機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

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51.報告書の向こう側

プラント本国の港が、モニターの向こうに見えた。

 

幾重にも重なる人工構造物。

白く光るドックフレーム。

規則正しく誘導灯が並ぶ入港航路。

そのすべてが、ミネルバにとっては帰還先であり、補給と修理を受けるための安全圏であるはずだった。

 

だが艦橋の空気は、安堵とは少し違っていた。

 

「入港管制より通信。ミネルバ、指定航路へ進入許可」

「了解。指定航路へ進入」

 

メイリンの声が艦橋に響く。

いつも通りの報告だった。

だが、端末に視線を落とす彼女の横顔は硬い。

 

タリアは艦長席から、前方モニターを見つめていた。

 

ジブラルタルを発ってから、ミネルバはようやく本国へ帰ってきた。

損傷した外装。

修理を待つ格納庫ハッチ。

戦闘で疲弊した乗員。

そして、レギナント。

 

本来なら、ここで一息つけるはずだった。

 

しかし本国からの返信は、その期待を許さなかった。

 

レギナントおよび搭乗者セラの特別管理。

一時拘束。

事情聴取。

事実確認。

機体との関係性調査。

 

言葉だけなら、軍の手続きとして処理できる。

だが、それがセラに向けられた瞬間、その意味は変わる。

 

タリアは指先をわずかに握った。

 

「艦長」

 

アーサーが声をかける。

 

「本国担当部署より、入港後の引き継ぎ手順が届いています」

「読み上げて」

「はい」

 

アーサーは端末を開いた。

表情が、わずかに曇る。

 

「レギナントは第7特別整備区画へ移送。ミネルバ整備班は初期引き継ぎのみ立ち会い可。以後は本国技術管理班の管轄となります」

「続けて」

「搭乗者セラについては、入港後、指定担当官が引き受け。事情聴取および事実確認のため、臨時管理区画へ移送。ミネルバ乗員との接触は、担当部署の許可制」

 

艦橋の空気がさらに重くなった。

 

メイリンの手が、通信端末の上で止まる。

ルナマリアはその横顔を見て、何か言いかけたが、声にはしなかった。

シンは艦橋にはいない。

もしこの文面をそのまま聞いていたなら、黙ってはいなかっただろう。

 

タリアは短く息を吐いた。

 

「入港後、担当官との接触は私が直接行います」

「艦長」

「アーサー、副長として同席して。関連記録も持参」

「了解しました」

 

タリアはモニターから視線を外さない。

 

「セラには、こちらから伝えるわ」

「はい」

 

アーサーの返答は硬かった。

 

ミネルバは静かに、プラント本国のドックへ入っていった。

 

巨大な固定アームが艦体へ近づく。

誘導レーザーが船体をなぞり、管制信号が次々と更新される。

損傷箇所を記録した外部検査ドローンが、ミネルバの周囲を飛び交った。

 

やがて、艦体にわずかな振動が走る。

固定完了。

ミネルバは、ようやく本国へ帰還した。

 

しかし、格納庫に降りたタリアを待っていたのは、休息の空気ではなかった。

 

レギナント隔離格納庫の前には、本国所属の担当官が数名立っていた。

制服は整っている。

表情も礼儀正しい。

だが、その目はすでに対象を確認していた。

 

白い巨体。

そして、その搭乗者。

 

セラはメイリンとルナマリアに挟まれるように立っていた。

いつものように表情は乏しい。

ただ、周囲の緊張を認識しているのか、視線だけがわずかに動いている。

 

シンは少し離れた場所で腕を組んでいた。

明らかに不機嫌だった。

レイはその隣に立ち、表情を変えずに担当官たちを見ている。

アスランはさらに一歩後ろで、状況を見極めるように沈黙していた。

 

担当官の一人がタリアへ敬礼する。

 

「ミネルバ艦長、タリア・グラディス殿ですね」

「そうです」

「本国特別管理局所属、ヘルマン・ヴァイスです。レギナントおよび搭乗者セラの引き継ぎを担当します」

 

