機動戦士ガンダムSEED DESTINY ~空白の少女~   作:割戸三葉

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99.少しだけの余暇

プラント本国、議長府。

 

タリアは、デュランダル議長の執務室に通されていた。

窓の外には、白く整えられた連絡路と、幾何学的に並ぶ人工構造物が見える。

戦場の煙も、砲火もない。

それでも、室内に流れる空気は、休息とはほど遠かった。

 

「帰還早々にすまないね、グラディス艦長」

「いえ。必要な報告です」

 

タリアは姿勢を正したまま答えた。

 

デュランダルは柔らかく頷き、手元の端末を開く。

 

「まず、ミネルバの働きに礼を言わせてほしい。アークエンジェル関連の一連の戦闘記録、そしてウェーク島偵察で得られた情報。どちらも、ザフトにとって重要なものだった」

「本艦は任務を遂行したまでです」

「君なら、そう言うと思ったよ」

 

穏やかな声だった。

だが、そこでデュランダルの表情から柔らかさが消える。

 

「以前、セラから聞いた研究機関についてだ。こちらで記録を洗っていた」

「人格的完成体研究に関わる施設ですね」

「ああ。彼女の証言にあった研究所だ」

 

その言葉で、タリアの胸の奥に、以前の面会の光景が戻った。

 

L-31。

ラクス・クラインを基準個体として作られた少女。

研究所で不合格とされ、廃棄予定と分類され、その後、外部企業によって軍事目的へ転用された存在。

 

あの時、セラは企業名までは知らないと言った。

 

デュランダルは端末を操作する。

表示されたのは、法人記録、資産移管の契約書、研究設備の譲渡証明だった。

古い資料は欠損が多く、伏せられた項目も少なくない。

それでも、流れは追える。

 

「本来の研究所は、すでに法人として存在していない」

「閉鎖された、ということですか」

「書類上はそうだ。資金難による事業整理、研究資産の譲渡、関係者の配置換え。表向きには、よくある処理だ」

 

デュランダルは一拍置いた。

 

「吸収先は、ネメア・インダストリアル。ロゴス傘下の軍産企業だ。新興企業ではあるが、ここ数年で急速に規模を拡大している」

「ネメア・インダストリアル」

 

タリアはその社名を口の中で確かめた。

 

聞き覚えはない。

だが、端末に映し出された関連資料を見て、別の記憶が繋がる。

研究所跡に残されていたとされる多数の神経接続針の写真。

残されていた被験個体の記録は少数だった。

だが、そのすべてに、Lから始まる番号が振られている。

番号の桁からみても100人以上は犠牲になったと思われた。

 

「これを見たまえ」

 

デュランダルが表示を切り替えた。

そこには、ネメアが扱ったとされる複数のMS関連資料があった。

 

完全な設計図ではない。

黒塗りも多い。

それでも、外形、関節構造、背部ユニットの配置、装甲材の処理に、タリアは見覚えがあった。

 

「……ミュルミドンと一致します」

 

タリアは端末を見ながら言った。

 

「少なくとも、ジブラルタルで本艦が交戦した機体に一致する部分があると判断できます。こちらの資料には名称が伏せられていますが、構造上の特徴はかなり近い」

「他の記録は」

「タマンラセットでの交戦記録とも照合できます。完全な確認にはミネルバ側の戦闘ログを重ねる必要がありますが、偶然とは考えにくいでしょう」

 

デュランダルは静かに息を吐いた。

 

「やはり、外部企業というのはロゴスの系統だったか」

「セラの証言にあった支援元ですね」

「あの時点で、彼女は名前を知らなかった。だが、これで欠けていた部分のひとつが埋まった」

 

タリアは資料を読み進めた。

ネメアの事業欄には、装甲材、無人管制、特殊環境用MS部品、神経接続系の補助技術などが含まれている。

単独ならば、軍需産業の一分野として処理できる。

だが、それらをひとつの企業が束ねているとなれば、意味は変わる。

 

「研究所の被験体を、兵器体系へ組み込んだ企業」

 

