機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

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30.疑惑の外側

ミネルバの会議室には、重い空気が沈んでいた。

 

席についているのは、タリア、アーサー、アスラン、レイ、そしてルナマリアだった。シンとメイリンはいない。

 

タリアは卓上の端末に視線を落としていた。表示されているのは、先日の戦闘記録。アフリカ南端を迂回する航路上で、敵が正確にミネルバを捕捉した記録だった。

 

「確認しておきたいことがあります」

 

タリアの声に、3人の表情が引き締まる。

 

「セラの行動に、不審な点はありませんでしたか。艦内の情報を探るような会話、あるいはレギナント内での不明な作業など」

 

最初に反応したのはルナマリアだった。

 

「不審な点、ですか」

 

少し考え、眉を寄せる。

 

「正直、いつも不審です」

 

アーサーが言葉に詰まった。

 

「会話も変ですし、こっちが心配しても効率とか合理性とかで返してきます。放っておくと一日中レギナントの中にいますし、最近は引きずり出すのが日課です」

 

タリアは額に指を当てた。アーサーも、何とも言えない顔をしている。

 

「では、艦内を探るような行動は?」

「それは……ないと思います」

 

ルナマリアの声は、今度ははっきりしていた。

 

「あの子、変なことはしますけど、隠し事が上手いタイプには見えません。何か企んでるなら、たぶんもっと分かりやすく変になります」

 

アスランがタリアを見る。

 

「メイリンなら、もっと詳しく聞けるのでは?」

 

タリアは一瞬だけ沈黙した。

 

「シンは感覚で人を信じるところがあります。メイリンは、セラに近すぎる。2人とも、正確な評価ができない可能性があります」

 

その言葉で、場の意味が変わった。

 

アスランの表情が硬くなる。ルナマリアも息を呑んだ。

 

「艦長、それは……」

 

セラが疑われている。

 

口に出さなくても、全員が理解した。

 

だが、その空気に待ったをかけたのはレイだった。

 

「可能性は否定できません」

 

静かな声だった。

 

「ですが、これまでの言動から見て、セラが故意に情報を流しているとは考えにくい」

 

ルナマリアがレイを見る。レイは表情を変えない。

 

「彼女は隠すことに向いていません。命令されれば従う可能性はありますが、少なくとも自発的な裏切りとは異なるはずです」

 

タリアはレイを見つめ、やがて小さく頷いた。

 

「分かりました。現時点では断定しません」

 

ただし、と彼女は続ける。

 

「この件は他言無用です。セラには普段通り接してください。ただし、違和感があれば報告を」

「了解しました」

 

アスランが答え、レイも頷く。

 

ルナマリアは少しだけ納得しきれない顔をしたが、最後には短く返した。

 

「……了解です」

 

*****

 

訓練室では、まるで別の時間が流れていた。

 

シミュレーターの端末前には、ヨウランとヴィーノが張り付いている。セラは操縦席に座り、神経接続補助ユニット経由で入力信号の解析を続けていた。

 

そこへシンがやってくる。

 

「なあ、模擬戦できるのか?」

 

ヨウランが顔を上げる。

 

「できるけど、今は信号解析中だぞ」

「この前の空間支配(クイーンズ・ウェブ)、あれ見たら気になるだろ」

 

シンはシミュレーターを指した。

 

「1回だけでいい。相手してくれ」

 

セラは端末の表示を確認した。

 

「模擬戦闘による入力負荷データ取得は可能」

「ほら、いいってさ」

「いいとは言ってねぇよな、今の」

 

ヴィーノが呟いた時、訓練室の扉が開いた。

 

「セラ、ここにいたんだ」

 

非番のメイリンだった。シンを見て、すぐに状況を察する。

 

「また何か始めようとしてる……」

 

数分後、シミュレーター内で模擬戦が始まった。

 

結果は一方的だった。

 

シンのインパルスは何度も接近を試みる。だが、セラのレギナントはその進路を先に潰した。逃げ道を残しているように見えて、その先には次の射線が置かれている。

 

「くそっ!」

 

シンが機体を切り返す。

 

だが次の瞬間、警告音が鳴った。

 

撃墜判定。

 

シンはシートにもたれ、悔しそうに息を吐く。

 

「もう1回だ」

「今ので5回目だぞ」

 

ヴィーノが呆れる。

 

セラはシミュレーターから降りず、淡々とログを確認していた。

 

「シン」

「何だよ」

「本気での再戦を要求します」

 

訓練室が静まった。

 

シンが目を丸くする。

 

「……は?」

 

「シンは以前の戦闘で、空間支配(クイーンズ・ウェブ)を突破しています。現在の機動はその水準に未達と評価します」

 

ヨウランとヴィーノが同時に顔を上げた。メイリンも驚いたようにシンを見る。

 

一番驚いていたのは、シンだった。

 

「俺が……あれを?」

「記録あり。再現を希望」

 

それは褒め言葉ではなかった。

 

ただの事実確認であり、戦闘データの要求だった。

 

それでも、シンの目に火がついた。

 

「だったら、もう1回だ!」

 

彼は再びシートに座る。

 

「今度は抜いてやる」

 

セラは短く答えた。

 

「試験再開」

 

シミュレーターが再起動する。

 

メイリンは少し困ったように笑い、ヨウランは端末を叩きながら身を乗り出した。

 

訓練室には、何度も撃墜判定の警告音とシンの叫び声が響く。

 

それでも、シンは立ち上がった。

 




神経接続補助ユニット3号 機能紹介

正式名称 神経接続補助ユニット3号
通称   小判ちゃん3号
目的   直接神経接続による痛み、炎症、身体負荷を軽減しつつ、レギナントを実戦投入可能にする
基本構造 複数箇所から神経信号を取得する湿布型補助ユニット
     肌に直接貼り付ける湿布型パッドを複数使用し、神経信号を分散取得する
     6本単位に分けることで信号の潰れと遅延を抑える
稼働時間 およそ8分45秒
性能比較 直接神経接続の場合、機体の約37%の性能を引き出すことが可能。
     代償に激痛を伴い使用後は患部に炎症を引き起こす。
     神経接続補助ユニット3号を使用時、痛み炎症を引き起こすことなく
     レギナントを運用が可能。
     ただし起動直後より向上する性能がダウンし、開始直後で30%、
     開始から4分経過で22%、開始から8分経過で10%まで低下。
     それ以上使用するとレギナントの操縦自体に支障が出る。
ヨウランからひと言
     コバンザメが由来らしいぜ……。
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