機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~ 作:割戸三葉
ミネルバの会議室には、重い空気が沈んでいた。
席についているのは、タリア、アーサー、アスラン、レイ、そしてルナマリアだった。シンとメイリンはいない。
タリアは卓上の端末に視線を落としていた。表示されているのは、先日の戦闘記録。アフリカ南端を迂回する航路上で、敵が正確にミネルバを捕捉した記録だった。
「確認しておきたいことがあります」
タリアの声に、3人の表情が引き締まる。
「セラの行動に、不審な点はありませんでしたか。艦内の情報を探るような会話、あるいはレギナント内での不明な作業など」
最初に反応したのはルナマリアだった。
「不審な点、ですか」
少し考え、眉を寄せる。
「正直、いつも不審です」
アーサーが言葉に詰まった。
「会話も変ですし、こっちが心配しても効率とか合理性とかで返してきます。放っておくと一日中レギナントの中にいますし、最近は引きずり出すのが日課です」
タリアは額に指を当てた。アーサーも、何とも言えない顔をしている。
「では、艦内を探るような行動は?」
「それは……ないと思います」
ルナマリアの声は、今度ははっきりしていた。
「あの子、変なことはしますけど、隠し事が上手いタイプには見えません。何か企んでるなら、たぶんもっと分かりやすく変になります」
アスランがタリアを見る。
「メイリンなら、もっと詳しく聞けるのでは?」
タリアは一瞬だけ沈黙した。
「シンは感覚で人を信じるところがあります。メイリンは、セラに近すぎる。2人とも、正確な評価ができない可能性があります」
その言葉で、場の意味が変わった。
アスランの表情が硬くなる。ルナマリアも息を呑んだ。
「艦長、それは……」
セラが疑われている。
口に出さなくても、全員が理解した。
だが、その空気に待ったをかけたのはレイだった。
「可能性は否定できません」
静かな声だった。
「ですが、これまでの言動から見て、セラが故意に情報を流しているとは考えにくい」
ルナマリアがレイを見る。レイは表情を変えない。
「彼女は隠すことに向いていません。命令されれば従う可能性はありますが、少なくとも自発的な裏切りとは異なるはずです」
タリアはレイを見つめ、やがて小さく頷いた。
「分かりました。現時点では断定しません」
ただし、と彼女は続ける。
「この件は他言無用です。セラには普段通り接してください。ただし、違和感があれば報告を」
「了解しました」
アスランが答え、レイも頷く。
ルナマリアは少しだけ納得しきれない顔をしたが、最後には短く返した。
「……了解です」
*****
訓練室では、まるで別の時間が流れていた。
シミュレーターの端末前には、ヨウランとヴィーノが張り付いている。セラは操縦席に座り、神経接続補助ユニット経由で入力信号の解析を続けていた。
そこへシンがやってくる。
「なあ、模擬戦できるのか?」
ヨウランが顔を上げる。
「できるけど、今は信号解析中だぞ」
「この前の
シンはシミュレーターを指した。
「1回だけでいい。相手してくれ」
セラは端末の表示を確認した。
「模擬戦闘による入力負荷データ取得は可能」
「ほら、いいってさ」
「いいとは言ってねぇよな、今の」
ヴィーノが呟いた時、訓練室の扉が開いた。
「セラ、ここにいたんだ」
非番のメイリンだった。シンを見て、すぐに状況を察する。
「また何か始めようとしてる……」
数分後、シミュレーター内で模擬戦が始まった。
結果は一方的だった。
シンのインパルスは何度も接近を試みる。だが、セラのレギナントはその進路を先に潰した。逃げ道を残しているように見えて、その先には次の射線が置かれている。
「くそっ!」
シンが機体を切り返す。
だが次の瞬間、警告音が鳴った。
撃墜判定。
シンはシートにもたれ、悔しそうに息を吐く。
「もう1回だ」
「今ので5回目だぞ」
ヴィーノが呆れる。
セラはシミュレーターから降りず、淡々とログを確認していた。
「シン」
「何だよ」
「本気での再戦を要求します」
訓練室が静まった。
シンが目を丸くする。
「……は?」
「シンは以前の戦闘で、
ヨウランとヴィーノが同時に顔を上げた。メイリンも驚いたようにシンを見る。
一番驚いていたのは、シンだった。
「俺が……あれを?」
「記録あり。再現を希望」
それは褒め言葉ではなかった。
ただの事実確認であり、戦闘データの要求だった。
それでも、シンの目に火がついた。
「だったら、もう1回だ!」
彼は再びシートに座る。
「今度は抜いてやる」
セラは短く答えた。
「試験再開」
シミュレーターが再起動する。
メイリンは少し困ったように笑い、ヨウランは端末を叩きながら身を乗り出した。
訓練室には、何度も撃墜判定の警告音とシンの叫び声が響く。
それでも、シンは立ち上がった。
神経接続補助ユニット3号 機能紹介
正式名称 神経接続補助ユニット3号
通称 小判ちゃん3号
目的 直接神経接続による痛み、炎症、身体負荷を軽減しつつ、レギナントを実戦投入可能にする
基本構造 複数箇所から神経信号を取得する湿布型補助ユニット
肌に直接貼り付ける湿布型パッドを複数使用し、神経信号を分散取得する
6本単位に分けることで信号の潰れと遅延を抑える
稼働時間 およそ8分45秒
性能比較 直接神経接続の場合、機体の約37%の性能を引き出すことが可能。
代償に激痛を伴い使用後は患部に炎症を引き起こす。
神経接続補助ユニット3号を使用時、痛み炎症を引き起こすことなく
レギナントを運用が可能。
ただし起動直後より向上する性能がダウンし、開始直後で30%、
開始から4分経過で22%、開始から8分経過で10%まで低下。
それ以上使用するとレギナントの操縦自体に支障が出る。
ヨウランからひと言
コバンザメが由来らしいぜ……。