機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

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43.二重の主攻

裂け目は、広がり始めていた。

 

ジブラルタル東側防衛線。

ジュール隊とミネルバ隊が戦線へ入ったことで、黒い小隊の突進は一度鈍った。

だが、止まったわけではない。

 

海岸線、岩場、補給道路。

3つに分かれた未確認MS群は、それぞれ別の角度から基地外縁へ圧力をかけ続けている。

正面から押す機体。

側面へ沈む機体。

赤く光る飛行端末で照準を乱す機体。

そして、死角からビームスピアを突き込む機体。

 

その背後では、通常部隊も動いていた。

 

大西洋側から降ろされたダガーLが、補給道路沿いに前進している。

ドッペルホルン連装無反動砲を装備した機体が、岩陰に膝をつき、基地外縁の防壁へ砲口を向けた。

低空ではウィンダムが2機、港湾施設のクレーン群を盾にして回り込もうとしている。

 

黒い小隊が防衛隊の目を奪い、通常MSが開いた隙間へ火力を通す。

それが敵の狙いだった。

 

基地側は、まだ黒い機体の名を知らない。

 

全天候型ミュルミドン。

タマンラセットで確認された地上仕様を、沿岸、岩場、舗装地、港湾施設、悪天候下での運用に合わせて再調整したネメアの改良機。

だが、ジブラルタル防衛隊にとって、その分類に意味はなかった。

 

目の前にある事実はただひとつ。

ザクの射撃が、当たらない。

 

『右、違う、下だ!』

『背中の端末を落とせ! そいつが照準を乱してる!』

『ダガーL、補給道路側から来るぞ!』

『近づけるな、距離を取れ!』

 

怒号が通信に飛ぶ。

その声にも、ノイズが混じっていた。

 

陸側に潜伏していた電子戦車両と、大西洋側艦隊からのECM。

その二重の妨害が、ジブラルタル基地の神経を噛み続けている。

 

抗ECMシーケンスは進んでいる。

地下有線リンクへの切替も始まっていた。

だが、敵はその「切替」にも手を伸ばしていた。

 

補給道路の先で、ダガーLのドッペルホルンが火を噴く。

実体弾が防壁へ叩き込まれ、コンクリートと装甲材が砕けて跳ねた。

爆風に煽られた基地ザクが膝をつき、肩装甲に破片を浴びる。

 

その横を、黒い未確認MSが低く抜けた。

 

ザクがビームライフルを向ける。

照準は一瞬だけ合った。

次の瞬間、赤い飛行端末が視界を横切り、ロック表示が白く乱れる。

 

『くそ、また外れた!』

 

アンカーが飛ぶ。

ザクの脚部に絡み、機体が前のめりに崩れた。

そこへビームスピアが迫る。

 

だが、横合いからグフのビームソードが割り込んだ。

スピアの穂先を弾き、火花が散る。

 

『引っ張れ! 倒れた機体を下げろ!』

『了解!』

 

グフ隊の1機が損傷したザクを引きずり下げる。

別のザクが牽制射撃を入れる。

だが、弾幕は黒い機体に届く前に、また照準を乱される。

 

戦線は裂け目を広げながら、ぎりぎりで繋がっていた。

 

*****

 

ジブラルタル基地司令部では、複数の警告表示が同時に点滅していた。

 

「東側第2外縁防衛線、交戦継続!」

「ジュール隊、ミネルバ隊、戦線到達!」

「大西洋側、敵戦艦2隻、砲撃継続!」

「敵ダガーL部隊、補給道路側へ進出! ドッペルホルン装備を確認!」

「第4、第6砲台、管制同期不安定。手動照準へ切替中!」

 

大型スクリーンには、ジブラルタル全域の防衛状況が映し出されている。

西側にはロゴス本隊。

大西洋から迫る大艦隊が、戦艦2隻を前に出し、外周砲台へ主砲を叩き込んでいた。

 

