新世界☆ハッピーエンド計画進行中~世界の破滅フラグは人力でごり押し回避するに限る~   作:簾烏賊

5 / 5
◇5 『依頼と、殺意と、新しい出会いと』

 ◇

 

 科学者の依頼を引き受けることにした。狙いは科学者の仲間入り。しかし報酬次第ではここでおさらばとなり、時間を無駄に消費したということになる。

 

 

「名前を言っていなかったね。私はオスミ・レイジュ、元国家研究員で今はフリーの学者をしてる者だよ。どうぞよろしく」

 

 

 くたびれた様相に髪を後ろに撫でつけながら科学者ことレイジュは自己紹介をする。その細めた瞳が自分(こっち)とアクシを値踏みするように往復する。アクシ側の背中に乗っている精霊二体は動くことなく黙っている。ホシザキの方には背中に末っ子のピュラがいる。浮いていると疲れるからと背中にくっつき、落ちないようたまたま持っていた紐でおんぶ状態にしている。

 そして何か強い温もりを感じたと思ったら、小さい声ですぴすぴと寝息が聞こえてきた。難しい話だと思って眠ってしまったのだろう。

 

 

「君たちの名前、一応聞いておこうか」

 

「ホシザキ」

「──えっと、アクシカルです。ホシザキ君の友達です」

「ふっ……」

「え、何笑ってるの」

「いや、そう思ってくれてるんだなって。ただ噛みしめているだけだ」

 

 

 自己紹介ついでに「友達」と名乗られ、喉の奥から笑いが漏れそうになるのを慌てて堪える。すぐに悪意ある笑いではないと訂正したがその発言に声が出ない方が無理あるだろう。

 まさか僅か一日でここまで慕ってくれるとは、いや一日しか経っていないことに驚きだろう。

 

 

「仲良しこよしするのは別に良いけど、報酬が良くなかったら君の話は全て流すからね」

「分かってる」

 

「誰かとそうやって楽しく談義ができるなんて羨ましいね。まあそのうち死ぬ私には関係のない夢物語なのだが」

 

 

 この科学者は素直ではない。呆れ混じりの溜息を寸前で飲み込、一度目線をそらしてまたレイジュの顔を見る。端正な顔をしているものだ。アクシの中性的な顔立ちとは違う系統の美を感じさせる。その口から出てくる単語は端々から己の死を匂わせるものばかりで対照的だ。俗に言うメンヘラ──なのかもしれない。

 

 

「んじゃ行くか」

「うん。じゃあオスミさんまた来ますね」

 

「ああ。私がちゃんと生きていたら会おう」

 

 

 何だこの科学者。自分が死ねなかったことを遠回しに責める発言がチクチクとホシザキに刺さる。陰湿さにため息が出そうになる。そうだ。この科学者の能力の元は欲望の大精霊である。欲望の能力者は正に貪欲、悪く言えば自己中な性質が現れる。

 

 腹が立つ。悪かったとでも適当に感情無く言った方が良いだろう。だがここで関係に亀裂を生じさせるわけにはいかない。落ち着いて、この欲望能力者のレイジュとかいう男にぴったりの嫌がらせをしてやろう。

 

 

「行く前にアンタにこれを貸す」

「──!」

 

 

 ホシザキは科学者に向けて装備している鞄からある物を取り出し投げた。それを科学者は優雅に受け取る。渡したのは装飾が施された小綺麗な羅針盤だった。案の定、科学者の視線がその文字盤に釘付けになるのが分かった。

 

 

「──これは、心葬兵器の類か」

「大正解。名前は【ツイキュウの羅針盤】、使用者が求めるあらゆるモノをその針が差してくれる優れモノだ」

 

「あらゆる──」

「ああ。紛失物、記憶から消えた思い出の一端、埋められた行方不明の遺体まで何でもいける。その強さは正しく高価(プレミア)級でゲットするのに食費三か月分飛んだからな」

 

 

 アクシが横で息を呑む気配がした。対面のオスミも、羅針盤を持つ指先をかすかに震わせている。使用者がツイキュウするモノを必ず針が差してくれる。必ず答えをくれる完全なチート級の代物。手に入れるのにそれはそれは時間がかかったものだ。

 

 

「能力を聞けば費用も納得だね。それほど面白いものを死にたがりの私に貸すのは一体どういうつもりなのかな」

「アンタの自殺防止用ってとこだ」

 

