機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

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147.揺れる天秤

シンはビームライフルを連射しながら、デスティニーをインパルスの前へ滑り込ませた。

1射目でジャスティスの正面を塞ぎ、続く2射を左右へ振って退路を狭める。そのまま距離を詰めるとビームシールドを展開し、色を失ったインパルスを背後へ庇った。

 

アスランは撃ち返さない。最後の1射だけをシールドで流し、ライフルの銃口をわずかに下げる。

標的がルナマリアからデスティニーへ移った。

 

「ルナ、大丈夫か!」

「大丈夫じゃないわよ! もうほとんど出力が上がらない!」

 

インパルスはフェイズシフトを失ったまま、辛うじて姿勢を保っている。

シンはジャスティスを警戒したまま、周囲の反応を確認した。

 

「何があった?」

「ミーティアが2機来てたの。1機はアスラン。そっちは壊してパージさせた。でも、もう1機がステーション1へ行った!」

 

それを聞いた瞬間、レイが反応した。

 

「ミーティアだと」

「レイ?」

「俺が追う」

 

それだけ告げると、レジェンドは返事を待たずに反転し、ステーション1へ向かう光跡を追って一気に加速した。

ミーティアの火力なら、放置すればステーション1そのものを破壊される。

そのことをレイは理解していた。

 

一瞬、シンは呆気にとられるが、すぐに我を取り戻すと、セラに指示を送る。

 

「セラ! ルナをミネルバまで連れてってくれ!」

「了解」

「ちょっと待って! 私だってまだ――」

「その状態で何ができるんだよ! 早く戻って補給受けろ!」

 

ルナマリアが言葉に詰まる。

シンはジャスティスから目を離さないまま続けた。

 

「戻ったらまた出ればいいだろ! 今ここで無理して落とされたら、それで終わりだ!」

「……分かったわよ」

 

不満を隠そうともしない声だったが、それ以上は逆らわなかった。

レギナントがインパルスの傍へ寄り、そのままミネルバへ向けて進路を変える。

 

セラたちが離脱しても、アスランは追わなかった。

ジャスティスはデスティニーだけを正面に捉え、その場に留まっている。

 

「追わないのかよ、アスラン」

「追わないさ」

「敵だろ、俺たちは」

「お前たちと戦う必要なんてないはずだ」

 

その言葉が終わるより早く、シンが引き金を引いた。

ジャスティスが最初の射線を外すと、逃げた先へ2射目、さらに上方を塞ぐように3射目が伸びる。最後の1発をビームシールドで弾いた時には、デスティニーはもう目の前まで踏み込んでいた。

 

抜き放たれたアロンダイトが振り下ろされる。

デスティニーの大型対艦刀を、アスランはビームサーベルで正面から受け止めた。巨大な刃と赤い光刃が噛み合い、2機の間で粒子が激しく弾ける。

 

「だったら退けよ!」

「退くのはお前だ、シン!」

「俺たちがここを退いたら、ステーション1はどうなる!」

 

シンがさらに押し込むが、アスランは力比べには付き合わず、機体を斜めへ滑らせて刃を受け流した。

支えを失ったデスティニーの上体が前へ流れた瞬間、ジャスティスの脚が跳ね上がる。

 

シンは咄嗟にビームシールドを差し込み、脚部に灯ったビーム刃を受けた。

衝撃で機体は大きく弾かれたが、吹き飛ばされた勢いをそのまま回転へ変える。逆さになった姿勢からライフルを連射し、アスランへ息をつく暇を与えない。

 

ジャスティスが最初の1射を外したところへ2射目が追い、その回避方向にはすでに2枚のビームブーメランが回り込んでいた。

 

ジャスティスの背部から、一つの飛行ユニットが分離する。

ファトゥムと呼ばれるその武装は、本体から独立して飛行し、機首や翼に備えたビーム刃で攻撃や迎撃を行うことができる。

 

機首の刃が片方のブーメランを弾き、もう片方はアスラン自身がサーベルで受け止めた。

弾かれた光刃が回転しながら遠ざかる。その陰から、すでにデスティニーが踏み込んでいる。

 

「そう言えば、俺たちが納得できると思ってるのか!」

 

シンは叫びながら大剣を横薙ぎに振り抜いた。

アスランは刃の下へ潜り込み、懐へ入ろうとする。

 