砲台は沈黙していない。

分厚い装甲覆いは赤熱し、岩盤ごと震えながらも砲身を旋回させている。

MSのビームライフル程度なら弾く要塞砲台は、容易には潰れない。

 

だが、戦艦主砲級の砲撃は別だった。

 

「港湾第3砲台、外装損傷! 射撃継続可能!」

「第5砲台、照準補正に遅延!」

「第6砲台、応射まで20秒!」

「大西洋側ウィンダム部隊、低空侵入! 防空火器が追尾中!」

 

外部映像に、低空を走るウィンダムが映る。

港湾クレーンの影をかすめ、ビームライフルを構えた機体へ、基地防空火器が火線を伸ばした。

1機の翼が焼かれ、機体が大きく傾く。

次の瞬間、ウィンダムは海面へ突っ込み、白い水柱と黒煙を上げた。

 

「ウィンダム1機撃墜!」

「残り、なお低空侵入!」

 

撃墜報告が入っても、司令部の空気は軽くならない。

敵は1機落ちた程度では止まらない。

 

アーサーが端末を見ながら声を上げる。

 

「砲台は生きています! ですが管制同期が不安定です!」

「撃てる砲が、撃つべき方向を失っている……」

 

タリアは低く言った。

 

ジブラルタルは無力ではない。

砲台も、MS隊も、司令部も動いている。

防空火器はウィンダムを落とし、ザクやグフはダガーLの進撃を止めようとしている。

だが、動きが噛み合わない。

撃てるはずの砲が遅れ、出せるはずの命令が届かず、見えているはずの敵影が一瞬遅れて表示される。

 

基地司令はスクリーンを睨んだ。

 

「敵は基地を丸ごと取るつもりではないな」

「ええ」

 

タリアは即座に答えた。

 

「司令部、ドック、防空管制、港湾砲台。そこを切り離す気です」

「基地の神経を切るか」

「そのために大西洋側の大艦隊で目を引き、アルメリア方面から少数精鋭を突っ込ませている」

 

アーサーが別表示を開く。

ドック区画、地下有線リンク、防空管制中継盤、ミネルバ修理区画の隔壁制御。

青で表示されていた線の一部が、黄色へ変わっていた。

 

「第3有線幹線、信号低下!」

「ドック区画の管制リンク、一部断線!」

「地下ケーブル区画で異常振動。爆破または物理切断の可能性!」

 

司令部の空気がさらに重くなる。

 

「敵、MS戦だけが目的ではありません!」

 

管制士の声に、タリアは短く頷いた。

 

「ドックを孤立させる気ね」

 

基地司令は即座に命じた。

 

「修理班と保安部隊を地下ケーブル区画へ回せ! 防空管制は予備回線へ。ドック隔壁制御はローカルへ切り替えろ!」

「了解!」

「東側へ出ている部隊に通達。未確認MSをドック外縁へ近づけるな。通路を切られれば、ミネルバは箱の中だ!」

 

命令は走る。

だが、その全てが即座に届くわけではなかった。

 

ジブラルタルは戦っている。

しかし敵は、戦いながら切っていた。

 

*****

 

東側防衛線へ、ルナマリアのガナーザクが滑り込む。

 

基地側格納庫からの発進は、ミネルバの発進とは勝手が違った。

誘導灯の位置も、カタパルトの押し出しも、通信管制の声も微妙に違う。

それでも彼女は機体を立て直し、オルトロスを構えた。

 

視界の先では、黒い敵MSがグフ隊を押し込んでいる。

赤く光る飛行端末が周囲を走り、ザクのロックを剥がす。

その隙に、別の機体がアンカーを撃ち込み、さらに別角度からビームスピアが突き出される。

 

そのさらに後ろ、補給道路へ向かうダガーLの姿が見えた。

ドッペルホルンを肩に担いだ機体が、瓦礫を盾にして砲撃姿勢を取っている。

狙いはドックへ続く隔壁制御施設だ。

 

「またこいつら……でも、前より速い!」

 

