機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~ 作:割戸三葉
指揮機を斬り捨てたネメシスは、そのままダガーLの群れには向かわなかった。
黒い機体が身を翻した先にあったのは、戦場の外側で待機している大型輸送艦だった。
『あいつ、輸送艦を狙ってる!』
『止めろ! 帰れなくなるぞ!』
残った部隊が慌てて進路を塞ぐ。ビームライフルの光が何本も伸びたが、ネメシスは速度を落とさない。
直撃するはずだった一射の直前で機体が横へ滑り、次の瞬間には上下を入れ替えるように軌道を折った。
ビームの何本かは装甲を捉えた。赤紫の光が表面を走り、散った光が黒い機体の輪郭を一瞬だけ浮かび上がらせる。
それでもネメシスは止まらない。損傷を確かめる素振りすら見せず、最も近い輸送艦へ取り付いた。
巨体が艦腹すれすれを走る。輸送艦を盾にされた形となり、追ってきたダガーLの銃口が止まった。
『撃てない! 艦に当たる!』
『取り付かせるな! 近接で引き剥がせ!』
焦れた数機がビームサーベルを抜き、一斉にネメシスへ飛び込む。その時、黒い機体の周囲に浮いていた4基のドラグーンが動いた。
細い端末の先端に短いビーム刃が灯り、それ自体が刃となって加速する。
正面から来たダガーLの腕が、サーベルごと切り飛ばされた。もう1基が横から胴を裂き、退こうとした機体の脚を別の端末が断つ。
最後の1機がネメシスまであとわずかという距離へ迫った時には、4基目が背後からコクピット脇を貫いていた。
その間にも、ネメシス本体は輸送艦から離れていない。主腕の大型ビームサーベルが艦尾付近へ突き立ち、推進器の基部を長く抉った。
白熱した装甲の亀裂から光が漏れ、遅れて内部でいくつもの爆発が重なる。
『第2輸送艦、機関部損傷!』
『消火間に合いません!』
『総員退艦――』
通信が途中で途切れた。艦尾から広がった爆発が中央部まで呑み込み、長い船体がゆっくり折れていく。
残る輸送艦が散開を始めた。だが大きく鈍重な輸送艦では、高速に飛び回るネメシスから逃れるはずがない。
ネメシスは1隻を破壊すると、次の艦が向きを変え終えるより先に、その進路へ現れた。
4基のドラグーンが推進器周辺へ殺到し、装甲の薄い箇所を次々と切り裂く。
逃げようとしたダガーLが割って入れば、端末の1基が迎え、残りは止まらず輸送艦へ食らいついた。
『こっちへ来るぞ!』
『艦を捨てろ! 早く!』
『まだ中に人が――』
誰かの声を押し潰すように、3隻目の輸送艦が爆発した。
それから数分もしないうちに、4隻すべての大型輸送艦が撃沈された。
爆散した船体と引き裂かれた装甲が宙域へ広がり、残されたMSを収容し、この宙域から連れ帰れる艦はもう1隻もなかった。
指揮艦を失い、輸送艦も失った。残されたダガーLと数機のウィンダムは、それでもネメシスへ銃口を向けた。
撃てば避けられる。当たっても止まらない。
その二つを何度か繰り返したところで、隊列はとうとう崩れた。
1機が戦場の外へ逃げた。
『逃げるぞ!』
『右へ回れ! あの刃を避けろ!』
その機体の前へ、ドラグーンが飛び込む。短い刃が閃いた。
『うわっ!』
ダガーLが進路を変える。だが、逃げた先には別の2基が待っていた。
『上だ! 上へ抜けろ!』
機体が上昇する。そこへネメシスが現れた。
『なっ――』
大型サーベルが振り抜かれ、機体が光の中で崩れる。
『下へ! 下だ!』
別の機体がネメシスの下へ潜り込む。だが、黒い機体はすでに向きを変えていた。
『来るな! 来るなぁっ!』
大型サーベルが走る。逃げた機体が、また1機消えた。
ネメシスに、レギナントのような広域制圧用の射撃兵装はない。4基のドラグーンも、ビームを撃って空間を閉じるための端末ではなかった。
