機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

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107.新しき旗 3

デストロイガンダムが海へ沈んだ瞬間、正面防衛線の砲火がわずかに鈍った。

2機の大型MSを中心に組み立てられていた火線が崩れ、周囲を固めていたウィンダムとダガーLが、対応を決めかねて動きを止める。

その一瞬を見逃さず、レイはルナマリアへ短く指示を飛ばした。

 

「ルナマリア、前へ出るぞ」

「了解!」

 

レジェンドの周囲へ展開したビーム機動砲が左へ右へと角度を変え、それぞれが敵機を狙い撃つ。

正面へ銃口を向けていたウィンダムが側面から撃ち抜かれ、その隣で旋回しようとしたダガーLも、背後から放たれた一撃に脚部を失う。

隊列に生じた空白へインパルスが飛び込んでいく。

 

「今よ! 正面が開いたわ! このまま一気に押し込むのよ!」

 

ルナマリアは周囲の反ロゴス連合軍へ通信を開いた。

その声に、先ほどまでデストロイの砲火に足を止められていたMS部隊が、少しずつ前進を再開する。

一機が動けば、その後ろの機体も続き、損傷した味方機や海面へ落ちていく残骸を避けながら、崩れた防衛線へ向けて再び速度を上げていく。

レイとルナマリアもその先頭に立ち、左右から迫る防衛MSを牽制しながら、味方部隊の進路を切り開いていった。

 

しかし、ヘブンズベースの抵抗は終わっていなかった。

後方の山地から重い振動が響き、高所でニーベルングを守っていたデストロイが、随伴部隊を引き連れて前進を開始する。

さらに北東と南西へ展開していた防衛部隊も外周陣地を捨て、基地中央へ向けて後退した。

正面に空いた穴を埋めるため、残存する戦力が一か所へ集結しようとしている。

 

ミネルバの艦橋では、新たに現れた大型熱源が戦術表示へ映し出されていた。

複数のMS反応を伴いながら山地を下るその機影は、先ほど正面で撃破された2機と同じものだった。

 

「前方、大型熱源接近!」

「敵MS部隊、およそ3個中隊!」

「山地から大型MS1機が正面へ移動しています!」

 

正面スクリーンの中で、山を下りてきたデストロイが両腕を広げた。

胸部に並ぶ砲口が一斉に光り、タリアが正面部隊へ警告を出したのとほぼ同時に、無数のビームが扇状に海上を薙ぎ払った。

 

「正面部隊へ警告! 直ちに散開させて!」

 

防衛線を突破しようと集まっていた反ロゴス連合のMS部隊が、慌てて左右へ分かれた。

間に合わなかった機体は次々と光に呑まれ、回避に成功した機体にも、間を置かず別方向からの追撃が襲いかかる。

デストロイの両腕が肩から分離して空中へ浮かび上がると、本体とは異なる軌道を描いて左右へ回り込み、正面の砲撃を避けたMSの背部や側面へ火線を伸ばしていった。

 

「右へ逃げろ! 正面に立つな!」

「腕が回り込んでくる! 上だ!」

「駄目だ、避けきれない!」

 

一機が背部を撃ち抜かれて海へ落ち、上方へ逃れた別の機体も、先回りしていた掌によって放たれたビームの光に捉えられる。

正面だけを見ていては生き残れず、回避した先には別の砲口が待ち構えていた。

反撃に放たれたビームライフルも、機体前面を覆う陽電子リフレクターへ触れた瞬間、その表面を滑るように弾き返された。

 

「ビームが通らない!」

「距離を取れ! あれには近づくな!」

 

一般のMS部隊にとって、デストロイは攻撃することさえ困難な存在だった。

接近すれば全身の砲門から放たれる火線に焼かれ、距離を取れば広範囲へ拡散するビームと、遠隔操作される両腕に追い立てられる。

運よく攻撃を当てても陽電子リフレクターがそのすべてを拒絶し、相手の装甲へ届く前に光を押し返してしまう。

撃墜する方法が見えないまま、デストロイの攻撃だけが戦場全体を覆い尽くしていた。

 

シンは次々と落とされていく味方機と、その向こうに立つデストロイを見ていた。

脳裏に蘇ったのは、以前立ち入った廃棄研究所の光景だった。

割れた培養槽、床に散乱していた資料、そして、そこで人間に何が行われていたのかを示す記録。

コーディネーターを憎み、それに対抗するという理由でナチュラルの身体と心まで作り変え、人を生きた兵器として戦場へ送り込んだ者たちの痕跡だった。

 