「……」

「よくよく考えて使ってみな」

 

 

 長居しては時間の無駄だ。ホシザキはアクシを連れてさっさとこの散乱する資料だらけの部屋を飛び出し、地図を頼りに目的地へ向かった。あの部屋にはただ一人、契約精霊もいない科学者だけが孤独にきっと残されただろう。

 

 

「彼を一人にさせていいの?」

「良いだろ。自己中な割に自己と向き合ってない奴に時間をやるってことだ」

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 若い二人が去った部屋を一瞥(いちべつ)する。この静寂に包まれた部屋に妙な浮遊感を感じた。常時孤独だけが存在していた部屋で、”取り残される”という感覚を味わうことになるとは、オスミは人生で一度たりとも思わなかったからだ。

 

 

「これがツイキュウの羅針盤。名称は前から聞いていたが実物は初めてだね」

 

 

 孤独な部屋に落とした独り言が、壁に跳ね返って消えていく。

 オスミは一度も寂しいという感情を味わったことがなかった。常に何かに満たされていた。その満足感を得るためにひたすらに思考し行動していた。オスミが八歳で家族と離れて独り国家に渡った時も、未知への憧れ以上に故郷への寂しさを抱くことはなかった。求める上で足を引っ張る感情はいらなかった。

 

 

「求める。追求のことだろうね。まあ早速使ってみるか」

 

 

 使い方が分からなかろうと、力を籠めれば勝手に作動はする。能力者だけが使える心葬兵器という存在は神秘的で必ず欠陥を抱えていて、それでいて興味深い科学では証明が困難なことをしてくる。

 科学者がこういった存在に魅了されるのは、科学者としては反していることかもしれない。オスミの心は誰に火をつけられることもなくやはり冷めたままだった。

 

 

「おや」

 

 

 羅針盤を見つめていると針が勝手に動き始めた。急速に回転して制止。そこから本来、北を指す赤色のついた針が何処かを指し出した。その先に何かがある。一体何が──?

 

 彼の発言では使用者が求めるモノを指すと言っていた。ではオスミは一体何を求めているのだろうか。自分でさえ分からなかった。この針が、自分の求めているものが、何一つ考えずに行動していた。ただただ衝動のままに。

 

 

「──ははっ」

 

 

 思わずオスミは笑ってしまった。いや嗤いの方だった。オスミ自身にかけた自傷的な笑みは、己の鈍った思考が極限まで達したことへの感想が出力されたのかもしれない。それでも高価なこの心葬兵器を貸された以上、オスミが勝手に死んで放置状態にさせるわけにもいかない。

 

 

「ああ、これ()視野に入れていたのか」

 

 

 若い子は発想が柔軟なのか。オスミ自身もそうであったのか。気持ちを切り替えて針が指すこの部屋の何かをオスミはもう一度探し始めた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 科学者の部屋を出て地図を基に現場へ向かう。そこまで遠い場所ではなかった。歩いて数分で目の先に禁止線の張られたどう考えても制限エリアがある場所に辿り着いた。一瞥すれば監視役が二人いるのが確認できた。

 

 

「下がるぞ」

「うん」

 

 

 顔を知られると作戦が立てづらくなる。一度身を引いて空き家を遮蔽物にして隠れる。少し顔を出してもう一度見れば監視役は槍を一本持っているだけ。禁止線も一、二本のみと随分簡素な作りだ。悪く言えば粗雑な監視体制を取っていた。それはアクシも思ったようで呆れたような表情をしていた。

 

 

「そういえばさ、あのオスミさんのこと知ってたの?」

「全然知らない奴だ。知ってたように見えたか?」

 

「うん。初対面の人に接してる態度が普通だった──のは君の精神が強い話だね。えっと、一瞬でオスミさんの能力を当てたことに僕が驚いたから……」

「あー能力はよく見ればわかるってだけだ」

 

「そんなことできるの?」

「意識すればできるぞ。アンタでも簡単にな」

 

 

 その話はいつかするとして。監視体制がザルとならば簡単に現場へ行ける可能性が上がる。油断は禁物であるが今のホシザキは一人ではない。アクシと精霊と複数の仲間がいる。成功の確率は跳ね上がる。

 

 

「時間は午後三時か暗くなる前にちゃっちゃと終わらせるぞ」

「分かった。それで、どうやって潜入するの?」

 

