魔法科高校の【ペルソナ使い】   作:日λ........

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その部屋を見つけたのはふとした偶然からであった。

 

第四研究所へ向かおうとしてその入り口に入る途中に、僕は奇妙な物を見つけてしまった。

 

それは、どこの壁にも繋がっていないにも関わらず、青い扉だけが自立しているという奇妙な光景である。しかも、現実に存在しておらず自分だけが見えるかのように研究員たちはその扉の存在をスルーして通り過ぎている。

 

一体この扉は何なのだろうか。誰かのイタズラか、それとも幻覚をかける魔法を僕だけが掛けられているのか。しかし青い扉を見るに、ペルソナに覚醒してから妙に当たるようになった直感からも危険があるようには全く思えない。

 

思い切って扉のドアノブに手をかけ、僕はその扉を開く。すると、青い光が放たれ、僕はその中に吸い込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、我がベルベット・ルームへ」

 

 

扉を開けた先にあったのは、どこかの劇場の舞台裏のような光景だった。機械じかけの芝居道具が置かれ、青や紺などの青系統の色の天幕の裏地に覆われている。

 

全体的に青色のその舞台裏の中心部に、おそらく芝居用の玉座であろう椅子に座り、小道具入れの箱に布を敷いてテーブルの代わりにしている奇妙な鼻の老人が居た。

 

 

「初めまして。私の名はイゴール。この部屋、ベルベットルームの主人をさせていただいております」

「……どうも。僕は椎葉 阿頼耶と申します。ここは……現実なのでしょうか?」

「そうでもあり、そうでもないと言えますね。この部屋は、あなたのような奇妙な運命を背負った旅人が訪れる事となる、止り木のような場所です。我々は主であるあのお方の意思に従い、あなた方のような旅人の手助けをさせていただいております」

「主人……それってもしかして、フィレモンの事でしょうか?」

 

このような超常的な場所を作り出せる存在となると、自分には彼くらいしか思いつかなかった。

その名を聞いたイゴールは、一瞬驚いたような様子で両目を大きく開く姿を見せるも、すぐに平静を保ち直した。

 

「……ふふ、お客様は、久方ぶりの本当の意味での【ペルソナ使い】の方でございましたか。いやはや、長く生きるものでございますな……真逆、再び我が主人と交信を果たせる方が現れるとは」

「ということはこの部屋は……集合的無意識に近い場所ですか?」

「いいえ、ここは意識と個人的無意識の間にある場所です。あの方がいる場所と比べれば、浅瀬にもほどがある場所ですとも。しかしながら、だからこそできる事も多々ありましてな。さて。まずはお座りください。もっともここは少々手狭ですので、お客様に狭苦しい思いをさせてしまうかもしませんが、そのことに関してはご勘弁を」

「ああ、これはご丁寧にどうも……では失礼します」

 

イゴールが座る玉座の前にある、おそらく芝居道具である切り株型の台に座ると、イゴールは呼び鈴を鳴らした。すると、青い男装の礼服を身に着けた銀髪に黄金の瞳を持った長身の女性が、分厚い本を持って現れた。

 

「彼女の名はラヴェンツァ。私の従者であり、いずれこの部屋の管理者としての権限を渡す後継者でもあります」

「ラヴェンツァです。初めまして、阿頼耶様。以後、お見知りおきを」

 

……この女性、相当強い。普通の人ならある筈の隙が全く感じられない。そして何より、あの分厚い本には凄まじいほどの力が感じ取れる。にも関わらずそれが全くの自然体として立ち振る舞っている。一体、どれだけの研鑽を重ねればこれ程までに到れるのだろうかと感じてしまう程の強者がそこにはいた。

 

「さて、この出会いを祝いまして、一つ占って差し上げましょう……タロットはお好きですかな?」

「いえ、好きも嫌いもそれ以前に、初めて受けますね占いなんて。家業の都合上、あまりその手のまじないの類は念の為にしないように言われていましたので……ですが、キレイなカードですね。少し興味が湧いてきました」

「そうでございますか。では、僭越ながらご参加ください。きっと、貴方が行く道の目安にはなるでしょう。それでは、3枚カードをお引きください。一枚目が過去を、ニ枚目が現在を、三枚目が未来を表す物です」

 

そう言ってイゴールはタロットカードをシャッフルし、その山札を僕の前で扇状に崩した。その中から直感に従い1枚引いた。

 

 

「……【悪魔】の逆位置。……では、続けて二枚目をお引きください……【刑死者】の正位置。ふむ、実に興味深い。それでは、続いて3枚目をどうぞ……【愚者】の正位置。なるほどなるほど」

 

イゴールはそれらの3枚をテーブルに並べた。

 

「まずは初めに引かれたカードは、あなたの過去を意味するカードとなります。【悪魔】のカードは欲望や執着、依存を表すカードですが、逆位置となればそれらを断ち切った、もしくは執着を捨てた事を意味しております。知らず知らずのうちに巻かれていたしがらみや呪縛の鎖を、あなたは既に絶ち切っている」

 