ルナマリアは照準を合わせる。

高火力のオルトロスなら、直撃さえすれば一撃で止められる。

だが、照準が安定しない。

背部から切り離された妨害端末が、ロックオン表示に偽反応を重ねてくる。

 

「邪魔なのよ!」

 

ルナマリアは一瞬だけロックを捨て、進路予測で撃った。

オルトロスの砲撃が岩場を抉り、黒い機体の退路を潰す。

敵MSは跳び退いた。

だが、その着地点にグフ隊の射撃が重なり、肩装甲を焼く。

 

撃破ではない。

だが、止めた。

 

続けてルナマリアは照準を補給道路へ振った。

ダガーLがドッペルホルンを構える。

砲口が隔壁制御施設へ向く。

 

「そっちは撃たせない!」

 

オルトロスが唸った。

太いビームが補給道路を斜めに焼き、ダガーLの胴体を砲ごと貫いた。

爆発。

機体の上半身が吹き飛び、ドッペルホルンの砲身が回転しながら宙を舞う。

落下した砲身が舗装路へ突き刺さり、赤熱した金属が白煙を上げた。

 

「1機撃破! 次!」

 

ルナマリアは息を吐く暇もなく、次の敵へ照準を向ける。

 

「当てられないんじゃない。撃つ場所を潰されてるだけよ!」

 

ルナマリアは歯を食いしばる。

遠距離火力が彼女の強みだ。

だが敵は、その距離を奪いに来ている。

 

正面から突っ込む黒い機体。

側面に沈む機体。

背後で支援端末を飛ばす、錆赤の機体。

 

「小隊長機……あいつね!」

 

照準を動かした瞬間、アンカーが飛んだ。

ルナマリアは機体を横へ振る。

ワイヤーがガナーザクの肩先をかすめ、装甲を削った。

 

「近い!」

 

そこへ、レイの機体が割り込む。

冷静な射撃が、アンカーを放った敵機の足元を撃ち抜いた。

敵が姿勢を崩す。

 

『ルナマリア、支援機を狙え。錆赤の機体だ』

「分かってる!」

『背部の分離端末が妨害源だ。あれを落とせば、小隊の突撃精度は落ちる』

 

レイは言いながら、照準を本体ではなく空中の赤い光点へ合わせた。

ロックは揺れる。

ならば、揺れる前に撃つ。

分離されたドラグーンが進路を変える瞬間、その先へビームを置く。

 

赤い光点が弾けた。

 

瞬間、黒い小隊の動きがわずかに乱れる。

正面から詰めていた機体の踏み込みが半拍遅れ、側面の拘束が噛み合わない。

ルナマリアはその隙を逃さなかった。

 

「そこ!」

 

オルトロスが火を噴く。

直撃ではない。

だが、敵小隊長機の足元を砕き、機体を後退させた。

 

『有効だ』

 

レイの声は淡々としている。

 

『だが、完全には止まらない。次が来る』

「本当に嫌な敵ね!」

 

ルナマリアが叫ぶ。

その声に、苛立ちと集中が混じっていた。

 

*****

 

シンのインパルスは、低空から戦場へ入った。

 

空中から見れば、黒いMS群の配置は地上より分かりやすい。

射撃武器を持たない敵なら、上から叩けばいい。

普通なら、そうなる。

 

だが普通ではなかった。

 

インパルスがビームライフルを構える。

ロックオン表示が黒い敵MSへ重なる。

次の瞬間、赤く光る飛行端末が視界を横切り、照準が白く弾けた。

 

「くそっ、ロックが外れる!」

 

敵本体は港湾構造物の影へ滑り込む。

岩場、補給道路、コンテナ群、砲台の死角。

地上にいるくせに、動きが読みづらい。

いや、地上だからこそ、遮蔽物を使ってくる。

 

「地面にいるくせに、なんで当たらないんだよ!」

 

『シン、上から撃つだけでは駄目だ』

 

レイの通信が入る。

 

『妨害端末がロックを剥がす。本体は構造物に隠れる。目で追え』

「分かってる!」

 

