機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

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151.ダイスゲーム 2

4機のバンパイアを囲んだまま、ジュール隊は次の一撃を撃てずにいた。

傷ついた1機の翼から細かな破片が流れている。

機体そのものはまだ戦闘姿勢を保ち、有線ドラグーンも外へ向けられていたが、先ほど通信へ漏れた幼い声が、その場にいる者たちの耳へ残っていた。

メサイア防衛隊からの射撃が外側を横切る。

ディアッカが大型砲を撃ち返し、接近しようとしたザク2機を追い払った。

 

「ぼさっとするな! 外もまだいるぞ!」

「分かっている!」

 

イザークは答えながら、正面のバンパイアから照準を外さない。

4機とも武器を下ろしていない。

包囲されたまま、それぞれが互いを庇える位置へ少しずつ移動していた。

その時、エターナルから通信が入る。

 

「イザークさん。少しだけ、お待ちいただけますか」

 

ラクスの声だった。

 

「何をする気だ」

「お話をします」

 

短い返答のあと、広域回線が開かれる。

エターナル艦橋で、ラクスは正面モニターに映る4機を見つめた。

 

「聞こえていますか」

 

数秒の沈黙が続く。

先頭にいたバンパイアから返答があった。

 

「聞こえています」

 

幼い少女の声だった。

先ほど悲鳴を上げた機体とは違う。

それでも年齢を感じさせるには十分な声で、抑揚だけが不自然なほど薄い。

ラクスの指先がわずかに動く。

 

「あなた方も、Lシリーズと呼ばれる子たちなのですか」

「はい。私はL-272。他の3名もLシリーズです」

「では……あなたも」

 

ラクスは一度言葉を切った。

 

「私と同じ遺伝子を?」

「はい。ラクス・クラインの模倣個体として作られました」

 

エターナル艦橋が静まった。

バルトフェルドがモニターを見つめ、周囲のオペレーターたちも言葉を失う。

戦場では、イザークが眉を寄せていた。

 

「またか……」

「隊長?」

「いや、何でもない」

 

セラだけではなかった。

目の前の4機にも、同じものが使われている。

ラクスは息を整えた。

 

「L-272。戦闘をやめてください。あなた方はすでに包囲されています」

「確認しています」

「このまま戦えば、あなた方を傷つける事になるでしょう。武装を解除して投降してください。これ以上の戦闘は無意味です」

「拒否します」

「……我々はあなた方と戦いたくはありません」

「理解しています」

「それでも、武器を持って立ちはだかるのなら、私たちも力をもってあなた方を排除します」

「問題ありません」

 

淡々と返される言葉に、ラクスの表情が曇る。

 

「なぜですか」

 

L-272は少しだけ間を置いた。

その間にもメサイア側からビームが飛び、ジュール隊のザクがシールドを前へ出す。

ディアッカが反撃し、外周のグフ1機が高度を下げて射線から逃れた。

包囲の中央にいる4機だけが、大きく位置を変えない。

 

「与えられた役割を遂行するためです」

「その役割が、あなた自身を傷つけるものであっても?」

「はい」

 

ラクスが言葉を失う。

L-272は同じ調子で続けた。

 

「部品(パーツ)とはそういうものです。歯車が好き勝手に形を変えれば、その歯車の存在理由は消失します」

「人は歯車ではありません」

「我々は、そのように作られました」

 

傷ついたバンパイアがわずかに高度を変える。

その動きに合わせて残る3機も距離を詰め、4機の配置がさらに小さくまとまった。

 

「それでも、あなた方は部品(パーツ)でも歯車でもありません。人の筈です」

「それに、我々は全滅しません」

「……え?」

「既に時間切れです」

 

イザークが顔を上げた。

警報が鳴る。

 

「高速物体接近! 上方、距離急速に縮まります!」

 

白い光が戦場へ落ちてきた。

 

「散れ!」

 