ステラも、その中にいた。

戦うことを強制され、傷つけられ、最後にはあの巨大な機体へ乗せられた。

目の前のデストロイにも誰かが乗っており、同じ悲劇が今も繰り返されている。

 

「いつまで……いつまで、こんなことを続けるんだよ……!」

 

操縦桿を握る指に力がこもり、頭の奥で何かが弾けた。

怒りが消えたわけではなく、むしろこれまで以上に激しく燃えている。

にもかかわらず、視界は不思議なほど澄み渡っていた。

飛び交うビームの軌道、敵機の向き、次に開く砲口が、実際に動き出すよりも先に見えるような感覚がシンを包んでいく。

 

複数のウィンダムがデスティニーへ向けてライフルを構え、一斉に引き金を引いた。

しかし、ビームがそこへ届いた時には、すでにデスティニーの姿はなく、大きく広がった光の翼が敵陣の内側へ飛び込んでいた。

放たれた火線の間を縫うように駆け抜けながら、シンは進路を塞ぐ敵機へアロンダイトを振るう。

 

「そこをどけぇっ!」

 

ウィンダムのライフルと右腕がまとめて断たれ、その背後で回避へ移ろうとしたダガーLも、動き出すより早く掌部砲に胸部を撃ち抜かれた。

別方向から迫ったミサイルに対しても、シンは振り返らずに機体を沈めて頭上を通過させ、そのまま上昇へ転じる。

ミサイルを放った機体の懐へ潜り込むと、すれ違いざまにアロンダイトの柄を叩きつけ、防衛側の隊列を内側から崩していった。

 

デスティニーはさらに敵陣の奥へ踏み込んでいく。

しかし、孤立しているわけではなく、シンを狙おうと銃口を向けた敵機の前へ、白い大型MSが横から滑り込んできた。

レギナントは、敵の視界へ自ら姿を晒すようにデスティニーとの間を飛び回り、戦場の上を大きく横切っていく。

 

敵味方の機体が複雑に入り乱れ、火線が絶えず書き換わる今の戦場では、広い空域を固定された網として支配する空間支配(クイーンズ・ウェブ)は十分な効果を発揮できない。

それならば、自分自身を囮として敵の視線を引きつけるのが最も有効な手段だ。

そう判断したセラは、通常MSを大きく上回る白い機体を隠そうともせず、防衛線のすぐ近くで高機動を続けた。

 

「白い大型機を狙え!」

「先にあいつを落とせ!」

 

複数の敵機がレギナントへ照準を移し、前方と側面からビームを集中させた。

直進していたはずの白い機体は、旋回することなく横へ滑り、追いかけた照準が届く前に斜め上へ跳ねる。

次の瞬間には急降下へ転じ、慣性の流れを無視したように進行方向だけを次々と変えるレギナントを、防衛側の射撃は捉えきれなかった。

 

敵機の意識が白い機体へ集中する一方、その背後では8基のドラグーンが静かに動いていた。

レギナント本体を追うことに気を取られたウィンダムの後方へ回り込み、無防備になった推進器へビームを撃ち込む。

背部を破壊された機体が姿勢を失い、その隣でレギナントへ狙いを定めていたダガーLも、頭上から放たれた光に肩部を貫かれて海面へ落ちていった。

 

デスティニーが敵陣の内側を切り裂き、レギナントが外側から敵の視線と火線を引き剥がす。

2機の攻撃によって防衛側の隊列は急速に崩れ、その後ろからレイとルナマリア、さらに反ロゴス連合のMS部隊が前へ押し寄せていった。

 

 

ミネルバの艦橋では、正面防衛線が押し込まれていく様子が映し出されていた。

デスティニーとレギナントが敵陣へ食い込み、そこへレジェンドとインパルスが後続の部隊を導いていく光景に、アーサーは一瞬だけ職務を忘れて拳を握った。

 

「すごい、やはりあの2人はすごいですよ!」

 

デュランダルは正面スクリーンを見つめたまま、戦場へ道を開いた者たちの姿を静かに追っていた。

 

「彼らも頑張ってくれている。この間に一気に前進しよう」

「ええ」

 

タリアは即座に頷くと、正面部隊へ新たな命令を出した。

 

「全隊へ通達! デスティニーとレギナントが開いた進路へ戦力を集中! 敵が立て直す前に、基地外周へ取りつかせて!」

「了解!」

 

