機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

148 / 149
148.Cursed Legion

ステーション1へ向かうミーティアの後方を、2つの小さな機影が追っていた。

振り切ろうと思えば、できない相手ではない。だがキラは、どうしても最大加速へ踏み切れずにいた。

 

「止まってください」

 

幼い声が通信へ入る。

キラは正面を見たまま、後方モニターへ意識を向けた。

 

2機のバンパイアは、決して巧みに飛んでいるわけではない。加速も旋回もぎこちなく、姿勢を崩すたびに慌てて推進を吹かし直している。

戦場に出せる操縦ではなかった。それなのに、2機は離れようとしない。

 

「この先には行かせません」

 

また同じような声が聞こえた。

年齢の幼さだけではない。その声には、キラの胸をざわつかせる響きがあった。

 

ラクスに似ている。

もちろん違う。そんなことは分かっている。それでも、幼いラクスが戦闘機械の中に閉じ込められ、必死にこちらへ食らいついてきているような錯覚が消えなかった。

 

キラはミーティアの照準を2機へ重ねる。

今なら撃てる。回避行動へ移るより早く、どちらも落とせる。

 

だが、引き金へかけた指は動かなかった。

この距離でミーティアの火力を浴びせれば、推進器だけを狙ったつもりでも無事では済まない。あの小さな機体なら、掠めただけでも致命傷になりかねない。

 

「……どうして」

 

声が漏れた。

 

ステーション1はもう近い。

外郭へ取り付き、ミーティアの巨大な刃で切断できれば、レクイエムの中継機能を止められる。

 

本来なら、アスランと2機で両側から切り込むはずだった。

だがインフィニットジャスティスは来ない。

 

自分一人でやるしかない。

 

その時、警報が鳴った。

キラは反射的にミーティアを横へ振り、直前までいた場所を青白いビームが貫いていく。

 

2機のバンパイアではない。

さらに後方から、高速で追い上げてくる1機のMSがあった。

 

「フリーダム」

 

若い男の声が通信へ入る。

キラの表情が変わった。

 

その声を知っているわけではない。姿を見た記憶もない。

それなのに、どこか胸の奥を逆撫でするような、不穏な感覚が一瞬だけ残った。

 

「ステーション1へは行かせない」

 

レジェンドのビームライフルが火を噴く。

キラはミーティアを傾けて最初の1射を外したが、続くビームはその移動先へ重なるように伸びてきた。

 

「僕は戦いに来たんじゃない! あれを止めなきゃ、またレクイエムが撃たれる!」

「理由は関係ない」

 

レイの声は冷静だった。

 

「お前たちは、また自分たちの判断で戦局を変えようとしている」

 

キラが機体を沈めると、その先へ3射目が置かれる。

ミーティアを捻って火線を抜けながら、キラも声を返した。

 

「撃たせないために壊すんだ! あんなものを残しておく方が危険だ!」

「それを正しいと決めるのも、お前たち自身か」

 

レジェンドの背後からドラグーンが展開する。

左右へ散った砲口がミーティアの逃げ道を狭めるようにビームを放ち、キラは上方から迫る射線を外して機首を押し下げた。

 

その先へ、バンパイアの1機が追いついてくる。

 

「行かせませんよ」

 

小さな機体が正面へ回り込もうとする。

キラは撃たず、ミーティアを横へ流してその脇を抜けた。

 

もう1機が反対側から迫り、こちらも武器で撃ち落とそうとするのではなく、身体そのもので進路を塞ごうとする。

その2機の間を縫って、レジェンドのビームが伸びた。

 

「待て、フリーダム」

 

キラは奥歯を噛んだ。

このまま相手をしていては終わらない。

 

幼い2人を巻き込みたくない。

背後のMSにも、できるなら構いたくない。

 

だが、ここで時間を使えばステーション1へ取り付けなくなる。

 

後方には2機のバンパイア。

さらにその後ろからレジェンドが追い上げてくる。

 

そして正面には、巨大なステーション1が迫っていた。

 

「……ごめん!」

 

誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。

キラは火器管制を切り替え、ミーティア各部の砲口を一斉に後方へ向ける。

 

「下がって!」

 

返事を待たずに撃つ。

狙ったのは3機そのものではなく、進行方向へ何本もの火線を交差させ、追撃できる空間を塞ぐことだった。

 

