機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~ 作:割戸三葉
ダイダロスへ向かうエターナルの前方で、メサイア防衛隊の戦列が大きく崩れた。
MA形態のムラサメが防衛隊の頭上を高速で横切り、振り向いたザクの射線を外へ引きずっていく。
開いた中央にはジュール隊が入り込み、左右へ散ろうとした機体を3機のドムトルーパーが待ち受けていた。
ヒルダが中央を走る。
その両脇をマーズとヘルベルトが固め、正面から集中した射撃をシールドで分け合うように受け止めた。
「右、来るよ!」
「任せろ!」
「そのまま行け、ヒルダ!」
マーズが右から回り込んだグフを押し返し、ヘルベルトの大型ビーム砲が左側のザクを戦列から追い出す。
2機が開いた中央をヒルダが抜け、ビームサーベルを振り抜いた。正面にいたザクのライフルが切断され、続いて飛び込んだムラサメがその脇を抜ける。
3機が離れた次の瞬間には、もう別の三角形を作っていた。
ヒルダを狙えば左右から撃たれ、マーズかヘルベルトへ向けば中央からヒルダが踏み込んでくる。
デュエルブリッツで前線を押していたイザークの視線が、思わず3機へ向いた。
「なんだ、そのMSは……」
ずんぐりとした機体だった。
見た目から想像する重さを感じさせず、3機が互いの死角を塞ぎながら防衛隊の中へ食い込んでいく。
その上をムラサメが通り抜ける。
ザフト側が上へ照準を向けた瞬間、ドムトルーパーが正面を押し、下へ向き直ればムラサメが背後へ回った。
「隊長、右が開くぞ!」
ディアッカの声に、イザークはすぐ正面へ視線を戻した。
大型砲の射撃に追われた2機のザクが左右へ散り、その間へジュール隊が入り込む。
エターナルの前に、ダイダロスへ続く細い進路が生まれ始めていた。
その時、通信が割り込んだ。
「ジュール隊長! 応答しろ!」
イザークのモニターにメサイア防衛隊を指揮する隊長が映る。
背後では警報と報告が重なり、声にも焦りが滲んでいた。
「聞こえている」
「一体どうしたんだ! 任務を放棄するつもりか! 貴隊まで敵に回れば、ここを守り切れん!」
イザークは接近してきたグフの斬撃をシールドで外し、すれ違いざまに武器を持つ腕を切り落とした。
「レクイエムを撃つことが任務だと言うのか!」
「議長からの命令だ! 我々はザフト軍人だぞ!」
「あのような兵器を用いるなど、ザフトのやることではない!」
デュエルブリッツが再び前へ出る。
「俺たちはエターナルを通す。死にたくなければ道を開けろ!」
「イザーク・ジュール……!」
防衛隊長の顔が歪む。
数秒後、通信が切れた。
「全機、メサイア前面へ後退! 防衛線を組み直せ! せめて要塞には近づけるな!」
防衛隊が一斉に下がった。
要塞側からの支援射撃が厚くなり、後退したMSがその射線へ重なるように陣形を組み直す。
イザークもジュール隊を止めずに前へ出した。
「深追いするな! エターナルの進路を開ければいい!」
「了解!」
ムラサメが左右へ広がり、ドムトルーパー3機も前線へ戻る。
押し込まれていた防衛隊がメサイアを背に持ち直し、両軍のビームが正面で激しく交差した。
その戦場へ、後方から4つの機影が近づいてきた。
「エターナル、後方より高速接近! MS4機!」
「所属は?」
「不明です!」
バルトフェルドが後方表示へ目を向ける。
小さい。
胴体と同じほど大きな翼を広げた4機が、宇宙を泳ぐ魚のように戦場へ入ってくる。
先頭を飛んでいた1機が上へ。
残る3機も左右と下方へ散り、ジュール隊とムラサメ隊を大きく囲んだ。
各機の背面から、尻尾のような有線ドラグーンが伸びる。
緑色のレーザーが空間を横切った。
1本が上を塞ぎ、2本目が斜めに走る。
さらに別方向から光が重なり、エターナル側のMS群の周囲へ幾何学的な線が増えていった。
「何をする気だ?」
