機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

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79.ごめんなさい

「何で、この子はラクスと同じ顔なんだ!」

 

カガリの声が、岩場に残った。

 

波が黒い岩に砕け、遠くの海上ではまだ砲火の光が揺れている。夜は終わりかけているのに、戦場はまだ終わっていない。その中で、カガリはセラを支えたまま、彼女の顔から目を離せずにいた。

セラはゆっくりと顔を上げる。カガリの眉が寄っている。声が大きい。驚いているように見える。怒っているようにも見える。

理由は、分からない。

 

「その情報開示は制限されています」

 

かすれた声だった。

カガリは一瞬、言葉を失った。

 

「……そういう答えが欲しいんじゃない」

 

セラはそれ以上答えなかった。シンも、すぐには何も言えなかった。

セラがラクス・クラインに似ている。そのことは、見れば分かる。だが、なぜそうなのかをシンは知らない。知っている気もしていた。けれど、言葉にできるほど何かを知っているわけではなかった。

カガリの視線がシンへ向く。

 

「お前たちは、この子が何なのか知っているのか」

「それは……」

 

シンの言葉は続かなかった。

知らないのか。言えないのか。カガリの表情が、わずかに硬くなる。

その時、空からセイバーが降りてきた。

赤い機体が岩場近くに着地し、ハッチが開く。アスランが駆け寄ってきた。カガリと、その腕の中にいるセラを見て、足を止める。

 

「カガリ」

 

カガリはアスランを見た。

 

「アスラン。お前は知ってるんだな」

 

アスランは答えなかった。

その沈黙だけで、カガリの目が揺れた。

 

「……そうか」

 

短い言葉だった。けれど、その中に疑いが混じる。

 

「お前も、何も言えないんだな」

「カガリ」

「この子は何なんだ」

 

アスランは、また答えられなかった。

シンは、セラを見た。浅い息をしている。顔色は悪い。さっきまでフリーダムと戦っていたパイロットには見えない。けれど、セラだ。ミネルバに来て、名前をもらって、メイリンに叱られて、何度も妙なことを言ってきた、あのセラだった。

 

「何であってもいいじゃないか」

 

シンの声が、思ったより強く出た。

カガリが振り返る。

 

「ラクスに似てるから何だって言うんだよ! セラはセラだろ!」

「シン」

 

アスランが止めようとする。だが、シンは止まらなかった。

 

「こいつは俺たちを助けたんだ。ミネルバを守ったんだ。さっきだって、無茶してフリーダムを止めた。なのに、顔が似てるから何なんだよ!」

 

カガリは言い返そうとして、止まった。

シンの言葉に理屈は足りない。ラクス・クラインの顔が持つ意味も、それが戦場にいることの危うさも、たぶん分かっていない。それでも、目の前の少女を疑われたくないという感情だけは、まっすぐだった。

カガリはセラを見る。

セラは何も言わない。ただ、浅く息をしている。

この子も何かのために用意された存在ではないのか。ザフトは、この子を何に使うつもりなのか。デュランダル議長は、どこまで知っているのか。

疑問は次々に浮かぶ。けれど、そのどれもを今ここでぶつけるには、セラはあまりに弱って見えた。

アスランが静かに口を開く。

 

「カガリ、今ここで話せることじゃない。でも彼女はセラだ。それだけは変わらない」

 

カガリはアスランを見る。

 

「それで納得しろって言うのか」

「今は、彼女をミネルバへ戻すのが先だ」

 

アスランの声は低かった。シンの勢いを借りるように、けれどそれ以上荒れさせないように、カガリの前に立つ。

カガリは唇を噛む。納得はしていない。疑いも消えていない。だが、セラを支えている腕に力を入れ直すと、そのまま静かに息を吐いた。

 

「……分かった」

 

カガリは、セラをシンへ渡した。

シンが慌てて受け取る。セラの身体は思ったより軽く、肩に触れた指先は冷たかった。

カガリは最後に、もう一度だけセラの顔を見る。

 

「これは、見なかったことにはできない」

 