タリアは敬礼を返した。

 

「手順は確認しています」

「ありがとうございます。では、搭乗者セラの身柄をこちらへ」

 

その言葉に、シンが一歩前へ出た。

 

「身柄って何だよ」

 

声が低い。

怒鳴る寸前の声だった。

 

「シン」

 

ルナマリアが小さく制する。

だがシンは止まらない。

 

「セラが何をしたっていうんだよ。調査で分かっただろ。あの信号はセラが出したんじゃない」

「シン・アスカ」

 

タリアの声が飛ぶ。

強くはない。

だが、逆らえない声だった。

 

シンは歯を食いしばって止まった。

 

担当官は表情を変えない。

 

「こちらは命令に基づく手続きです。搭乗者本人への事情聴取と事実確認を行います」

「だから、それが変だって言ってんだろ」

 

シンが再び言いかける。

 

レイが一歩前に出た。

 

「本艦の調査では、搭乗者による意図的送信の証拠は確認されていません」

「報告は受けています」

「であれば、この段階で通常拘束扱いにする合理性は薄い」

 

レイの声は冷静だった。

だが、その冷静さの奥にある硬さを、タリアは聞き逃さなかった。

 

担当官はわずかに目を細める。

 

「通常拘束ではありません。特別管理下での確認です」

「言い換えただけだろ」

 

シンが吐き捨てる。

 

「シン」

 

今度はアスランが声をかけた。

シンは振り向く。

 

「止めるなよ、アスラン。おかしいだろ、こんなの」

「おかしいと思う。だが、ここで暴れても状況は悪くなるだけだ」

 

アスランの声は重かった。

反論ではない。

それが余計に、シンの苛立ちを削る。

 

メイリンはセラの手首にそっと触れていた。

 

「セラ、何か聞かれても、分からないことは分からないって言っていいからね」

「分からないことは、分からないと回答します」

「それから、痛いことをされそうになったら、我慢しなくていいから」

「痛みを伴う確認が必要な場合、応じます」

 

メイリンの表情が歪んだ。

 

「応じちゃだめ」

 

セラはメイリンを見る。

 

「だめ」

「だめ。必要って言われても、勝手に決めちゃだめ」

「勝手に決めない」

「うん。約束して」

 

セラは少し沈黙した。

 

「約束します」

 

その短い返答に、メイリンはようやく小さく息を吐いた。

だが、不安が消えたわけではない。

 

タリアはそのやり取りを見てから、担当官へ向き直った。

 

「ヴァイス担当官」

「はい」

「搭乗者セラの管理移管については、命令に従います」

 

シンが顔を上げる。

 

「艦長」

「ただし」

 

タリアの声が、格納庫の空気を変えた。

 

「事情聴取、事実確認、身体検査、レギナントとの接触調査。いずれも、私がデュランダル議長へ直接報告を行い、協議を終えるまで保留してください」

「艦長、それは」

「命令拒否ではありません。管理移管は行います。ですが、現場艦長として、調査手順には条件を付けます」

 

担当官の目がわずかに険しくなる。

 

「こちらにも手順があります」

「存じています」

 

タリアは一歩も引かなかった。

 

「ですが、この子は通常の被疑者ではありません。ジブラルタル防衛戦における重要戦力であり、本艦の乗員として行動し、本艦の調査にも全面的に協力しました。本人の意思による送信を示す証拠はありません」

「それでも、未解析機体の唯一の適合者です」

「だからこそ、乱暴な聴取は認めません」

 

その一言は静かだった。

しかし、そこに込められた怒りは隠れていなかった。

 

「セラへの接触はすべて記録してください。担当官単独での聴取も認めません。医療班、または本艦側立会人の同席を要求します」

「そこまでの権限は」

「必要なら、私の名で議長府へ照会してください」

 

担当官は言葉を止めた。

 

タリアはさらに続ける。

 

「繰り返します。この子は重要案件です。丁重に扱ってください。私が議長と協議するまで、手続きは保留。よろしいですね」

 

格納庫に沈黙が落ちた。

 

