて行く奴いない。この科学者を助けてすぐにホシザキは勘付く。それを向こうも感じ取った。この部屋と状況は云わば交渉の場である。
「君の要件は?」
「アンタを二人目の仲間にする」
「え!」
「ははっ。冒険者でもしてるのかい? 随分と古風な職業の人間だね」
「今はそうしてる。その方が楽だからな。俺はアンタのその技術が欲しい」
「ついて行くなら条件がある」
「それが今書いてるやつか」
科学者は机に向かって書いていたものをホシザキの前に提示する。それはどうやら絵のようで、よく見れば都市の繁華街から少し外れた森も生い茂る風景に似つかわしくない歪な大きなヒビが浮かんでいた。状況を模写したものなのだろう。モデル無しにここまで正確に写真のように描くのはとんでもない技術だ。
「本当につい最近なんだが、こういった亀裂を見てね。そこから亡霊がでてくるのさ」
「亀裂から亡霊──? そんなことありえるの?」
「今までにない事例だ。亡霊や心葬兵器も研究する僕としては科学者の好奇心が抑えられなくてね」
「もう行ってないのか?」
「ああ。近づけないように都市の人間が封鎖してね。”元国家研究員”の僕の肩書きでも入場は許されなかったよ」
「(元国家研究員……)」
科学者は不服そうな顔をしている。好奇心旺盛な奴は誰かに危険と制止されても知りたがろうとするのか。ホシザキは呆れ顔をしそうになる。
「ともかく、その亀裂の調査をすればいいんだろ」
「そうだね。僕はデータが欲しい。それが満足するものなら君たちについていくよ」
ホシザキは科学者から手掛かりの絵と地図をもらう。それは彼を仲間に引き入れるため。二人は科学者からの依頼を引き受けた。
それはハッピーエンド計画の事項に盛り込まれていない”寄り道”行為だった。