機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

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ミネルバの危機(後編1)

ミネルバ格納庫。

警報が鳴り響く中、整備員達は慌ただしく走り回っていた。

普段なら整備音だけが響く空間も、今は張り詰めた空気に支配されていた。

艦は敵部隊に包囲されている。

 

格納庫の中央部に配置された純白の機体、レギナント。

そのコックピットの中に、いつもと変わらない表情のセラが載っている。

閉じられた薄暗い空間。

セラは背中を見せるようにメインパネルに身を預ける。

 

「接続準備完了」

 

セラは小さく頷いた。

そこに恐怖も緊張もない。

まるで日課の作業を始めるようだった。

しかし、その場にいる全員が知っている。

これから行われるのは常軌を逸した行為だ。

 

モニター越しに見えるセラにメイリンは思わず唇を噛む。

あの日の言葉を思い出す。

 

『1本でも悲鳴を上げても不思議じゃない』

『失神してもおかしくない』

 

整備主任がそう言っていた。

その神経接続を、セラは当然のように行おうとしている。

 

カシャンカシャンという音と共にセラの背後から接続針が姿を現す。

まるで獲物を捕らえるための牙のようだった。

メイリンは顔を背けたくなる衝動を必死に耐えて見続ける。

セラは微動だにしない。ただ静かに前を見ていた。

 

一本目。

接続針が射出される。

 

――ズクッ。

 

その瞬間。

セラの肩が小さく、メイリンの心臓が大きく跳ねる。

だがセラは声を上げない。

 

「接続正常」

 

平然と告げる。

二本目。

 

――ズグッ。

 

今度は指先が強張った。

コンソールをつかむ手に僅かに力が入る。

それだけだった。

 

三本目。

 

四本目。

 

五本目。

 

秒間隔で次々と刺さっていく。

針が刺さるたびに身体が震えている。

それは痛みが確かに存在している証明。

そして痛みが落ち着く暇も与えられない。

見ている者全員にそれが伝わる。

だがセラはそれを必要な手順として受け入れる。

 

メイリンは一度だけ目を逸らした。

だがすぐに視線を戻す。

セラ本人は逃げられない。

ならば自分も見届けるべきだと思った。

最後の接続針が刺さる。

 

ビクッ。

 

今までで一番大きく身体が震えた。

それでも悲鳴は上がらない。

それを聞きたいわけじゃないが…。

でも、我慢しなくてもいいんだよと言ってあげたかった。

 

「神経接続率97%……普段よりも低めの同調率と評価します。

 ですが全システム正常。問題なし(オールグリーン)

 

モニターが次々と起動していく。

戦況予測。

敵配置。

軌道計算。

無数の情報が流れ始めた。

 

「作戦目標、ミネルバ周辺を包囲するウィンダム型MS10機」

 

一拍置く。

 

整備員達が顔を見合わせた。

報告しただけだった。

出撃ハッチが開く。

眩い光、宇宙空間が広がる。

 

「セラ」

 

呼び止める声でセラがモニターに目を向ける。

メイリンだった。

何を言えばいいのか分からない。

言葉が浮かんでこない。

 

だから。

 

「その……気を付けて」

 

結局それしか言えなかった。

数秒の沈黙。そしてセラは小さく頷く。

 

「了解しました」

 

それだけだった。

しかし何故か、その返答に少しだけ安心してしまう。

次の瞬間、レギナントが発進した。

 

 

*****

 

 

ミネルバ艦橋。

正面モニターには包囲するウィンダム隊が映し出されている。

その中央に純白の機体がゆっくりと姿を現した。

レギナント。

 

「要求を呑んだか」

 

予想より早い決断だった。と部隊長が安堵の息を吐く。

悪くない。

L-31を回収できれば任務の大半は達成だ。

後は艦橋か主機関に一撃を加え、追撃能力を奪えばいい。

通信回線を開く。

 

「各機、艦橋及び主機関への攻撃準備――」

 

そこまでだった。

 

レギナントの背部ユニットが展開する。

次の瞬間、5基のドラグーンが射出された。

 

「何……?」

 

隊長の顔から笑みが消えた。

 

3条の閃光。

艦橋前面を固めていた3機のウィンダムが同時に爆散する。

 

「なっ!?」

 

理解が追いつかない。

レギナントを敵に奪われたのか!?

これは想定外だ!

 

「全機! レギナントを攻撃しろ!」

 

隊長が仲間に命令を飛ばす。

即座に一斉にビームがレギナントに向かって放たれる。

しかし当たらない。1発たりとも掠りもしない。

 

あの機動、あの反応速度……見間違えるはずがない。

 

「神経接続されている……!?」

 

隊長が呻く。

認めない。認めてはならない。

しかし目の前の現実は違う。

 

「L-31が反乱した! 何としても撃ち落とせ!」

 

何ということだ。最高機密の塊であるパイロット自身が敵の手に落ちたなんて!

 

雨のようにビームやミサイルが飛んでくる中、レギナントはその隙間を縫うように舞う。

 

右へ、左へ、上へ、下へ―――

 

その姿はあまりにも優雅だった。

失われた左部スカート装甲。

そこから覗く脚部フレーム。

さらに奥で輝く推進ユニットの青白い光。

 

傷付いた機体のはずだった。

だが、その損傷さえ美しく見える。

純白の装甲が宇宙の光を反射する。

青白い推進光が尾を引く。

それはまるで、白妙の女王(White Reginant)|が戦場で舞っているかのように。

 

 

閃光。

また1機。

さらに1機。

合計5機目が爆散する。

 

包囲陣形は完全に崩壊した。

その瞬間、タリアの声が艦橋へ響く。

 

「CIWS全門開放! 近接目標を排除しろ!」

 

瞬間、ミネルバ全身の機関砲が出番を待っていたかのように一斉に火を吹いた。

無数の曳光弾が宇宙空間へ広がる。

巨大な獣が身体を震わせ、まとわりつく羽虫を追い払うかのように。

残存するウィンダム達は慌てて散開した。

 

「隊形維持不能!」

「包囲崩壊!」

 

報告が飛び交う。

隊長は歯噛みした。

このままでは各個撃破される。

 

「こちら包囲隊!」

 

通信回線を開く。

 

「L-31が反乱! レギナント健在! そちらと合流する!」

『なんだと! 間違いな――』

 

悠長に通信などしている暇はない。

反転する隊長機。

生き残った機体も次々と後退を開始する。

 

そして、レギナントもまた。

何も言わず、何の感情も見せず。

ただ当然のように、その後を追って加速を開始した。

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