機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

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161.不屈の兵たち

ダイダロス基地の周辺では、いまだ激しい戦闘が続いていた。

 

エターナルを守るジュール隊は数で勝るザフト部隊を相手に踏みとどまっていたが、戦線は少しずつ押し込まれている。

1機を退けても、その後ろから次が来る。味方機の残弾も減り、損傷して後退する機体も増えていた。

 

「右から3機!」

「分かっている!」

 

イザークはデュエルを旋回させ、正面から迫ったザクの射撃をかわした。

撃ち返したビームが相手のライフルを破壊し、怯んだところを僚機が押し戻す。

 

撃墜はしない。

できる限り武器か脚を狙い、戦闘を続けられなくして退かせる。

 

だが、それにも限界があった。

 

「で、どうする?」

 

通信からディアッカの声が入った。

 

「何がだ!」

「分かってるだろ。このままじゃ先にこっちがもたない」

 

イザークは答えず、目の前の敵へ向き直った。

 

レクイエムを止めなければならない。

その判断自体に迷いはなかった。あれを放置していいはずがなく、本国にも同じ考えを持つ者はいる。

 

ならば、自分たちがここにいる理由はある。

 

それでも、今撃ち合っている相手もザフト兵だった。

 

部下も向こうで武器を構えている兵士も、こんなことで命を懸ける必要などない。

命令されたから戦っている者もいるだろう。その相手を、大義はこちらにあるのだからと撃ち落とす気にはなれなかった。

 

「ったく……面倒なことになったな」

「黙れディアッカ!」

 

怒鳴り返しながらも、イザーク自身が一番分かっていた。

 

退けばエターナルを見捨てることになる。

それだけはできない。

 

かといって、このまま味方同士で削り合い続けるのも違う。

 

何でもいい。

この戦闘を終わらせるきっかけさえあれば――。

 

その時、レーダーに高速で近づく反応が出た。

 

「上だ!」

 

イザークが顔を上げる。

 

直上から、1機のMSが落ちてくるように接近していた。

片腕を失い、脚部も大きく損傷している。自力でまともに飛べる状態ではない。

 

その背後で、ファトゥムの推進器が激しく光っていた。

 

「……アスランか!」

 

機体がどれほど壊れていても、それを見間違えることはなかった。

 

ジャスティスはファトゥムに押されるように戦場を抜け、エターナルの近くまでたどり着いた。

速度を落とした機体が大きく流れ、辛うじて姿勢を安定させる。

 

「イザーク!?」

 

通信に入ったアスランの声には、明らかな驚きがあった。

 

「どうしてお前がここに――」

「説明している暇があるか!」

 

イザークは正面から迫るザクへビームを撃ち、その武器を弾き飛ばした。

 

「動けるんだろう! だったら手を貸せ!」

「……ああ!」

 

理由を聞くのをやめ、アスランも残った機能を確認する。

まともな格闘戦などできる状態ではない。それでも機体は動き、残された武装もまだ使える。

 

「ディアッカ! そっちを押し返せ!」

「はいはい。やっと少しは楽になりそうだな」

 

ジャスティスがジュール隊の横へ並ぶ。

 

それだけで戦況が変わるわけではない。

それでもイザークには、止まりかけていたものが少しだけ動き始めたように思えた。

 

---

 

フリーダムの横を、ヒートクローが掠めていく。

 

キラは機体を捻って避け、そのまま上へ抜けようとした。

しかしレギナントもすぐに機首を上げ、逃がさないように追ってくる。

 

そこへ通信が入った。

 

「キラ君、聞こえる?」

 

マリューの声だった。

 

「……はい!」

「こちらはエターナルへ向けて移動中よ。キラ君もそこを離脱して、ダイダロスへ向かって」

「了解」

 

短く答え、キラは正面へ視線を戻した。

 

問題は、離脱できるかだった。

 

フリーダムが距離を取ろうとすれば、レギナントが追ってくる。

強引に振り切ろうとして加速すれば、その先へ射撃が飛び、進路を変えたところへ白い巨体が回り込んだ。

 

先ほどまでとは少し違う。

 

荒々しく前へ出るだけだった動きが、少しずつ元に戻り始めている。

無理に攻撃を押し込まず、キラが進もうとする方向を先に塞ぎ、こちらが動いた後にヒートクローを伸ばしてくる。

 

それでも、いつものセラとは違った。

 

攻撃を受けるたびに引くこともなく、フリーダムが離れようとすれば、すぐに距離を詰めてくる。

冷静さは戻り始めているのに、そこから感じる圧だけは弱くなっていなかった。

 

殺気としか思えないほど強い圧だった。

 