シンはタリアを見ていた。

怒りはまだ消えていない。

だが、タリアがただセラを差し出したのではないことは、伝わった。

 

ルナマリアは唇を結んだまま、セラの横顔を見る。

アスランは何も言わない。

ただ、タリアの背中を見る目が少しだけ変わっていた。

 

レイは静かに視線を落とした。

不満は残っている。

だが、今取れる最も強い手がそれなのだと理解していた。

 

担当官は数秒の沈黙の後、敬礼した。

 

「……承知しました。議長府への照会が完了するまで、事情聴取および各種確認作業は保留とします」

「お願いします」

 

タリアは敬礼を返す。

 

セラが一歩前へ出た。

 

「移動します」

「セラ」

 

メイリンが呼ぶ。

 

セラは振り返った。

 

「メイリン」

「約束、忘れないで」

「痛みを伴う確認には、勝手に応じない」

「うん」

「分からないことは、分からないと答える」

「うん」

 

シンが堪えきれずに言う。

 

「何かされたら、すぐ呼べよ」

「シンを呼ぶ」

「俺じゃなくてもいいけど……いや、俺でいい。呼べ」

「了解」

 

ルナマリアが小さく息を吐いた。

 

「シン、担当官の前でそれ言うの、どうなのよ」

「知らねえよ」

「知らなくないでしょ」

「でも、言っとかなきゃだろ」

 

メイリンは少しだけ笑いそうになった。

けれど、すぐに表情を引き締める。

 

セラは担当官たちの方へ歩いていく。

その背中は小さい。

レギナントの前に立つ時とは違う。

白い女王の中で戦場を支配する姿とは違う。

 

ただの少女の背中だった。

 

メイリンは、その背中から目を離せなかった。

 

セラが格納庫の扉を出る直前、タリアが声をかける。

 

「セラ」

「はい」

 

セラが振り返る。

 

「待機です。尋問ではありません」

「待機」

「そう。あなたは命令違反も、敵対行為もしていない。だから、必要以上に自分を差し出さないこと」

「必要以上に、自分を差し出さない」

「ええ」

 

セラは短く頷いた。

 

「確認しました」

 

扉が閉じる。

 

その音は、格納庫全体に思ったより大きく響いた。

 

シンが拳を握る。

 

「……くそっ」

「シン」

 

アスランが声をかける。

 

「分かってるよ。暴れない」

「ならいい」

「でも、納得したわけじゃない」

 

レイが静かに言った。

 

「俺も同じだ」

「レイ」

 

シンが少し驚いたように振り向く。

 

レイは扉を見たまま続けた。

 

「調査結果は、セラの意図的送信を否定している。にもかかわらず、彼女は管理対象として扱われている。合理性はあるが、妥当とは言い切れない」

「……お前、そういう言い方するんだな」

「事実を言っただけだ」

 

ルナマリアが小さく息を吐いた。

「でも、艦長が止めてくれた」

 

アスランが頷く。

「ああ、ただ渡したわけじゃない。あれ以上ここで押すと、今度は命令拒否を疑われる」

 

シンは言いかけて、やめた。

「だからって」

 

メイリンは黙っていた。

セラの手首に触れていた自分の指先が、まだ冷たい気がした。

「大丈夫だよ」

 

ルナマリアが横から言う。

「艦長が動いてくれてる」

「うん」

「メイリン」

「分かってる。でも……」

 

メイリンは閉じた扉を見る。

「セラ、自分を守るのが下手だから」

 

その言葉に、誰もすぐには答えなかった。

 

一方、タリアはアーサーを伴い、議長府への連絡区画へ向かっていた。

 

廊下の窓越しに、プラント本国の構造物が流れていく。

ミネルバの艦内とは違う、整いすぎた静けさ。

その静けさの中で、タリアは資料端末を抱えていた。

 

レギナント起動時の低周波パルス報告。

セラの操作ログ。

ジブラルタル戦闘記録。

タマンラセットでの交戦記録。

Lシリーズに関するセラの証言。

そして、彼女が初めてミネルバに来た時に語った出自。

 