タリアは低く言った。

 

「そう見るべきでしょうね」

「厳しい言い方だが、否定はできない」

 

デュランダルの声には、以前セラと話した時と同じ硬さがあった。

穏やかさの奥に、怒りとも悔恨ともつかないものが沈んでいる。

 

「ネメアは、ロゴス傘下の企業の中でも表に出ている情報が少ない。だが、君たちの記録とこの資料が一致するなら、ロゴス系基地に彼らの機体や技術が配備されている可能性は高い」

「次の作戦に関係する、ということですね」

「その通りだ」

 

デュランダルは別の資料を開いた。

地球の地図が表示される。

赤い点がいくつも灯り、そのうちのひとつが大西洋北部で強調された。

 

「ロゴス告発以降、地上各地で反ロゴスの動きが始まっている。ザフト地上部隊も、ロゴス傘下と確認された拠点に対する制圧準備を進めているところだ」

「ミネルバにも参加命令を」

「ああ。君たちには、最重要目標の攻略に加わってもらう」

 

地図上の一点が拡大される。

北大西洋。

アイスランド島方面。

 

「ヘブンズベースだ」

「地球連合軍の本拠地級拠点ですね」

「そこへ、ロード・ジブリールが逃げ込んだと見られている」

 

表示された男の資料を、タリアは無言で見た。

アズラエル亡き後、ブルーコスモスの新盟主となった人物。

ロゴス中枢にも連なる、今回の作戦における最重要拘束対象。

 

戦場で銃を取る男ではない。

だが、戦争を動かし続けるだけの権力と資金と人脈を持つ。

 

「作戦目標は、ヘブンズベースの制圧。そして可能なら、ジブリールの拘束だ」

「了解しました。ミネルバは命令を受諾します」

 

タリアは敬礼した。

 

デュランダルも静かに頷く。

そして、少しだけ声の調子を変えた。

 

「それと、もうひとつ」

「はい」

「ミネルバには、少しばかり贈り物を用意している」

「贈り物、ですか」

「君たちの働きに見合うものだ。ディセンベル市第8区へ届くよう手配した。詳細は到着後に確認してくれ」

 

タリアはわずかに眉を動かした。

議長がここであえて詳細を伏せるなら、それも意図のうちなのだろう。

 

「承知しました」

「君たちには、これからさらに厳しい任務を任せることになる。だからこそ、休める時には休んでおいてほしい」

 

それは命令ではなかった。

だが、次に待つ戦場の重さを告げる言葉だった。

 

「ミネルバへ戻り次第、準備に入ります」

「頼むよ、グラディス艦長」

 

タリアはもう一度敬礼し、議長府を後にした。

 

廊下へ出ると、プラント本国の白い光が差し込んでいた。

美しく、整った光。

その中で、タリアの手元の端末には、ネメア・インダストリアルの名が残っている。

 

研究所は、消えていなかった。

名前を変え、場所を変え、ロゴスの影の中で兵器を作り続けていた。

 

そしてその影は、次の戦場へと続いていた。

 

*****

 

コロニーにも、地球ほど明確ではないが季節がある。

 

一年を通して気温や湿度、採光、風の流れが調整されるのは、人間だけのためではない。

農業区画の植物、居住区の街路樹、飼育施設の動物たち。

すべてが安定して生きられるように、プラントの環境はゆるやかに変化をつけられている。

 

ディセンベル市にも、夏が近づいていた。

 

レギナントの装甲交換と整備に要する5日間は、ミネルバのクルーたちにとって思いがけない休息になった。

もちろん、完全な休暇ではない。

補給、整備、報告書、訓練、次作戦への準備。

やるべきことは山ほどある。

 

それでも、戦闘配備の警報に叩き起こされない時間があるだけで、艦内の空気は少し違っていた。

 

その最後の休暇日。

メイリンとルナマリアは、セラを連れて街へ出ていた。

 