「納得できるかどうかじゃない! 本当にお前たちと戦う必要なんてないんだ!」

 

シンは振り抜いた勢いを止めず、機体を回して柄ごと叩きつけた。

アスランはサーベルで軌道を逸らし、そのまま肩口へ切り込む。狙われているのが機体ではなく、対艦刀を握る右腕だと気づいたシンは腕を引き、代わりに左掌を突き出した。

 

掌の中央へ光が集まる。

パルマフィオキーナ ――掌部から放つ高出力近接ビーム兵器―― が至近距離で閃き、アスランは咄嗟に機体を引いた。

 

その後退を逃さず、デスティニーの背後で光の翼が広がる。

一気に間合いを詰めながら、シンが声を叩きつけた。

 

「やっぱりだ!」

「何がだ!」

「全然本気で攻撃してない!」

 

突き出された刃をアスランが横へ外す。

だがシンは引かず、そのまま薙ぎ払った。ジャスティスがさらに下がったところへ、先ほど投げたビームブーメランが背後から戻ってくる。

 

アスランは身を沈めて辛うじて光刃の間を抜けたが、その動きで姿勢が一瞬崩れた。

シンはそこへライフルを突きつける。

 

「ルナにもそうだったんだろ! 撃てたのに撃たなかった! 俺にも武器ばっかり狙ってる!」

「だから何だ!」

「そんなやり方で、俺たちが言うこと聞くと思ってるのかよ!」

 

至近距離からビームが放たれる。

アスランはファトゥムを射線へ割り込ませ、その陰で機体を横へ逃がした。

 

シンはすぐに追い、大剣を上段から叩き込む。

ジャスティスは2本のサーベルを交差させて受け止めたが、シンは刃を押しつけたまま退かない。

 

「なら聞け! レクイエムを守って何になる!」

「プラントを守る!」

「あれは守るための兵器じゃない! もう一度撃てば、今度はオーブの人間が死ぬんだぞ!」

 

シンの力が、ほんの一瞬だけ緩んだ。

だがアスランはその隙を攻撃には使わず、サーベルで刃を押し返して距離を開ける。

 

その態度が、かえってシンの苛立ちを強くした。

 

「そんなこと、分かってるよ!」

「なら――」

「分かってるから、俺だって分からないんだ!」

 

デスティニーが踏み込む。

対艦刀を正面から振り下ろすと見せかけ、シンは途中で手を離した。

 

巨大な剣そのものがジャスティスへ飛ぶ。

アスランがサーベルで軌道を逸らした時には、シンはすでにその脇をすり抜け、振り向きざまにライフルを撃っていた。

 

ファトゥムが割り込み、ビームが装甲を掠めて弾ける。

その陰へさらに潜り込んだシンは、流れていた大剣を掴み直し、そのまま下から斬り上げた。

 

「何が分からない!」

「俺はオーブの理念なんか信じてない!」

 

ジャスティスが上へ逃れると、シンは追わずに左右のビームブーメランを放った。

2つの光刃が別々の弧を描き、一方が上、もう一方が下から退路を挟み込む。

 

「シン!」

「戦争はしません、中立ですって言って! それで結局、戦争になった! 俺の家族はそこで死んだ! 父さんも母さんも、マユもだ!」

 

アスランが最初の光刃をかわす。

だが、その動きで上へ押し出されたところへもう一方が折り返してきた。サーベルで弾いた瞬間、散った粒子を突き破るようにデスティニーが迫る。

 

「前の代表が掲げてた理念も、その理念を今も掲げてるアスハ家も、俺は信用できない!」

 

振り下ろされた巨大な刃を、ジャスティスが両手のサーベルを交差させて受け止める。

 

「だったら、なおさら分かるだろう!」

「何が!」

「国の都合で、そこに暮らしている人間まで殺されることがどういうことかだ!」

 

刃が押し返される。

シンは大剣を引いた勢いをそのまま機体の回転へ変え、左脚をジャスティスへ叩き込んだ。

 

アスランが腕で受け、機体が流れる。

シンはそのままライフルを抜き、体勢を崩したジャスティスへ3射を立て続けに撃ち込んだ。

 

「分かってるって言ってるだろ!」

 

アスランは1射目を外したものの、2射目をシールドで受けたところへ3射目が重なり、大きく押し流される。

 

