機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~ 作:割戸三葉
アークエンジェルの艦橋には、重苦しい沈黙が漂っていた。
正面スクリーンには月面の戦況図が表示され、その一角ではアルザッヘルのあった場所を示す光点だけが虚しく点滅している。
基地そのものだけではない。周辺に展開していた艦艇や、出撃直後だった部隊まで含めて、ほとんどの反応が一度に消失していた。
「……レクイエムで間違いないのね?」
マリューの問いに、ミリアリアが端末へ視線を落とした。
「はい。発射地点はダイダロス基地です。照射経路とアルザッヘル消滅の時刻も一致しています」
「ザフトが使ったのか……あれを」
アスランの低い声に、キラもスクリーンを見つめたまま口を閉ざした。
数刻前、月面宙域へ到達したアークエンジェルが最初に知ったのは、ダイダロス基地がすでに陥落しているという事実だった。
あれほどプラントを脅かしていたレクイエムがザフトの手に落ちたのなら、少なくとも再びプラントへ向けられることはない。
そう考え、安堵した者も少なくなかった。
だが、兵器そのものが消えたわけではなかった。
使う者が変わっただけだった。
「アルザッヘルには大西洋連邦軍の部隊も集結していたんだよね」
キラが尋ねる。
「ええ。正確な数はまだ分からないけど、出撃していた艦隊も含めて反応がほとんど残ってないわ」
ミリアリアの返答に、再び艦橋が静まり返った。
ロゴスがプラントを焼くために使った兵器が、今度はザフトの手によって地球軍の拠点を焼き払った。
その事実をどう受け止めるべきなのか、誰にもすぐ答えは出せなかった。
マリューは僅かに視線を落としたあと、正面へ向き直る。
「今はここで考え込んでいる場合じゃないわ。アルザッヘルが消えた以上、この周辺の部隊がどう動くかも分からない。こちらも見つかる前に離れましょう」
「コペルニクスへ向かいますか?」
ノイマンが航路を表示する。
「ええ。できるだけ目立たない航路を取って。デブリ帯を通過しましょう」
「了解。進路コペルニクス。微速前進」
アークエンジェルがゆっくりと船首を変えた。
その先には、過去の戦闘や開発によって生じた大小無数の残骸が漂っている。
白い艦体はやがてその中へ入り込み、月光さえ遮るデブリの影へ姿を隠していった。
*****
宇宙に漂うデブリは、光学的な遮蔽物になるだけではない。
不規則な形状をした金属片や岩塊はレーダー波を乱反射し、熱を残した大型残骸は赤外線探知にも余計な情報を増やす。
その複雑な影を縫うように、レジェンドとレギナントは先ほど捉えた大型反応へ接近していた。
「距離、2万4000。反応を再捕捉しました」
セラの報告を聞き、レイは正面のデブリ群を見る。
「艦種は?」
「まだ特定できません。大型艦であることは確実です」
「ミネルバとの通信は」
「繋がりません。デブリによる減衰が大きいです」
レイは短く息を吐いた。
こちらも相手を捉えにくいが、それは向こうも同じである。
大型艦がこの宙域にいる理由は不明だが、所属を確認するまでは無視できなかった。
2機は推力を落とし、ひときわ巨大な艦艇の残骸を挟んで左右へ分かれる。
レギナントが先にその縁からセンサーだけを覗かせ、続いてレジェンドが別方向から光学映像を取得した。
白い艦影が、ゆっくりとデブリの間を進んでいる。
レイの目が細くなった。
「アークエンジェルだと?」
セラも艦影照合を終える。
「識別結果、アークエンジェルで一致しました」
大気圏内での活動が中心だったはずの艦が、なぜ突然月面宙域にいるのか。
レイにはその理由が分からなかったが、考えるべき問題はそこではなかった。
アークエンジェルは敵である。
これまで何度もザフトの作戦へ介入し、ミネルバとも交戦している。
敵を見つけ、それを攻撃できる位置にいる以上、見逃すという選択肢はレイの中にはなかった。
ただし、状況が良いわけではない。
現在こちらにいるのは2機だけ。
レジェンドには十分な攻撃力があるが、レギナントは本来、単機で敵艦を撃沈するための機体ではない。
しかもアークエンジェルには、フリーダムやジャスティスといったザフトのエース級でも迂闊に手を出せない機体が搭載されている。