セラはバイザーをかけている。

ネロが渡した、可愛さより実用性を優先した医療用バイザーだ。

メイリンとルナマリアは最初こそ不満だったが、街に出てみると、その効果ははっきりしていた。

 

ラクス・クラインに似た顔立ちは、バイザーの奥に隠れる。

小柄で華奢な姿は目を引くが、それだけなら特に大きな問題にはならない。

少なくとも、すれ違う人間が足を止めて凝視することはなかった。

 

「……悔しいけど、役には立ってるのよね」

「はい。秘匿性は良好です」

「そこは認めるけど、もう少し可愛くできたと思うんだよね」

「可愛さは秘匿性に関係しますか」

「する。気分に関係する」

「気分」

 

セラはその言葉を反復する。

 

メイリンは笑いながら、セラの手を軽く引いた。

 

「いいから、今日は気分の方も勉強しよ」

 

三人が入ったのは、ショッピング区画の一角だった。

夏向けの衣料品が並び、ワンピースやサンダル、水辺用のバッグが店頭を飾っている。

コロニーの夏といえば、室内ウォーターパークや人工ビーチが定番。壁の張り紙には他の市区からのチラシが張られていた。

ルナマリアは水着売り場の前で足を止める。

 

「せっかくだし、見るだけ見てく?」

「ううん……見るだけなら」

「購入しないのですか」

「艦の行き先も決まってないしね。それにあと何日ここにいられるか分からないでしょ」

 

メイリンがそう言うと、セラは並べられた水着をじっと見た。

布地の少なさと、用途の限定性を照合しているような顔だった。

 

「これは、戦闘には不向きです」

「当たり前でしょ!」

「でも、セラが真面目に言うと妙に説得力あるわね」

「水中戦はレギナントの想定外です」

「水着の話からMSの話をするとか、ある意味器用ね……」

 

ルナマリアが笑いながら、話を止めさせる。

メイリンもつられて笑った。

 

結局、水着は買わなかった。

代わりに、三人は街を少し歩き、オープンカフェの席に落ち着いた。

人工の空は明るく、柔らかな風が通路を流れている。

カップの氷が、小さく鳴った。

 

「こういうの、久しぶりかも」

「そうね。休暇っぽいことしてる」

「休暇っぽい」

 

セラが手元のドリンクを見る。

彼女が選んだのは、店員に勧められた果実系の甘い飲み物だった。

本人は「水分補給効率」を理由にしていたが、メイリンはその一言を聞かなかったことにした。

 

ルナマリアがストローをくるりと回す。

 

「じゃあ、せっかくだし、休暇っぽい話題でもする?」

「休暇っぽい話題って?」

「ミネルバの男連中について」

 

メイリンが少しむせた。

 

「いきなりそこ?」

「いいじゃない。女三人でカフェにいるんだから、それっぽいでしょ」

「それっぽいけど……」

「セラにも勉強になるかもしれないし」

 

セラが顔を上げる。

 

「ミネルバの男性陣について、評価を行うのですか」

「評価って言うと急に業務みたいになるからやめて」

「でも、だいたい合ってるわね」

 

ルナマリアは楽しそうに笑った。

 

「まずアスランさん」

「いきなりアスランさんなんだ」

「まあ、分かりやすいところから」

 

メイリンは少し考えた。

 

まず顔がいい。

頼りになる。

強い。

優しいところもある。

ただ、その優しさはいつも少し遠い。

 

「アスランさんは、いい人だと思うよ。すごく頼りになるし、かっこいいし」

「うん」

「でも、今は……うーん」

 

メイリンはそこで言葉を濁した。

 

ルナマリアがにやりとする。

 

「出た、うーん」

「だって、何て言えばいいのか分からないんだもん」

「まあ、分かるよ。私もアスランさんはいいと思う。いい男なのは間違いないと思う」

「でしょ」

「でも、今はうーん」

「お姉ちゃんまで」

 

二人は顔を見合わせて、同時に小さく笑った。

 

「うーん、とは」

 

セラが尋ねる。

ルナマリアはストローを指で押さえながら考えた。

 