イザークの声とほぼ同時に、8条のビームがジュール隊の包囲へ突き刺さった。

ザクとムラサメが左右へ飛ぶ。

中央を押さえていた2機が下がった隙間へ、白い巨体が一気に入り込んだ。

 

レギナント。

 

8基のドラグーンを周囲へ広げた機体が、4機のバンパイアの前へ立つ。

 

「セラ!」

 

イザークが叫ぶ。

その間に4機のバンパイアが一斉に変形した。

薄いMA形態となって素早くジュール隊の外へ飛び出すと、レギナントに連れらるように続いていった。

ヒルダが追う。

 

「逃がすか!」

 

ドムトルーパーが加速した瞬間、レギナントのドラグーンが正面へ滑り込んだ。

ビームが進路を横切る。

ヒルダが機体を振った先には別のドラグーンがいる。

 

「ちっ!」

 

速度を落とした間に4機のバンパイアがレギナントの周囲へ集まり、互いの位置を整えた。

イザークは白い機体を睨む。

 

見間違えるはずがない。

ジブラルタルでも、その後の戦場でも見てきた。

敵の動きを読むというより、動く場所そのものを先に奪ってくる戦い方も知っている。

同時に、別の姿も思い出していた。

仲間のために自分が傷つく事を厭わず、仲間を泣かせた理由を理解できないまま苦悩していた少女。

 

「セラ! 聞こえているな!」

「はい」

 

いつもの平坦な声が返る。

 

「俺たちはレクイエムを止める! 道を開けろ!」

「拒否します」

 

迷いはなかった。

 

「現在、メサイア防衛は私の任務に含まれています」

「お前まであれを撃たせるつもりか!」

 

レギナントのドラグーンが動く。

返答より先に2基が左右へ広がり、イザークの正面と斜め上へ射線を置いた。

デュエルブリッツがその間を抜けようとすると、バンパイア1機がすでに進行方向へ滑り込んでいる。

背部ビーム砲が火を噴いた。

イザークはシールドで受け、機体を下へ落とす。

 

「セラ!」

「任務を継続します」

 

8基のドラグーンが一斉に散った。

同時に4機のバンパイアもレギナントから離れ、上下左右へ広がる。

緑色の可視レーザーが宇宙へ伸びた。

その間をレギナントのドラグーンが埋めていく。

イザークが周囲を見る。

 

「全機、固まるな! 奴は――」

 

言い終わる前に、ヒルダが前へ出た。

 

「マーズ、ヘルベルト! さっきと同じだ!」

「ああ!」

「分かってる!」

 

3機のドムトルーパーが加速する。

中央にヒルダ。

マーズとヘルベルトが左右へ並び、正面から伸びてきた射撃へシールドを向けた。

先ほど4機だけの網を破った形だった。

 

ヒルダが踏み込む。

その正面へ緑色の線が移動した。

 

「構うな!」

 

速度を落とさず抜けようとする。

右前方にいたバンパイアが射撃位置へ入るより早く、マーズがシールドを前へ出した。

しかし、ビームが飛んでこない。

 

「なに――」

 

バンパイアは撃たずに横へ滑る。

空いた場所へヒルダが向きを変えた瞬間、レギナントのドラグーンがヒルダの方を向いた。

光が走る。

ヒルダが急停止する。

 

左から抜けようとしたヘルベルトの前には、別のバンパイアが入ってきた。

 

「こいつ!」

 

大型ビーム砲を向ける。

撃つ前に相手は下へ沈み、その動きと同時に緑色の線がヘルベルトの前へ傾いた。

上へ逃れようとしたところへ、2基目のドラグーンが回り込む。

ヘルベルトはシールドを上げた。

ビームが正面を叩く。

 

姿勢が崩れたところへメサイア防衛隊の射撃が外側から飛び込んできた。

 

「うおっ!」

「ヘルベルト!」

 