シンが何か言い返そうとしたが、アスランが肩を押さえた。

カガリはそれ以上何も言わず、ルージュへ向かった。乗り込む直前、一度だけ振り返る。セラを見て、シンを見て、最後にアスランを見た。

疑惑は消えていない。

ただ、今は持ち帰るしかなかった。

カガリがルージュへ戻るのを見送り、シンは小さく息を吐いた。

 

「……これ、艦長になんて言えばいいんだ」

 

アスランはセラの顔を見た。

 

「見られた、と言うしかない」

 

*****

 

セイバーとインパルスが、ミネルバの格納庫へ戻ってきた。

 

続いて、レギナントが着艦する。

 

灰色に焼けた白い装甲が、格納庫の照明を鈍く返した。展開していたスカート装甲が少しずつ畳まれ、残ったドラグーンも収容位置へ戻っていく。いつもなら損傷箇所を見て整備員たちがすぐに騒ぎ出すところだが、今回は誰も先に口を開かなかった。

 

全員、コクピットハッチを見ていた。

 

固定アームがレギナントを抱え込む。重い金属音が格納庫に響いた。

 

「固定、完了」

「ハッチ開きます」

 

その報告を聞いた瞬間、メイリンはもう走り出していた。ルナマリアが慌てて追い、シンもインパルスの側から駆け寄る。アスランは一歩遅れて、医療班の動線を空けるように立ち位置を変えた。

 

ハッチが開く。

 

中から現れたセラは、医療班に支えられながら、ゆっくりと足を下ろした。

 

顔色は悪かった。唇の色も薄い。手すりを掴む指に力が入っているのに、足元は頼りない。それでも、セラは自分で降りようとしていた。

 

「セラ!」

 

メイリンの声が、格納庫に響いた。

 

セラが顔を上げる。視線がメイリンを捉える。眉が寄っている。息が乱れている。怒っているようにも見える。泣きそうにも見える。どちらなのか、判別できない。

 

「歩けるの、セラ」

「歩行は可能です」

「可能かどうかを聞いてるんじゃないの」

 

ルナマリアの声も少し震えていた。

 

シンはすぐ近くまで来ていたのに、何も言わなかった。言えば怒鳴ってしまいそうだった。だから、歯を食いしばって黙っている。アスランはセラの顔色を見て、医療班へ短く頷いた。

 

ヴィーノとヨウランも、いつものようには茶化さなかった。

 

「……よく戻ったな」

 

誰かが小さく言った。整備員の声だった。

 

別の整備員が、工具を持ったまま息を吐く。

 

「本当に、戻ってきたんだな」

 

その声に、格納庫の空気が少しだけ動いた。押し殺していた息が、あちこちで漏れる。けれど、誰も大きな声では騒がなかった。レギナントの損傷を見るより先に、皆がセラを見ていた。

 

セラはその視線を順番に受け止めた。

 

怒っている。心配している。安心している。驚いている。

多い。

判別が追いつかない。

 

けれど、敵意ではない。

 

「メイリン」

「なに」

 

メイリンの声は低かった。怒っているように聞こえた。けれど、目元は濡れていた。

 

セラは一度、視線を落とした。

 

フリーダムの撃墜は未達成。即時帰投も未達成。メイリンを心配させないことも未達成。顔を見られた。情報保全にも問題が発生した可能性がある。

 

うまくできていない。

 

「ミッションは、失敗しました」

 

メイリンの表情が揺れる。

 

「セラ、それは――」

「ごめんなさい」

 

セラは頭を下げた。

 

格納庫の音が、遠くなった。

 

メイリンだけではない。ルナマリアも、シンも、アスランも、医療班も、近くにいた整備員たちも、一瞬だけ言葉を失った。

 

その言葉が、セラの口から出たことを、誰もすぐには処理できなかった。

 

「……今」

 

メイリンの声が、かすれた。

 

「今、謝ったの」

 

セラは顔を上げない。

 

「メイリンを心配させないことは、未達成です」

「そういうことじゃ……」

 

メイリンは言いかけて、止まった。

 