反ロゴス連合軍が一斉に前へ出た。

レイは後続部隊の先頭に立ち、ビーム機動砲を多方向へ展開して左右の敵機を牽制する。

ルナマリアも味方部隊へ声をかけながら前進を続け、崩れた防衛線の奥へ雪崩れ込んでいった。

 

ヘブンズベースの外壁が間近へ迫る中、基地正面を塞ぐように3つの巨大な影が現れた。

北東と南西から後退してきた2機と、山地から下りてきた1機が合流し、残る3機のデストロイガンダムが基地を背に並んでいた。

その姿を確認した反ロゴス連合の各隊は再び速度を落とし、先ほどまで前進していたMSが、攻撃範囲から逃れるように左右へ散開していく。

 

「まだ3機もいるのか……」

「正面から近づくな! まとまれば全員焼かれるぞ!」

 

3機の胸部に並ぶ砲口が同時に輝き、背部の大型砲も遠方の艦隊へ向けられた。

さらに2本の腕が分離し、それぞれ異なる方向へ広がっていく。

正面、左右、上空から重ねられた火線は、逃げ道を塞ぐように反ロゴス連合軍へ迫った。

 

胸部から放たれた無数のビームが空域を埋め、回避に移った機体を背部砲の一撃が追う。

その火線から逃れたMSも、側面へ回り込んでいたデストロイの腕に狙われ、反撃の機会さえ与えられない。

数機が一斉射撃を行ったものの、ビームは陽電子リフレクターの表面で歪み、巨体へ届くことなく散らされた。

 

「このままでは、また止められる!」

 

押し戻されていく味方部隊を見たルナマリアの声に、シンは3機の動きから目を離さないまま答えた。

 

「ルナ、ソードシルエットに換装しろ!」

「ソードに?」

「エクスカリバーだ! レイと一緒に一機を止めてくれ!」

 

シンの言葉にルナマリアがミネルバへ換装を要請する。

 

「メイリン、ソードシルエットをお願い!」

「了解! ソードシルエット、射出します!」

 

ミネルバからソードシルエットが射出された。

インパルスは飛来する装備へ向けて進路を変え、その間を守るようにレジェンドのビーム機動砲が周囲へ火線を広げる。

レイはルナマリアの換装を援護しながら、3機のデストロイが互いの死角を補うように並んでいることを確認していた。

 

シンは正面に立つ一機へデスティニーを加速させた。

デストロイの胸部砲が火を噴く直前に機体を沈め、放たれた光の下へ潜り込む。

上空からは分離した腕部が照準を合わせていたが、シンはその砲口が開くより先に進路を変える。

掌から放たれたビームは、デスティニーが作り出した残像だけを貫いていた。

 

デスティニーは光の翼を大きく広げると、前進していた速度を一瞬だけ殺し、正面を横切った腕部の背後へ回った。

そのままデストロイの懐へ飛び込み、前面へ展開された陽電子リフレクターを避けるように機体を低く滑らせ、巨体の脚元から背後へ抜けていく。

 

「そこだぁっ!」

 

シンが振り向きざまにアロンダイトを振り上げた。

光を帯びた大剣はデストロイの腰部から食い込み、分厚い装甲と内部構造を焼きながら、胸部へ向かって斜めに走り抜けた。

デスティニーが背後へ離脱した直後、切断された機体の内側から炎が噴き出し、上半身がずれながら地面へ崩れ落ちた。

 

一般MSの攻撃を寄せつけなかった一機が、またしてもデスティニーの一撃によって沈黙した。

しかし、それはデストロイの防御や火力が劣っていたからではない。

無数の砲撃が重なる空域へ飛び込み、攻撃の瞬間を読み切って陽電子リフレクターの死角へ回り込み、対艦刀を叩き込める者が、シン以外にはほとんどいないだけだった。

 

残る2機のデストロイが、同時にレギナントへ向きを変える。

胸部と背部の砲口が一斉に光り、分離した4本の腕部も、それぞれ異なる方向へ広がっていく。

正面からの火線に加え、左右と上空からビームが回り込み、レギナントの逃げ道を閉ざすように照準を重ねた。

 

「くそぉ! なんであたらねぇんだよ!」

 

混線した回線から聞こえたのは、若い男の声だった。

怒鳴り声の奥には、自分たちの攻撃が届かないことへの苛立ちに満ちている。

セラはその声に反応せず、迫る砲撃の軌道だけを見つめていた。

 