被弾したヘルベルトの下へマーズが戻る。

さらにヒルダも進路を変え、2機でヘルベルトの前へ入った。

3機が揃った時には、先ほどまで開いていた中央が閉じている。

 

「……やってくれるじゃないか」

 

ヒルダが低く吐き捨てる。

4機だけの時とは違った。

1機を動かせば、その穴を別の1機が埋める。

そこを狙おうとすればレギナントのドラグーンが入り、空いた方へ進路を変えた頃には、別のバンパイアが先に動いている。

 

ジュール隊も同じだった。

イザークが上から突破を試みると、2本の緑色の線が開く。

そこへデュエルブリッツを入れた瞬間、外側からメサイア防衛隊のビームが集中した。

シールドへ数発が当たり、装甲表面が焼ける。

ディアッカが大型砲を撃ち返した。

 

「アイツ、外側の味方まで使いやがる!」

 

砲撃を受けたザクが後退する。

メサイア防衛隊は緑色の網へ入ってこない。

先ほどから、ジュール隊やドムトルーパーが緑色の線を越えた先で別方向から攻撃を受ける光景を見ており、自分たちが中へ踏み込んでも同じように狙われるのではないかと警戒していた。

残った部隊は網の外周を回り、ジュール隊が抜けようとする場所へ射撃を重ねている。

 

「隊長、右から来るぞ!」

「見えている!」

 

イザークが右へライフルを撃つ。

接近していたグフがシールドで受け、その場から離れた。

追おうとしたデュエルブリッツの進路へ、バンパイアが滑り込む。

イザークが照準を変えた時には、その機体ももう離れていた。

 

「くそっ!」

 

エターナル前方で光の網が形を変え続ける。

ムラサメ3機が上方から一気に抜けようとした。

1機目がバンパイアを引きつけ、2機目がその下へ入り、3機目が開いた外側へ回る。

先頭機へドラグーンが向く。

2機目が射撃し、ドラグーンを追い払う。

開いた。

3機目が加速する。

 

その先へレギナントがいた。

ヒートクローが振り抜かれ、ムラサメのビームライフルが根元から切断される。

機体が反転したところへ別のドラグーンが下から迫り、片翼を掠めた。

 

「うわっ!」

 

ムラサメが回転する。

レギナントは追わない。

動けなくなった1機を救うため、残る2機が戻った時には、3機とも元の場所へ押し返されていた。

 

「被弾機、後ろへ! 動ける奴が援護しろ!」

 

イザークの声が飛ぶ。

ジュール隊のザクが損傷したムラサメの前へ入り、外側から来たビームをシールドで受ける。

そのシールドもすでに表面が黒く焼け、一部が欠けていた。

レギナントが中央へ戻る。

4機のバンパイアも、それぞれ次の位置へ移った。

誰も止まっていない。

 

エターナル艦橋で、ラクスは戦況表示を見つめていた。

ジュール隊が押し戻されるたび、その先へ別の射線が重なる。

ドムトルーパー3機も何度も形を変えているが、前へ出るために1機が動けば、残る2機の位置までずらされていく。

 

「ラクス」

 

バルトフェルドが声を掛ける。

 

「話すなら、今のうちかもしれん。向こうはこっちの通信を切っていない」

 

ラクスは小さく頷いた。

 

「セラ」

 

レギナントがドラグーンを動かす。

 

「はい」

 

返事と同時に1基がディアッカの射線へ入り、大型砲を撃たせる前に位置を変えさせる。

ラクスは続けた。

 

「以前、あなたは広域通信で、私へ言葉を向けましたね」

「はい」

「私は、ずっと気になっていました」

 

メサイア側から飛んできたミサイルをムラサメが撃ち落とす。

爆発の中を抜けた破片がザクの肩へ当たり、装甲が剥がれた。

ラクスの声は変わらない。

 