怒りたい。叱りたい。よく帰ってきたと言いたい。無事でよかったと言いたい。けれど、セラが下げた頭を見た瞬間、その全部が喉で詰まった。

 

メイリンはそっと手を伸ばし、セラの肩に触れた。強く掴むわけではない。逃がさないように、でも痛くしないように。

 

「……本当に、心配したんだから」

 

セラはゆっくり顔を上げた。

 

「心配」

「そう。心配」

「心配をかけました」

「うん」

 

メイリンは小さく頷く。

 

「でも、帰ってきた」

「帰投しました」

「うん。帰ってきたの」

 

その言葉を聞いて、シンがようやく息を吐いた。

 

「……ほんと、帰ってきたならまずそれ言えよ」

 

声は少し荒かった。だが、怒っているだけではなかった。

 

ルナマリアが目元を拭うふりをして、すぐに腕を組む。

 

「それで、次に言うのがごめんなさいなんだから、順番が変なのよ」

「順番」

「そう。まず、ただいま。次に、心配かけました。最後に、ごめんなさい」

「ただいま」

 

セラは短く繰り返した。

 

メイリンの顔が、そこで少しだけ崩れた。

 

「……うん。おかえり」

 

その声を合図にしたように、格納庫の空気がようやく戻ってくる。医療班が軽く咳払いをし、ヴィーノがわざとらしく天井を見た。

 

「感動の再会中すみませんが、そろそろ検査に回します」

「はいはい、全部見てください。背中も、神経接続も、ちゃんと全部」

 

メイリンが即答する。

 

ヨウランが小さく呟いた。

 

「メイリン、完全に保護者だな」

「聞こえてるわよ」

「すみません」

 

ヴィーノが両手を上げる。

 

「でも、まあ、今日くらいは言わせてくれよ。セラ、おつかれ」

「おつかれ」

「そう。よく戻った」

 

セラはその言葉を数秒、処理するように黙った。

 

「労いを確認しました」

「確認で終わるのかよ」

「ありがとうございます」

「おお」

 

ヴィーノが目を丸くする。ヨウランも、少しだけ笑った。

 

「今日は本当に成長の日だな」

「宴会はしないわよ」

 

ルナマリアが先に釘を刺す。

 

「まだ何も言ってないだろ」

「言いそうだったから」

 

小さな笑いが起きる。

 

セラはその笑いを聞いていた。騒がしい。怒っている。心配している。安心している。茶化している。

どれも、敵意ではない。

 

「セラ?」

 

メイリンが覗き込む。

 

「どうしたの」

「騒がしいです」

「悪かったわね」

「でも、不快ではありません」

 

メイリンが一瞬だけ黙った。ルナマリアも、少しだけ表情を緩める。

 

「……そう」

 

メイリンは小さく息を吐いた。

 

「じゃあ、その騒がしいところに戻ってこられてよかったね」

 

セラは短く頷く。

 

「はい」

 

その返事に、メイリンはようやく笑った。

 

格納庫では、整備員たちが少しずつレギナントの損傷確認へ戻り始めている。誰かが装甲の焼け具合に小さく悲鳴を上げ、別の誰かが「今日の整備班、徹夜確定」とぼやいた。

 

「徹夜は予定にありません」

 

セラが言うと、整備員の1人が振り返る。

 

「お前の予定にはなくても、俺たちの予定には今入ったんだよ」

「予定変更」

「そう、予定変更」

「申し訳ありません」

「そこでまた謝るのかよ」

 

周囲にまた笑いが広がった。

 

その声を背に、セラは医療班に付き添われて歩き出す。メイリンはその横に並び、ルナマリアも当然のようについていった。

 

*****

 

艦橋に上がると、タリアはすでに待っていた。

 

指揮席の前に、シンとアスランが立つ。少し遅れて、セラも医療班の確認を終えて入ってきた。顔色はまだ悪い。歩幅も小さい。だが、本人は何事もなかったように、シンたちの横へ並んだ。

通信席のメイリンが、思わず立ち上がりかける。

 

「セラ……」

「メイリン、持ち場に」

 

