魔法科高校の【ペルソナ使い】   作:日λ........

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魔法。現代において一定の才能こそ求められるものの、幻想のそれではなく確かな技術として人類が行使する事ができる【技能】である。

 

現在我々が魔法と呼称しているそれは、厳密には超能力に分類される力の一種だ。始まりは天然の超能力者であった彼らの力を研究して解析し魔法の歴史は始まった。

 

その結果それらは四つの系統と系統ごとに2つの作用に別れていると判明し、超能力者が持つ『イメージで現実への干渉を行える曖昧さ』を切り捨て、『必ず終了条件を設ける』事によって個人の先天的能力に過ぎなかったそれの汎用化に成功させた。個人の完全なる才能のみの超能を、ある程度の才能こそ必要なものの多くの人に使える技能へと落とし込んだのだ。コレを現代魔法と呼ぶ。

 

そしてそれと同時期に、歴史の裏に隠れていた魔法使いの結社等が表舞台へと姿を表し、政府へ研究に協力を申し出た。彼らが修練や儀式などで習得し行使していたそれらは古式魔法と呼ばれ、現代魔法へと一部が組み込まれていく。

 

そうして、技能化された超能力を魔法と呼ぶようになった現代。かつて研究テーマごとに別れて運用されていた10ヶ所の研究所から開発された試験者達の子孫たる彼らは、日本において魔法師を束ねる頭目としての役割を与えられ、地域ごとに日本の守護を任せられていた。

 

彼らの名は十師族。日本における魔法師の一族の頂点達である。

 

 

 

そんな十師族の中で、国内国外問わず最も恐れられる一族がいる。かつて彼らに手を出した大漢という国家があった。当時の当主の娘を誘拐したその国家はその一族の手により報復され、滅ぼされた。一族側も死者を出したが、それもたったの30人。

たったの30人の犠牲で一つの国を滅ぼしたその一族は、敵味方問わず触れてはならない者たち(アンタッチャブル)とされた。

 

彼らの名は四葉。【精神に干渉する魔法や精神干渉による魔法師の強化】を研究テーマに掲げた魔法技能師開発第四研究所出身の魔法師の一族である。

 

そんな四葉家に産まれた、ある意味で第四研究所の研究の完成形とも言うべき魔法を持って産まれた少年が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄金の蝶が翔んでいる。

 

銀色の風に乗り、不可思議な色をした空を舞うその蝶は自分の目の前に止まると突如光を放った。

 

光が収まると黄金の蝶は消え、代わりに白い仮面を身に着けた奇妙な男が静かに立っていた。

 

 

 

__おや?今の時代に客人とは珍しい。君は__そうか、驚いたな。人の技術はこの域にまで到達したのか。素晴らしい事だ。

 

類まれなる客人よ、問おう。

 

 

君 の 名 前 は ?

 

 

 

咄嗟に名乗ろうとするも、何かがおかしい。普段なら即座に名乗れる筈のそれが、ボヤケてしまっている。

 

暫し、思考を走らせる。自分は何者か。この場で名乗るべき自身の本来の名前は何か。そして気がつく。

 

普段名乗っている名前で、自分は彼に名乗ろうとしていたと。彼には、自分の本当の名前で名乗らなければならないのだと直感的に感じた。その直感に従い、自分の本来の名前を名乗った。

 

 

 

「僕の名前は 四葉 阿頼耶(よつば あらや) だ」

 

 

 

 

 

__素晴らしい。四葉 阿頼耶君か。良い名だね。

 

名乗られたのなら私も名乗らなくてはならない。私の名前はフィレモン。ここは意識と無意識の狭間にある空間だ。本来ならば、最早ここには人が来ることなど到底叶わぬ場所に成り果てたのだと思い込んでいた。

 

__だが、とうとう人の技術はこの空間にまでたどり着けるほど高まったようだね。素晴らしい事だ。

 

 

ふむ、どうやら君には奇妙な運命が待ち受けているようだ。かつての客人達や、私の従者に託したあの部屋の客人達とも、劣らぬ程に過酷な旅路になるだろう。

 

君は私に名乗った。その意志の強さに敬意を評し、君の困難な旅路の支えになる贈り物をするとしよう。

 

 

 

そう言ってフィレモンは1匹の蝶を僕に飛ばすと、その蝶は僕の胸に止まり、光の粒子となって僕の中に入っていった。

 

コレは繋がりだ。

 

【契約】と言い換えても良いと直感的に悟った。

 

 

 

 

それで何を成すかは君次第だ。

 

いいかい?君は、神にも悪魔にもなれる。天使のように慈悲深くも、悪魔のように残忍にもなれる。

 

人は誰しも誰かと接する時、当たり前のように人格の仮面を着けるが、今君はそれを自分の意志で選択できる術を得た。だからこそ、自分自身を見失わないよう気をつけると良い。