「攻撃する。俺が艦尾から入る。お前は援護しろ」
「2機だけでは、撃沈できる可能性は高くありません」
「分かっている。だが、今なら向こうは気づいていない」
レイは戦術表示を拡大した。
アークエンジェルはこちらへ艦尾を向けたまま、低速でデブリの奥へ進んでいる。
今なら砲塔もMSもこちらを捉えておらず、最初の一撃だけは確実にこちらが選べる。
「推進系か後部兵装を潰す。足を止めれば、その間に通信圏まで戻って増援を呼べる」
「了解しました」
レギナントの返答を聞くと、レイはレジェンドをさらに残骸の影へ沈ませた。
2機はアークエンジェルとの距離を縮めながら、光学的にもセンサー上でも極力姿を晒さない位置を選んで進んでいく。
距離1万。
まだ反応はない。
8000。
レジェンドのビーム機動砲が静かに機体から離れた。
「行くぞ」
残骸の陰から、レジェンドが一気に飛び出した。
*****
「後方から高速接近する反応!」
ミリアリアの声が艦橋を切り裂いた。
「何ですって!?」
警報が鳴り響き、正面スクリーンの一部が後方映像へ切り替わる。
だが、そこに機影が映った時には、すでに距離は6000を切っていた。
「MS2機! 識別急いでます!」
「第一戦闘配備! 回避!」
「取り舵!」
アークエンジェルが急速に艦首を振る。
巨大な船体がデブリの間で傾き、艦尾を射線から外そうとしたが、レジェンドの方が早かった。
複数のビーム機動砲が本体から離れ、左右へ散開する。
レジェンド本体が放った射撃を避けるために艦体を傾けた先へ、別角度から光が走った。
「来ます!」
最初の1発は艦尾を掠めた。
続くビームが装甲を焼き、さらにその外側から回り込んだ2条が後部兵装へ突き刺さる。
轟音と衝撃が艦橋まで伝わり、クルーたちの身体がシートへ押しつけられた。
「被害報告!」
「後部ミサイル発射管に被弾! 第3、第4発射管使用不能! 周辺区画を閉鎖します!」
「誘爆させないで! 残弾への供給を遮断!」
マリューの命令が飛ぶ間にも、レジェンドは攻撃を止めない。
アークエンジェルの旋回方向へビーム機動砲を先回りさせ、艦が逃げる位置へ射線を重ねていく。
「敵機、レジェンドと一致!」
「レイか!」
アスランがスクリーンを睨んだ直後、ミリアリアがもう1つの反応を拾った。
「右舷下方、もう1機急接近!」
「レギナント……!」
白い機体が、アークエンジェルの腹部を掠めるほどの距離まで潜り込む。
大型のスカートを思わせる装甲を翻しながら艦体と並走すると、その周囲から小型装置が次々に放たれた。
「電気ネズミ君、散布」
放出された装置はアークエンジェルの外装へ磁着し、船体各所で同時に作動した。
激しい電磁ノイズが艦内を駆け抜ける。
艦橋の表示が一斉に乱れ、レーダー上に無数の偽像が現れた直後、今度はほとんどの反応が黒く落ちた。
「主レーダー消失!」
「右舷センサー群、応答ありません!」
「予備系統へ切り替えて! 使える光学センサーを全部回して!」
ノイマンはまともな外部情報が得られないまま、デブリの位置を直前の記録から読み取って艦を動かす。
目前へ大型残骸が迫り、アークエンジェルは辛うじてその下を潜り抜けたが、直後に上方からレジェンドの射撃が降ってきた。
船体を捻る。
1条が艦橋上方を抜け、もう1条が左舷装甲を焦がした。
「MS隊は!?」
「発進準備、完了しています!」
「キラ君、アスラン君、出て!」
通信と同時に発進デッキが開く。
「キラ・ヤマト、ストライクフリーダム、行きます!」
「アスラン・ザラ、インフィニットジャスティス、出る!」
2機がカタパルトから射出され、レジェンドとレギナントの前へ飛び出した。
キラは発進直後からストライクフリーダムを上昇させ、アークエンジェルへ向けられていた射線へ割り込む。
2挺のビームライフルが放たれ、レジェンドの攻撃を強引に艦から逸らした。
レイは標的を迷わず切り替える。
「フリーダム……」
ビーム機動砲が旋回し、キラを左右から挟み込む。
正面からレジェンド本体が射撃し、回避先へ2基、さらにその上方へ別の砲口が移動した。
キラは翼を広げたままフリーダムを横へ滑らせる。
1条をかわし、その先へ置かれた2条目の直前で急上昇すると、今度は自らのドラグーンを一斉に射出した。