正面から胸部ビーム砲が放たれると、レギナントは上昇せずに海面へ向けて急降下し、光が頭上を通過した直後に機体を横へ滑らせる。

そこへ左右からシュトゥルムファウストのビームが重なるが、白い機体は旋回することなく進路だけを折り曲げ、火線の狭間を抜けていった。

右からの一撃を左へかわし、追ってきた光を急上昇で外すと、上空から撃ち下ろされたビームの下をすれ違うように通過した。

 

声を漏らしたデストロイの操縦者から、その苛立ちが更に増していく。

まるで遊ばれている。

当たりそうで当たらない間際で踊るように回避していく。

2機分の砲撃が一機のレギナントへ集中しているにもかかわらず、その白い機体には一発も届かなかった。

デストロイの操縦者たちはレギナントを捉えようと次々に砲口を向け、いつしか周囲の戦況よりも、目の前を舞う白い機体だけを追うようになっていた。

セラが自らを囮にしたのは、2機の意識をそこへ縛りつけるためだった。

 

その間に、レイは一機の側面へ回り込んでいた。

ルナマリアから対艦刀を受け取ると、それを構えて一気に距離を詰める。

 

「ルナマリア、今だ」

「任せて!」

 

インパルスのフラッシュエッジが先行し、デストロイの肩を切り刻む。

レジェンドの対艦刀がその傷口に深く押し込んだ。

 

レジェンドが機体から離れた直後、デストロイの全身から光が漏れだす。

やがて内部で起きた爆発が巨体を揺らし、2機目のデストロイも膝から大地へ崩れ落ちた。

 

「やった……!」

「やるじゃないかルナマリア!」

「これでも、あたしもザフトの赤服なのよ!」

 

残る一機のデストロイが、倒れた僚機へ顔を向ける。

 

「くそ! やられてたまるか!」

 

レギナントから注意が逸れたのは、ほんの一瞬にすぎなかった。

しかし、その機体表面には、すでに8基のドラグーンが取りついていた。

 

「スティングモード展開」

 

セラの声と同時に、デストロイに取り付いたドラグーンが一瞬だけ光を放つ。

巨大MSは天を仰ぐように両腕を上げ、動きが止まった。

それを確認した8基のドラグーンは一斉に離れていく。

 

残されたデストロイは両腕を上げた姿勢のまま、ゆっくりと後方へ傾いていった。

巨体が大地へ倒れ込んだ衝撃が基地正面を揺らし、最後まで反ロゴス連合軍の前進を阻んでいた3機は、すべて沈黙した。

 

*****

 

戦闘は終わりへ向かいつつあった。

ヘブンズベースによる不意打ち、5機のデストロイガンダム、そして山頂に隠されていた広域対空兵器によって、反ロゴス連合は戦闘開始時の戦力の実に3分の1を失っていた。

決して軽い損害ではなく、勝利と呼ぶには、あまりにも多くの機体と人命が失われている。

 

それでも、防衛の要を失ったヘブンズベースは次第に押され始めていた。

各方面に展開していた防衛MSは分断され、基地外周の砲台も、反ロゴス連合の戦闘艦による主砲射撃を受けて次々と沈黙していく。

分厚い装甲と岩盤に守られた陣地は一撃では崩れなかったが、複数の艦が火力を集中し、繰り返し砲撃を加えることで外壁が砕け、砲身が折れ、やがて機能を停止していった。

 

ヘブンズベースの陥落は、もはや時間の問題に見えた。

それでも基地側から降伏の意思は示されず、反ロゴス連合のMS部隊は、開かれた入口から基地内部へ雪崩れ込んでいく。

しかし、突入開始から間もなく、ミネルバの艦橋へ緊迫した報告が入った。

 

「基地内部へ突入した部隊から救援要請!」

「敵小型MS部隊の抵抗が激しく、前進できません!」

「小型MS?」

 

タリアが戦術表示へ視線を向けると、基地内部から送られてきた映像が正面スクリーンへ映し出された。

狭い通路と低い天井に囲まれ、大型のMSでは自由に動くことさえ難しい空間を、見慣れない小型MSが高速で走り回っている。

ダガーLともウィンダムとも系統が異なる機体は、壁や柱を利用しながら突入部隊の側面へ回り込み、一機が正面から注意を引く間に、別の機体が背後へ入るという統制された動きを見せていた。

 

「第2突入隊、さらに2機損失!」

「敵機、接近戦へ移行!」

「速い……照準が追いつきません!」

 

味方MSがライフルを構える前に、小型機が懐へ潜り込む。

短い刃で腕部の関節を切り裂き、動きを止めた機体を別方向からの射撃で仕留める連携に、突入部隊は前進することも後退することもできずにいた。

狭い基地内部では、通常MSの大きさそのものが足枷となっていた。

 

