機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

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146.大義なき戦い

「少し感情的だったか」

 

それだけ言うと、No.2はネメシスの姿勢を安定させた。

敵機を追うことも、前線へ戻ることもしない。機体各部の状態を確認しながら、自分の呼吸が平常へ戻るのを待つ。

先ほどまで胸の奥に残っていた苛立ちも、戦闘が終われば急速に薄れていった。

 

だが、その時間はほんのわずかだった。すぐに通信が入る。

 

「No.2、聞こえる?」

「聞こえている」

「アークエンジェルがステーション1に来たの。こっちは手が足りない。悪いけどすぐ戻ってきて」

「……了解」

 

細かい状況を問い返す必要はなかった。声を聞けば、余裕がないことくらいは分かる。

通信を切ると、No.2はネメシスの機体をミネルバのいる方角へ向けた。

 

「……この現場も、稼働率が高い」

 

誰に聞かせるでもなく呟き、スラスターを吹かす。黒い機体はその場を離れ、一気に加速した。

 

*****

 

ミネルバから飛び出したブラストインパルスの正面に、無数の光跡が広がっていた。

 

「……多いわね」

 

ルナマリアは思わず呟いた。ムラサメだけではない。その先頭を、通常のMSを遥かに上回る2つの巨影が進んでいる。

 

「あれは……ミーティアユニット!?」

 

前大戦でフリーダムとジャスティスが使用した大型支援ユニット。兵器資料として知識はあったが、実物を見るのは初めてだった。

2機のミーティアは凄まじい加速を続け、そのままステーション1へ向かっていた。

 

これを1機で止めろと言われても無理がある。そう思った直後、後方から6つの反応が急速に近づいてきた。

 

「バンパイア隊、到着しました」

「え、6機?」

 

ルナマリアは一瞬だけ表情を明るくした。残っているのは4機だと聞いていた。

ならば、あとの2機も生き残っていたのか。

 

「よかった……あとの2人も無事だったのね」

「いいえ」

「え?」

「この2機は補充機です。搭乗個体も今回新たに配備されました」

 

感情のない返答だった。ルナマリアの表情から笑みが消える。

 

「じゃあ……前に乗ってた子たちは?」

「全個体、廃棄予定です」

 

一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

 

「廃棄って……」

 

喉まで出かかった言葉を呑み込む。今は戦闘中だ。問い詰めても何も変わらない。

それでも、胸の奥に引っかかったものだけは消えなかった。

 

「……あとで聞くからね」

 

答えを待たず、ルナマリアは操縦桿を押し込んだ。

 

「まず、あれを止める!」

 

ブラストインパルスの4連装ミサイルランチャーが一斉に火を噴く。

ミサイル群は一直線に敵へ向かわず、大きく散開した。ムラサメ隊の正面だけでなく左右へも広がり、進路を塞ぐように殺到する。

 

オーブ側の編隊が割れた。そこへレール砲を連射する。

高速の実弾を嫌ったムラサメが散開した瞬間、今度はケルベロスを構える。その大型ビーム砲から太い光が放たれ、横薙ぎに戦列を貫いて1機が爆発した。

さらに回避へ移った2機の進路へ、別方向から撃ち込まれたビームが重なる。

 

連続して2つの火球が咲く。

 

「3機……!」

 

想像していたより少ない。残ったムラサメはすでに大きく散開し、それぞれが速度を落とさないまま前進を続けている。

そして先頭の2機は、ほとんど速度を失っていなかった。

 

「速すぎる……!」

 

ブラストインパルスでは追いつけない速度だ。一瞬、フォースシルエットを要請する考えが浮かぶ。

だが換装のために戻っている時間などない。その間にも2つの大型機影はステーション1へ近づいていく。

 

ルナマリアが機体を前へ出そうとした時だった。左右から2機のバンパイアが飛び出した。

 

「ちょっと、待ちなさい!」

 

返事はない。2機はインパルスを追い抜き、そのまま大型機の1つへ向かっていく。

 

その動きを見て、ルナマリアは眉をひそめた。操縦が拙い。

加速も進路変更も直線的で、先ほどまで見てきたバンパイア隊とは明らかに違う。

素人ではない。それでも、実戦経験の浅さは隠しようがなかった。

 

大型機から光が走る。2機のバンパイアが左右へ割れた。

回避そのものは間に合った。だが急激に軌道を変えたことで隊形が崩れ、片方が大きく外へ流される。

それでも2機は引かなかった。

 

オープンチャンネルが開く。

 

「そこまでです」

「これ以上は行かせません」

 

ルナマリアは息を呑んだ。幼い。若いなどというものではない。

戦場で聞くには、あまりにも幼い声だった。

 

動きが一瞬だけ鈍る。ほんの一瞬。それだけで十分だった。

 

「そこ!」

 

ルナマリアが即座にケルベロスを構え、トリガーを引く。

その大型ビーム砲から放たれた光が宇宙を貫いた。

 