白と青の光がデブリ帯を交差する。
レイのビーム機動砲が逃げ道を削れば、キラのドラグーンがその外側から射線を崩す。
レジェンド本体が距離を詰めればフリーダムが後退しながら撃ち返し、逆にキラが反撃へ移ればレイはビーム機動砲を盾のように配置してその進路を妨げた。
「攻撃を止めるんだ!」
キラがオープンチャンネルを開く。
「僕たちは君たちと戦うために来たんじゃない!」
返答はない。
レイは通信そのものが聞こえていないかのように攻撃を続け、さらに3基のビーム機動砲をフリーダムの背後へ回した。
キラは舌を噛むように言葉を止め、機体を反転させる。
前後から迫った光の隙間を抜けながら、2挺のライフルで1基ずつ牽制し、そのままレジェンドの側面へ回り込む。
レイも追従する。
振り返るより早くビームライフルを撃ち、フリーダムが避けた位置へ別のビーム機動砲を滑り込ませた。
どちらも決定打を与えられない。
だが一瞬でも判断を誤れば、その均衡が崩れることだけは両者とも分かっていた。
一方、インフィニットジャスティスはレギナントへ一直線に向かっていた。
「セラ! 聞こえるか!」
アスランの呼びかけにも応答はない。
レギナントの8基のドラグーンが広がり、ジャスティスの進路を包み込む。
正面から2条、左右からさらに射線が重なるが、アスランは機体を捻りながら最初の隙間へ飛び込んだ。
次の射撃が来るより早く背部リフターを分離する。
ジャスティス本体が上へ、リフターが下へ分かれ、セラが作った包囲を2方向から崩しにかかった。
ドラグーンが位置を変える。
下へ逃げたリフターを追う2基を見て、アスランは本体を一気にレギナントへ近づけた。
ビームサーベルが振り下ろされる。
だが刃が届く直前、レギナントは横へ弾かれたように移動した。
高速で飛び続けていたはずの機体が一瞬で進行方向を変え、ジャスティスの予測した位置から消える。
「相変わらず、とんでもない動きをするな……!」
振り返ったアスランの横をビームが走る。
レギナントはすでに別方向へ移り、ビームスプレーガンとドラグーンを組み合わせて新しい射線を作っていた。
一つ避ければ、そこへ次の射線が重なる。
上へ逃れればレギナント本体が先回りし、下へ潜ればドラグーンが待っている。
目に見える壁があるわけではない。
しかし、選べる進路が少しずつ削られ、気づけば動ける場所そのものを限定されている。
アスランは追い込まれる前にジャスティスを急反転させた。
包囲の薄い方向を狙って突進し、ビームサーベルでドラグーン1基を牽制すると、その一瞬の隙から再びレギナント本体へ迫る。
セラは正面から受けない。
急停止してアスランを先へ行かせ、その背後へ回ろうとする。
アスランも読んでいた。
ジャスティスが身を翻し、2機のビームサーベルとビームスプレーガンが至近距離で交差する。
互いに直撃はない。
すれ違った2機が反転すると、再び距離を挟んで向き合った。
「セラ! 俺たちはこのままこの宙域を離れる! ここで戦いを続ける必要はない!」
返事はない。
レギナントのドラグーンが再び動き始める。
アスランは眉を寄せた。
レイならば、敵と認識した相手の言葉など最初から聞く気がなくても不思議ではない。
セラもまた、必要と判断すればかつての仲間であろうと攻撃対象にできる。
それでも、彼女は話の通じない相手ではない。
むしろ合理性を優先するからこそ、戦う必要がないと理解すれば攻撃を止める余地がある。
だからこそ返事がないことに、別の可能性が浮かんだ。
元仲間だからこそ、あえて言葉を交わさないのではないか。
敵と話せば判断に余計なものが混じると考え、最初から通信を切り捨てているのかもしれない。
それが本当にセラの考えなのか、アスランには分からない。
考える時間も与えられなかった。
レギナントが急加速し、4方向からドラグーンの射線が走る。
アスランはリフターを呼び戻しながら後退し、再び攻防へ意識を戻した。
戦闘は終わらなかった。
フリーダムとレジェンドは互いのドラグーンを展開したまま、何度も攻撃位置を入れ替えている。
キラはレイの包囲を破るたびにアークエンジェルへ戻ろうとするが、そのたびにレジェンドが前へ入り込み、艦へ向かわせまいと攻撃を重ねた。
反対側ではジャスティスとレギナントが、近距離と中距離を激しく行き来している。