バンパイア2機が反射的に左右へ散る。

レジェンドもビームシールドを構えながら射線を外れ、追撃軌道から一時的に押し出された。

 

その瞬間、キラは推力制限を解除した。

ミーティアの大型スラスターが一斉に火を噴き、白い機体が弾かれたように加速する。

 

「っ……!」

 

幼い声が急速に遠ざかっていく。

 

レイもすぐに追ったが、初速から最大推力へ入ったミーティアとの距離は一気に開いた。

ドラグーンを先行させても広がった距離を埋めるには足りず、放たれたビームも加速を続けるミーティアの後方を掠めていく。

 

「逃がすか」

 

レジェンドもさらに推力を上げる。

 

キラは振り返らなかった。

3機を引き離したまま、ステーション1へ突っ込んでいく。

 

巨大な構造物が視界いっぱいに広がった。

 

本来の作戦なら、フリーダムとジャスティスがそれぞれ反対側へ回り込み、竹を割るように縦方向へ切り裂くはずだった。

だがアスランはいない。

 

それなら、方法を変えるしかない。

 

キラはミーティアをステーション1の外郭へ沿わせる。

大型ビーム砲から巨大なビーム刃が伸び、そのまま構造物の外郭へ深く食い込んだ。

 

溶けた装甲と構造材が赤熱した破片となり、切断線の周囲から宇宙へ撒き散らされる。

キラは機体をそのまま横へ滑らせ、巨大な円柱状の構造物の側面へ赤い切断線を走らせていった。

 

縦に割れないなら、横へ切る。

 

だが、切断を始めた瞬間からミーティアの動きは大きく制限される。

ビーム刃を外せば、また切り込み直さなければならない。速度も進路も、それまでのようには自由に変えられなかった。

 

後方からレジェンドが迫る。

さらに、その前を2つの小さな機影が飛んでいた。

 

一度振り切ったはずのバンパイア2機まで、ミーティアの速度が落ちたことで再び距離を詰めてきている。

 

「まだ……!」

 

キラは切断を続けた。

 

レジェンドのビームが後方から伸びる。

キラは姿勢をわずかにずらして最初の1射を外したが、大きく動けばビーム刃がステーション1から離れてしまう。

 

「切断をやめろ」

「止められない! これを残したら、また撃たれるかもしれないんだ!」

「それでも、ここを破壊させるわけにはいかない」

 

レイは攻撃を止めない。

 

2射目をキラがぎりぎりで外す。

続くビームは、その動きで露出したミーティア後部へ伸びた。

 

警報が鳴った時には遅かった。

ビームが大型スラスターの1基を捉え、後部で爆発が起こる。

 

「くっ……!」

 

衝撃にミーティア全体が激しく揺さぶられた。

推力が片側だけ大きく落ち、機体はステーション1の外郭から引き剥がされるように傾いていく。

 

キラは操縦桿を押さえ込み、残ったスラスターへ出力を振り分けた。

巨大なビーム刃が切断線から外れかけたものの、無理やり姿勢を戻すことで再び構造物へ食い込ませる。

 

後部の警告は消えない。

損傷した推進器の出力は戻らず、残るスラスターにも負荷が集中し始めていた。

 

それでもキラは切断を止めなかった。

 

レジェンドがさらに銃口を向けた、その時だった。

1機のバンパイアが急加速し、ミーティアの側面へ飛び込んでくる。

 

「やらせません」

 

キラの目が見開かれた。

 

「来ちゃ駄目だ!」

 

だが、バンパイアは止まらない。

ミーティアの巨大なアームへ両腕でしがみつき、まるで子供が大人の腕へ抱きついて引き止めるように機体を掴んだ。

 

「離れて! そこにいたら危ない!」

「問題ありません」

 

返ってきた声は幼いまま、驚くほど平坦だった。

 

「あなたを止められるなら、それでいいです」

「よくない! そんなこと言うな!」

 

キラは思わず叫び返した。

 

「自分がどうなってもいいみたいに言うな!」

「優先順位が違います」

 

バンパイアは腕を離さない。

 

「私が残ることより、あなたを止める方が重要です」

「そんな優先順位、誰が決めたんだ!」

 

その位置は危険すぎる。

ステーション1を切り裂いている巨大なビーム刃が、すぐ横を走っている。

 