シンは操縦桿を倒した。

インパルスが一気に高度を下げる。

港湾施設の屋根をかすめ、アンカーをかわし、黒い敵MSの頭上へ滑り込む。

 

『シン! 近づきすぎ!』

 

ルナマリアの声が飛ぶ。

 

「だったら、近づいて斬る!」

 

ビームサーベルが抜かれる。

赤い飛行端末がインパルスの前方へ回り込む。

シンはそれをロックしない。

目で追う。

光の軌跡を読み、機体をひねる。

 

サーベルが振り抜かれた。

切り離された妨害端末が、二つに裂けて爆発する。

 

その瞬間、地上の黒い小隊の動きが乱れた。

正面の1機が踏み込み損ね、側面のアンカーが空を切る。

イザークのグフがそこへ突っ込んだ。

 

『余計なところへ飛び込むな、インパルス!』

「助けたんだろ!」

『なら最後まで邪魔をするな!』

 

イザークの怒鳴り声が返る。

だが、その動きに迷いはない。

彼は敵の足が鈍った瞬間を見逃さず、ビームソードで黒い機体の腕を斬り飛ばした。

 

そこへ、別方向からダガーLが2機、ビームカービンを撃ちながら出てきた。

ミュルミドンの影に隠れ、補給道路の脇を抜けようとしていた機体だ。

 

「こっちにも!」

 

基地ザクの1機が反応する。

だが、ECMで射撃が遅れる。

ダガーLのビームがザクの肩装甲を焼き、機体がよろめいた。

 

シンが舌打ちする。

 

「邪魔するな!」

 

インパルスが地表すれすれを飛ぶ。

1機目のダガーLがビームを撃つ前に、サーベルが腕部を落とした。

返す刃で胴を裂く。

爆発。

もう1機が後退しようとしたところへ、ディアッカの支援射撃が突き刺さった。

 

『そっちは任せろ!』

 

ビームがダガーLの脚部を吹き飛ばし、倒れた機体へ基地ザクの追撃が入る。

爆炎が上がり、補給道路を覆っていた黒煙がさらに濃くなる。

 

『ダガーL2機撃破! 補給道路側、進行速度低下!』

 

通信に報告が入る。

小さな戦果だった。

だが、その小さな戦果が、裂け目を広げさせない。

 

ディアッカの支援射撃が続く。

 

『羽根付きから落とせばいいんだな! 了解了解!』

 

砲撃が敵小隊の後方を叩く。

基地所属グフが損傷機を引き下げ、ザクが射線を作る。

完全に押し返しているわけではない。

だが、ジブラルタル側は少しずつ戦い方を掴み始めていた。

 

黒い小隊は強い。

だが、見えない敵ではない。

支援端末を落とし、小隊長機を崩し、孤立しなければ、対処できる。

 

それを理解するまでに、すでに被害は出ていた。

それでも、理解した。

 

戦場では、それが生死を分ける。

 

*****

 

ドック区画の奥、レギナント隔離ハンガー。

 

そこだけは、外の戦場から切り離されたように見えた。

だが実際には、最も慌ただしい場所のひとつだった。

 

白い大型機は片膝をついたまま固定されている。

その手前では、長大な砲身が仮設レールの上に横たえられていた。

MS用の武装にしては、あまりにも長い。

本来なら巡洋艦の副砲として据え付けられていたものを、無理やり携行兵装へ転用している。

 

高密度合金芯の大型徹甲弾を撃ち出す、対艦用の実体弾砲。

ビームを弾く装甲にも、質量と速度で穴を開けるための兵器。

だが、MSに持たせるには重すぎた。

長すぎた。

危険すぎた。

 

レギナント級の大型MSでなければ、そもそも保持できない。

そしてレギナントであっても、姿勢固定なしでは撃てない。

 

「接続架、右に2ミリずれてる! そこじゃねえ、保持フレームの方だ!」

「分かってるよ! でも基部が歪んでるんだって!」

 