ディアッカが照準を動かす。
ムラサメ1機が、前方に開いた隙間へ加速した。
機体が緑色の線を越えたところで、右後方を飛んでいたバンパイアが反転する。
ビームが横腹へ突き刺さった。
「っ!」
ムラサメが姿勢を崩し、2射目が胴体を撃ち抜く。
火球が広がった瞬間、近くにいたザク2機が左右へ散った。
右へ逃げた1機の前へレーザーが滑る。
パイロットが上方へ進路を変えると、そこには別のバンパイアが回り込んでいた。
「上だ!」
警告と射撃がほぼ同時だった。
ビームがザクの胸部を貫き、機体が爆発する。
イザークが周囲を見る。
緑色の線は固定されていない。
4機が動くたびに角度が変わり、開いた空間が閉じ、別の場所に新しい隙間が生まれている。
「線だけを見るな! その先にいる機体を見ろ!」
デュエルブリッツがライフルを撃つ。
狙われたバンパイアが上昇すると、有線ドラグーンも引かれ、1本のレーザーが大きく傾いた。
イザークがそこへ踏み込む。
左下のバンパイアが射撃位置へ入る。
シールドで1射を弾いたところへ、さらに右後方から光が伸びた。
ディアッカの砲撃がその間へ割り込み、2射目を撃とうとしたバンパイアを追い払う。
「こいつら、逃げ道を作って待ってやがる!」
ディアッカの声が硬くなる。
防衛隊も動いた。
バンパイアがジュール隊の進路を狭めた外側からザクとグフが押し寄せ、レーザーの間へビームを重ねてくる。
エターナル側の前進が止まった。
「防衛隊、前へ! 今のうちに包囲しろ!」
メサイア側が押し返す。
ジュール隊のザクがシールドで射撃を受け、その脇へムラサメが入ろうとすると、緑の線が進路を横切った。
ムラサメは機首を振る。
動いた先へバンパイアが照準を合わせる。
イザークのライフルが先に飛び、相手を射撃位置から追い出した。
「4機を同時に崩すぞ! 各隊、別方向から仕掛けろ!」
ジュール隊が一斉に散開する。
バンパイアも形を変えた。
上にいた1機が後退し、左の1機が高度を下げる。緑色の線が折れ曲がるように移動し、広がったジュール隊をいくつかの小さな区画へ分断した。
イザークが1機へ踏み込む。
相手が距離を取った先へディアッカが砲撃を重ねる。
バンパイアは横へ滑り、空いた位置へ別の1機が入った。
レーザーが繋がり直す。
「ちっ……!」
再び進路が閉じる。
その光景を少し離れた場所から見ていたヒルダが、機体を前へ向けた。
「マーズ、ヘルベルト」
「なんだ?」
「あたしを真ん中まで通しな」
「了解」
「やるか」
3機のドムトルーパーが並ぶ。
ヒルダが中央。
マーズとヘルベルトが左右へ出て、シールドを前へ構えた。
「行くよ!」
3機が一気に加速する。
正面へ緑色のレーザーが滑った。
ヒルダは速度を落とさず、そのまま線を越える。
右奥にいたバンパイアがビームを放つ。
マーズが前へ入り、シールドで受けた。
次は左上から来る。
ヘルベルトが機体を寄せ、2射目を防ぐ。
「連携なら、こっちだって負けてないよ!」
2機の間からヒルダが飛び出した。
正面のバンパイアが射撃を切り、横へ逃れる。
ヒルダはそこまで追いつき、ビームサーベルを振り抜いた。
相手が翼を畳むように身を翻す。
斬撃を避けるために大きく動いた機体へ、有線ドラグーンが引かれた。
緑色の線が大きく傾く。
別の1機が穴を埋めようと動く。
その進路へイザークの射撃が飛んだ。
「今だ! 全機散れ!」
ジュール隊とムラサメが一斉に四方へ抜ける。
バンパイア4機の位置が広がった。
それぞれが新しい配置へ移ろうとするところへ、ジュール隊が射撃を重ね、ムラサメが高速で横切って進路を削っていく。
マーズとヘルベルトもヒルダの左右へ戻った。
今度はエターナル側が4機を囲む。
バンパイアの1機が上へ抜けようとした。
ディアッカの砲撃がその進路へ走り、機体は横へ滑る。
そこへムラサメ2機が射撃を重ねた。
