機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

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05.白い残骸、白い搭乗者

今なら撃てる。

だが引き金を引く気にはなれない。

 

あの無機質な声。

幼い声。

そして、最後まで「最低限の攻撃」しかしてこなかった戦い方。

それらがシンの中で妙な違和感として残っていた。

 

『シン!』

 

その時、突然通信が回復する。

 

『応答してシン!』

 

ルナマリアの声。

 

『熱源反応を確認した!』

『位置を固定しろ!』

 

続いてレイとアスランの声。

シンはようやく息を吐いた。

 

「……遅ぇよ」

 

 

 

*****

 

 

 

その周囲を、インパルス、ブレイズザクファントム、ガナーザクウォーリア、セイバーが慎重に取り囲む。

誰も不用意に近づかない。

 

「……動かねぇな」

 

シンが低く呟く。

だがライフルは下ろしていない。

あの戦闘を経験した今、この白い機体が完全停止しているとは、とても信じ切れなかった。

 

『まだ油断はできない。それに対象機の性能は未知数だ。今のうちに撃破を確認するべきだと思う』

 

静かな声だった。

感情ではない。

純粋な軍事判断。

 

その言葉にルナマリアの喉が小さく鳴る音が聞こえてくる。

 

『……』

 

彼女自身、シンの気持ちは分かっていた。

もう動いていない相手へ止めを刺すことへの抵抗感もある。

だが同時に、あの空間支配の恐怖も忘れられなかった。

もし再起動したら。

またあの赤い線が空間を埋めたら。

今度こそ誰かが落とされるかもしれない。

 

だから否定できない。

レイの意見が、あまりにも合理的だった。

 

『でも……』

 

ルナマリアが言葉を探す。

その横で、アスランは白いMSをじっと見つめていた。

 

『待て』

 

短い一言で全員が静かになる。

 

『この機体は異常だ。ドラグーンの制御精度、空間封鎖能力、戦術思考……どれも通常のMSじゃない』

 

アスランは視線を逸らさないまま続けた。

 

『ここで破壊すれば、俺達は何も分からなくなる。まずはミネルバへ連絡して指示を仰ぐべきだ』

『その間に再起動する可能性があります』

 

レイが即座に反論する。

 

『対象は依然として脅威です』

「なら、お前は動かねぇ相手を撃つのかよ!」

 

シンが食って掛かった。

 

「今さら撃ってどうすんだよ!」

『それは感情論だ』

 

レイは冷静だった。

 

『敵機を無力化するのは当然の判断だ』

「だからって――!」

『やめろ』

 

今度はアスランの声が割って入る。

低いが、有無を言わせない声音だった。

 

『今は勝手な判断をするな。――ミネルバへコンタクトを取る』

 

数秒の沈黙の後、レイは僅かに視線を伏せ、やがて小さく頷いた。

 

『……了解しました』

 

通信回線が開かれる。

 

『こちらミネルバ。応答を確認』

 

タリアの声が入り、その背後から安堵の声も聞こえてきた。

アスランが状況を簡潔に報告する。

 

『対象艦はロスト。所属不明MSと交戦後、戦闘停止状態を確認。対象機は中破程度。現在包囲中です』

 

短い沈黙の後、タリアが問い返す。

 

『パイロット反応は?』

 

レイがセンサーを確認する。

 

『……微弱反応あり。生存している可能性が高い』

 

ブリッジ側の空気が変わった。だがタリアは即断する。

 

『対象機は拿捕します。可能であれば、先にパイロットの身柄を拘束しなさい。機体の完全破壊は禁止』

『了解』

 

白いMSは依然として沈黙したまま。

ゆっくりとデブリ帯を漂っている。

左側スカート装甲は大きく破損し、各部スラスターも沈黙していた。

 

レイは照準を下ろさない。

 

『油断はするな』

『ドラグーン反応は消失している。だが、機体出力は完全停止していない』

 

アスランも慎重に機体を見据えていた。

 

あの空間支配。

未来を見ているようなドラグーンの照準制度。

単機で四機を封殺した異常な戦術。

 

それらを見せつけられた後では、静止しているだけでなお不気味だった。

 

ルナマリアがまた小さく息を飲む。

 

『……なんか、まだこっち見てるみたい』

 

その言葉に誰も否定できなかった。

 

実際、頭部カメラはまだ微弱に発光している。

生きている。

あるいは。

まだ戦闘が終わっていない。

そんな錯覚すら覚えさせた。

 

だがこれ以上、何も起きない。

 

赤線も、ドラグーンも、白い機体も。

静かに沈黙する。

その姿はまるで、戦いの果てに眠りについた女王のようだ。

 

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