それでも、逃げ道は次々と潰れていく。
『左へ!』
『駄目だ、そっちにもいる!』
『散開しろ! 固まるな!』
右へ逃げれば、右側へドラグーンが回り込む。上へ抜けようとすれば、ネメシスが先にいる。ばらけようとした機体は刃に押し戻され、逃げ場を失った群れが、少しずつ一つの塊へ集められていく。
『囲まれる!』
『下がれ! 下がれぇっ!』
その中心へ、黒い機体が飛び込んだ。
大型サーベルが振り抜かれる。1機が両断され、別の機体へ補助アームのビームナイフが突き込まれた。
『ぎゃあああっ!』
『散れ! 散れぇっ!』
逃げた先へドラグーンが回り込み、刃を振るう。群れが押し戻される。
ネメシスが飛び込むたび、機影が消えた。1機。2機。通信に悲鳴だけが残り、次の瞬間にはその声も途切れる。
『どこへ行けばいいんだ!』
『分からない! あいつが先にいる!』
『撃て! 撃ち続けろ!』
撃っても当たらない。避けた先には刃がある。止まれば、黒い機体がその中心へ飛び込んでくる。
捕食者に追われる小魚の群れだった。
コクピットの中で、No.2の呼吸が少しずつ速くなっていた。
神経接続系の表示には、すでにいくつもの警告が重なっている。4基のドラグーンを別々の位置へ走らせ、機体本体を動かしながら、逃げようとする機体の進路を先回りする。
『右へ!』
『上だ!』
『違う、そこじゃない!』
通信が飛び交う。
No.2は、そのすべてを聞きながら、次の位置へ機体を滑らせた。
警告表示が増える。ドラグーンの反応にわずかな遅れが出る。それでも、No.2は止めなかった。
右へ逃げれば右へ。上へ逃げれば上へ。下へ潜れば、その先へ。
「そこだ」
呟きと同時に、ネメシスが加速する。
大型サーベルが1機を斬り裂き、補助アームのビームナイフが別の機体を貫く。逃げた機体へドラグーンが迫り、短い刃が装甲を切り裂いた。
『来るな!』
『助けてくれ!』
『誰か、こいつを止めろ!』
誰かの進路を空ける必要はない。味方を巻き込まないよう火線を選ぶ必要もない。壊してはいけないものを探す必要さえなかった。
目の前にあるものは、すべて壊して構わない。
その単純さだけが、高いまま続いていた稼働率への苛立ちを、ほんのわずかに薄めていた。
だが、その感覚はNo.2の中だけで完結していた。
遠くから見ていた者たちに、そんな事情が分かるはずもない。
ザフトにも、オーブにも見えていたのは、逃げ惑うMSの群れを4つの刃で追い立て、時折その中心へ飛び込んでは数を減らしていく、黒い異形の姿だけだった。
*****
クサナギの正面モニターには、戦場の側面で次々と消えていく光点が映っていた。
先ほどまで1隻の戦闘艦と4隻の大型輸送艦を中心に固まっていた部隊は、すでに艦艇反応をほとんど失っている。
残されたMSも散開と集合を繰り返し、そのたびに数が減っていた。
「また1機消失。黒いMSは依然単独です」
「所属は」
「判別できません。ザフト軍との交戦は確認されていませんが、こちらの識別信号にも応答なし」
報告を聞きながら、アマギはモニターから目を離さなかった。黒い機体がまた群れの外側へ回り込み、逃げようとした数機を押し戻している。
「救援を出しますか」
ソガの目がアマギの顔を捉える。アマギ自身も、今のオーブ軍にそんな余裕があるとは思っていなかった。
正面にはザフトの防衛部隊がいる。こちらはステーション5からの戦闘で消耗し、再編を終えたばかりだ。
そこからさらに部隊を割いて、正体すら分からない勢力を助けに行く。軍事的には、選べる手ではなかった。
それでもアマギが尋ねた理由を、ソガは分かっていた。
あの部隊は、オーブへ攻撃していない。少なくとも今の時点では、敵と断定する根拠がなかった。