 

おっと、そろそろ夢の時間を終わりのようだね……名残惜しいが、また会える日を楽しみに待っているよ。四葉 阿頼耶君__

 

 

 

 

 

 

夢から醒めた。呼吸が荒い。周囲から鳴り止まない警告音が耳障りに聞こえて、痛む頭に響いている。

 

「__くん。阿頼耶くん!!しっかりしたまえ!!」

「クソ、やはり無茶だったんだ!!このような実験で、彼を失う訳にはいかん!!即刻中止させるんだ!!」

「まて……この数値は!?もしや、成功したのか!?一瞬ではあったが__」

 

 

実験室のスピーカーからは、自分を気遣う仲の良い研究者達の声が聞こえる。それと同時に、実験の数値に気が惹かれる研究者の声も聞こえた。

今も止まらない頭痛に顔を歪めながらもなんとか腕時計を確認する……どうやらあの夢の中の会合は個人の感覚では十数分分程度に感じていたが、現実の時間では数秒にも満たない少ない時間しか立っていなかったようだ。

 

 

「……大丈夫、です。今の体調と気分は、最悪ですが……どうやら実験は、成功したようです。老賢者……には自分には見えませんでしたが、仮面を被ったフィレモンを名乗る存在との交信に成功しました」

 

 

 

研究者達が息を呑む。何故ならそれは、彼らの研究が一つの到達点にたどり着いた事を意味しているからだ。第四研時代から続いた研究の一つの目的地点。

それはスイスの心理学者、カール・グスタフ・ユングの研究を引き継いだ物であった。

 

【集合的無意識への人工的な干渉、及び交信】

 

人が持つ心の領域への介入。第四研究所は元々ソレを研究する為に個人で立ち上げられた研究所であった。だが、その性質と時代の変化によってとあるスポンサーによって都合が良いと買い上げられ国営の研究所となった後、長い期間その研究は凍結されていた。

 

魔法という精神に干渉するにはそれまでと比べて人体への直接的な害が少ない画期的な術を手に入れた彼らは、魔法を使う事ができる人材の獲得に躍起になっていた政府に人体実験の許可を得て、それを行える人材の生産に集中していたからだ。そうした人体実験の末に生み出された最高傑作が『四葉』という一族である。

 

凍結されていた本来の研究が再び行われるようになったきっかけは、それを行うのに最適な人材が産まれたからであった。

 

被験者の名前は椎葉 阿頼耶。

 

彼は生まれつき、人の夢に干渉する魔法を持って生まれてきた。【幻夢境】(ドリームランド)と名付けられたそれは、人が見る夢を見たり、自ら干渉して悪夢を終わらせるなどの人の個人的無意識に干渉する事ができる特異な魔法であった。

 

研究者達が注目したのはそこであった。夢、即ち人の個人的無意識に干渉することが可能なこの魔法を持つ阿頼耶ならば、長年擬似的に観測することは出来ても直接見る事は叶わなかった集合的無意識への干渉を行う事が出来るのでは無いかと考えたのだ。

 

その実験の要請を阿頼耶は受ける事を容認。かくして魔法の出力や範囲を拡大する大型の実験設備が用意され、今この場でそれは行われたのであった。

 

 

「今からその証明を行いたいと思います」

 

そう言って、僕は装置から自身のCADを引き抜いた。拳銃型CAD。FTL社製、短銃身型のカスタムモデル。シルバー・コマンダーと名付けられた特化型CADである。

 

それを僕は慣れた手つきで自身の頭に向ける。

 

 

このCADに登録されている魔法は、たったの一つのみ。対象者に死のイメージを与え一瞬の間のみ疑似的な死を体験する自己精神干渉魔法である【死を想え】(メメント・モリ)。

 

眠りとは、最も死に近い状態ともいえる。逆説的に一時的に擬似的に死ぬ状態になればそれは、眠っていることと同義となる。

 

本来ならば、自身が眠っている間のみ発動することができる自身の魔法の発動条件を起きたままの状態で満たす為に使用している魔法である。

 

だが、集合的無意識への干渉を行えるようになった今の僕ならば、別の使い方が出来る。

 

 

「……今から行うのは、集合的無意識から僕が引き抜いた人格の仮面を呼び出す、一種の降霊術です。おそらく、呼び出されるものは人々が神や悪魔等と呼んでいる存在の形をしていると思われます。実験記録の準備を、お願いします」

 

 

その宣告に、研究者達は慌てて研究室内のあらゆる記録媒体の準備を始めた。無理はない。コレは第四研究所の悲願が、初めて達成されたかもしれないと彼らは感づいたのだ。

 