「あの時、あなたが私へ向けて語った言葉は、本当にあなた自身の言葉だったのですか」

 

少しだけ間があった。

レギナントは止まらない。

ヒルダが再び中央へ踏み込もうとすると、2基のドラグーンが左右へ広がり、その後ろへバンパイアが入る。

 

「原稿は議長が作成しました」

 

エターナル艦橋で、何人かが顔を上げた。

ラクスも目を細める。

 

「では……」

「しかし、内容を訂正する必要はないと判断しました」

 

ヒルダのビームサーベルがバンパイアへ届く直前、機体が下へ抜ける。

追おうとした場所へレギナントのビームが走り、ヒルダはシールドを向けて距離を取った。

 

「今も、そう思っていらっしゃるのですか」

「はい」

「レクイエムを使おうとしている、今のデュランダル議長を見ても?」

「レクイエムが大量破壊兵器であることには同意します」

 

セラの声には迷いがなかった。

 

「多数の人間を一度に殺傷可能です。使用を阻止しようとする行動も理解できます」

「でしたら――」

「ですが」

 

ラクスの言葉へ、短く声が重なる。

レギナントのドラグーンが1基、デュエルブリッツの上方へ入る。

イザークがライフルを向けると、その間に右からバンパイアが動き、照準を移させた。

 

「レクイエムを製造したのは地球連合です」

 

ラクスの表情が変わる。

 

「プラントへ使用したのも地球連合です。あなたは、その時に地球連合を糾弾する行動を取っていません」

「……」

「地球連合とザフトの間に入り、双方へ戦闘停止を要求した事実も確認できません」

 

ラクスが息を吸う。

外ではヘルベルトの機体にビームが掠めた。

肩の装甲が弾け、大型ビーム砲が大きく振られる。

マーズがすぐ前へ入り、シールドで次の射撃を受け止めた。

 

「ヘルベルト、砲は!」

「生きてる! まだ撃てる!」

 

ヒルダも2機の横へ戻る。

その動きを待つように、レギナントと4機のバンパイアが配置を変えた。

ラクスが口を開く。

 

「地球連合がレクイエムを使用したことを、私は正しいとは思っていません」

「はい」

「多くの命が失われました。だからこそ、同じことを繰り返させるわけにはいかないのです」

「それには同意します」

「ならば、なぜ私たちを止めるのです?」

 

セラはすぐに答えた。

 

「あなたの行動は、ザフトだけを止めるものになっているからです」

 

エターナル艦橋から音が消えた。

 

「レクイエムを作り、プラントへ使用した地球連合を止めず、両軍の間にも入らなかったあなたが、ザフトが同じ兵器を使用しようとした時には武力を行使しています」

「それは――」

「私は、その行動を正しいとは評価できません」

 

デュエルブリッツがバンパイア1機へ接近する。

イザークがサーベルを振り、相手が下がった場所へディアッカが射撃を重ねた。

2機の連携でバンパイアが大きく外へ押し出される。

一瞬だけ網に穴が開く。

 

「今だ!」

 

ジュール隊が動いた。

3機のザクが中央へ入り、ムラサメが上から抜ける。

レギナントが向きを変えた。

8基のドラグーンのうち4基が大きく外へ広がり、残る4基が中央へ集まる。

ザクの前へ光が走った。

ムラサメが上へ逃れた先には、先ほどイザークたちが押し出したはずのバンパイアがもう戻っている。

 

「早すぎる!」

 

進路を変えたところへ別の1機が入り、背部ビーム砲を撃つ。

ムラサメの翼が焼ける。

ジュール隊は再び押し戻された。

ラクスはその光景を見ながら、静かに言った。

 

「では、セラ。あなたはデュランダル議長がレクイエムを使うことを、正しいとお考えなのですか」

 

一拍。

返ってきた声の調子が変わった。

 

「そのようなことは、申し上げておりませんわ」

 