その相手が一方的に追い詰められているのを見ながら、余裕がないという理由だけで背を向けることにも、別の重さがある。
ソガはしばらく答えなかった。戦術画面には、正面のザフトと側面の黒い機体が同時に表示されている。
「……出せん」
アマギは黙って待った。
「あの部隊を助けるために前へ出れば、今度はあれの目がこちらへ向く可能性がある。正面のザフトだけでも、こちらが不利なのは変わらん」
「はい」
「もし、あのMSがこちらを敵と判断したら、敗北では済まん。今の戦力では、壊滅する」
アマギの口元がわずかに強張った。それ以上、救援を求める言葉は出なかった。
「分かっている」
ソガは低く付け加えた。
「だが、ここで我々まで倒れれば、守れるものも守れん」
モニターの向こうで、また1つ光点が消えた。
奇妙なことに、正面の砲火も薄くなっていた。オーブ側だけではない。
ザフト側のMSも、側面で起きている一方的な戦闘へ意識を取られている。
完全に止まったわけではないが、互いに踏み込もうとする動きが数十秒ほど途切れていた。
その均衡を先に破ったのは、ザフトだった。
『前衛各隊、押し上げろ! 防衛線を前へ!』
『側面部隊は崩れている。今のうちに距離を詰める!』
『了解!』
直後、ザフトの前衛が一斉に動いた。
側面にいた約60機の部隊は、もう挟撃を仕掛けられる状態ではない。先ほどまで動かなかったザフトのMS群が、今度は明確に前へ出てくる。
ザクとグフの列が広がり、オーブ前衛へ圧力をかけ始めた。
「敵前衛、前進!」
「第2群に接触します!」
「左翼、押されています!」
艦橋に報告が重なる。
ソガは戦術表示を一度見回し、迷わず命令を出した。
「全軍へ通達。我々の勝機は前方にはない。今は勝利の扉が開くまで、戦線を保ちながら後退せよ」
「後退、ですか」
「そうだ。崩れるな。押し返しながら下がれ。突出した艦、MSを作るな」
アマギがすぐに復唱する。
「全艦へ! 前衛を支援しつつ順次後退! 損傷機は中央へ、動ける機体は左右を支えろ!」
命令が各艦へ飛ぶ。オーブ軍はザフトの前進を受け止め、撃ち返しながらゆっくりと後退を始めた。
それは敗走ではなかった。追われるまま背を向けるのではなく、前衛が撃てば後衛が下がり、下がった部隊が振り向いて次の前衛を支える。
ザフトが距離を詰めれば押し返し、離れれば追わず、その分だけ戦線全体を後ろへ送っていく。
それでも、地図の上では確実にオーブ軍が押されていた。
ステーション3の周辺から、ステーション4の方向へ。さらにその外側へ。
ザフトの防衛線は、少しずつ前へ伸びていった。
*****
No.2がダガーLの群れを追い始めてから、30分近くが経っていた。
数十あった反応は、もう片手で数えられるほどしか残っていない。生き残った機体は散開することさえやめ、互いに近い距離で漂っていた。
ライフルを持つ腕も下がっている。
逃げれば追われる。撃てば殺される。止まっても、次に何をされるのか分からない。
その中で、ネメシスが初めて動きを止めた。
4基のドラグーンも追撃をやめ、黒い機体の周囲へ戻ってくる。刃は消えていたが、生き残った兵士たちは誰も銃口を下ろし切れなかった。
No.2は荒い息を一つ吐いた。
「もういい。逃げるならさっさとしろ」
返事はなかった。
数秒して、1機のダガーLから震えた声が返ってくる。
『……何を言ってる』
『どうせ、背を向けたところを撃つつもりだろ!』
No.2は面倒そうに眉を寄せた。
「なら、まだ続ける方がいいのか」
沈黙した。
ネメシスの周囲で、4基のドラグーンがわずかに位置を変える。それだけで、残った機体が一斉に身構えた。
『ま、待て!』