翼端の装甲が弾ける。
「きゃっ……!」
幼い悲鳴が通信へ漏れた。
ジュール隊の射撃がわずかに乱れた。
「……今の」
「子供の声……?」
エターナル艦橋でも同じ通信を拾っていた。
バルトフェルドの視線がモニターへ向く。
「発信元は?」
「今、被弾した敵機です」
傷ついたバンパイアは旋回し、残る3機の方へ戻っていく。
翼の一部を失っただけで推進は衰えず、再び有線ドラグーンを外側へ向けた。
「攻撃を続けろ!」
イザークの声が戦場へ響く。
「相手はまだ戦える! 止まればこっちがやられるぞ!」
デュエルブリッツがライフルを向ける。
照準の中央へ、先ほど声を上げたバンパイアが入った。
ビームが走る。
光は機体の肩口をわずかに外れ、その後方へ消えた。
イザークは次の標的へ照準を移す。
ヒルダが別の1機へ踏み込み、マーズがその退路を塞ぐ。
バンパイアが上方へ逃れると、今度はジュール隊のザクが待っていた。
射撃に追われて高度を下げる。
配置へ戻る前にヘルベルトの砲撃が正面を横切った。
4機が少しずつ中央へ寄せられていく。
緑色のレーザーが何度も伸びる。
繋がりかけた線は、ジュール隊かドムトルーパーの攻撃で位置をずらされ、そのたびに形を変えた。
メサイア防衛隊も外側から射撃を続けている。
ディアッカがそちらへ砲口を向け、接近したザクを追い払った。
「隊長、こっちだけ見てると外から食われるぞ!」
「分かっている! 防衛隊も押し返せ!」
エターナルを挟み込もうとしていた戦線が、再び広がっていく。
4機のバンパイアは互いの死角を塞ぐように距離を縮めた。
翼を傷つけた機体も、先頭に立つ1機のすぐ後ろへ入る。
緑色の光がもう一度、ジュール隊の前へ伸びた。
イザークはシールドを上げる。
「来るぞ! ここから先へ出すな!」
*****
アカツキとネメシスの光刃がぶつかり、2機の間で粒子が散った。
大型ビームサーベルを受け流したアカツキが横へ抜ける。
ネメシスは回転しながら4本の補助腕を開き、左右からビームナイフを差し込んできた。
ネオはシールドを傾けて右の刃を流し、左をサーベルで弾く。
機体を沈めた頭上へ3本目が走り、姿勢を戻すところへ4本目が伸びた。
アカツキが後方へ跳ねる。
ネメシスも距離を詰め、大型ビームサーベルを振り下ろした。
ネオはサーベルを合わせながら機体を横へ流し、刃が噛み合った瞬間に力を逃がす。
2機が離れた。
ネオは黒い機体を見つめたまま、眉を寄せる。
先ほどから胸の奥に残っている感覚が消えない。
相手の強さに対する緊張とも違う。
顔も知らないパイロットの存在そのものが、妙に神経へ触れていた。
「妙な話なんだが」
通信を開く。
「お前と戦ってると、どうにも気分が悪い」
短い間のあと、No.2が答えた。
「同感だ」
「そっちもか」
「理由は分からない」
ネメシスが加速する。
会話を続けながら大型ビームサーベルが横薙ぎに走り、ネオはアカツキを上へ振った。
その下へ補助腕が2本伸び、逃げた先をさらに2本が追う。
シールドとサーベルが連続して光刃を弾く。
最後の1本を外したところで、アカツキが一気に距離を開いた。
ネオは照準を合わせる。
「まずは、こいつがどこまで硬いかだな」
シラヌイの3連ビーム砲が火を噴いた。
複数の太い光がネメシスへ集中する。
No.2が機体を傾け、1射を外した。残る光が肩と胴体を捉える。
黒い装甲に赤い輝きが走った。
命中した一点から光が広がり、胸部から肩、背面へ流れていく。
ネメシスはその輝きをまとったまま火線を抜け、速度を上げた。
ネオの目が細くなる。
「厄介だな」
ビームライフルを構え、接近してくるネメシスへ撃つ。
2射が黒い装甲へ当たり、同じように赤い光となって散った。
No.2は射撃の中を詰めてくる。
ネオはライフルを下げ、サーベルへ持ち替えた。
