機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

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02.白い女王

インパルスとブレイズザクファントムは、所属不明艦へ向けてゆっくりと接近していた。

周囲に戦闘兆候はない。

熱源も最低限。

見た目だけなら、ただの旧式輸送艦だった。

 

「……やっぱ普通の輸送船じゃないのか?」

 

シンが軽く機体を傾けながら呟く。

 

『どうだろうな。だがこういう連中は珍しくない』

 

レイの声は相変わらず落ち着いていた。

 

『違法輸送か、密航屋か……その辺りだろう』

 

シンも小さく肩を竦める。

実際、こういう任務は初めてではない。

所属不明艦、非合法輸送船、無断航行を繰り返す艦。

どれも珍しい話じゃなかった。

だが大抵の場合、武装解除を要求すれば終わる。

抵抗するにしても小火器程度。

せいぜい武装した無法者(チンピラ)が出てくるくらいだ。

だからこの時点で、シン達は最低限の警戒しかしていなかった。

 

『所属不明艦へ再通達』

 

ミネルバからタリアの声が入る。

 

『武装解除及び停船を要求する。――応じない場合、強制臨検へ移行する』

 

だが――返答はない。

そのまま輸送艦は進み続ける。

 

「感じ悪ぃな……」

 

シンがぼやく。

その時だった。

輸送艦側面装甲がゆっくりと展開する。

 

『……! MSハッチ開放確認』

 

レイが即座に反応する。

 

次の瞬間、白い機体が静かに宇宙へ滑り出した。

シンが思わず目を細める。

 

「白い……MS?」

 

現れた機体は異様だった。

細く女性的な大型MS。

腰部から広がる純白の大型スカート装甲が、暗い宇宙空間の中で異様な存在感を放っている。

その姿はまるで――宇宙空間へ舞い降りた白い女王。

 

『新型機……?』

 

珍しくレイの声にも僅かな警戒が混じる。

シンも自然と機体の姿勢を整える。

 

だがまだ、この時点では「敵性機体」という感覚はない。

所属不明艦が護衛MSを出してきた。

それだけだ。

 

「ミネルバ、所属不明機(ボギー)を確認」

『こちらでも確認している』

 

タリアの声が返る。

 

『両機は警戒を維持。先制攻撃は禁止』

「了解」

 

白い機体は動かない。

ただ静かに宙域へ浮かんでいる。

それでも不思議な威圧感があった。

 

その背後、大型スカート装甲が僅かに開く。

次の瞬間――八つの白い光が宇宙へ解き放たれた。

 

「ドラグーン!?」

 

シンが目を見開く。

小型機群は高機動で散開すると、インパルスとザクを囲むように停止する。

 

『オールレンジ兵器か……!』

 

レイが即座に距離を取る。

だが、ドラグーンは撃ってこない。

代わりに細い赤色レーザーが宇宙空間へ走った。

 

1本、2本、3本…。

まるで空間そのものへ線を描くように。

 

「なんだ……?」

 

シンが眉を寄せる。

次の瞬間だった。

インパルスが僅かに進路を変え、赤線へ機体が触れた瞬間。

ドラグーンが閃いた。

 

「っ!?」

 

高出力ビームがインパルス脇を掠める。

 

シンは反射的に回避機動へ入る。

 

だが、避けた先にも赤線。

さらに別方向からビーム。

 

「うおっ!?」

 

爆光が視界を埋める。

インパルスが強制的に回避方向を変えさせられる。

 

『シン!』

 

レイが援護射撃を放つ。だが白い機体は動かない。

 

代わりに赤線だけが増えていく。

シンはようやく理解し始める。

 

「こいつ……!」

『攻撃で…動かされてる!?』

 

どこへ避けても、そこへ火線が置かれ。

まるで逃げ道そのものを誘導されている…。

しかもドラグーンは最低限しか撃っていない。

なのに動けない――

 

「なんだよこれ……!」

 

この時、オープン回線が開いた。

 

『警告します』

 

少女の声だった。

シンが一瞬だけ動きを止める。

幼い…あまりにも幼い声。

 

『貴機および貴艦は進路を変えるか、本艦がこの宙域を離脱するまで減速または停止してください』

『本艦は貴艦からの追跡及び接触行為に対して拒否の意を示します』

『警告が聞き入れらない場合、本機は全力でその行動を阻止します』

『繰り返します。貴機および貴艦は――』

 

「……は?」

 

シンの眉が歪む。

反射的にスロットルを緩める。

インパルスがわずかに減速した。

 

子供の声。

だが、まるで機械が定型文を読み上げているようだった。

 

「なんだよ……その喋り方」

『まて……下手に刺激するな』

 

レイの意見にシンも賛成する。

だがまだ撃ち合いは本格化していない。

相手もまだ“警告”と言っている。

ならこちらも不用意に刺激するべきではない。

 

シンはインパルスの推力をさらに落とし、進路を調整する。

輸送艦正面ではなく、側面方向へ回り込むように移動を始めた。

 

「レイ、俺が横から見る」

『無茶はするな』

「分かってるよ」

 

その瞬間、赤線が動いた。

インパルスの進行方向へ、先回りするように。

 

「……!」

 

シンが機体を止める。

すると赤線も止まる。

 

再び横へ移動。

するとまた赤線が滑るように進路を塞ぐ。

 

『接近継続を確認、クイーンズ・ウェブを維持します』

 

直後、複数のドラグーンが位置を変える。

赤線が一気に増殖した。

 

「っ!?」

 

インパルス周囲を、無数の赤い線が囲む。

 

前方、右、上、そして下。

どこへ動いても必ず線がある。

 

その瞬間、シンは気付く。

コイツは、こちらが“艦へ近づく動き”をした瞬間だけ、火線を増やしている。

 

つまり最初から狙いは明確だった。

 

「艦を守ってるのか……!」

 

その直後、インパルスがわずかに前進する。

赤線接触――即座にビーム

 

「くっ!」

 

シンは機体を捻る。

だが避けた先にも次の赤線。

さらに別方向から射撃。

 

火線、火線、火線。

 

回避する度に、次の回避先が消えていく。

 

『シン、無理に突っ込むな!』

 

レイが叫ぶ。

 

『こいつ、こちらの機動を読んでいる!』

 

その直後、インパルスの左肩をビームが掠めた。

警告音、火花、衝撃。

 

シンの表情が変わる。

今ので分かった。

これはただの護衛機じゃない。

そして違法輸送でも、無法者(チンピラ)でもない。

 

「……じゃあなんなんだよ、こいつは」

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