「ザル警備なら俺がアンタを担いで持っていくのもいいな。遠回りになるがあれくらいの森なら身を隠して突破できる」

「担ぐって、僕そんなに軽くないと思うんだけど。君より背高いし」

 

 

 とても舐めている訳ではないが、あれくらいの警備を掻い潜るにはさして準備運動など必要ない。一番簡単なのはアクシを抱えて身軽に動けるホシザキが森の中を木々を伝ってこっそり走る。これしかない。

 よし、ならば早速行動に移そう。とホシザキはアクシを精霊ごと抱えて走り森へ向かう――ことを諦める。ホシザキはアクシを抱えたまま店に戻って、止めていたバイクに跨り直す。そして爆速でバイクを走らせ真正面から強行突破を決意した。

 

 

「いよっし行くぞ」

「えぇ…」

 

 

 禁止線の先は未開拓の森。そこに生じた正体不明の空間に浮かぶ亀裂。その中から亡霊の襲撃。一度たりともホシザキの知らない情報ばかりだ。それを死んだ目をしながら研究するあの科学者は、知らない人間だとしてもいた方が面白いと決断し話を持ち掛けた。

 

 華麗な動きで木々を渡り歩くシーンをホシザキは見たことがある。身軽でしなやかな動きは無駄がなく、ただ目的の場所や者へ下を確認することもせず淡々とした姿は地味だがかっこいい。そんなことをこの異世界ならできると思っていた。いやできる。できるにはできるのだ。

 

 

「あ、何だあれ?」

「すごい勢いで迫ってきてるぞ――」

 

「ちょっくら調査の為に冒険者一同失礼するぜ!」

 

「な、なんだ!!?」

「うわ──!!」

 

 

 だが、こうやって文明の利器であるバイクで無双するのが一番なのだ。走るより速い。ニケツ可能。こんな素晴らしい文明をぶん回さずに腐らすなどあり得ない。ホシザキは時間も物もすべて有効に利用したいのだ。それに盗まれては困るのでここで使うのはちょうどいい。気づいてよかったと安堵をするのだった。

 

 

「か、隠れてた意味!」

「ふーっ! そんなもん最初からない!」

 

 

 実に愉快とも言える強硬策に、ホシザキは我ながら笑みが出て仕方がなかった。その暴走に困惑以上の驚き顔をしたアクシはその空気に流されるまましがみついているのだった。

 監視を抜けてまっすぐ道もガタガタとした獣道一本だけ。そこをいい感じにホシザキが運転しながら進んでいく。ここに至るまで精霊はまた一切反応なし。それは少しホシザキにとって気がかりのことだった。

 

 

「き、亀裂ってどこにあるの?」

「あの科学者がくれた絵の通りの場所を見つければいい。それに最悪……っ!!?」

 

 

 最悪の気配が肌を寒気と共に撫でた。この木々の中にホシザキ達に向けて何かがこちらを見ている。バイクの速度に追いつくその気配と視線。異世界のゴリラみたいな化け物人間か亡霊かの二択。

 

 

「何かいるの?」

「いる──刺激するのもされるのも面倒だ。ただでさえ道ガタガタのところで放り出されてみろ。怪我どころか骨折、最悪死ぬ。身を潜めてろ」

「うん」

 

 

 アクシは姿勢を低くしてホシザキに掴まる。一体何が見ているのかもやもやと漠然とした気配だけでは正体を探れない。それに加え移動中の視界の悪い生い茂った場所では何一つじっくり観察などできない。こちら側の情報は筒抜けで、向こうは得体が知れないまま。

 

 

「(フェアじゃねえなあ……)」

 

 

 独り言を心の中で呟きながら、ホシザキはバイクをまだ走らせる。気配は未だ後から付いてきていた。

 程なくして、ホシザキ達は木々が生い茂った場所から開けた平野のような場所に出た。川の水が流れる音、木々に止まる鳥の甲高い声。自然の姿を切り取った光景がホシザキの目に広がっていた。不思議とバイクを止め、地面に降り立つ。

 

 

「自然豊かな場所だね」

「そうだな」

 

「絵だとこれくらい開けた場所にあるみたいだが──」

「手当たり次第に探してみようよ」

 

 