エターナル艦橋で、バルトフェルドが振り向いた。

通信の向こうから聞こえたのは、確かにセラの声だった。

それなのに言葉の選び方も、抑揚も、息を置く場所さえ、ラクスのものとほとんど同じだった。

 

「わたくしはただ、あなたの行動を正しいとは評価できないと申し上げているのです」

 

ディアッカが一瞬、攻撃の手を緩めた。

 

「……今の声、聞いたか」

「聞こえている。少し待て」

 

イザークもレギナントを見る。

 

通信の向こうで、セラはラクスと同じ穏やかな調子のまま続けた。

 

「地球連合がレクイエムをプラントへ向けた時、あなたはそれを止めるために軍を率いてはいませんでした」

「両軍の間に立って戦闘を止めることもしないまま、ザフトがレクイエムを手にした今、あなたはザフトへ武力を向けています」

「それでも自分の行動が平和のために正しいのだとするなら、なぜ片方にだけ剣を向けているのか――あなた自身が説明できなければならないのではありませんか」

 

ラクスの目がわずかに見開かれた。

 

自分と同じ抑揚、自分と同じ言葉遣い。

誰かから責められているはずなのに、耳へ届くたび、問いを発しているのが自分自身であるような錯覚がまとわりつく。

 

なぜ、そのことを考えなかったのか。

 

「あなたは、見知った人だけを救おうとしか考えていないのではありませんか。――平和という言葉で覆い隠して」

 

そんな声まで、胸の内側から返ってくる。

 

「それは自らの心すら、気づかずに覆い隠してしまう」

「……やめてください」

 

ラクスの声が初めて強くなった。

 

「その話し方を、やめてください」

 

レギナントがヒルダの進路へドラグーンを送り込む。

返ってきた声は、すでにいつもの平坦なものへ戻っていた。

 

「ごめんなさい。不快に感じていることを確認しました」

 

素直な謝罪に、ラクスはわずかに目を伏せた。

責めるために真似たのではないのなら、なおさら疑問が残る。

 

「……セラ。なぜ、私の話し方を真似たのですか」

 

短い間のあと、答えが返る。

 

「私は、あなたの模倣個体として作られました。そして、あなたの話し方を理解したからです」

 

ラクスは何も答えなかった。

それだけなら、模倣個体として作られた自分が、オリジナルの話し方を再現したという説明に過ぎない。

けれどラクスには、その言葉だけでは説明しきれない何かが含まれているように思えた。

 

白い巨体が旋回する。

その周囲で8基のドラグーンと4機のバンパイアが再び位置を変え、緑色の線がジュール隊の前へ重なった。

戦闘は続いている。

 

メサイア防衛隊の射撃がさらに厚くなった。

外側から放たれたビームがドムトルーパーのシールドを叩き、ヒルダの機体が押し戻される。

マーズの左腕装甲には焼けた跡が走り、ヘルベルトの肩からは断続的に火花が散っている。

 

「まだ行けるね!」

「ああ!」

「次は俺が前へ出る!」

 

ヘルベルトが大型ビーム砲を構える。

正面のバンパイアへ撃つと見せ、直前で砲口を上へ向けた。

太い光がドラグーンの進路を横切る。

1基が位置を変えた。

マーズがその瞬間に中央へ入る。

バンパイアが迎撃へ向かう。

ヒルダが横から踏み込んだ。

 

「そこだ!」

 

サーベルが翼を掠める。

装甲片が飛ぶ。

初めて1機を大きく動かした。

3機がさらに押し込もうとする。

 

レギナントはヒルダへ向かわなかった。

別のバンパイアがマーズの前へ入り、2基のドラグーンがヘルベルトの左右へ回る。

ヘルベルトが大型ビーム砲を下げて防御へ移る。

その瞬間、メサイア側から飛んできたビームが脚部を掠めた。

機体が傾く。

 

「ヘルベルト!」

 