『輸送艦は全部お前が落としたんだぞ! どこへ行けっていうんだ!』
「知らん」
No.2は即答した。
「運が良ければ、捕虜になれるかもしれんぞ」
救助を約束する声ではなかった。その後に生き残れるかどうかまで、自分が考える必要はない。もう壊す理由がなくなったから壊さない。
ただそれだけだった。
残ったMSはしばらく動かなかった。やがて1機がゆっくり後退を始める。それを見て、別の機体も続いた。
誰もネメシスへ背中を完全には向けず、何度も振り返りながら距離を取っていく。
No.2は追わなかった。
光点が遠ざかるのを確認してから、ようやく背もたれへ体を預ける。呼吸はまだ整わない。
黒い専用スーツの内側に汗が張り付き、コクピットのコントロールパネルから短い警告音が繰り返されている。
表示を切り替えると、生体電池の負荷が許容値の上限近くまで伸びていた。ドラグーン管制にも遅延が出始めている。
この状態でステーション3方面の正規戦へ加われば、本来の機動を維持できる時間は長くない。
No.2は数秒、数値を見つめた。
側面の部隊を排除する必要はあった。指揮艦を落とし、輸送艦を潰し、ザフトへ向けられる戦力を削った。そこまでは任務の助けになる。
だが、最後の数十分は違う。戦力として無視できる状態になった後も、自分は止まらなかった。
必要以上に機体を動かし、必要以上に神経接続を使い、その結果、本来向かうはずだった戦場へすぐには加われなくなっている。
「……やり過ぎたな」
No.2は目を閉じ、短く息を吐いた。戦果そのものに問題はない。
問題は、使う必要のないところで自分の余力まで使ったことだった。
しばらくして目を開く。
「少し感情的だったか」
それだけ言うと、ネメシスはその場で姿勢を安定させた。追撃も、前線への突入もせず、まず機体と自分の状態を戻すことを選んだ。
*****
ザフトの防衛部隊は、オーブ軍を一気に追い潰そうとはしなかった。
押し込める時には前へ出る。オーブが陣形を整えて撃ち返せば、無理に食い込まず一度下がる。
距離が開けば再び前進し、砲火を重ねてまた戦線を押す。
波が寄せては返すような攻撃が、何度も繰り返された。
オーブ側も、それに正面から付き合おうとはしない。
戦闘可能なMSを交代させ、損傷の大きい機体を艦へ戻しながら、必要な時だけ火力を集中して追撃を止める。
それでも、戦線は少しずつ後ろへ動いた。
やがてオーブ・スカンジナビアの主力はステーション4の外側まで押し戻され、さらにステーション5付近へと戦線を下げていった。
その頃になると、ザフト側も追撃の速度を落とした。
「敵前衛、停止しました」
「ステーション4周辺に部隊を展開中。防衛陣形へ移行しています」
「追撃してきません」
クサナギの戦術画面で、赤い光点がステーション4を中心に広がっていく。
ザフトはそこから先へ出てこなかった。
奪い返したステーション4の周辺にMSを配置し、後続艦との間隔を整え、再び防衛線を作り始めている。
アマギが別の表示へ切り替えた。
「ステーション4、姿勢制御を開始しています。中継機能の再設定に入った可能性があります」
艦橋の空気が重くなる。
レクイエムという巨大なビーム射線は、ステーション1から3までで大きく向きを変え、ステーション4と5で最終的な照準を詰める。
たとえステーション5を失っても、ステーション4までの中継が生きていれば、この宙域へ射線を向けることはできる。
ステーション5付近に集まった艦隊を焼くのであれば、精密な照準は必要ない。十分すぎるほど広い標的だった。
そのことは、前線の各艦も分かっていた。
『第3戦隊よりクサナギ。ステーション4への再攻撃を具申します』
『こちらスカンジナビア艦隊。敵が陣地構築を終える前に叩くべきでは』