バンパイアの姿勢が崩れ、小さなスラスターが何度も噴く。

それでも損傷したミーティアの振動と速度についていけず、機体は少しずつ外側へ流されていった。

 

「駄目だ! もう離れて!」

「命令は継続中です」

 

その言葉を最後に、機体の翼端が巨大な光刃へ触れた。

白い閃光が広がり、バンパイアの小さな機体がその中で砕け散る。

 

「……っ!」

 

キラの息が詰まった。

だが、ステーション1の切断はまだ終わっていない。

 

残った1機が横から迫ってくる。

 

「もうやめるんだ!」

 

キラの叫びにも構わず、2機目のバンパイアもミーティアのアームへしがみついた。

細い腕が装甲を掴み、巨大な機体を止めようと力を込める。

 

「離れてくれ! 今ならまだ間に合う!」

「必要ありません」

「何が必要ないんだ!」

「帰還する必要がです」

 

幼い声は淡々としていた。

 

「ステーション1を守れれば、それで任務は達成できます」

 

「そんな任務のために死ぬことないだろ!」

 

キラの声が震える。

 

「君たちは生きてるんだ! 兵器じゃない!」

 

少しだけ間があった。

 

「それは、私が決めることではありません」

 

その一言に、キラの手が止まりかけた。

 

視界の奥で、いくつもの顔が浮かぶ。

助けられなかった人たち。間に合わなかった命。目の前で失った人々。

 

何度も見た顔が脳裏へ重なり、操縦桿を握る手から力が抜けた。

ミーティアの速度がわずかに落ち、ステーション1へ走る切断線が揺れる。

 

外郭を一周するまで、あと少しだった。

 

ここで止めれば、この子は助かるかもしれない。

だが、止めればステーション1も残る。レクイエムも残る。

 

キラは目に力を籠め、緩んだ指へもう一度力を込めた。

 

「……ごめん!」

 

損傷した推進器を補うように、残ったスラスターへ出力を送る。

 

「それでも、僕は止めなきゃいけないんだ!」

 

ミーティアが大きく震え、しがみついていたバンパイアも激しく揺さぶられた。

両腕で必死に掴んでいた機体が、少しずつ外側へ流れていく。

 

「構いません」

 

その声だけは最後まで変わらなかった。

 

「あなたが止まらないなら、私も離れません」

 

やがて機体が耐えきれず横へ流れ、その身体がビーム刃へ触れた。

2機目のバンパイアも光に呑まれ、爆発の中へ消えていった。

 

炎はすぐに宇宙へ消え、ミーティアのアームには黒く焼けた跡だけが残る。

 

キラはそれを見た。

それでも操縦桿から手を離さず、巨大なビーム刃をステーション1へ押し込み続ける。

 

後方から、さらにレジェンドのビームが飛んでくる。

すでに推進部を損傷しているミーティアは大きく動けず、キラは切断線を外さない範囲で機体をずらした。

 

それでもビームの端が後部推進ブロックを掠める。

損傷していたスラスター周辺から破片が飛び、残っていた推進器の一部まで出力を失った。

 

推力はさらに低下し、姿勢制御にも異常が広がっていく。

残った推進器へ負荷が集中したことで過負荷警告も増え、ミーティアの巨体が細かく震え始めた。

 

それでも、巨大な光刃は止まらなかった。

 

「フリーダム。もうその機体は保たない」

 

レイの声が通信へ入る。

 

「これ以上続ければ、お前も無事では済まない」

「それでも止める!」

 

キラは叫び返した。

 

「ここで僕が止まったら、また誰かがレクイエムに怯えることになる! そんなものを残したままにはできない!」

 

レイはしばらく答えなかった。

その視線の先には、先ほどまでミーティアへしがみついていた2機の姿はもうない。

 

「……子供2人が命を賭しても構わないというのか」

 

キラの顔が歪んだ。

 

「構うよ! 助けたかった! 僕だってあんな子たちを死なせたかったわけじゃない!」

 

声が震える。

それでも操縦桿から手は離さなかった。

 

「でも、それでも……ここで止めなきゃいけないんだ!」

 

レジェンドのコクピットで、レイは損傷したミーティアを見つめていた。

推進部は壊れ、機体はまともな姿勢さえ保てなくなりつつある。

 