「続きまして、二枚目のカードは現在を意味するカード。【刑死者】のカードは、努力や忍耐、修行を意味するカードです。今はじっと耐えて動かず、来たるべき日に備えるべきであると暗示しているのかもしれませんね」

 

「そして最後のカード。これはあなたの未来を意味するカードであります。【愚者】のカード。これは、始まりを意味するカードであります。この場合纏めますと、あなたは少し先の未来で、研鑽を重ねた上で新しい何かの始まりに挑まねばならないのでしょう‥…」

 

 

そう言ってイゴールはテーブルに並べた3枚のカードを手に取り、再びカードの束へと加え、シャッフルした。

 

「当たるも八卦、当たらぬも八卦と言うように、占いの内容を信じるも信じないも貴方自身の自由であります。しかし、今後の指標の参考になれば幸いでありますな……さて、まずはこれをお受け取りください」

 

そう言って、イゴールは一本の鍵をテーブルの上に置いた。部屋の色や扉の色と同じ青色の鍵だ。

 

「この鍵を使う事で、お客様は自分の意志で今後ベルベット・ルームに入る事が出来るようになります。あなたのような契約者の方であるならば、今回入った扉以外にもベルベット・ルームへの入り口をご自分で見つける事が出来るはずです。後ほどお試しください……さて、長くなりましたが、この部屋の存在意義について一番重要な事をお話させていただきます。ラヴェンツァ、説明してあげてください」

 

怖気がする程美しい男装の麗人が、大切そうに抱えた本を持ったままこちらを向いた。思わずじっとその顔を眺めてしまいそうになるが、そのようなことは紳士がするべき事では無かろう。誘惑を断ち切って視線を少し逸した所で、彼女は話を勧めた。

 

「分かりました。我々、ベルベットルームの住人はあなたのようなペルソナ使いの補助を行う為の存在です。具体的に言えば、阿頼耶様の所有するペルソナの管理、強化、合体、及びにこの力がどのような物なのかの説明なども執り行わせて頂いております。ペルソナという力の専門家、と言い換えてもよろしいでしょう」

 

その言葉に僕は驚愕した。何せ、こちらは完全に手探りで恐る恐る調べているこの力について、彼女達はその詳細を専門家と自身を持って言える程知っているというのだ。あまりにも都合が良すぎる。

 

「むしろ、独学で我々と接触する前によくここまで調べ上げた物だと感心しておりますよ。ですが、だからこそ一つ先に訂正しなければならないことがございます。いろいろなプロセスでペルソナの力を高めようとしていらっしゃるようですが、その為には根本となる部分を欠いているのです」

「根本となる部分、ですか??」

「ええ。ペルソナ能力とは、それを持つものの心を育むことで真価を発揮する力なのです。ただ研究室に篭ったまま実験を繰り返した所で大した力は得られませんよ?それよりも学校に行ったり、友達と遊んだり大切な人を見つけるなどして、関係性を築いていくべきです」

「えっ」

 

ハンマーで頭を叩かれたような気分であった。真夜様から実験の許可を得て、早3ヶ月。僕は、集合的無意識への接続こそ控えていたが、ペルソナの力を鍛えられないかと第四研究所で様々な研究を兼ねたトレーニングを受けてきていた。ペルソナ使いになってから身体能力が向上していたのもあって、四葉の里の戦闘員の方々から戦いの教えをいただき、大変厳しい鍛錬を受けるなどしてきていたのだが……残念なことに鍛えられた事で近接格闘の腕前やペルソナの使い方は上達していたものの、ペルソナ自体が強くなる事はなかった。

 

とはいえまだ三ヶ月。使い込みがまだまだ甘いだけかと思い、精進が足りないだけかと思っていたのだが……どうやらそれらは明後日の方向で頑張ってしまっていたようだ。

 

「ぼ、僕の苦労は一体……」

 

(とはいえ、彼の今までの努力が完全に無駄だった訳では無いようですね……まだ完全には芽吹いては居ませんが、研究室内での出会いの中でそういった絆を育むことができる相手とすでに彼は出会っているようですね。コミュニティの萌芽を感じます……ですが、反応が面白いので暫くこのまま眺めてましょうか♪)

 

頭を抱える阿頼耶を、ラヴェンツァは愉快そうな顔で眺めていた。かつては絞首台やらギロチンやら電気椅子やら物騒な形でのペルソナ合体をノリノリで行っていたのが彼女である。加えてかつてとある神に2つに切り裂かれ、偽りの記憶を植え付けられていた頃は囚人としてやってきた自らの契約者に対してドSに振る舞う看守をやっていたのが彼女である。

 

そんな彼女にサドっ気が無いわけが無かった。

 

「……はぁ、この悪趣味がなければ、すぐにでも部屋の主を譲りたい所なのですが……以前のお客様から、悪い趣味を学んでしまったのは、なんとも……」

 

 

どうやらこの少年は、ラヴェンツァに悪い意味で気に入られてしまったようだ。このお客様には苦労をお掛けするだろうなと思い、イゴールは天を仰いだ。

 

 

 

 

 

 




責任取ってよ屋根ゴミ……(この時代では既に亡き人)
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