「頼れるんだけど、背負ってるものが多すぎるっていうか」

「近いところにいるようで、時々すごく遠くを見るよね」

「そう、それ。あと、真面目すぎる」

「真面目は評価項目として良好では」

「良好だけど、恋愛だとちょっと重い時もあるの」

 

セラは少し考えて、やはりわからない顔をする。

そんな彼女を見て笑いながら、ルナマリアは次の名前を出す。

 

「じゃあ、次はシン」

「シンかあ」

 

メイリンの表情が少し柔らかくなる。

 

「シンは、いい友達」

「即答ね」

「うん。怒りっぽいし、すぐ突っ走るけど、すごく分かりやすいし。悪いことはされたことないもん。セラのことも本気で心配してくれるし」

「まあね。いい奴なのは認める」

 

ルナマリアは頬杖をつく。

 

「でも、まだまだガキよね」

「お姉ちゃん、それシンが聞いたら怒るよ」

「怒るところがガキなのよ」

「それは……否定できないかも」

「でしょ。放っておくと一人で突っ込むし、何かあるとすぐ顔に出るし、分かりやすすぎるのよ」

 

そう言いながら、ルナマリアの声に嫌悪はない。

呆れている。

けれど、突き放してはいない。

 

セラは二人の会話を聞きながら、カップを両手で持っていた。

 

「レイは?」

「レイは……難しい」

「悪い人じゃないんだけどね。何考えてるか分からない時がある」

「ただ、シンのことはよく見てると思う」

「うん。それは思う」

 

ヴィーノとヨウランについては、二人とも評価が早かった。

 

「シンとそろって、安定の三馬鹿だよね」

「うん、整備班っていうよりお笑いっていう感じ」

「男っていうより、コントのノリ」

「それ、本人たちが聞いたら微妙な顔しそう」

「でも助かってるのは本当よ。セラにも変な影響与えてるけど」

「変な影響」

 

セラが反復する。

メイリンとルナマリアは同時にバイザーを見た。

 

「この間のポーズとか」

「秘密兵器感とか」

「ヴィーノとヨウランの影響です」

「自覚はあるんだね……」

 

しばらく笑った後、ルナマリアがふと思いついたようにセラを見る。

 

「じゃあ、セラは?」

「私」

「そう。気になる男の人とか、いないの?」

 

メイリンも興味を引かれて、少し身を乗り出す。

 

「セラの答え、聞いてみたいかも」

「気になる、の定義を確認します」

「ええと……一緒にいると気になるとか、もっと知りたいとか、ちょっと特別に見ちゃうとか」

「特別」

「そんな感じ」

 

セラはストローを持ったまま、しばらく考えた。

バイザーのせいで視線は見えにくい。

それでも、真面目に処理しているのは分かった。

 

やがて、セラは言った。

 

「シンとユアンです」

 

メイリンの手が止まった。

ルナマリアも、カップを口元へ運ぶ途中で固まる。

 

「……えっ」

「ちょっと待って。今、二人言った?」

「はい」

 

セラは平然としている。

言った本人だけが、場の空気の変化を理解していない。

 

ルナマリアが、ゆっくりカップを置いた。

 

「理由、聞いていい?」

「はい」

「まずシンは」

「シンは行動的です。私にはない要素です」

 

メイリンは小さく頷いた。

 

「ああ……それは分かるかも」

「行動的って言えば聞こえはいいけど、だいたい突撃よ」

「でも、セラから見ると違うんだよね」

 

セラは頷く。

 

「シンは、判断から行動までの時間が短いです。感情が先行しているように見える場合もありますが、停止しません」

「それ、褒めてる?」

「評価しています」

「微妙な言い方ね」

 

ルナマリアは苦笑した。

だが、すぐに目を細める。

 

「じゃあ、ユアンは?」

「先日、見舞いに来ました」

「ふ、ふーん……?」

 

メイリンの声が、明らかに震えた。

手に持っているカップのコーヒーが波打っている。

 

ルナマリアが横を見る。

 