大型ビームサーベルが右上から来る。
アカツキが受け流し、すぐ腹部へ蹴りを入れようとする。
ネメシスの補助腕が脚を狙った。
ネオは蹴りを途中で引き、機体を反転させる。
背後へ回ろうとした瞬間には、別の補助腕がすでにサーベルを構えていた。
「そこまで来るか!」
ビームナイフがシールドを擦る。
火花が流れ、その陰から主腕の大型ビームサーベルが突き込まれた。
アカツキはシールドで刃の側面を押し、軌道を胸部から外す。
そのまま肩をぶつけ、ネメシスを押し返した。
ネオが前へ出る。
サーベルを振り上げた時には、No.2も補助腕2本を交差させていた。
光刃が重なる。
残る2本が左右から迫り、ネオは攻撃を切り上げて下方へ抜ける。
下がった先へネメシスが追う。
ネオが右へ進路を決めた瞬間、No.2の機体はすでにその方向へ傾いていた。
「……またか」
左へ切り替える。
そこにも大型ビームサーベルが振られる。
ネオは距離を取った。
シラヌイから2基のドラグーンが離れた。
1基がネメシスの右へ、もう1基が上方へ回り込む。
右からビーム。
続いて上から光が走る。
No.2が左下へ移動する。
ネオはそこへアカツキを踏み込ませた。
正面からサーベルを振るうつもりだった。
ネメシスの大型ビームサーベルが先に左下へ向く。
ネオは操縦桿を引いた。
アカツキが直前で上へ跳ねる。
大型ビームサーベルが足元を通過し、その上からアカツキのシールドがネメシスの肩へ叩き込まれた。
黒い巨体が横へ流れる。
ネオは追いながらサーベルを振るう。
No.2が補助腕で受け、別の腕を脇腹へ回した。
ネオの身体が先に反応した。
アカツキが機体を捻り、ビームナイフが装甲の表面を掠める。
「考えてから動くと、先に来る……か」
2基のドラグーンがもう一度ビームを放つ。
No.2が射線から外れたところへネオが入る。
今度は直前まで攻撃方向を決めない。
正面へ踏み込んでから、No.2の大型ビームサーベルが動いた瞬間に左へ抜けた。
アカツキのサーベルがネメシスの脇腹へ届く。
黒い装甲が赤く光る。
切断には至らず、接触した部分に熱が残った。
No.2が反転する。
ネオはすぐ離れた。
2基のドラグーンも射撃を終えてアカツキへ戻っていく。
ネメシスの背後から黒いドラグーンが1基飛び出した。
砲撃ではない。
鋭い刃を向けたまま、アカツキの左後方へ回り込む。
ネオは正面の6本腕を見ながら、ドラグーンの位置も視界の端へ入れた。
No.2が踏み込む。
大型ビームサーベルをサーベルで弾き、続く補助腕をシールドで受ける。
ネオが右へ抜けようとしたところへ、背後のドラグーンが切り込んできた。
アカツキが急停止する。
黒い刃が目の前を横切った。
停止を待っていたようにネメシスの補助腕が伸びる。
ネオはシールドで1本を受け、サーベルで2本目を弾いた。
3本目が肩を狙う。
アカツキはネメシスの胸部を蹴り、その反動で包囲から外へ飛んだ。
No.2も押し戻される。
ネオがライフルを抜き、脇腹へ続けて撃つ。
ビームは赤い光となって散るものの、No.2はその場所をわずかに庇うように機体を捻った。
ネオはそこを見逃さなかった。
サーベルへ持ち替え、同じ場所へ詰める。
黒いドラグーンが戻ってくる。
今度はもう1基が反対側から離れ、2つの刃がアカツキの進路へ入った。
ネオは最初の1基をシールドで弾き、2基目の下を潜る。
そのままネメシスへ近づこうとしたところで、大型ビームサーベルが正面へ振り下ろされた。
サーベル同士が激突する。
押し込む力はネメシスの方が強い。
アカツキの腕が少しずつ下がる。
左右から補助腕が迫った。
ネオはシールドを1本へ叩きつけ、もう1本を機体の回転で流す。
回転の勢いを使い、そのままネメシスの大型ビームサーベルを外へ押し出した。
アカツキの蹴りが肩へ入る。
距離が開く。
No.2の荒い呼吸が通信へ混じった。