巨体が横へ滑るように軌道を変える。

だが、その巨大な兵装ユニットでは躱しきれず、後部をビームが掠めた。装甲が弾け、推進器の1基が爆発する。

 

ミーティアの姿勢が大きく傾いた。

 

「当たった!」

 

ルナマリアが追撃へ移ろうとした直後、損傷した大型ユニットが切り離される。

巨大な構造体が火花を散らしながら流れていく。

 

その内側から、1機のMSが飛び出した。

赤と白を基調とした機体。背後から分離した大型ユニットを蹴るようにして姿勢を変え、両脚を広げながらこちらへ向き直る。

 

ルナマリアの目が見開かれた。

 

「ジャスティス……?」

「ルナマリア!」

 

聞き覚えのある声が飛び込んでくる。

 

「アスランさん……」

「お前は、こんなところで何している!」

 

インフィニットジャスティスが接近する。ルナマリアは反射的にケルベロスを向けた。

 

「レクイエムが何をする兵器なのか、お前だって分かっているはずだ! こんなものは――」

「う、うるさい!」

 

ケルベロスの砲口が閃く。

アスランは機体を捻り、ビームを脇へ流した。その動きを止めずに一気に間合いを詰めてくる。

ルナマリアはビームジャベリンを展開した。

 

斬撃が交差する。金属同士が触れるより早く、2本のビーム刃が激しく火花を散らした。

押し切られる前にルナマリアがスラスターを吹かす。後方へ抜けながらジャベリンを振り上げ、追ってきたジャスティスの胸元を薙ぐ。

 

アスランはそれを紙一重で外し、そのまま距離を取った。

 

「ルナマリア、聞け!」

「聞かない! 言われなくたってそんなこと分かってる!」

 

再び2機が激突する。

その横を、もう1つの巨大な機影が通り抜けていった。ルナマリアが視線を向ける。

 

「しまった……!」

 

もう1機のミーティアは速度を落とさず、こちらの戦闘を横目に、そのままステーション1へ向かって加速していく。

追わなければならない。だが、その進路へ移ろうとした瞬間、インフィニットジャスティスが前へ回り込んだ。

 

「退いてください、アスランさん!」

「退くのはお前だ!」

 

2つのビーム刃が再び激突した。

 

*****

 

ミネルバとアークエンジェルは、互いの進路を奪い合うように接近していた。

 

「ナイトハルト!」

「ナイトハルト、発射!」

 

ミネルバ両舷のミサイルランチャーから、ミサイルが一斉に吐き出される。

対するアークエンジェルもミサイルを放ち、両艦の間で無数の光点が交差した。直後には近接防御機関砲の弾幕が宇宙を埋め、迎撃されたミサイルが次々と爆発する。

白い閃光と破片が両艦の間へ広がった。

 

「敵艦、右へ回頭!」

「トリスタン、照準を合わせて!」

 

ミネルバの2門のビーム砲が旋回し、アークエンジェルへ砲口を向ける。

だが、その射線の先に白い艦はいない。ミサイルを避けるために取ったはずの進路から、さらに艦体を傾けている。

巨大な船体が滑るようにロールし、ビーム砲の射線を外していく。

タリアが小さく呟いた。

 

「相変わらず……戦艦とは思えない動きをするわね」

 

アークエンジェルの艦橋では、マリューが声を上げていた。

 

「ゴットフリート、撃て!」

 

遠く、アークエンジェルの大型ビーム主砲が光る。

ミネルバの艦首が沈む。2本の光束が船体すれすれを走り抜けた。

完全には避け切れず、右舷外装が爆ぜる。

 

「右舷第6区画に被弾! 外装損傷!」

「火災は」

「ありません!」

「イゾルデ、目標アークエンジェル!」

「イゾルデ、アークエンジェルに照準、撃て!」

 

収納されていた3連装実弾砲がせり上がると、3門の砲口から巨大な砲弾が放たれる。

アークエンジェルも艦を振る。1発が外れ、もう1発が船体脇を抜ける。

最後の1発が左舷後部を掠め、装甲板を吹き飛ばした。

 

それでも速度は落ちない。

 

「敵艦、ステーション1への進路を維持!」

 

メイリンの報告に、タリアは前方を睨んだ。

アークエンジェルはこちらを倒すために戦っているのではない。進みながら戦っている。

だからこそ、こちらもその進路から退くわけにはいかなかった。

 

「艦首を戻して。後ろにつくわ」

「了解!」

 

ミネルバが再び加速する。2隻の戦艦が、互いの砲火をくぐりながら距離を詰めていった。

 

*****

 

その戦場から少し離れた宙域では、黄金の機体を4機のバンパイアが取り囲んでいた。

 

「こいつら……!」

 

ネオが操縦桿を倒す。アカツキのビームライフルが火を噴いた。

1機のバンパイアへ向かったビームは、命中する寸前で虚空を抜ける。

別の1機が左から迫る。赤熱した右手が、アカツキの脇腹を狙って伸びた。

 

ネオは機体を反転させ、ヒートクローをシールドで受け流した。

その勢いを利用してビームサーベルを振るう。だが、そこにはもう敵がいない。

 