「メイリン、声震えてる」

「震えてない」

「手も震えてる」

「震えてないってば」

「音声に揺れがあります」

「セラまで言わなくていいの!」

 

メイリンは慌ててカップを持ち直した。

ルナマリアは完全に面白がっている顔だった。

 

「見舞いに来たんだ、ユアン」

「はい」

「何話したの」

「体調を確認されました」

「それだけ?」

「手を握りました」

「握ったんだ……」

「時間が合えば声を掛けるといわれました」

「へえ……」

 

メイリンの声が、また少し上ずった。

ルナマリアが肘で軽くつつく。

 

「だから震えてるって」

「わ、私聞いてないよ!担当官のはずなのに!」

「まあまあ、あんな分かりやすい子、すぐに噂になるって」

「分かりやすい、とは」

「あ、いや、こっちの話」

 

メイリンは慌てて誤魔化す。

セラは首を傾げた。

 

「セラはユアンが好き?」

「好き、とは」

「んん……、いつもユアンを考えちゃうとか、目で追っちゃうとか」

「ユアンが視界に入った時、視線で追う割合は増加しました」

 

その言葉を聞いて、ルナマリアは笑いをこらえながら、少しだけ優しい声になった。

 

「でも、セラがそうやって人の名前を出すの、何かいいわね」

「良い」

「うん。前より、ちゃんと周りを見てるってことじゃない?」

 

セラは考える。

 

「私は以前も周囲を確認していました」

「確認じゃなくて、気にしてるってこと」

「気にする」

 

セラはその言葉をもう一度繰り返した。

 

「シンは行動的。ユアンは見舞いに来た。メイリンは声が震えた。ルナは楽しそうです」

「そこまで記録しなくていいから!」

「でも、だいたい合ってるわね」

 

三人の間に、柔らかい笑いが広がった。

カフェの周囲を行き交う人々は、彼女たちがミネルバのクルーであることも、これから向かう戦場のことも知らない。

バイザーをかけた少女が、どんな機体に乗っているのかも知らない。

 

その知らなさが、今だけはありがたかった。

 

メイリンはカップの中の氷を見つめた。

 

「こういう時間、また取れるといいね」

「取れるわよ」

「お姉ちゃん、根拠は」

「取るの。休める時に休むって、艦長も言ってたでしょ」

「命令ですか」

「そう。命令」

「了解しました」

 

セラが真面目に頷く。

メイリンとルナマリアは顔を見合わせ、また笑った。

 

*****

 

三人が基地へ戻った頃、シンとアスランはすでに帰ってきていた。

 

「ツーリングは?」

「コロニーじゃ走れる範囲が限られててさ。すぐ終わった」

「それで?」

「アスランさんにシミュレーターへ引きずられた」

「結果は」

「聞くな」

「8戦7勝1敗だ」

「言わなくていいです!」

 

ルナマリアは呆れたように息を吐いた。

 

「そこまで言われるって、相当よ」

「お前も言うなって!」

 

セラはバイザーの奥でシンを見た。

 

「シンは行動的ですが、勝率は低い」

「今それ言うなよ、セラ!」

 

シンの声が格納庫前に響く。

アスランは小さく肩をすくめ、ルナマリアは笑いをこらえるように口元を緩めた。

 

プラントに夜が落ちる頃。

 

シンは、周囲の容赦ない言葉にむくれながら、空を見上げていた。

コロニーの空は閉じている。

それでも、人工の夜には淡い星明かりのような灯りが散らされていた。

 

「……次は勝つからな!」

 

その時、閉鎖された空の向こうを、一筋の光が走った。

 

流星のようだった。

けれど、ここは地球の空ではない。

 

光はディセンベル市第8区の軍用ドックへ向かって落ちていく。

輸送艇か、あるいは別の何か。

シンは目を細めた。

 

胸の奥が、なぜか騒ぐ。

 

「何だ、あれ……」

 

答える者はいない。

夜のコロニーに、光の尾だけが短く残った。

 

 

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