タリアは、映像の中で動く機体に見覚えがあった。

タマンラセットで、ジブラルタルで、そしてスエズで見た小型MS。

 

「ミュルミドンね」

「確かに……、しかしなぜ今更」

 

アーサーが振り返ると、タリアは画面から目を離さないまま頷いた。

 

「考えてみれば、あれはこういう場所で使うための機体よ」

 

小型で身軽な機体にとって、狭い通路や遮蔽物の多い基地内部は、その性能を最大限に発揮できる戦場だった。

接近戦へ持ち込めば通常MSの長い手足や大型火器はかえって扱いにくくなり、さらに複数機による統制まで取れているなら、並の部隊では太刀打ちできない。

シンのように接近戦へ長けたパイロットであっても、機体の大きさと地形の制限によって苦戦を強いられる可能性があった。

 

「突入部隊を一度下がらせますか?」

 

アーサーの問いに、タリアはすぐには答えなかった。

外壁を艦砲射撃で破壊することも考えられたが、山地を利用した地下基地である。

効果は見込めない。

貫通力の高い物理兵器を用いたとしても、内部構造が分からないまま砲撃すれば、地下区画の崩落を招く恐れがあった。

 

「別の進入口を探させて。大型MSだけで押し込まないように伝えて」

「了解!」

 

突入部隊が新たな進路を探す間も、ミュルミドンは入口付近を守り続けた。

むやみに敵を追わず、前進しようとする機体だけを確実に狙い、基地の奥へ続く道を閉ざしている。

撃破数そのものは多くなくても、その動きによって反ロゴス連合軍の進軍は完全に止められていた。

 

その状況が、突然変わった。

ミュルミドンたちは損害を受けて崩れたわけでも、指揮を失って混乱したわけでもなく、何らかの合図を受けたように一斉に戦闘を中断した。

すべての機体が同時に基地の奥へ向きを変え、統制を保ったまま後退を始める。

 

「敵小型MS部隊、後退を開始!」

「後退?」

「はい。全機、一斉に基地奥へ移動しています!」

 

突入部隊はすぐには追わず、敵の罠を警戒して入口付近で足を止めた。

その直後、メイリンの端末へヘブンズベースから通信が入る。

 

「ヘブンズベースより全周波数通信!」

「内容は?」

「武装解除および降伏を受け入れると……基地側からの降伏通信です!」

 

艦橋に戸惑いが広がった。

つい先ほどまで基地内部では激しい抵抗が続き、ミュルミドンの部隊も、まだ十分に戦える状態で整然と後退している。

それにもかかわらず突然降伏を申し出た理由に、タリアとデュランダルはほぼ同時に気づいた。

 

「……やられた」

「逃げられたか」

 

降伏するためにミュルミドンを退かせたのではなく、守るべき者がすでに基地内からいなくなったため、防衛を続ける必要がなくなったのだ。

ミュルミドンによる抵抗は突入部隊を撃破するためだけのものではなく、ロゴス幹部が脱出する時間を稼ぐためのものだった。

 

「突入部隊へ命令! 降伏受諾に必要な部隊を残し、残りは基地内部へ急行!」

「了解!」

「司令区画、格納庫、地下通路を最優先! ロゴス幹部を捜索させて!」

「各突入部隊へ通達します!」

 

反ロゴス連合のMS部隊が一斉に基地内部へ雪崩れ込んだ。

武装を捨て、両手を上げた兵士たちの横を通り過ぎ、司令室から会議区画、地下格納庫まで捜索したものの、目的の人物はどこにもいなかった。

やがて地下区画へ向かった部隊から、脱出用通路と移動用車両の痕跡が発見されたという報告が届いた。

 

「ロード・ジブリール以下、ロゴス幹部の姿を確認できません!」

「基地地下に脱出用通路を発見!」

「移動用車両の痕跡があります。すでに使用された後です!」

 

ヘブンズベースは陥落した。

5機のデストロイを撃破し、防衛部隊を降伏へ追い込んだにもかかわらず、最も捕らえなければならなかった者たちは、すでに戦場から姿を消していた。

タリアは勝利を示す色へ塗り替えられていく戦術表示を見つめながら、その中に残された逃亡者の行方を追った。

 

戦いには勝ったが、ロゴスとの戦争はまだ終わっていなかった。

 

 

 




次回投稿は27日になります。
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