ネオは攻撃の手を止めず、ライフルを2射する。
No.2は1射目を外し、2射目を装甲で受けながら前へ出た。
呼吸だけが先ほどより明らかに深くなっている。
6本の腕の動きには乱れがなかった。
「その息で続けるのか」
ネオが低く声を掛ける。
「悪いことは言わない。下がった方がいいんじゃないか」
数秒、返事がない。
通信にはNo.2の呼吸だけが流れる。
「笑えない冗談だ」
黒いドラグーンがネメシスへ戻る。
No.2は大型ビームサーベルを構え、アカツキを正面へ捉えた。
4本の補助腕も広がる。
ネオもシールドを前へ出し、サーベルを構え直す。
「そうか」
No.2が加速した。
アカツキも真正面から踏み込み、金色と黒の2機が再び激突した。
*****
ミネルバとアークエンジェルは、互いの側面を奪い合うように進路を変え続けていた。
両艦の間をミサイルが行き交い、近接防御機関砲の弾幕がその数を削る。
主砲が動けば相手は艦を振り、副砲の射線へ入れば上下へ艦体を逃がす。
ここまでの砲撃戦で、どちらも一方的な損傷を許していない。
被弾する位置を選び、使える装甲と火器を残しながら戦ってきた。
タリアは戦術表示の一点を見ていた。
アークエンジェルの右舷。
セラが対空火器を狙い続けた場所だけ、迎撃の密度が明らかに薄い。
「ナイトハルト、発射!」
ミネルバ両舷のミサイルランチャーから多数のミサイルが放たれた。
正面へ集めず、アークエンジェルの左側へ大きく広げる。
白い艦が右へ回れば、その先だけ弾幕が薄くなる形だった。
「ミサイル多数! 左方へ広がっています!」
ミリアリアの報告を聞き、マリューが戦術表示へ目を向ける。
「右へ追い込む気ね。ノイマン、回頭方向に気をつけて」
「了解!」
アークエンジェルが艦首を下げながらロールする。
「イーゲルシュテルン、迎撃!」
残存する近接防御機関砲が火を噴き、迫るミサイルを次々と撃ち落とす。
左舷側の濃い弾幕を避けながら、艦は右へ流れ始めた。
タリアがその動きを見る。
「トリスタン、右舷前方へ照準!」
「トリスタン、照準!」
ミネルバのビーム砲が動く。
同時にインパルスが艦の下方から飛び出した。
ルナマリアはアークエンジェルの右前方へ回り込み、ビームライフルを構える。
「艦長、右へ回り込む!」
連続したビームがアークエンジェルの進行方向を横切った。
ノイマンが回頭を深くする。
白い艦の右舷がミネルバ側へ向く。
「今よ!」
「トリスタン、撃て!」
ビーム砲から2本の光が放たれる。
アークエンジェルが艦首を沈める。
1本目は上部を通過し、2本目が右舷外装を掠めた。
装甲板が弾ける。
「右舷第4区画に被弾!」
「機関は?」
「正常です!」
マリューはすぐ正面を見る。
「ノイマン、右を長く見せないで。左へ戻して」
「はい!」
アークエンジェルが左へ切り返す。
そこへインパルスが上方から降りてくる。
ルナマリアがライフルを撃ち、左へ戻ろうとする進路へ光を置いた。
ノイマンはさらに艦首を下げ、ビームの下を抜ける。
アークエンジェルの主砲がミネルバへ向く。
「ゴットフリート、撃て!」
大型ビーム主砲が火を噴いた。
「回頭!」
ミネルバが右へ艦を振る。
1本が艦首の脇を抜け、2本目が左舷上部を掠めた。
艦橋が揺れる。
「左舷外装損傷! 第6区画、気密維持!」
「火災は?」
「ありません!」
タリアはアークエンジェルの回頭を追う。
「イゾルデ!」
「イゾルデ、発射!」
3連装実弾砲から大型砲弾が放たれた。
1発目がアークエンジェルの下方へ。
2発目は上昇した先へ。
3発目がさらに回頭後の位置を狙う。
ノイマンは最初の砲弾を見て艦首を上げ、続く2発目へロールを重ねた。
3発目が左舷後部を掠め、外装を大きく吹き飛ばす。
「左舷後部に被弾!」
「補助スラスター1基、出力低下!」
「姿勢制御で補って!」