非業の死を遂げた謎多き第四研究所初代局長、『一色若葉』が遺した研究を引き継ぎ半世紀以上が過ぎた現代において、ようやく本来の研究が進むかもしれないとなればそれは無理もない反応であった。

そうして数分後、準備が終わったか確認し、僕は凪いだ心でその引き金を引いた。

 

 

 

「ペ ル ソ ナ」

 

 

無意識のまま、そう呟いた事にも気付かずに魔法が発動するとほんの一瞬の間、擬似的な死を僕は体感した。本物の拳銃で自分の頭を撃ち抜いたかのような衝撃と共に、集合的無意識から引き抜いた仮面が引き抜かれ、現実へと姿を現す。死がトリガーとして、自らの人格を自分の体という外殻から外に引き出すのである。

 

 

 

『我は汝 汝は我 我は汝の心の海より誘われし者……我は名も無き劇場の怪人 ファントムと名乗りし者』

 

 

その試みは成功した。現れたのは、骨のように白い仮面と、優美な衣装に見を包んだ異形。人の形はしているが一目でそうではないと分かる、無機質で全長3m以上はありそうな怪物であった。その姿に研究者達は息を呑み、そして恐怖した。自分たちはなにか禁忌に踏み込んでしまったのではないかとそう錯覚する程に、その姿は人の恐怖心を煽るものであったからだ。

 

だが、次第にその恐怖心は収まっていった。何故ならばその異形は動く事なく、阿頼耶の前に静止して彼を守るように侍っているからだ。

 

そうして阿頼耶は少しの間佇むと、呼び出したもう一人の自分__【ファントム】が何ができるのか理解し、動き出した。

 

 

「なにか的を用意してください」

 

 

その声に、研究員たちは即座に施設の設備を動かし、魔法の的となるターゲットを展開した。彼らは四葉の管理する第四研の職員達である。咄嗟のことに対応出来る優秀なものでなければなれないエリート達である。このようなイレギュラーを目の前にしながら、冷静を保てるのだからそれは確かであった。

 

「【エイハ】」

 

その声と共に、ファントムの手から物質化された赤黒い殺意のエネルギーが照射され、削り取られるかのように的は消失した。そうして更にファントムは動き出す。他の的に対してファントムは攻撃の構えを見せ接近するとその鋭い爪を振るった。

 

 

「【スラッシュ】、そして……【ムド】」

 

最後の的は破壊されることはなかった。だが、機材からその性質を解析している研究員は恐れ慄いた。

その反応は出力こそ低いものの、かつて全盛期の四葉家を支配していた先々代当主、四葉元造の得意とした系統外魔法【死神の鎌】の反応と同様の物であった為である。

 

そもそもの話だ。現代魔法とは本来物理現象を引き起こす術であり、今行われている神話で語られる悪魔のような何かを呼び出して使役するようなモノではないのだ。古式魔法であれば似たようなものはあると知られてはいるが、そうだとしてもあのように確かな姿で形を成す存在を、完全に制御するなど前代未聞である。

 

 

だが、それを彼は成し遂げてしまった。最後の魔法を発動して少しして、青色の光とともにその姿を消してしまったファントムと名乗ったあの異形を従えたその姿に__先代当主を知る古参の研究員は、思わず彼を重ねて見てしまったという。

 

 

「これが、集合的無意識から呼び出した人格の仮面の力の一端です。今はまだ、ファントムしか呼び出す事はできませんが……この魔法の研鑽を積めば別の存在も呼び出す事ができるでしょう」

 

 

その言葉に、彼らは自らの研究が新たなるステージへと進んだ事を確信した。集合的無意識への干渉は成功した。成功例があるならば、それが成功した理由の解明へと足を踏み出せる。解明が完了すれば、彼以外にもそれを成功させる存在を生み出す事も夢ではないだろうと。

 

 

「この力を……そうですね、【ペルソナ】とでも名付けましょうか。皆さん、実験は成功です。これは、四葉の為の新たなる力となるでしょう。御当主様へ良い報告ができますね。ご協力、ありがとうございました」

 

 

 

人懐っこい笑顔で、阿頼耶はその場をそう締めくくった。先代当主に似た顔立ちであるが、彼はまだ10歳の少年だ。その姿は微笑ましく感じられる。

 

しかし、その場にいた研究者の一部はその姿に少し恐ろしさも感じていた。分家とはいえ四葉の人間としてのカリスマ性を既に彼は持っているのだと感じ取っていたからだ。今回の実験を企画したのは研究者達であったが正式に凍結されていた研究を解凍し、主導するように導いたのは彼である。彼が主導で動いたからこそ危険な実験にも、当主である真夜が許可を出したのだから。

 

 

椎葉 阿頼耶。

 

魔法師として確認された史上初の【ペルソナ使い】は、こうして第四研究所の中で静かに歴史に名を刻んだのであった。

 

 

 

 

 

 

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