ヒルダとマーズが同時に戻った。

攻撃を受けたバンパイアはその間に距離を取り、レギナントの外側へ戻る。

ヒルダが歯を食いしばった。

 

「こっちが助けに戻るのまで使ってくるのかい……!」

「ヒルダ、外だ!」

 

マーズの警告。

ザク2機が外周から接近していた。

ヒルダが振り向きざまにサーベルを構え、マーズが射撃する。

1機が下がったが、もう1機のビームがヒルダの肩へ当たった。

装甲が大きく剥がれる。

ヒルダはそのまま踏み込み、相手のライフルを切り落とした。

 

ジュール隊側も傷が増えていた。

デュエルブリッツのシールドには複数の焼け跡が走り、ディアッカの機体も肩部装甲を削られている。

ムラサメは何機も翼や武器を失い、姿勢制御用の噴射を断続的に吹かしながら戦列へ残っていた。

 

1機が後退すれば別の機体が前へ入る。

前へ入った機体も無傷ではない。

火花を散らすスラスター。

半分を失ったシールド。

切断されたライフルを捨て、サーベルだけで防衛隊を牽制するザク。

エターナルの前に、完全な状態のMSはほとんど見当たらなくなっていた。

 

それでもイザークは下がらない。

 

「まだだ! 網の外にいる連中を先に削れ! 中へ入ってこないなら、それを使え!」

 

ディアッカが外周へ大型砲を向ける。

 

「了解!」

 

砲撃がメサイア防衛隊の中央へ突き刺さる。

ザクとグフが散る。

ムラサメも緑色の線へ近づかない範囲で大きく旋回し、外から撃ってくる防衛隊へ射撃を集中した。

外周の圧力がわずかに落ちる。

イザークがレギナントを見る。

 

「セラ! いつまで続けるつもりだ!」

「任務終了まで継続します」

「なら、こっちも同じだ!」

 

デュエルブリッツが加速する。

正面へ2基のドラグーン。

イザークは撃たれる前に左へ振った。

バンパイアが入る。

そこへライフルを3射。

相手が下がる。

空いた場所へ進むと、レギナント本体が正面へ出た。

 

巨大なヒートクローが振り下ろされる。

イザークはシールドで受けず、サーベルを合わせて外へ流した。

機体同士がすれ違う。

反転したデュエルブリッツが再び踏み込む。

セラもレギナントを回す。

イザークのサーベルが腕部装甲を掠め、レギナントのヒートクローがシールドの端を削った。

 

「お前は!」

 

イザークが叫ぶ。

 

「自分で考えることもできるだろうが!」

 

返答はない。

レギナントが距離を取る。

追った先へドラグーンが入り、イザークはサーベルを振って1基を押し退けた。

その時、セラの通信へ別の声が割り込んだ。

 

「L-31」

 

No.2だった。

短い呼吸が混じっている。

レギナントの動きは変わらない。

 

「はい」

「俺は限界だ」

 

No.2の声はいつもより低い。

 

「アカツキはまだ動いている。ミネルバの直掩が足りない」

「確認しました」

 

それだけだった。

No.2から追加の言葉はない。

撤退しろとも、援護へ来いとも言わなかった。

 

セラは正面の戦況を見る。

イザークが再びジュール隊をまとめようとしている。

ドムトルーパー3機は損傷しながらも戦列を維持し、外周では残ったメサイア防衛隊が射撃を続けている。

レギナントの周囲を4機のバンパイアが動く。

数秒後、セラが通信を開いた。

 

「L-272」

「はい」

「戦況変化に伴い後退します。全機、随伴してください」

「了解しました」

 

イザークの目が見開かれる。

 

「何?」

 

8基のドラグーンが攻撃位置を離れた。

4機のバンパイアも同時にレギナントへ寄る。

広がっていた緑色の線が1本ずつ消え、ジュール隊の周囲にあった網が急速にほどけていった。

 