「……どうして、そこまで」

 

キラが呟いた直後、横から砲撃が飛んできた。

 

フリーダムは翼を閉じるように機体を傾け、ビームをかわす。

視線を向けると、離れた場所にブラストインパルスがいた。

 

右手と主推進器を失い、機動力は大きく落ちている。

それでもルナマリアは残った武装を使い、レギナントの動きを支えていた。

 

レギナントへ斬り込もうとすれば、インパルスから射撃が入る。

逆にインパルスへ機体を向けると、今度はレギナントの動きが変わった。

 

キラは試すようにライフルをインパルスへ向ける。

 

その瞬間、レギナントが一気に加速した。

 

「っ!」

 

ヒートクローが振り抜かれ、キラはライフルを引きながら後ろへ逃げる。

先ほどまでより踏み込みが深く、迷いもなかった。

 

フリーダムがインパルスから離れると、レギナントの追撃もわずかに緩む。

キラはそこで気づいた。

自分がインパルスへ意識を向けるたびに、セラの攻撃が激しくなっている。

インパルスを、仲間を狙わせたくない。

その感情がそのまま動きに出ているようだった。

キラはインパルスへの攻撃をやめ、再びレギナントへ向き直った。

 

2機を相手にしていても、まだ対応はできる。

インパルスとの間には技量の差があり、損傷したあの機体の射撃も見てから避けられる。

セラも本来の動きを取り戻しつつあるとはいえ、まだところどころに乱れが残っていた。

 

手加減しているわけではない。

それでも、殺さずに止めるという条件の中で戦う余裕はまだ残っている。

 

キラはレギナントの攻撃をかわし、空いた場所へライフルを撃った。

ビームがスカート装甲を掠め、白い破片が飛ぶ。

 

レギナントはそのまま前へ来る。

 

ヒートクローが伸びる前にキラは横へ抜け、振り返ってもう一射した。

セラは今度は機体を捻り、ビームを避ける。

 

その動きを見て、キラの目が細くなった。

 

やはり戻ってきている。

 

先ほどまでは受けても前へ出ていた。

今は避けられる攻撃は避け、そこから次の位置へ動こうとしている。

 

その方が本来のセラに近い。

 

だが、レギナントが急に揺れた。

キラは動きを止めず、距離を取る。

レギナントの反応が遅れている。

右へ姿勢を直そうとしたまま、機体がその場で止まりかけた。

 

「……?」

 

その隙は明らかだった。

 

---

 

セラの呼吸が止まった。

 

胸の奥から何かを一気に引き抜かれたような感覚が走り、視界の端が暗くなる。

操縦桿を握る指に力が入らない。

 

「っ……は……」

 

コクピットの表示が赤く染まっていた。

 

生体電池の残量が底を突いている。

 

これまで機体側で受けていた負荷が、一瞬で自分の身体へ返ってきた。

頭の奥が強く締め付けられ、手足の感覚まで遠くなる。

 

動かなければならない。

 

フリーダムを行かせてはいけない。

そう思っても、身体がついてこない。

 

呼吸をしようとして、ようやく短く空気を吸う。

その間にも正面のフリーダムが動いた。

 

狙われているのは左手。

分かっているのに、反応できない。

 

次の瞬間、レギナントの表示が一斉に変わった。

擦り切れた生体電池の数値が急速に戻り始める。

機体側へ力が戻るのと同時に、セラは大きく息を吸った。

 

「はっ……!」

 

身体の重さは消えない。

息もすでに上がっている。

 

それでも、レギナントは動く。

セラは操縦桿を押し込んだ。

 

---

 

キラはレギナントが止まった一瞬を逃さなかった。

 

ビームでは白鏡層に威力を削られる。

ビームサーベルで深く斬れば、またコクピットまで届く危険がある。

 

ならば、動きを止める場所だけを壊せばいい。

 

腰部のクスィフィアスを開く。

 

狙うのは胴体ではない。

レギナントの左腕だった。

 

ヒートクローを一つ使えなくすれば、その分だけ距離を作れる。

そこで戦闘を切り上げ、ダイダロスへ向かう。

 

照準が左腕へ重なる。

 

「これなら……!」

 

引き金へ指をかけた瞬間だった。

右肩に衝撃が走った。

 

「っ!?」

 

爆発がコクピットを揺らし、照準が大きく外れる。

発射されたレール砲の弾丸はレギナントの左腕を外れ、その横を通り過ぎていった。

 

フリーダムの右肩装甲が弾け、すでに傷ついていた部分が大きく崩れる。

 

何が起きたのか分からなかった。

 

警告表示が右後方を示す。

 