タリアの声は静かだった。

メイリンは唇を結び、席へ戻る。けれど、視線だけは何度もセラへ向いていた。

 

「報告を聞くわ」

 

タリアが言う。

先に口を開いたのはアスランだった。

 

「ストライクルージュのパイロットに、セラの顔を見られました」

 

艦橋の空気が、わずかに沈む。

アーサーが何か言いかけ、結局、口を閉じた。メイリンの手が通信席の端を握る。シンは一度、足元を見てから顔を上げた。

 

「ラクス・クラインに似ていると指摘されています。でも、情報は何も伝えていません」

 

タリアはすぐには答えなかった。

メインモニターには、まだ戦闘後の海域情報が流れている。離脱したアークエンジェルの航跡。帰投した機体の状態。レギナントの損傷一覧。そのどれもが、今はただの背景に見えた。

 

「……そう。やっぱり見られたのね」

 

責める声ではなかった。

だが、その一言で、シンの肩に力が入る。

やっぱり。

その言葉は、最初からその可能性があったことを示していた。セラの顔を、誰かに見られる。ラクス・クラインに似ていると気づかれる。そうなった時に、何が起きるか。

タリアは、そこまで考えていたのだ。

 

「申し訳ありません」

 

アスランが言う。

 

「状況を考えれば、避けるのは難しかったわ。彼女に救助された以上、顔を見せずに済ませる方が不自然よ」

「でも……」

 

シンは拳を握る。

 

「俺が、もっと早く着いていれば」

「結果は変わらなかったかもしれないわ」

 

タリアの視線がシンへ向く。

 

「問題は、見られたことそのものではない。こちらが何を話したか、そして相手が何を持ち帰ったかよ」

「話していません」

 

セラが静かに言った。

全員の視線が、彼女へ集まる。

 

「カガリ・ユラ・アスハから質問を受けました。私は、情報開示には艦長の許可が必要であると返答しました」

「……それだけ?」

「はい」

「他には」

「自立可能であると申告しました」

 

シンが顔をしかめる。

 

「あれ、自立可能って言える状態じゃなかっただろ」

「立位は可能でした」

「そういう意味じゃない」

 

アーサーが小さく咳払いをした。笑っていい場面ではない。だが、艦橋の張り詰めた空気が、ほんの少しだけ緩む。

タリアも表情は変えなかったが、声だけを少し柔らかくした。

 

「機密保持としては、最低限の対応ね」

「最低限」

「褒めてはいないわ」

「了解しました」

 

セラはそう答え、ほんのわずかに目を伏せた。

 

「任務の障害となりました」

 

メイリンが顔を上げる。

 

「セラ、それは――」

「メイリン」

 

タリアが静かに制した。

メイリンは言葉を飲み込む。だが、納得していない顔だった。

セラは続けない。言葉を待つように、ただタリアを見ている。自分が役に立たなかった。任務を妨げた。そう判断されても仕方がない。そんなふうに、そこに立っていた。

タリアはしばらくセラを見つめた。

 

「そうね」

 

メイリンの肩が揺れる。

だが、タリアは続けた。

 

「でも、それを判断するのは私。貴女じゃないわ」

 

セラの目が、わずかに動く。

 

「私ではない」

「そう。貴女は報告をする。私はそれを受けて判断する。勝手に自分を処分対象にしないこと」

「処分対象」

「言い方が悪かったかしら」

 

タリアは小さく息を吐く。

 

「貴女を責めているわけではないわ」

 

セラはすぐには答えなかった。怒っているようには見えない。声は低いが、鋭くはない。メイリンの時とは違う。シンの時とも違う。

判別はできない。

けれど、敵意ではない。

 

「了解しました」

 

セラは小さく頷いた。

タリアは改めて、シンとアスランを見る。

 

「この件は私が処理します。ストライクルージュ側に渡った情報は、現時点では顔を見られたことと、ラクス・クラインに似ていると指摘されたこと。それ以上は推測の域を出ない」

「でも、カガリはたぶん疑ってます」

 