「待て、セラ!」

 

レギナントが向きを変える。

 

「ミネルバへ帰投します」

 

それだけを残し、白い巨体が加速した。

4機のバンパイアがその後へ続く。

ジュール隊の誰もすぐには追わなかった。

 

押し切ったわけではない。

突破口を見つけたわけでもない。

ほんの数秒前まで、自分たちはあの網の中で少しずつ動ける場所を奪われていた。

ディアッカが遠ざかる5機を見送る。

 

「……なんで今、退くんだよ」

「知らん!」

 

イザークは吐き捨てるように答えた。

その視線は、レギナントの後ろ姿を追っていた。

 

「だが、行かせろ! 今はそっちじゃない!」

 

メサイア側からビームが飛ぶ。

デュエルブリッツがシールドを上げた。

その表面で光が弾ける。

緑色の網が消えたことで、外周にいた防衛隊が再び前へ出始めていた。

 

「敵部隊、前進!」

 

エターナル艦橋へ報告が飛ぶ。

バルトフェルドが正面を見る。

残っている防衛隊は、最初に戦線を作っていた時より明らかに少ない。

それでもザクとグフが再び集まり、メサイアを背に戦列を組み直そうとしている。

 

「エターナル、前進を維持。損傷機を前へ出すな」

「了解!」

 

ラクスは遠ざかるレギナントを見ていた。

通信はもう切れている。

先ほどまで聞こえていた、自分と同じ話し方をする少女の声だけが耳へ残っていた。

 

「ラクス」

 

バルトフェルドの声で、ラクスは正面へ戻る。

 

「はい」

 

前方でデュエルブリッツがサーベルを構えた。

イザークの機体も傷ついている。

シールドは削れ、装甲にも焦げ跡が残っていた。

その左右へ、同じように傷を負ったジュール隊が並ぶ。

 

ドムトルーパー3機も戻ってきた。

ヒルダの肩装甲は剥がれ、マーズのシールドは端が欠け、ヘルベルトの機体は脚部から小さな火花を散らしている。

ムラサメも翼を焼かれた機体が混じったまま、再びMA形態で左右へ広がった。

イザークが正面を睨む。

 

「今度こそ押すぞ!」

「おう!」

 

ディアッカの大型砲が火を噴く。

メサイア防衛隊も撃ち返した。

両側から放たれた光が再び宇宙を埋め、エターナルへ続く進路の前で激しく交差する。

 

「全機、エターナルの進路を開けろ!」

 

デュエルブリッツが先頭へ出る。

その後ろからジュール隊が続き、ドムトルーパーとムラサメが左右へ広がった。

残された防衛線へ向け、傷ついた機体群が再び加速した。

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地獄の氷叢さん家(作者:M.T.)(原作:僕のヒーローアカデミア)

地獄の轟くん家以上に地獄の氷叢分家の女の子がヒーローを目指すお話。▼燈矢くんや外典くんを見て、氷叢の血が濃くなりすぎた末路が気になって執筆した作品です。▼※注意▼・女主です。▼・お話の都合上、青山くんが出てきません。すまんな。▼・他作品のクロスオーバーをやり出す可能性があります。▼・オリ主の必殺技や一部設定のみ、以下のキャラの要素があります。▼ ・クザン(O…


総合評価:2152/評価:7.89/連載:75話/更新日時:2026年10月04日(日) 09:21 小説情報

善意の剥製(作者:タロットゼロ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

「あの子が持ち上げたのは法律じゃない。鉄の塊だ」▼九歳で奇跡を起こし。▼数カ月後に社会に疑われ。▼十四歳で、彼女は「完璧な淑女」として、かつて自分を捨てた世界を否定し始める。▼【警告】この物語に、救世主(ヒーロー)は現れません


総合評価:1430/評価:7.23/連載:32話/更新日時:2026年10月04日(日) 00:01 小説情報


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