キラが振り向く。

 

そこに1基だけ、ドラグーンがいた。

 

「いつの間に……!」

 

セラがいつ展開したのか、まったく気づかなかった。

 

そのドラグーンは2射目を撃たず、位置を変えていく。

同時に正面のレギナントが再び加速した。

 

生体電池が戻っても、セラ自身の疲労まで消えたわけではなかった。

呼吸は荒く、身体には先ほどの負荷が残っている。

 

それでもルナを守るために前へ出る。

 

キラは傷ついた右肩を庇いながら機体を引いた。

 

レギナントのヒートクローが、その直前までフリーダムのいた場所を通り抜ける。

 

戦いはまだ終わらなかった。

 

---

 

ミネルバのブリッジでは、メイリンがレギナントの状態を追い続けていた。

 

主機関をはじめ、艦の多くの機能はすでに停止している。

それでもデュートリオンビーム発信機だけは生きていた。

 

「生体電池、また下がってる……」

 

モニターの数値が急速に減っていく。

 

メイリンはレギナントの位置を確認し、照射系統を操作した。

ミネルバから細い光が伸び、戦場にいるレギナントを捉える。

 

「充電開始。お願い……戻って」

 

減り切っていた数値が上がり始める。

 

これでレギナントは再び動ける。

クイーンズ・バイトを使えば、本来なら短時間で生体電池を使い切り、セラ自身へ大きな負荷がかかる。

 

今はそのたびに、メイリンがデュートリオンビームで充電していた。

 

ただし、戻るのは生体電池だけ。

モニターに出ているセラの身体状態は、少しずつ悪くなっている。

呼吸数は増え、脈拍も高いまま下がらない。

 

「セラ……もう身体が……」

 

それでもレギナントは戦い続けていた。

タリアも正面モニターでその様子を確認した後、アーサーへ顔を向ける。

 

「退艦状況は?」

 

アーサーはすぐには答えなかった。

 

「アーサー?」

「……艦長、その……」

 

言いにくそうに視線を逸らす。

タリアは眉を寄せた。

 

「何?」

「退艦が、進んでません」

「進んでいない?」

 

アーサーが観念したように報告を続ける。

 

「というより……退艦命令に従っている乗員がいません」

「……は?」

 

タリアは思わず聞き返した。

 

「機関班は補助系統の復旧を継続。整備班も格納庫と発進設備の復旧作業を続けています。医療班も負傷者を安全区画へ移したあと、そのまま艦内に残っています」

「退艦命令は伝わっているのよね?」

「全区画に通達済みです」

 

タリアはしばらく何も言えなかった。

 

「艦内回線を開いて」

「はい」

 

通信がつながる。

 

「こちら艦長。先ほど退艦を命じたはずです。本艦は戦闘可能な状態ではありません。残る必要はありません。直ちに――」

 

言い終える前に、複数の返答が飛んできた。

 

「機関区です。まだ補助系統を戻せます!」

「第二整備班、作業継続します。MS隊が戻ってくる場所までなくすわけにはいきません!」

「こっちはまだ動けます!」

「外じゃMS隊が戦ってるんですよ!」

「セラだってまだ戦ってるのに、俺たちだけ逃げられません!」

 

次々に入る声に、タリアは黙った。

どれもが命令を拒否する声であふれている。

 

艦長としてなら、もう一度強く命じるべきなのだろう。

この艦を失う判断はすでにしている。乗員の命を優先するなら、残らせる理由はない。

 

それでも、誰も持ち場を離れようとしなかった。

タリアは小さく息を吐き、額に手を当てた。

 

まったく、この艦の連中は。

 

呆れているのに、怒る気にはなれなかった。

彼らがなぜ残っているのか、自分にも分かってしまったからだ。

やがてタリアは苦笑し、艦内通信へ向き直る。

 

「……分かりました。退艦命令を撤回します」

 

ブリッジでアーサーが振り向いた。

 

「艦長?」

「ただし、残るからには勝手なことは許しません。全員、ダメージコントロールに集中。復旧が困難な危険区画には絶対に入らないこと。復旧できるところから確実に戻しなさい」

「了解!」

 

艦内のあちこちから返事が重なった。

タリアはその声を聞きながら、正面モニターへ視線を戻す。

そこでは傷ついたレギナントが、まだフリーダムを追っていた。

 

「メイリン。セラの状態を切らさないで」

「はい!」

 

メイリンは再びモニターへ向き直り、生体電池の残量を追う。

ミネルバの中では、止まったはずの機器を動かそうとする作業が再び続いていた。

 




都合により、明日の投稿は出来そうにないので、お休みします。
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