アスランが言う。

 

「でしょうね」

 

タリアはあっさり認めた。

 

「だからこそ、こちらから余計な言葉を重ねない。問い詰められても、答えない。それで通しなさい」

「了解」

「はい」

 

シンとアスランが答える。

タリアは最後に、セラへ視線を戻した。

 

「セラ」

「はい」

「次で挽回しなさい。任務はまだ続いているのよ」

 

その言葉に、セラは一度だけ瞬きをした。

失敗しても、次がある。

不要とは言われていない。

 

「了解しました」

 

今度の返答は、さっきより少しだけ早かった。

タリアは頷く。

 

「医療班の指示に従って休みなさい。報告は以上」

「了解しました」

 

セラが一歩下がる。

メイリンがまた立ち上がりかけたが、今度はタリアは止めなかった。メイリンは通信席から半歩だけ離れ、セラの方へ視線を向ける。

 

「ちゃんと休んでね」

「休息は必要です」

「必要だから言ってるの」

「了解しました」

 

そのやり取りを聞いて、アーサーが少しだけ肩の力を抜いた。シンも息を吐く。

報告は終わった。

けれど、問題が終わったわけではない。

セラの顔を見たカガリが、何を考え、どこへ伝えるのか。

その答えは、まだ誰にも分からなかった。




食堂には、戦闘後のざわめきが戻っていた。

疲れた声。トレーの音。誰かが水を求める声。整備班の愚痴と、撃墜数を盛って話す声が混ざり、いつものミネルバの食堂になりかけている。
その中で、セラは席についていた。
トレーの上には、カレーが置かれている。

「またカレーかよ」

シンが向かいに座りながら言った。

「今日、金曜じゃないだろ」
「今日は食べたい日です」
「便利だな、その分類」

ルナマリアが呆れた顔をする。

「ちゃんと他のものも食べなさいって言ってるでしょ。さっきまで倒れてたんだから」
「カレーには複数の栄養素が含まれています」
「そういう問題じゃないの」

メイリンが隣でため息をつく。けれど、その顔は格納庫にいた時より少しだけ柔らかかった。

「食欲はあるんだよね」
「あります」
「なら、まずはよし」
「よし」
「そこは復唱しなくていいよ」

ヴィーノとヨウランが笑い、セラはスプーンを持ったまま首を傾げた。
笑っている。楽しそうに見える。少なくとも、怒ってはいない。
そこまでは分かった。

「どうした?」

シンが覗き込む。

「騒がしいです」
「食堂だからな」
「でも、不快ではありません」

シンは一瞬だけ目を丸くし、それから少し笑った。

「そっか」

セラは短く頷き、カレーを口に運ぶ。
しばらく、誰も戦闘の話をしなかった。メイリンが水を勧め、ルナマリアが野菜を残すなと注意し、ヴィーノが整備班の徹夜を嘆く。セラはそのたびに短く返事をし、時々、言葉の意味を取り違えた。
それでまた、食堂の端に小さな笑いが起きた。
シンはその様子を見ながら、ふと思い出した。
岩場で、セラが言った言葉。

「そういえばさ」

シンはスプーンを止める。

「あの時言ってた、生体電池ってなんだよ。変な言い方するよな」

メイリンが顔を上げる。

「生体電池?」
「ほら、疲れたって意味で言ってたやつ。MS操縦って体力使うし、セラは体力なさそうだし」
「体力は不足しています」
「自覚あるんだな」

セラはカレーを飲み込んでから、いつもの調子で答えた。

「生体電池はレギナントの制御系に使用されています」
「へぇ、制御系……」

シンはそこまで言って、少しだけ眉を寄せた。

「……また変な言い方してるな」
「変」
「いや、もういい。お前の言い方ってたまに変だし」
「記録しました」
「そこは記録しなくていい」

ルナマリアが呆れ、メイリンが苦笑する。ヴィーノとヨウランは別の話題へ移り、食堂のざわめきがまた戻っていった。
その意味は、まだ誰にも正しく理解されないまま、食堂のざわめきに紛れていった。
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