機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

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ミネルバの危機(後編2)

宇宙空間。

インパルスのビームライフルが火を吹く。

閃光が一機のウィンダムの真横をかすめていく。

 

「チッ!」

 

シンの表情は晴れない。

次の瞬間には別方向からビームが飛来する。

 

機体を捻って回避。

さらに回避。

再び回避。

攻撃する暇などない。

 

「まだいるのかよ!」

 

レーダーには無数の敵影。

20機。

それもただ数が多いだけではない。

相手も理解しているのだ。

自分達に勝つ必要はない、足を止めさせればいい、時間を稼げばいいと。

だから執拗だった。

 

包囲と牽制と離脱、そして再包囲。

撃ち落とされる事を前提にしたような動き。

だが時間を少しでも奪い去る戦法。

 

シンが1機を撃墜する。

その瞬間には別の2機が死角へ回り込んでいる。

 

「くそっ!」

 

ビームサーベルを抜く。

接近してきた1機を両断。

だが次の敵が来る。

 

終わらない。

終わりが見えてこない。

 

 

一方、セイバーもまた敵陣の中にいた。

アスランは冷静だった。

だが余裕はない。

 

既に状況は把握している。

敵の目的は撃破ではない。

拘束だ。

 

そしてそれは成功している。

 

「嫌な手だな……」

 

呟く数機落としても状況が変わらない。

常に一定数の敵が周囲にいる。

まるで沼だ。

足を取られ続ける。

しかもミネルバとの距離は徐々に開いている。

 

嫌な予感が消えない。

タリアなら何とかしているはずだ。

そう信じたい。

だが……信じるしかない状況そのものが危険だった。

 

*****

 

その頃。

敵の隊長は満足していた。

想定以上に上手くいっている。

インパルスとセイバー。

どちらも強い、まともに相手にしては勝ち目がない。

だがそんな事は関係ない。勝つ必要がないのだから。

時間を稼げばいいのだ。それだけで。

その時だった。

 

『こちら包囲隊!』

 

通信が飛び込んでくる。

 

『L-31が反乱!』

 

隊長の表情が固まる。

 

「何だと?」

 

『レギナント健在! 拘束隊と合流する!』

「それは間違いないのか!?」

 

通信は切られていた。

突然の連絡に一瞬、理解が追いつかない。

だが次の瞬間、背筋を冷たいものが走る。

 

L-31が反乱、レギナント健在。

その意味するところは一つだった。

 

「全機警戒!」

 

叫ぶ。

 

「レギナントが来る!」

 

 

不意にシンが異変に気付く。

遠方に純白の機影。

 

「……あれはセラ?」

 

レギナント。

間違いない。

だが次の瞬間。

ドラグーンが射出された。

 

赤い光が1本、2本、3本――

いや違う。

赤色の糸が無数に宇宙空間へ広がっていく。

 

「何だ?」

 

シンが眉をひそめる。

一瞬、自分達を狙われたのかと思った。

アスランも同じだ。

だが違う、攻撃ではない。

もっと別の何か。

そして、敵の反応が変わった。

 

『離れろ!』

『距離を取れ!』

『散開するぞ!』

 

敵のウィンダム隊が慌て始める。

シンはその理由が分からない。

しかし、敵は知っていた。

これはレギナントの空間支配。

死の領域。

一度展開を許せば終わる。

だから逃げようとする。

だが、遅い。

既にドラグーンは配置を終えている。

もう、逃げ場はない。

 

敵隊長は歯を食いしばった。

 

「各機散開! 散開ッ!」

 

通信機に向かって怒鳴る。

だが何かがおかしい。

隊形が組めない。

味方同士が邪魔をする。

死角が増える。

射線が重なる。

何故だ。

何故そうなる。

頭では理解している筈だ。

だが感覚がついてこない。

この空間そのものが敵だということに。

 

シンはまだ気付いていなかった。

だが確かに感じていた。

動きやすい。

敵が見える。

狙える。

そして…撃てる。

 

「もらった!」

 

1機撃墜。

続けてもう1機。

さらに1機。

 

「何だよこれ!」

 

思わず笑う。

さっきまでの苦戦が嘘のようだった。

 

アスランも同じだった。

敵の動きが読める。

違う……敵がそこへ追い込まれている。

猟犬に追い立てられたウサギのように。

なぜ突然――

 

レギナント(セラ)か……」

 

小さく呟き、そしてセイバーを加速させる。

閃光と爆発。

また1機。

 

戦況は逆転していた。

完全に。

先ほどまで20機以上いたウィンダム隊が次々と撃墜されていく。

逃げることもできない。

包囲もできない。

もはや戦闘ではない。完全に狩りだ。

 

敵隊長は悟る。

我々は負けたのだと。

最早、撤退も不可能。

生還も難しい。

 

ならば……せめて――

 

「刺し違えてでも、L-31を落とす!」

 

叫ぶ。

推進器全開。

自らレギナントへ突撃する。

 

 

その動きを最初に見つけたのはシンだった。

 

「待て!」

 

一瞬反応が遅れ、撃ったビームが敵を掠めていく。

アスランも気付くが距離が遠すぎた。

レギナントに向かって一直線にウィンダムが突進する。

間に合わない。

 

セラは静かに敵機を見ていた。

接近速度、軌道、距離。

全て計算済み。

 

「敵機、射程内(よそくどおり)

 

小さく呟く。

ビームスプレーガンを構えて撃つ。

たった一発。それだけだった。

ウィンダムの推進ユニット正確に撃ち抜いた。

戦場に残る敵影が消失

 

「終わった……のか?」

 

シンが呟く。

 

「らしいな」

 

アスランが答える。

その視線の先。

純白のレギナントが静かに浮かんでいた。

まるで最初から何事もなかったかのように。

 

通信回線が開く。

 

『敵機全滅を確認――あ』

 

セラだった。ただレギナントの視線の先はシン達ではなく――

 

――ドオオオォン…

 

爆発音、そこには先ほどセラが撃ち落とした敵のMS。

それが味方機の残骸に激突して炎上していた。

 

それだけ。

本当にそれだけだった。

シンは思わず顔をしかめる。

 

「最後のあれ、俺が落とそうと思ってたのに……」

『奇遇だな、俺もだ』

 

アスランも珍しく同意した。

数秒の沈黙。

 

『……戦闘終了と判断します』

 

戦果――

 インパルス シン、ウィンダム12機

 セイバー アスラン ウィンダム12機

 レギナント L-31 セラ ウィンダム6機

 

数値だけを見れば、セラの二人とでは倍の差がある。

だが二人は正しく理解している。

この戦果の功労者は間違いなく彼女だ。

 

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