「オーブに住んでる人たちまで死ねばいいなんて思ってない! 俺はそこで暮らしてたんだぞ!」

「なら、なぜ止めない!」

「簡単に言うなよ!」

 

さらにビームが伸びる。

アスランは射線を外しながらファトゥムをデスティニーの側面へ回り込ませ、機首と翼のビーム刃を展開した。

 

シンは最初の斬撃を機体を捻って外したが、続いて迫る刃までは避けきれない。

ビームシールドを差し込み、衝撃を受け流したものの、デスティニーの姿勢が傾いた。

 

待っていたアスランが一気に踏み込む。

サーベルが対艦刀の柄へ落ちる寸前、シンは自ら武器を手放した。

 

大剣が火花を散らして流れていく。

だがシンは追わず、空いた右手でジャスティスの腕を掴もうとした。

 

アスランが腕を引くと、今度は左手が伸びる。

その動きを止めるようにジャスティスの膝が跳ね上がり、脚部のビーム刃がデスティニーの腹部へ迫った。

 

シンは推力を上へ振り、直撃だけは避けた。

刃が脚部装甲を浅く削り、機体が上方へ流される。

 

それでもシンは姿勢が戻るのを待たない。

機体を反転させると、真下のジャスティスへライフルを向けた。

 

「止めろって言うなら、そのあとどうするんだよ!」

 

ビームが降り注ぐ。

アスランはファトゥムを呼び戻し、その推力に引かれるように横へ抜ける。

 

最初の2射が背後を通過し、3射目を外した勢いのままジャスティスがデスティニーの背後へ回り込んだ。

 

「少なくとも、レクイエムを撃たせない!」

「だから、そのあとだよ! プラントはどうするんだ!」

 

シンが振り向いた時には、すでにサーベルが迫っている。

狙われているのはコクピットではない。ライフルを握る右手だった。

 

シンは銃身を引き、シールドを刃の軌道へ叩きつける。

2つの光が弾ける至近距離で、2人の視線が交わった。

 

「地球の連中が先にやったんだろ! プラントを撃って、何十万って人を殺した!」

「だからオーブを撃っていいのか!」

「そんなこと言ってない!」

 

デスティニーがジャスティスを蹴り離し、そのままビームライフルを連射する。

アスランは射線を横切るように移動するが、逃げた先へさらに1射が置かれた。

 

機体を沈めて光を外したところへ、シンが流れていた対艦刀を拾い直し、その勢いのまま突っ込んでくる。

 

「でも、撃たれた側にだけ我慢しろって言うのかよ!」

「違う!」

「何が違うんだ! 家族を殺された人たちに、もう憎むなって言えるのか!? 死んだ人たちに、これで終わりだから諦めろって言えるのかよ!」

 

その言葉を吐くシンの脳裏には、レクイエムがプラントを焼いたあの日、深い絶望と悲しみに沈んでいたミネルバの仲間たちの姿が焼き付いていた。

アスランの手が止まり、振り下ろされた大剣を黙って受ける。

 

シンはすぐに刃を引かなかった。

押し合ったままデスティニーを前へ出し、ジャスティスを後ろへ押し続ける。

 

側面からファトゥムが戻ってくる。

接近に気づいたシンは対艦刀を離して急上昇し、機首のビーム刃が足下を通り抜けたところで機体を反転させた。

 

再びライフルを向ける。

だが、アスランの手はまだ止まっていた。

 

「俺には言えない」

 

シンの声から、さっきまでの怒鳴るような熱が少しだけ消える。

 

「俺だって家族を失ったから。そんな簡単に、忘れろなんて言えない」

 

アスランはすぐには答えなかった。

その沈黙を、シンは聞いた。

 

「……アスランだって、言えないだろ」

 

ビームライフルが閃く。

反応が一瞬遅れたアスランは機体を捻ったものの間に合わず、光がジャスティスの肩を掠めた。

 

赤い装甲が弾ける。

その破片が散る前に、シンはもう追撃へ移っていた。

 

デスティニーがライフルを投げ捨て、背後で光の翼を広げる。

一気に加速した機体が残像を引き、距離を取ろうとしたジャスティスへ迫った。

 

アスランが振り向いたところへビームブーメランが飛び込む。

サーベルで弾いた瞬間には、デスティニーは真正面へ現れていた。

 