 アクシの言うとおりにこの場所から歩きで探し始める。絵をもう一度見れば、ここのようにひらけた場所に亀裂あるのが分かる。ここかそれとも、もう少し離れた場所なのか、くまなく確認して次の作業に移すつもりで行動をする。

 

 

「本当にあるのかな」

「意識しなければ見えない可能性もあるな。能力者か判別できるかと同じみたいに」

 

「なるほどね。そういえば、その能力者を判別するってどうすればいいの?」

「その対象の目や髪の色を見る」

「え、それだけ?」

「ああ。意識していないと分からないだろ」

 

 

 ホシザキは常に相手の髪や瞳の色を注視している。わざわざ他人の容姿に色まで言及するのはそれが理由である。簡単な方法にアクシは驚いた表情をしている。

 

 

「アンタと科学者は目の色からだな。破壊と絶望、濃さで思いが強いのかも把握できる」

「見るだけでそんなに分かるってファンタジーすぎるよ……!」

「いや精霊とか心葬兵器がある時点で充分この世界はファンタジーだろ」

 

 

 何を今更世界のファンタジーさに驚いているのか。地球生まれ地球育ちのホシザキではない、異世界の住民でその世界の常識を享受しているアクシのセリフでは無いだろ。とダメ出ししそうになるのを堪えて依頼に集中する方に切り替える。

 

 

「精霊様二人ともずっと黙ってるね」

 

 

 アクシは探しつつ肩に乗せた精霊の反応を確認している。亡霊が逃げてから一度も声を出すことも存在を醸し出すこともなく、ずっと肩に乗っかかり何も反応を示さない。ホシザキの肩にいるピュラはまだ寝息を立ててぐっすり眠っているのが確認できたが、姉二体はそんな寝息も聞こえてこない。

 

 

「あれ、精霊様──白目を剥いて固まってる……」

「はあ? そんなことありえるのか」

 

「でもほら、頬を触っても全く反応しないしなんなら声もしない──これってマズい?」

「──っ」

 

 

 アクシにしがみついた精霊にホシザキも触れる。頬、手、足、触りやすい箇所に刺激を加えても、反応は返ってこない。それどころか呼吸の音も聞こえてこない。しかし体温は人間のように保たれている。まるで石になったかのように制止を続けている。

 

 

「ど、ど、どうしよう。し、死んじゃったのかな……」

「いや恐らくは生きてる。ただ硬直状態になってるだけだ」

 

「そうなんだ。でも、ホシザキ君の精霊様は寝てるだけっぽいけど」

「何か原因があるんだろ。今この状況で原因になりそうなのは」

 

「亀裂と亡霊?」

 

 

 硬直した原因は亀裂か亡霊と考えてもいい。何か周波的なものを出しているのだろうか。推測の域でしかない。ホシザキは契約する日までなるべく精霊と関わらずに生きてきた。こういったことは全然専門分野ではない。どうするべきか──

 

 

『ウ”ウ”ウゥウ”ゥウ”ウア”ア”ア”!!!』

「「!!」」

 

 

 と、対策やら疑問やらを持っていた間に大きな叫び声が空の方から聞こえてきた。何事かと空を仰げば漆黒の体をした翼をもつ亡霊がホシザキ達の上をぐるぐると回っていた。鳥が獲物を狙う時、対象の上を回るとは聞いたことがある。

 

 

「亡霊だ!」

「人間の気配に釣られてきたのか」

 

 

 亡霊は周囲を回ると今度はアクシに向かって翼を畳み襲い掛かってきた。

 

 

「アクシ!」

 

 

 すると急に森の方から飛び出した影が、アクシ目がけて襲ってきた亡霊にぶつかった。

 

 

『ウグアアアアアア!!』

 

「「──!!」」

「……」

 

 

 地面へと大きな衝突音が、亡霊とそれに仁王立ちする人間を連れてホシザキの耳元に響いた。目の前の光景は刀で突きさされ虫の息の亡霊と澄まし顔で佇む男。アクシやホシザキと同年代位の青年が、こちらを向いている。

 

 瞳は閉じている。これじゃあアクシに言った身体情報から能力を把握することは不可能である。色も何も分からない糸目の軍服のような服装をした青年が刀をこっちへ向ける。殺意の籠ったおぞましい空気が辺りに漂う。アクシは恐怖のあまり、ホシザキの視界の端に縮こまっている。

 

 

「ここで来たか──」

 

 

 その出会いが吉とでるか凶とでるのか。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。