アークエンジェルが速度を上げる。
一度距離を取る動きに見えた。
タリアは追わず、ミネルバをわずかに左へ振った。
その時、アークエンジェルが急に回頭する。
「敵艦、反転!」
マリューは右舷を一瞬だけミネルバへ見せた。
「来るわよ」
タリアが身を乗り出す。
「ナイトハルト、右舷へ集中!」
「発射!」
ミネルバからミサイルが飛び出す。
アークエンジェルは発射を待っていた。
ノイマンが操舵輪を切り、白い艦が大きくロールする。
右舷へ向かっていたミサイルの正面へ、損傷の少ない艦底側が入る。
「イーゲルシュテルン、迎撃!」
近接防御機関砲の弾幕が広がり、ミサイルが次々と爆発した。
爆煙の向こうでアークエンジェルがさらに回る。
「ゴットフリート、ミネルバ!」
「撃て!」
大型ビーム主砲が爆煙を貫いた。
タリアが目を見開く。
「取り舵!」
ミネルバが艦首を振る。
光束が右舷外装を掠め、装甲の一部が吹き飛んだ。
「右舷に被弾! 第8区画外装損傷!」
アーサーが報告を上げる。
「右舷を餌にしたのね……」
タリアの視線が鋭くなる。
アークエンジェルはそのまま距離を詰めてくる。
右舷の弱点を隠すより、一度晒してこちらの攻撃方向を決めさせた。
今度はアークエンジェルが主導権を取っている。
両艦からミサイルが飛び交う。
インパルスがミネルバの前へ出た。
ルナマリアは接近するミサイル群へライフルを連射し、先頭の数発を撃ち落とす。
爆発が連なり、残ったミサイルが左右へ分かれる。
「左側、私が抑える!」
インパルスが左へ飛ぶ。
ケルベロスを構え、アークエンジェルの前方へ太いビームを放った。
光は艦体を狙わず、白い艦がそのまま旋回した先を横切る。
ノイマンが舵を戻した。
「進路を切られました!」
「上へ逃がして!」
アークエンジェルが上昇する。
タリアがすぐ次を命じる。
「トリスタン、上方へ!」
「トリスタン、照準!」
ビーム砲がアークエンジェルを追う。
マリューも射線を見る。
「ノイマン、右へ! 短くよ!」
「了解!」
白い艦が右へ滑る。
右舷側の迎撃火器が少ない。
ルナマリアはすぐその方向へ機体を向けた。
アークエンジェルからミサイルが放たれる。
インパルスが途中で照準を変え、迫る弾頭へライフルを連射した。
数発が爆発し、その破片の間を残りが抜ける。
「ナイトハルト、迎撃!」
「ナイトハルト!」
ミネルバ側から放たれたミサイルが正面でぶつかり、白い閃光が両艦の間を埋めた。
爆光の向こうからアークエンジェルが現れる。
「ゴットフリート、照準!」
「トリスタン、照準!」
2隻の砲塔がほぼ同時に動く。
ノイマンがミネルバの砲口を見て艦を傾ける。
ミネルバもアークエンジェルの主砲から外れようと艦首を振った。
「撃て!」
「トリスタン、撃て!」
光が交差する。
ゴットフリートの1射がミネルバの上部装甲を掠め、センサーの一部を弾き飛ばす。
トリスタンのビームもアークエンジェル右舷を捉え、すでに傷ついていた装甲へ新しい焼け跡を残した。
両艦が互いに距離を取る。
「上部センサー、予備へ切り替え!」
「了解!」
タリアは損傷表示を確認し、正面へ戻る。
アークエンジェルも回頭を始めていた。
右舷側の表示には複数の警告が重なっている。
マリューがノイマンへ声を掛ける。
「次から右回頭を浅くして。向こうは完全にあそこを見てるわ」
「了解!」
インパルスがミネルバの脇へ戻る。
「艦長、まだ行けます!」
「ええ。今度は追いすぎないで。アークエンジェルの向きを制限して」
「了解!」
ルナマリアが再び加速した。
ミネルバのミサイルランチャーが次弾を装填する。
アークエンジェルの主砲も角度を変え、右舷を庇うように艦体が傾いた。
タリアはその動きを見据える。
「次、来るわよ。全員、集中して」
2隻の戦艦は傷ついた艦体を動かしながら、再び互いの射線を探し始めた。