アスランが接近すればセラが距離を変え、距離が開けば
アークエンジェルの艦内では、電磁パルス発生装置による妨害から各系統が少しずつ復旧し始めていた。
「主レーダー、まだ正常値に戻りません。外部センサーは4割まで回復!」
「敵の増援は確認できる?」
「この範囲ではありません。でも、デブリの外までは見通せません!」
マリューは戦術表示へ目を走らせた。
奇襲を受けた直後より状況は改善しているが、戦闘が長引けば今度はこちらの位置がザフトへ知られる。
目の前の2機だけを相手にしているうちに離脱できなければ、さらに部隊が集まってくる可能性があった。
「このまま2機だけに任せるのは危険ね。アカツキを出して」
「了解!」
格納庫で待機していた黄金のMSが発進位置へ移る。
『ようやく俺の出番か』
ネオの声が通信へ入った。
「大佐、無理はしないでください」
『そいつはお互い様だろ、アスラン』
カタパルトが開放される。
「ネオ・ロアノーク、アカツキ、行くぜ!」
黄金のMSがアークエンジェルから飛び出した。
新たな反応を捉えたレイが視線を向ける。
月光を受けて輝くその黄金の機体には、見覚えがあった。
「あの金色の機体まで出してきたか」
数の優位は失われた。
それどころか、戦力差は一気に逆転している。
ネオは最初にレジェンドへ向かった。
黄金の機体からビームが放たれ、レイは機体を上方へ逃がしながら、1基のビーム機動砲を反撃に向ける。
光が直撃する。
だが黄金の装甲表面が眩しく輝いた直後、ビームはそこで消えず、角度を変えて宇宙へ跳ね返った。
「何?」
反射された光がレジェンドの近くを走る。
レイは咄嗟に機体を振り、返ってきた自分の射撃を避けた。
さらに別角度からフリーダムの攻撃が加わる。
これまでキラだけを相手にしていた均衡が崩れ、レイはビーム機動砲を戻して防御へ回らざるを得なくなった。
「セラ、隊形を変える」
「了解しました」
レギナントがジャスティスとの間合いを切り、一気にレジェンドの近くまで戻る。
レイもフリーダムから距離を取り、2機は短時間だけ互いの背を預けるように位置を整えた。
状況を確認する。
フリーダム。
ジャスティス。
そして黄金のMS。
この中で最もレジェンドと相性が悪いのは、最後に出てきた黄金の機体だった。
主兵装の多くがビームである以上、反射能力を持つ装甲へ不用意に撃てば、それだけでこちらが危険に晒される。
一方、フリーダムをレイ1人で抑え続けることも難しい。
すでに何度も射線を破られ、決定的な優位を作れないまま戦闘が続いていた。
「俺がジャスティスを抑える。セラ、お前は残り2機を引き受けろ」
「了解しました」
レギナントが前へ出る。
8基のドラグーンが大きく広がり、フリーダムと黄金の機体の間を分断するように射線を作った。
キラはすぐに機体を上昇させ、ネオは反対側へ回り込む。
「2対1か。こりゃ随分小さい子に厳しい話だな」
「大佐、油断しないでください!」
『してないさ!』
ネオの返答と同時に、黄金の機体がレギナントの側面へ迫る。
セラはビームスプレーガンを向けたが、照準を合わせたところで射撃を止めた。
撃てば防がれる。
それどころか、反射されたビームが自分やレイへ向かう可能性もある。
代わりに2基のドラグーンを黄金の機体の進路へ置き、直接狙わず逃げ道だけを限定する。
残る6基をフリーダムへ向け、キラがネオの援護へ回れない位置を作っていく。
だが、相手は2機だった。
キラがレギナントの網を正面から抜けようとせず、ドラグーンを外側へ広げる。
その射撃によってセラのドラグーンを移動させ、網の一角が薄くなった瞬間を狙って黄金の機体が飛び込んできた。
レギナントが急停止する。
黄金の機体がその前を通り過ぎるより早く、セラは機体を横へ弾き、その背後へ回ろうとした。
だが、その位置にはフリーダムからのビームが来ていた。
「警告」
セラは機体を捻る。
光が大型スカートの表面を掠め、白鏡層が一瞬赤く焼けた。
その間に黄金の機体が反転する。
今度は正面からビームが放たれ、レギナントはさらに軌道を変えて回避した。
攻撃へ移ろうとすればキラが来る。
キラを押さえようとすれば黄金のMSが近づく。