ヨウランとヴィーノが、基地工廠の技術者たちと一緒に怒鳴り合っていた。

急ごしらえの腕部保持フレーム。

反動を逃がすための接続架。

砲身の下へ追加された仮設スタビライザー。

どれも、本来の設計には存在しない。

 

「工廠側の仮称は大型ペネトレーター砲、だってよ!」

「名前だけ立派すぎるだろ!」

「名前に負けないように撃てれば勝ちだ!」

 

ヨウランの声に、ヴィーノが叫び返す。

 

「砲を無理やり持たせるだけだろ、これ!」

「だから無理やり持たせるんだよ! 敵戦艦を止める手段が他にあるか!」

 

ハンガーの床が、遠くの爆発でかすかに震えた。

吊り下げられた工具が揺れ、金属音を鳴らす。

外ではまた何かが撃たれ、何かが燃えている。

 

セラはその砲を見上げていた。

白いノーマルスーツのまま、ヘルメット越しに長大な砲身を追う。

レギナントの腕部に仮接続されようとしているそれは、武器というより、船の一部を切り取って持ってきたように見えた。

 

「新規武装」

「まだ“武装”って呼べるほど綺麗なもんじゃないけどな」

 

ヨウランは汗を拭う暇もなく端末を叩く。

 

「撃てれば勝ちだ。ただし、撃つ時は絶対に姿勢固定しろ。歩きながらなんて無理だ。撃った反動で腕ごと持っていかれる」

「腕部損傷リスク」

「かなり高い」

「砲身破損リスク」

「高い」

「搭乗者への反動負荷」

「それも高い」

 

セラは頷いた。

 

「危険兵装」

「そこだけ綺麗にまとめるなよ……」

 

ヴィーノが呻く。

その横で、メイリンが戦況端末を握りしめていた。

 

外ではシンたちが戦っている。

ドック管制線は不安定。

大西洋側の敵戦艦は、砲台を削り続けている。

ダガーLの砲撃で補給道路側の防壁が割れ、ウィンダムが低空から港湾施設を狙っている。

そしてここには、まだ撃てない砲がある。

 

セラはメイリンへ視線を向けた。

 

「レギナント、出撃許可を申請」

 

メイリンは返答に詰まった。

その言葉を止める理由は分かる。

だが、セラがそう言う理由も分かってしまう。

 

通信が繋がる。

タリアの声が返った。

 

『まだよ。あなたは、最後の札です』

「最後の札」

 

セラは反復した。

疑問ではない。

与えられた言葉を、意味ごと保存するような声だった。

 

『工廠から報告は受けています。あの砲はまだ撃てる状態ではないわ。今出れば、レギナントの機動を殺すだけになる』

「敵戦艦、ドック射線へ接近中」

『分かっている。だからこそ、まだ切らない』

 

セラは黙った。

その沈黙の横で、ヨウランが歯を食いしばるように言った。

 

「頼むから、あと少し待ってくれ。今出たら、こいつはただの重りだ」

「重り」

「そうだ。撃てない大砲なんて、ただ邪魔なだけだ」

 

セラはレギナントを見上げる。

 

「待機継続」

『そうして』

 

タリアの声は短かった。

だが、そこには命令以上の重さがあった。

 

*****

 

大西洋側の海が、再び白く裂けた。

 

敵戦艦2隻が、外周砲台へ砲撃を集中させる。

ジブラルタルの砲台も応射する。

光と煙が海峡を満たし、岩山が震えた。

 

戦艦主砲の光条が、第6砲台の装甲覆いへ直撃する。

一撃目で外装が赤く膨れ、二撃目で継ぎ目が裂けた。

岩盤ごと砲台が揺れ、固定ボルトが何本も弾け飛ぶ。

破片が防壁へ突き刺さり、周囲の作業灯がまとめて消えた。

 

「第6砲台、被弾!」

「外装破断! 砲身角、固定不能!」

「予備駆動系へ――」

「駄目です! 第6砲台、沈黙!」

 

司令部の大型スクリーンで、ひとつの砲台表示が赤から黒へ落ちた。

 