どれも断片だった。

だが、その断片はひとつの少女へつながっている。

 

アーサーが隣を歩きながら言った。

「艦長、本当に議長へ直接」

「ええ」

「通常なら、特別管理局を通してからになる案件です」

「だから今、直接行くの」

 

タリアの声は静かだった。

「担当部署に任せれば、手順通りに進む。手順通りに進めば、セラは事情聴取を受ける。あの子は、必要だと言われれば応じてしまう」

「……はい」

「報告書だけでは足りなかった。なら、私が説明するしかないわ」

 

アーサーは頷いた。

「議長が応じてくださるでしょうか」

「応じさせます」

 

その言葉は強かった。

だが、タリアはすぐに表情を戻す。

「ミネルバの艦長として、必要な報告を行うだけよ」

「はい」

 

*****

 

議長府への通信は、予想より早く繋がった。

 

ミネルバ帰還。

ジブラルタル防衛戦。

レギナント。

未確認パルス。

搭乗者セラ。

 

その単語が並んだ時点で、通常窓口はすぐに上位担当へ切り替わった。

そしてその数分後、タリアはデュランダルの議長室へと通される。

 

柔らかな表情。

落ち着いた声。

いつも通りの、プラント最高評議会議長の顔。

「グラディス艦長。帰還直後にすまないね」

「いえ。こちらこそ、直接報告の機会をいただき感謝します」

「ジブラルタルでの戦闘については、概要を受け取っている。ミネルバの働きには感謝しているよ」

「ありがとうございます」

 

タリアは一礼した。

「ですが、本日報告したいのは、戦果ではありません」

「特殊機体レギナントと、その搭乗者についてだね」

「はい」

 

デュランダルの表情がわずかに引き締まる。

タリアは直接資料を彼に手渡した。

 

「まず、ジブラルタル基地で検知された未確認パルスについてです。本艦で再調査を行った結果、当該パルスはレギナント起動時にのみ発生しました」

「起動時のみ?」

「はい。出撃中、戦闘中など再発信は確認されていません。その間の通信系から発信された形跡もありません」

「搭乗者の操作は」

「関与していません。少なくとも、本艦のログ上、セラの意思による送信を示す記録はありません」

 

デュランダルは資料に目を通した。

 

「機体側の自動処理か」

「起動診断、または識別同期系に紐づく未解析処理と推定しています。ただし、完全な発信源特定と除去には、本国設備での解析が必要です」

「なるほど」

 

デュランダルの声は落ち着いていた。

ここまでは、未知の機体に関する技術報告として聞いている。

タリアは次の資料を開いた。

 

「問題は、搭乗者セラ本人の扱いです」

「特別管理局からの手続きは把握している」

「その手続きについて、私は一部保留を要求しました」

「理由を聞こう」

「彼女を通常の被疑者として扱うべきではないからです」

 

デュランダルの視線がタリアを捉える。

タリアは続けた。

 

「セラは、本艦が彼女を保護した当初、自身の出自について証言しています」

「出自」

「はい。彼女は、自分が“人格的完成体研究”の被験体だったと話しました」

 

その言葉を聞いた瞬間、デュランダルの視線が止まった。

わずかな変化だった。

だが、タリアには分かった。

 

「……人格的完成体研究」

 

デュランダルは、言葉を確かめるように繰り返した。

「ご存じですか」

 

タリアが問う。

 

デュランダルはすぐには答えなかった。

画面越しの沈黙が、いつもより長く感じられる。

「名前だけは」

 

やがて、彼はそう言った。

「いや、知っていると言えるほどのものではない。かなり昔の話だ。私がまだ評議会ではなく、研究室にいた頃の」

「研究者時代に」

「ああ。人と人が自然に惹かれ合い、争いを必要としない社会。遺伝子と人格形成によって、人類社会の安定を目指す……そうした理想を掲げた小さな研究構想があった」

 