それでもフリーダムは、ステーション1から刃を離そうとしない。

 

「……それでも止まらないのか」

 

その声に怒鳴るような強さはなかった。

ただ、目の前の相手を理解しかねるような響きだけが残っていた。

 

キラは答えない。

警告音が鳴り続ける中、巨大なビーム刃が最後の構造材へ食い込んでいく。残ったスラスターを無理やり噴かし、崩れかける姿勢を押さえ込みながら、キラは操縦桿を倒し続けた。

 

やがて、ステーション1の外郭を巡っていた切断線が繋がった。

切り離された巨大構造物が軸からずれ、ゆっくりと崩れ始める。

 

同時に、限界まで酷使されていたミーティアの後部から激しく火花が散った。

過負荷に耐えていた推進系が次々と停止し、残っていた加速能力まで失われていく。

 

キラが操縦桿を動かしても反応は鈍かった。

推進系だけでなく姿勢制御にも異常が残り、もはやミーティアを戦闘機動へ戻せる状態ではない。

 

それでも、ステーション1の崩壊はもう止められなかった。

切断された巨大構造物がゆっくりと軸から外れ、レクイエムの中継を担っていた巨体が崩れていった。

 

*****

 

4機のバンパイアが、アカツキを前後左右から包囲していた。

互いに合図を交わした様子もないまま位置を入れ替え、一方が退けば別の1機が即座にその穴を埋め、攻撃の角度だけを絶えず変えていく。

 

正面の1機がヒートクローを振るう。

ネオがシールドで受け流したところへ、間を置かず2機目が背後から踏み込んだ。身体を沈めて爪を外した先には、すでに3機目が回り込んでいる。

 

尾部から伸びた有線式ドラグーンが側面へ回り込み、射線を重ねる。

ネオはアカツキを捻ってビームをヤタノカガミへ受けると、弾かれた光の向こうから飛び込んできた4機目へサーベルを振るった。

 

「休ませてくれないねえ!」

 

だが、バンパイアは無理に受けようとはしない。

刃が届く前に後退し、空いた場所へ別の1機が入る。攻める機体と退く機体が入れ替わり続け、包囲だけは決して途切れなかった。

 

4機が一つの生き物のように見えるほど、連携は異様に正確だった。

それでもネオは、攻撃を受け流し続けるうちに別の違和感を覚え始めていた。

 

「なるほどね……」

 

右側からヒートクローが迫る。

ネオが後方へ機体を滑らせると、その動きを追って1機が前へ出て、別の1機が左側へ回り、さらに上方にも3機目が位置を取る。

 

動きは速く、連携にも隙がない。

だが、それぞれの機体が見せる動作そのものには妙な硬さがあった。

 

配置し、攻撃し、援護し、交代する。

最初から決められた型を、こちらの位置に合わせて極端な精度で組み替えているような感覚だった。

 

同じ動きを繰り返しているわけではない。

それでも、たとえ記憶が失われているとしても、戦場で何度も死にかけてきたネオの身体には、そのわずかな違いが分かり始めていた。

 

考えて読んでいるわけではない。

次にどこへ来るのかを頭の中で組み立てるより先に、身体が反応する。

 

1機が接近した。

ネオはあえてサーベルを振らず、アカツキの右側をほんの一瞬だけ開ける。

 

バンパイアがそこへ入った。

ネオ自身も、その瞬間まで何をするつもりだったのか明確には決めていない。

 

相手がヒートクローを振るうより早く、アカツキが反転する。

下から跳ね上がったサーベルがバンパイアの左脚を切断し、小さな悲鳴とともに機体が回転した。

 

「っ……!」

 

ネオは追わない。

コクピットまで刃を進めれば撃墜できたが、あの幼い声を聞いた瞬間、そこまで踏み込む気にはなれなかった。

 

「子供の声で悲鳴なんか上げるなよ……」

 

思わず吐き出す。

片脚を失ったバンパイアは推進器を吹かして姿勢を立て直し、他の3機もすぐ周囲へ入り直した。

 

連携はまだ崩れない。

 

「まだやるのか」

 

返事の代わりに1機が踏み込み、ヒートクローを振るう。

ネオはサーベルで弾いた勢いのまま機体を回し、背後から迫った2機目の爪をシールドで受け流すと、その機体を押し退けた。

 