『レクイエムの発射準備に入られれば危険です。前進許可を』
同じような通信が、時間を置かず何度も入る。
ソガは、そのすべてを却下した。
「現位置を維持。前進するな」
『しかし一佐、このままでは――』
「分かっている。だが許可できん」
通信を切る。
別の艦からも同じ要請が届き、同じ答えを返した。艦橋の誰もが、正面モニターの向こうにあるステーション4を意識している。
あそこをザフトに保持させ続ける時間が長いほど、危険は増していく。
それでもソガは動かなかった。
戦術表示の縮尺を広げる。
ステーション5。その内側にステーション4、ステーション3。さらにその奥、月面側にダイダロス基地がある。
オーブ軍がステーション3で踏みとどまっていた時、ザフト主力もまた、その周辺へ集中していた。当初はそこで敵を釘付けにする予定だった。
だが、実際に集まったザフトの数は予想より多かった。正面からその場に留まり続ければ、こちらの損耗だけが先に増える。
だからソガは計画を変えた。
敵を止めるのではなく、引き出す。
戦いながらステーション4を明け渡し、さらにステーション5方向へ下がる。
ザフトが勝機と見て押してくるなら、その分だけダイダロスとの距離は開く。
今、ザフトの防衛線はステーション4まで前へ出ていた。
地図の上で見れば、オーブ軍は押し返されている。ステーション5で得た前進を失い、敵に中継点まで奪い返されている。
それでよかった。
この戦場で、ソガたちが果たす役目は最初から、正面のザフト軍をすべて撃破することではなかった。
敵の目をこちらへ向ける。戦力をこちらへ集めさせる。そして、ダイダロスから引き離す。
その間に、別の刃が後ろへ回る。
ステーション5への攻撃を始める前から決められていたことだった。
正面で戦うオーブ・スカンジナビア主力とは別に、敵の後方へ入るための部隊が動いている。
ただし、正面部隊が早く崩れすぎれば意味がない。逆に押し込みすぎても、ザフトはダイダロス側へ戦力を残す。ここで勝ち急いでもいけない。
もちろん、崩されてもいけない。
必要なのは、敵に「ここを押せば勝てる」と思わせながら、こちらが壊れないぎりぎりの距離を保ち続けることだった。
側面に突然現れた正体不明の艦隊も、それをネメシスが襲ったことも、ソガの計画にはなかった。
だが結果として、側面への警戒を解いたザフトは前へ出た。ステーション3からステーション4へ。
そして今、ダイダロスからさらに離れた位置で防衛線を作っている。
アマギが声を落とした。
「予定より、かなり引き出せました」
「ああ」
「ですが、時間もありません」
ソガは頷いた。
レクイエムが先か。後方へ回った部隊が先か。
そこだけは、正面にいる自分たちにはどうすることもできない。
「各艦、機関はいつでも動かせる状態を維持。ステーション4に発射準備の兆候が出たら、陣形を広げる」
「了解。全艦へ通達します」
アマギが命令を回す。ソガは腕を組んだまま、戦術画面の奥を見ていた。
焦れているのは、他の艦だけではない。自分も同じだった。
ここまで敵を引いた。多くの兵を失い、それでも戦線を崩さず、必要な位置まで下がった。あとは、待つしかない。
それが指揮官として最も難しい時間だった。
数分後、通信士が顔を上げた。
「一佐、暗号通信です」
ソガの目が動く。
「発信元は」
「秘匿されています。ただし認証符号は一致。作戦前に指定された形式です」
艦橋の空気が変わった。アマギが通信卓を見る。
「内容は」
通信士は一度だけ表示を確認した。
「短文です」
ソガは何も言わず、続きを待った。
「――『大天使が舞い降りた』」
ネタだし、書き溜めのため、
一週間くらい投稿をお休みします。