機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~ 作:割戸三葉
艦橋には重い沈黙が流れている。
表向きは大型民間貨物船。
しかしその実態は研究施設を内包した特殊戦艦である。
艦長席に座る男はモニターを見つめている。
そこに映るのは数日前の戦闘記録。
白い機体、レギナント。
そして識別番号L-31。
「捜索結果を報告します。戦闘宙域周辺の捜索を完了。
レギナントは未発見……L-31も未確認です」
オペレーターが告げる。
艦長は眉をひそめた。
数日前のミネルバ隊との遭遇。
そしてL-31による足止め。
そのおかげで本艦は離脱に成功した。
だが、肝心のレギナントは戻らなかった。
通信も途絶状態。
「生存率は」
「極めて低いと判断されます」
傍らにいる副艦長が答える。
「敵はミネルバ隊です。4機を相手に戦闘を継続しその後通信途絶。
通常なら生存は困難でしょう」
反論はしない。当然の推測だ。
だが艦長は納得できなかった。
「レギナントの残骸は」
「――未発見です」
そこだ。
もし撃墜されたなら――残骸がある。
もし自爆したなら――痕跡が残る。
だが何もない。
まるで消えたように。
艦長は腕を組んだ。
L-31は研究所評価では失敗作。
だが戦闘記録は違う。
4機を相手にしてなお足止めを成功させた。
この艦を守り切った。
その事実だけは変わらない。
予想を大きく超えた結果だ。
パイロット、機体、どちらも諦めるには惜しい。
その時だった。
「艦長!」
突然のオペレーターの大声で、艦橋内の全員が振り返る。
「どうした」
「座標信号を検知、レギナントです!」
オペレーターの顔色が変わった。
「確認しました。これは紛れもなくレギナントの座標信号です」
艦長が立ち上がる。
「間違いないのか」
「はい」
誰も言葉を発しなかった。
レギナントが起動した。
それはつまり――
「操縦者認証の可能性は」
副長が即座に答える。
「高いと考えられます。ハッキングで認証暗号を突破することは困難です」
つまり――L-31生存の可能性。
艦橋の空気が一変した。
「発信源を追跡しろ」
「了解」
モニターが切り替わる。
座標、航路、熱源、そして――艦影
「……ミネルバ」
艦長が低く呟く。
ザフト軍最新鋭戦艦。
最悪の相手だった。
*****
数時間後、偵察ドローンから映像が送られてくる。
遠距離から捉えたミネルバ。
その姿を艦橋全員が見つめていた。
「レギナント信号の発信源は間違いなく同艦です」
「起動試験と思われます」
各担当オペレータ―達が報告する。
艦長は小さく舌打ちした。
鹵獲された――そう考えるのが自然だった。
「L-31も同艦内にいる可能性が高いか」
「はい」
「生存率は大幅に上昇します」
艦橋が静まり返る。
喜ぶ者はいない。
相手が悪すぎた。
ミネルバ。
そしてこの戦闘記録。
あの艦にはインパルスを含むザフトの精鋭MS部隊が載っている。
L-31を相手にしながらもなお戦力を保持していた部隊だ。
正面から挑むのは愚かだ。
「回収作戦を計画しますか」
副長が尋ねる。
艦長は即答しなかった。
しばらく考え、そして口を開く。
「…そうだな」
全員が顔を上げる。
「…だがまずは増援を要請する。このまま追跡を継続、接触は禁止。敵を刺激するな」
副長が頷く。当然の判断だった。
今ある戦力では足りない。
「我々の目的はミネルバではない」
艦長は静かに言った。
「あの中にいるL-31とレギナントの回収だ」
艦橋内の全員が同意する。
それが全てだった。
モニターの向こうで、ミネルバは何も知らず航行を続けている。
だが、その艦内には失われたはずの重要資産がいる。
識別番号L-31。
レギナント適格操縦者。
作戦は新たな段階へ進み始めていた。