これまで敵の動く場所を削る側だったレギナントが、今度は2機の連携によって自分の選択肢を削られていた。
「ビームでは効果が低い」
セラは武装選択を切り替える。
両腕部の制御表示が変わり、限定解除の表示がコクピットに浮かんだ。
黄金の装甲がビームを反射するのなら、直接掴んで破壊すればいい。
レギナントが黄金のMSへ正面を向け、高負荷近接モードへの移行を始める。
その変化を、レイが共有情報から捉えた。
「セラ、クイーンズ・バイトは使うな」
「黄金の機体には有効です」
「2機を相手にしているんだ。あれを掴みに行けばフリーダムに背中を晒す」
セラは一瞬だけ黄金のMSとフリーダムの位置を確認する。
「了解しました」
限定解除の表示が消える。
代わってレギナントはドラグーンを引き戻し、2機の間へ射線を重ねた。
黄金のMSを撃破するためではなく、接近させないための配置だった。
レイ自身にも余裕はない。
ジャスティスがビームサーベルを構え、レジェンドへ真正面から迫る。
レイはビーム機動砲を左右へ散らし、アスランが進む先へ次々と射撃を置いた。
「退け、アスラン!」
「そういうわけにはいかない!」
ジャスティスが1条目をかわし、2条目をシールドで受ける。
3条目が回避先へ来るより早く背部リフターを射出し、レジェンド本体とビーム機動砲の間へ割り込ませた。
レイが距離を取ろうとする。
だがアスランは逃がさない。
レジェンドが撃てる距離を維持しようとすれば、ジャスティスはさらに一歩踏み込み、ビームサーベルの間合いへ持ち込もうとする。
反対にレイがビーム機動砲で包囲を作れば、アスランは最も射線の薄い一点だけを狙って強引に突破した。
サーベルが振られる。
レイは機体を捻ってかわしたが、光刃の先端がレジェンドの肩装甲を掠めた。
表面が焼け、警告表示が一瞬点灯する。
「くっ……!」
レイは至近距離からビームライフルを撃ち返す。
アスランも機体を引いたが、完全には避け切れず、ジャスティスの脚部装甲を光が掠めていった。
互いに致命傷はない。
それでも、少しずつ損傷は積み上がっていく。
セラの側も同じだった。
フリーダムのドラグーンがレギナントの進路を塞ぎ、その反対側から黄金のMSが迫る。
セラは急角度で進路を変え、2機の間を抜けようとしたが、キラはその動きを見てすぐに射線を修正した。
左から来る3条をかわす。
上へ逃れた先には黄金の機体。
セラは機体を急停止させ、慣性を別方向へ流して横へ跳ぶ。
それでも完全には抜け切れない。
黄金の機体の射撃が大型スカートを掠め、続いてフリーダムのビームが右肩の白鏡層を削った。
装甲そのものは貫かれていないが、表面の白い光沢が焼け、内部表示に複数の損傷箇所が追加される。
セラは表情を変えずに残存機能を確認した。
「戦闘継続は可能」
誰に言うでもなく呟き、再びドラグーンを展開する。
だが、戦況そのものは変わらない。
2機を相手にした状態では、
キラが射線を崩し、空いた場所へ黄金のMSが入り込むことで、作りかけた網が何度も形を変えさせられていた。
レイはジャスティスの攻撃を受けながら、その様子を確認する。
最初の奇襲は成功した。
アークエンジェルの後部兵装を破壊し、電子機器にも大きな混乱を与えた。
だが、その優位はもうない。
こちらは2機。
敵は3機に加え、後方にはアークエンジェルがいる。
しかもミネルバとの通信は依然として繋がらず、増援を要求することもできない。
ジャスティスが再び迫る。
レイはビーム機動砲を集中させてアスランを押し戻し、その隙にセラの位置を確認した。
レギナントはまだ動けているが、白い装甲にはいくつもの焼け跡が走っている。
このまま続ければ、いずれどちらかが致命的な被弾を受ける。
敵を逃がすことは許したくない。
だが、ここで2機とも失われれば、それ以上に意味がない。
レイが撤退を口にしようとした、その時だった。
「――?」
戦闘で乱れていたセンサーの端に、新しい反応が現れた。
既存の3機ではない。
アークエンジェルでもない。
戦場へ向かって、高速で接近してくる新たな機影。
「新手……?」
レイが表示を拡大する。
ほぼ同時に、セラもその反応を捉えていた。
激しいビームの応酬が続く中、新たな機影はさらに速度を上げ、彼らのいるデブリ帯へ急速に近づいていた。