機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~ 作:割戸三葉
宇宙空間。
インパルスのビームライフルが火を吹く。
閃光が一機のウィンダムの真横をかすめていく。
「チッ!」
シンの表情は晴れない。
次の瞬間には別方向からビームが飛来する。
機体を捻って回避。
さらに回避。
再び回避。
攻撃する暇などない。
「まだいるのかよ!」
レーダーには無数の敵影。
20機。
それもただ数が多いだけではない。
相手も理解しているのだ。
自分達に勝つ必要はない、足を止めさせればいい、時間を稼げばいいと。
だから執拗だった。
包囲と牽制と離脱、そして再包囲。
撃ち落とされる事を前提にしたような動き。
だが時間を少しでも奪い去る戦法。
シンが1機を撃墜する。
その瞬間には別の2機が死角へ回り込んでいる。
「くそっ!」
ビームサーベルを抜く。
接近してきた1機を両断。
だが次の敵が来る。
終わらない。
終わりが見えてこない。
一方、セイバーもまた敵陣の中にいた。
アスランは冷静だった。
だが余裕はない。
既に状況は把握している。
敵の目的は撃破ではない。
拘束だ。
そしてそれは成功している。
「嫌な手だな……」
呟く数機落としても状況が変わらない。
常に一定数の敵が周囲にいる。
まるで沼だ。
足を取られ続ける。
しかもミネルバとの距離は徐々に開いている。
嫌な予感が消えない。
タリアなら何とかしているはずだ。
そう信じたい。
だが……信じるしかない状況そのものが危険だった。
*****
その頃。
敵の隊長は満足していた。
想定以上に上手くいっている。
インパルスとセイバー。
どちらも強い、まともに相手にしては勝ち目がない。
だがそんな事は関係ない。勝つ必要がないのだから。
時間を稼げばいいのだ。それだけで。
その時だった。
『こちら包囲隊!』
通信が飛び込んでくる。
『L-31が反乱!』
隊長の表情が固まる。
「何だと?」
『レギナント健在! 拘束隊と合流する!』
「それは間違いないのか!?」
通信は切られていた。
突然の連絡に一瞬、理解が追いつかない。
だが次の瞬間、背筋を冷たいものが走る。
L-31が反乱、レギナント健在。
その意味するところは一つだった。
「全機警戒!」
叫ぶ。
「レギナントが来る!」
不意にシンが異変に気付く。
遠方に純白の機影。
「……あれはセラ?」
レギナント。
間違いない。
だが次の瞬間。
ドラグーンが射出された。
赤い光が1本、2本、3本――
いや違う。
赤色の糸が無数に宇宙空間へ広がっていく。
「何だ?」
シンが眉をひそめる。
一瞬、自分達を狙われたのかと思った。
アスランも同じだ。
だが違う、攻撃ではない。
もっと別の何か。
そして、敵の反応が変わった。
『離れろ!』
『距離を取れ!』
『散開するぞ!』
敵のウィンダム隊が慌て始める。
シンはその理由が分からない。
しかし、敵は知っていた。
これはレギナントの空間支配。
死の領域。
一度展開を許せば終わる。
だから逃げようとする。
だが、遅い。
既にドラグーンは配置を終えている。
もう、逃げ場はない。
敵隊長は歯を食いしばった。
「各機散開! 散開ッ!」
通信機に向かって怒鳴る。
だが何かがおかしい。
隊形が組めない。
味方同士が邪魔をする。
死角が増える。
射線が重なる。
何故だ。
何故そうなる。
頭では理解している筈だ。
だが感覚がついてこない。
この空間そのものが敵だということに。
シンはまだ気付いていなかった。
だが確かに感じていた。
動きやすい。
敵が見える。
狙える。
そして…撃てる。
「もらった!」
1機撃墜。
続けてもう1機。
さらに1機。
「何だよこれ!」
思わず笑う。
さっきまでの苦戦が嘘のようだった。
アスランも同じだった。
敵の動きが読める。
違う……敵がそこへ追い込まれている。
猟犬に追い立てられたウサギのように。
なぜ突然――
「
小さく呟き、そしてセイバーを加速させる。
閃光と爆発。
また1機。
戦況は逆転していた。
完全に。
先ほどまで20機以上いたウィンダム隊が次々と撃墜されていく。
逃げることもできない。
包囲もできない。
もはや戦闘ではない。完全に狩りだ。
敵隊長は悟る。
我々は負けたのだと。
最早、撤退も不可能。
生還も難しい。
ならば……せめて――
「刺し違えてでも、L-31を落とす!」
叫ぶ。
推進器全開。
自らレギナントへ突撃する。
その動きを最初に見つけたのはシンだった。
「待て!」
一瞬反応が遅れ、撃ったビームが敵を掠めていく。
アスランも気付くが距離が遠すぎた。
レギナントに向かって一直線にウィンダムが突進する。
間に合わない。
セラは静かに敵機を見ていた。
接近速度、軌道、距離。
全て計算済み。
「敵機、
小さく呟く。
ビームスプレーガンを構えて撃つ。
たった一発。それだけだった。
ウィンダムの推進ユニット正確に撃ち抜いた。
戦場に残る敵影が消失
「終わった……のか?」
シンが呟く。
「らしいな」
アスランが答える。
その視線の先。
純白のレギナントが静かに浮かんでいた。
まるで最初から何事もなかったかのように。
通信回線が開く。
『敵機全滅を確認――あ』
セラだった。ただレギナントの視線の先はシン達ではなく――
――ドオオオォン…
爆発音、そこには先ほどセラが撃ち落とした敵のMS。
それが味方機の残骸に激突して炎上していた。
それだけ。
本当にそれだけだった。
シンは思わず顔をしかめる。
「最後のあれ、俺が落とそうと思ってたのに……」
『奇遇だな、俺もだ』
アスランも珍しく同意した。
数秒の沈黙。
『……戦闘終了と判断します』
戦果――
インパルス シン、ウィンダム12機
セイバー アスラン ウィンダム12機
レギナント L-31 セラ ウィンダム6機
数値だけを見れば、セラの二人とでは倍の差がある。
だが二人は正しく理解している。
この戦果の功労者は間違いなく彼女だ。