「またかよ!」

 

斬撃を読んでいたかのように、バンパイアは刃が届く直前で離れていた。

追おうとすれば別の1機が入る。そちらへビームライフルを向ければ離れ、今度は背後から別機が距離を詰める。

 

4機の連携は洗練されて隙がない。1機が退く瞬間には、必ず別の1機がそこへ入ってくる。

アカツキが射撃距離を作ろうとすれば、一斉に間合いを詰める。逆にこちらから斬り込めば、4機すべてが無理に付き合わず散開する。

 

倒しに来ているのではない。ここへ縛りつけるつもりだ。

 

「アークエンジェルから引き離したいってわけか……!」

 

ネオが舌打ちする。再びヒートクローが迫る。

機体を捻ってその腕をかわし、すれ違いざまにビームサーベルを振り抜く。

 

今度こそ捉えた――はずだった。

バンパイアは斬撃が来るより先に機体を沈めていた。ビーム刃が頭上を抜ける。

 

「……まるで心でも読まれてるみたいだな」

 

冗談めかして口にしたものの、笑う余裕はない。

アカツキにとって、相手のビーム兵器そのものは脅威ではない。撃たれてもヤタノカガミで弾き返せる。

だからこそ、4機は撃たない。

 

使うのはヒートクローだけ。黄金の装甲では無視できない攻撃を、4方向から途切れなく繰り返してくる。

 

ネオは正面の1機へ踏み込んだ。ヒートクローが振り下ろされる。

シールドで軌道を逸らし、そのまま肩をぶつけるように相手を弾き飛ばす。

そこへ2機目が突っ込む。

 

だがネオは振り向かなかった。背部の誘導式ビーム砲が背後へ回り込み、至近距離から光を放つ。

バンパイアが身を翻す。その一瞬でアカツキが包囲を抜けようと加速する。

 

だが、進路の先にはすでに3機目がいた。

 

「ちっ……本当に面倒だな、こいつら!」

 

黄金の機体は再び足を止められた。遠くでは、アークエンジェルとミネルバの砲火が交差していた。

 

*****

 

ルナマリアは息を切らしていた。

 

ブラストインパルスのビームジャベリンと、インフィニットジャスティスのビームサーベルがぶつかる。

押し返し、距離を取る。すぐにアスランが来るかと思ったが、来ない。

 

一定の距離を保ったまま、こちらを見ている。

 

「何なのよ……!」

 

ケルベロスを向ける。アスランがわずかに軌道を変える。

ルナマリアは大型ビーム砲を撃ち、光軸を外したジャスティスへ続けてレール砲を撃ち込む。

 

ジャスティスが射線の間を抜ける。だが、反撃は浅い。

こちらが下がれば追う。前へ出れば距離を取る。

決して逃がしはしないのに、無理に仕留めようともしてこない。

 

「馬鹿にして……!」

 

ルナマリアが機体を前へ出した。ビームジャベリンを大きく振りかぶる。

アスランはそれを受けず、横へ抜けた。ルナマリアも機体を捻り、逃した刃を返して追う。

 

その瞬間、警告表示が灯った。

一つ。二つ。次々と赤く変わっていく。

 

「え……?」

 

出力が落ちた。ブラストインパルスの装甲から、鮮やかだった色が抜け始める。

ルナマリアの顔が強張った。

 

「エネルギー……!」

 

ようやく気づいた。

アスランは最初から、これを待っていたのだ。

重装備のブラストで撃たせ続け、ミネルバから引き離し、デュートリオンビームを受ける機会を与えない。

 

「ルナマリア」

 

アスランの声が聞こえる。

 

インフィニットジャスティスが動いた。速い。

今まで一定に保たれていた距離が、一瞬で消える。

 

ルナマリアは咄嗟にビームジャベリンを構えた。だが出力が続かない。

ビーム刃が弱まり、消える。

 

「っ……!」

 

アスランのビームサーベルが振り上げられる。

 

その時だった。2機の間を裂くように、凄まじい光が走った。

アスランが反応する。振り下ろしかけていたサーベルを止め、機体を大きく横へ流す。

高出力ビームがその直前までいた空間を貫き、そのまま遥か彼方へ消えていった。

 

ルナマリアが息を呑む。

 

「……え?」

 

光が来た方向を見る。3つの機影が急速に接近していた。

先頭を進む白い巨体。その周囲には8基のドラグーン。レギナント。

 

その左右から、レジェンドとデスティニーが追いついてくる。

 

「シン!」

 

デスティニーが一気に前へ出た。

 

「ルナ! 大丈夫か!」

「遅いのよ……!」

 

思わず怒鳴り返した声に、自分でも分かるほど安堵が混じった。

 

インフィニットジャスティスが距離を取る。そしてアスランの視線の先で、レギナントのドラグーンがゆっくりと広がり始めた。

 

「ルナ、下がれ!」

 

シンの声が通信へ飛び込む。

 

「ここからは俺たちがやる!」

 

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