完全な防衛崩壊ではない。

ジブラルタルはまだ戦っている。

他の砲台は応射を続け、防空火器も海上低空のウィンダム部隊を追っている。

 

だが、ひとつの穴が開いた。

 

「敵戦艦、進路変更!」

「ドック区画への射線に入りつつあります!」

「港湾管制、射線遮断が間に合いません!」

「補給道路側、ダガーL残存機が再前進! 隔壁制御施設へ向かっています!」

 

アーサーが顔色を変える。

 

「艦長……!」

「分かっているわ」

 

タリアはスクリーンを見つめる。

その線の先には、修理中のミネルバがいる。

右舷区画を開かれ、ドックに固定され、まだ自力で満足に動けない艦。

そしてその奥には、レギナントの隔離ハンガーがある。

 

基地司令が怒鳴った。

 

「残存砲台で敵戦艦を牽制しろ! MS隊、ドック前面へ防衛線を下げるな!」

「了解!」

「地下リンクの復旧は」

「第3幹線、断線箇所特定中! 修理班が向かっていますが、敵性反応接近!」

 

タリアは端末を見た。

東側防衛線。

シン、レイ、ルナマリア、ジュール隊は押しとどめている。

ダガーLやウィンダムの通常部隊は少しずつ削っている。

だが、黒い小隊そのものは完全には止められていない。

 

黒い小隊は、ストラテゴスの統制圧を受けてなお動いている。

押し込むだけではない。

遮断する。

分断する。

ドック区画へ通じる防衛線の薄い箇所へ、黒い機体群が収束していく。

 

ストラテゴスのコクピットで、No.3が呟いた。

 

『統制継続』

『第1小隊、前進』

『第2小隊、遮断』

『第3小隊、迂回』

『制御、再接続』

 

声に熱はない。

怒りもない。

壊れた統制中枢が、断片化した命令を吐き出し続けているだけだった。

 

だが、その命令で黒い小隊は動く。

ザクの射線を切り、グフの前進を止め、ジュール隊の支援射撃をずらし、ミネルバ隊の突入角度を狭めていく。

 

残ったダガーLが、その隙間へ入ろうとする。

ドッペルホルンが再び火を噴いた。

砲弾が防壁を叩き、隔壁制御施設の外壁に亀裂が走る。

破片が舞い、作業員が伏せた。

 

ルナマリアが照準を向けるが、黒い機体がその前へ割り込む。

レイが支援端末を狙い、シンが低空へ入る。

それでも、敵の圧は消えない。

 

レイが低く言った。

 

『大型機の統制が強まった。全機、警戒』

「見えてる!」

 

シンがインパルスを上昇させる。

ルナマリアはオルトロスを構え直し、ディアッカは射線を変える。

イザークの怒声が通信を叩いた。

 

『ドックへ行かせるな! ミネルバごと潰されるぞ!』

 

その声は戦場を押し戻そうとする。

だが、黒い群れはまだ止まらない。

 

*****

 

隔離ハンガーで、セラが顔を上げた。

 

戦況表示の中で、赤黒い大型機の識別枠が強調される。

ノイズ混じりの映像。

その周囲で、黒い小隊が1つの群れとして再編されていく。

 

セラは、平坦な声で言った。

 

「ストラテゴス」

 

メイリンが息を呑む。

 

「セラ」

「No.3専用機。Lシリーズ統制源機体。脅威度、大」

 

セラの声は、報告の形をしていた。

だが、メイリンには分かった。

それはただの識別ではない。

 

警戒だった。

 

港湾の砲台が、ひとつ沈黙した。

ドックへ向かう射線が、細く開く。

隔壁制御施設の外壁は砕け、補給道路にはダガーLの残骸と黒煙が積み重なっている。

海側では、撃墜されたウィンダムの残骸がまだ燃えていた。

 

それでも敵は止まらない。

 

その線の先には、修理中のミネルバがいた。

ドックに固定されたまま修理中の艦は、逃げることも、身をかわすこともできない。

敵戦艦の砲口が、そこへ向こうとしていた。

 

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