ジャスティスのサーベルを左腕のビームシールドで受け、そのまま押し退ける。

空いた右腕が伸び、開かれた掌の中央でパルマフィオキーナの光が膨れ上がった。

 

「だったら――俺だけに答えを押しつけるな!」

 

*****

 

ストライクフリーダムをステーション1へ送り出したエターナルは、残るムラサメ隊とドムトルーパー隊を伴ってダイダロスへ向かっていた。

ステーション1の破壊に失敗した場合、残される手段はレクイエム本体を直接叩くことしかない。

 

だが、ダイダロスへ向かう航路上にはメサイアがある。

そして、その周辺からミネルバ増援へ向かっていたザフト部隊が、ちょうどエターナルの進路へ近づきつつあった。

 

「前方、ザフトMS部隊! 数、複数!」

「識別は?」

「ジュール隊です!」

 

艦橋の空気が一気に張り詰めた。

ムラサメ隊がエターナル前方へ展開し、ドムトルーパー3機も機体を並べていつでも迎撃できるよう武器を構える。

 

先行したデスティニーたちには追いつけず、後続となっていたジュール隊。

その名を知らない者は、エターナルにはほとんどいなかった。ザフトでも指折りの精鋭部隊であり、まともに戦えば無傷で通れる相手ではない。

 

「ったく、よりによって面倒なのが来たねえ」

 

バルトフェルドが片目を細める。

 

「各機、まだ撃つな。向こうの出方を見る」

 

ジュール隊との距離が縮まり、互いのMSが射程へ入り始めた、その時だった。

通信が入る。

 

「こちらザフト、ジュール隊。エターナル、応答しろ」

 

艦橋のモニターにイザークの顔が映った。

険しい表情はいつも通りだったが、その視線には妙な迷いがある。

 

「こちらエターナル艦長、アンドリュー・バルトフェルド。聞こえている」

 

一瞬の沈黙。

イザークは何かを飲み込むように口を閉じ、それから言った。

 

「我々は、エターナルに味方する」

 

艦橋が静まり返った。

 

「……今、なんて言った?」

 

バルトフェルドが聞き返す。

その横から、別の通信が割り込んだ。

 

「そういうことだからさ。とりあえず、こっちを撃つのは勘弁してくれ」

 

ディアッカだった。

 

「いやいや、ちょっと待て。こっちとしては非常にありがたい申し出だが、理由くらい聞かせてもらいたいね」

 

イザークの眉間の皺がさらに深くなる。

モニター越しにバルトフェルドを睨みつけ、そのまま吐き捨てるように言った。

 

「エターナルはザフトの艦だ」

「……ほう」

「ザフトの艦を守るのも、ザフトの兵の仕事だ。それだけだ!」

 

あまりにも強引な理屈だった。

バルトフェルドが目を丸くし、隣のモニターではディアッカが堪えきれずに笑っていた。

 

「相変わらず無茶苦茶だな、うちの隊長は」

「うるさい!」

 

ディアッカはひとしきり笑うと、少しだけ表情を改める。

 

「まあ、そういうことだ。俺たちにだって、やるべきことと、やっちゃいけないことの区別くらいはつく」

 

その言葉と同時にジュール隊が動き始めた。

だが、向けられた銃口はエターナルではない。

 

機体は左右へ分かれ、ムラサメ隊とドムトルーパー隊の外側へ回り込んでいく。

エターナルを囲むためではなく、守るための隊形だった。

 

バルトフェルドは、その光景をしばらく黙って見つめた。

やがて口元を緩め、前方へ視線を戻す。

 

「なるほどね。ザフトの兵は、ずいぶん融通が利くらしい」

 

イザークが通信越しに睨みつける。

 

「勘違いするな! 貴様らに味方するわけではない!」

「さっき自分で味方するって言っただろ」

「黙れディアッカ!」

 

艦橋に、わずかな笑いが漏れた。

ほんの一瞬だった。

 

すぐに全員の視線が前方へ戻る。

その先にはメサイアがあり、さらに奥にはダイダロスがある。

 

イザークの声が再び届いた。

 

「ジュール隊、エターナルを援護する! 進路を開けるぞ!」

 

ザフトの機体群が加速する。

エターナルもまた、その中央で速度を上げた。

 

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