機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

16 / 20
ミネルバの危機(前編)

深夜。

乗員達が眠りについた頃、警報が鳴り響いた。

 

所属不明機(ボギー)|を6つ確認、高速接近中!』

 

メイリンの声が艦内へ響く。

シンは顔をしかめた。

またか、そう思ったのは自分だけではないだろう。

ここ数日同じことが繰り返されていた。

敵影接近スクランブル。

そして空振り……。

だが、だからといって無視する訳にはいかない。

 

 

数分後。

インパルス、ブレイズザクファントム、ザクウォーリア、そしてセイバー。

ミネルバ隊は宇宙へ展開していた。

しかし今回も敵はいない。

 

『……反応消失』

『周辺空域に敵影を確認できません』

 

メイリンの報告が通信へ流れる。

シンは舌打ちした。

 

「またかよ……」

 

結局、その夜も何も起きなかった。

 

 

翌朝。

衝撃が艦体を揺らす。

 

――ドォンッ!!

 

警報と同時に振動、そして悲鳴。

食堂のトレーが宙へ跳ねた。

 

『左舷外部装甲損傷!』

『小規模爆発発生!』

『被害軽微!』

 

ブリッジが騒然となる。

タリアは即座に状況を確認した。

 

結果、艦体へ衝突したのはデブリ。

被害は大きくない。

だが、彼女は険しい顔を崩さなかった。

 

*****

 

艦長室。

タリアは記録を見つめていた。

昨夜、昨々夜、そして今朝。

全ての警報履歴。

一連の接近事案を考えても偶然とは思えない。

これは敵の攻撃の前兆とみて間違いないだろう。

だが既にこちらの位置を補足しているのなら、当然一気に押し寄せてくるはず。

何故来ないのか……あるいは――

 

「疲弊戦術か…?」

 

静かな声だった。

 

アーサーが顔を上げる。

 

「疲弊戦術……ですか?」

 

「敵を少しずつ疲弊し弱らせ、戦力を削る戦術だ。

 我々に警報を繰り返させ、スクランブルを強要する。

 休息を奪い、判断力を鈍らせる。つまりいやがらせ戦法よ」

 

タリアは窓の外を見た。視線の先には損傷し捲れあがった左舷の装甲版が見える。

 

「そして消耗したところを叩く」

 

アーサーは息を呑んだ。

 

「しかし何故そんな回りくどい真似を……」

「恐らく、敵はそこまでの戦力を保持していない。

 少なくともミネルバへ正面から挑み、勝てるだけの戦力はないのだろう」

 

 

少しだけ皮肉気な笑身を浮かべる。

 

「もし十分な戦力があるならこんな手間はかけない。

 最初から一気に畳みかけ仕掛けてくる」

 

そこまでを話し、タリアは即座に命令した。

 

「スクランブル要員を限定、待機班と休養班を分離する。出撃を最小限にしろ」

 

交代で休みストレスを緩和する。それは艦長として正しい判断だった。

そして、敵はそれを待っていた。

 

 

その日の夕刻。

ミネルバはデブリ帯へ進入する。

視界不良、センサー類も感度が低下する、奇襲には持って来いの場所だ。

当然警戒態勢も厳しくなる。

 

所属不明機(ボギー)|多数! 高速接近!』

 

メイリンが叫ぶ。

ブリッジの空気が張り詰める。

だが、タリアは冷静だった。

 

「第一待機班出撃」

『了解』

 

発進したのは2機。

 

ブレイズザクファントムとザクウォーリア。

レイとルナマリアだった。

 

しかし、2機がミネルバから離れた瞬間、メイリンの顔色が変わる。

 

「新たな熱源!」

 

誰もが振り向いた。

 

所属不明機(ボギー)|後方から数……14!」

「何だと……!?」

 

ブリッジが凍り付く。

 

敵は最初6機だけではなかった。

最初からこちらの戦力を分断するための囮だったのだ。

 

「くっ……スクランブル追加2機!」

「は、はい! インパルス、セイバー、緊急出撃(スクランブル)準備!」

 

迷いなくタリアは出撃指示を出す。

 

*****

 

宇宙空間。

ミネルバから通信を受けたレイもすぐ気付いた。

 

「罠か……!」

 

後方の14機のウィンダムが一斉に加速する。

 

「7時方向!」

 

ルナマリアの警告と同時にザクウォーリアが機体を傾ける。

直後にビームが肩口を掠めていった。

反撃で牽制する。

だが敵は引かない。

 

合計20機が二人を完成された包囲網を形成する。

モニターの端を埋め尽くす赤い光点を見て、ルナマリアは舌打ちした。

1機を狙えば別方向から攻撃。

そちらへ向けば距離を取る。

それでいて包囲だけは崩さない。

 

『落ち着け』

 

通信越しにレイの声が届く。

 

「分かってるわよ!」

 

そう言い返しながら再び回避機動。

個々の性能も練度もこちらが上。

だが数で押されてはどうしようもない。

時間が掛かれば掛かるほど集中力が削られていく。

 

「……嫌な予感しかしないわね」

『同感だ』

 

そして戦闘開始から僅か3分足らず。

明らかに動きが鈍くなってきた二人に、20機が一斉に攻撃態勢に入った。

 

 

緊急発進したインパルスとセイバーが交戦エリアへと急ぐ。

 

「ルナ! レイ!」

 

シンの声がコクピット内に響く。

しかし間に合わない。

20機のウィンダム隊は一気に二人の距離を詰めていた。

 

『くっ!』

『っ……!』

 

20機が一斉に撃ったビームライフルは一瞬戦艦の主砲並みに輝く。

 

回避コースすら見いだせない何束もの閃光。

だが、ブレイズザクファントム被弾、左腕損失、推進器損傷、姿勢制御低下――

そして、ザクウォーリア被弾、右脚損傷、武装損失、戦闘継続不能――

それでも二人は躱して見せた。

 

『くっそぉ!』

『二人とも下がれ!』

 

アスランが叫ぶ。

 

『ですが!』

『命令だ!』

 

有無を言わせぬアスランの怒鳴り声。

悔しそうに歯を食いしばりながら、2機はミネルバへ後退する。

 

だが敵は深追いしてこなかった。

目的は達したと。

厄介なMS隊4機のうち、2機を排除した。

それだけで十分だった。

 

「艦長!」

 

メイリンの悲鳴のような声。

 

『本艦6時方向から敵機(バンディット)|! 10機です!』

 

タリアの顔色が変わる。

 

「まだいたのか……!」

 

瞬く間にミネルバ周辺に10機のウィンダムが艦を包囲していた。

全てが機体がミネルバの艦橋へ銃口を向けている。

 

そしてオープン回線で通信が開かれた。

艦橋のメインモニターへ男の顔が映る。

 

『こちらは貴艦との交渉を要求する』

 

タリアは無言で睨み返した。

男は続ける。

 

『我々の要求は一つだ』

 

ブリッジが静まり返る。

 

『L-31をレギナントへ搭乗させた後、解放せよ』

 

誰も言葉を発しない。

男は淡々と続ける。

 

『制限時間は15分。要求に応じない場合、艦橋及び機関部に対して集中攻撃を行う』

 

そして一方的に通信が切れた。

重い沈黙だけが残る。

 

タリアは気づいた。

敵の狙いはミネルバを沈める事ではない。

L-31(セラ)を奪還することだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。