だが、正面を開けた瞬間には3機目が下から上がってくる。

高度をずらして外した先へ4機目が回り込み、逃げ道を塞いだ。

 

「本当にきっちりしてるな!」

 

アカツキはそのまま横へ抜ける。

1機が追い、別の1機が先回りした。

 

だがネオは、その予測された位置へ向かわない。

進路を決めかけた瞬間に反射的に軌道を変えると、先回りしていたバンパイアの対応がほんのわずかに遅れた。

 

「そこか!」

 

その隙へアカツキの蹴りを叩き込み、相手を押し返す。

撃墜には至らない。だが4機の位置関係が崩れ、包囲に初めて目に見える穴が開いた。

 

その瞬間、警報が鳴る。

 

ネオが振り向いた時には、黒い大型機が凄まじい速度で接近していた。

振り抜かれた巨大なビームサーベルがアカツキを横薙ぎに襲い、ネオは咄嗟に機体を上へ跳ねさせる。

 

光刃が機体のすぐ下を通過した。

あと一瞬遅ければ、胴体ごと切断されていた。

 

「危ない危ない……!」

 

アカツキが距離を取る。

その正面で黒い大型機が姿勢を止めた。

 

6本の腕を備えた異形の機体、ネメシス。

バンパイア隊とアカツキの間へ割って入ったコクピットで、No.2が短く息を吐く。

 

「……少し遠かったな」

 

呼吸がわずかに乱れている。

だが、声はいつも通りだった。

 

No.2は周囲の4機を確認し、片脚を失った1機へ視線を止める。

 

「L-318。損傷は」

「左脚部喪失。推進、火器、制御に異常ありません」

「戦闘継続は」

「支障ありません」

 

No.2は短く頷いた。

 

「ならいい」

 

ネオが眉を寄せる。

 

「ずいぶん簡単に言うねえ」

 

No.2は答えず、4機へ通信を開いた。

 

「L-272」

「はい」

「4機とも転進しろ。別戦域の味方を援護」

「了解」

 

返答はそれだけだった。

L-272が最初に機体を翻すと、残る2機が続き、片脚を失ったL-318も何事もなかったように推進器を吹かした。

 

4機は隊形を組み直しながら、その場を離れていく。

 

ネオは追わなかった。

遠ざかっていく4つの光を見送ったあと、正面に残った黒い機体へ視線を戻す。

 

「……代わりにあんたが相手ってわけか」

 

ネメシスの大型ビームサーベルが静かに持ち上がる。

No.2は短く答えた。

 

「そうなる」

 

次の瞬間、黒い巨体が一気に間合いを詰めた。

 

「速いっ……!」

 

ネオは反射的に操縦桿を倒す。

アカツキが横へ滑った直後、巨大な光刃が残像を切り裂いた。

 

だがネメシスは振り抜いた勢いを殺さない。

4本の補助腕が同時に開き、それぞれの先端にビームナイフが灯る。

 

左右から迫る2本をネオがシールドとサーベルで受け流す。

そこへわずかに遅れて上下から残る2本が入り、逃げ道を塞ぐように光刃が重なった。

 

「さっきの連中とは、ずいぶん違うじゃないか!」

 

アカツキは機体を捻りながら3撃目を外し、最後の1本へサーベルを叩きつける。

粒子が激しく散り、押し返したと思った瞬間には、ネメシス本体がすでに内側へ踏み込んでいた。

 

「――!」

 

主腕の大型ビームサーベルが跳ね上がる。

ネオは推力を一気に後方へ振り、胸部装甲を掠める寸前でどうにか間合いを切った。

 

離れたアカツキを、ネメシスはすぐには追わない。

6本の腕を広げた黒い巨体が、その場から静かにこちらを見据えている。

 

ネオの表情から、先ほどまでの軽さが消えた。

 

「なるほど。こっちは、本当に洒落にならないってことか」

 

No.2は答えない。

ネメシスの背後から4基のドラグーンが離れ、黒い刃が四方へ散ってアカツキを囲むように加速する。

 

同時にネメシス本体も前へ出た。

ネオもサーベルを構え直し、スラスターを吹かす。

 

金色のアカツキと黒いネメシスが互いへ向かって加速し、再び光刃を交差させた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。