デュランダルの声は、まだ冷静だった。

だが、そこには明らかに記憶を探る響きがある。

「私は一度、支援者の一人として名を連ねたことがある。連帯保証人に近いものだった。支援も一度きりで継続的に関わったわけではない」

「セラの証言にある研究理念とも一致します」

 

タリアは資料をめくる。

「彼女は、その研究理念を“人類社会の安定化”“人々が自然に惹かれ合う社会”“争いの起きない世界”と説明しています」

「……そうか」

 

デュランダルは小さく呟いた。

ここまでは、彼の記憶の中にもかすかな道筋があった。

若き日の理想主義。

遺伝子と人格。

争いのない社会。

 

しかし、タリアが次に告げた内容は、その道筋から外れていた。

 

「彼女はさらに、自分を“ラクス・クラインを基準個体として作製された模倣個体の失敗作”だと証言しています」

「……何だと」

 

その声は、初めて明確に揺れた。

タリアは続ける。

 

「遺伝情報はラクス・クライン由来。そのため、外見的特徴に高い類似性があると」

「ラクス・クラインを……基準個体に」

 

デュランダルの表情から、余裕が消えた。

 

それは知っていた者の反応ではなかった。

知らなかった者が、今初めて言葉の意味を飲み込もうとしている顔だった。

 

タリアは、その反応を見逃さなかった。

 

「ご存じなかったのですね」

「知らない」

 

短い答えだった。

「その研究が、そのような方向へ進んでいたなど、私は知らない。ラクス嬢を対象にしていたことも、模倣個体などという話も……聞いたことがない」

 

デュランダルは資料へ視線を落とした。

いつもの穏やかな議長の顔ではない。

研究者が、あり得ない結果を突きつけられた時の顔だった。

 

タリアはさらに報告を続ける。

「その後、タマンラセットでの戦闘とセラ本人の証言から、彼女たちは“Lシリーズ”と呼ばれる個体群の一部であることが分かりました」

「Lシリーズ……」

「セラはL-31。タマンラセットでは、No.3と呼ばれる個体および、その専用機と見られるストラテゴスと交戦しています。ミュルミドンと呼ばれる機体群も確認しました」

「待ってくれ」

 

デュランダルが、低く言った。

それは制止というより、追いつくための間だった。

「Lシリーズ。模倣個体。ラクス・クライン由来の遺伝情報。人格的完成体研究……」

 

彼は言葉を一つずつ並べた。

だが、並べてもなお、意味がひとつにまとまらない。

「その少女は、今どこに」

「本国担当官の管理下へ移しました。ただし、私が議長へ直接報告し、協議を終えるまで、事情聴取、事実確認、身体検査、レギナントとの接触調査は保留するよう要求しています」

「賢明だ」

 

デュランダルは即答した。

タリアはわずかに目を細める。

「議長」

「そのまま通常手続きに乗せるべきではない」

 

デュランダルの声には、先ほどまでと違う硬さがあった。

「少なくとも、私が今聞いた内容が事実なら、その少女は単なる搭乗者ではない。未解析機の適合者というだけでもない」

「はい」

「研究の結果として作られ、失敗作として捨てられ、さらに戦場に置かれた個体……いや、これは推測か。それに彼女を“個体”と言うべきでもない」

 

デュランダルはそこで言葉を切った。

しばし沈黙が降りる。

「セラ、と言ったね」

「はい。本艦では、彼女をセラと呼んでいます」

「彼女を、ここへ」

 

タリアは息を呑んだ。

「事情聴取としてではなく、ですか」

「もちろんだ」

 

デュランダルは顔を上げる。

「私が直接、話を聞く。いや……聞かなければならない」

 

その言葉に、タリアは静かに頷いた。

「承知しました」

「グラディス艦長」

「はい」

「その少女を、丁重に連れてきてほしい。担当部署には私から指示を出す」

 

タリアの肩から、ほんのわずかに力が抜けた。

完全に安心できる状況ではない。

だが、セラは少なくとも、無人の聴取室へ送られるわけではなくなった。

「ありがとうございます」

「礼を言われることではないよ」

 

デュランダルは、まだ資料から目を離せずにいた。

 

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