魔法科高校の劣等生の弟(仮)   作:検討使

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婚約編

2094年1月

四葉家本家

 

1月の空は冷たく、屋敷の窓ガラスには霜が降りていた。

庭も一面の銀世界に包まれている。

 

この日、四葉家では一族を集めて慶春会を開催していた。

新年を寿ぐと同時に一族の安寧を祈る場である。

もっとも、大多数の大人達は酒を呑むことも忘れてはいない

 

天井の明かりが、部屋全体を暖かい光で照らしていた。

しかし、その暖かさは、和也の心には届かなかった。

 

現当主である四葉真夜が告げる

「皆さん、新年おめでとうございます。今年も好い年になることを願います。」

 

真夜は近くに座った俺と夕歌さんに目をやる。

 

この日、俺は通常であれば参加しないこの場に来ている。

平時なら、和也は津久葉家の研究施設で実験に没頭しているはずだった。

 

兄である達也と妹の深雪は床に臥せっている母、

深夜の体調を考慮し、例年、本家での慶春会への参加を控えていた。

 

夕歌さんは真夜さんより豪奢ではないものの、

それなりの振袖を身に着け、和也の隣に座っていた。

 

淡い桜色の振袖が、夕歌さんの優しく落ち着いた雰囲気を引き立てていた。

和也は式服を着ていたが、その着こなしは少しだけ硬かった。

 

「皆さん、本日はこちらの和也さんと夕歌さんが正式に婚約いたしました。」

 

真夜の言葉に、部屋全体が少しだけ騒がしくなった。

 

大人達の赤らんだ顔には喜色が浮かぶ。

やっとかという周りの空気に、反対の色は見えない。

 

津久葉冬歌

夕歌の母である女性から俺は微笑みを受ける。彼女の目は、温かかった。

 

「和也さん、夕歌さんをよろしくね。」

 

「母さん、私の方が和也より年上なのよ。」

 

いつもと異なり若干頬を染めた夕歌が、自身の母親に口を尖らせる。

その姿は、普段の冷静な彼女からは少し離れていた。

 

「あらあら」

 

真夜はそのやり取りを慈しむ。

 

「結婚は和也さんが18歳になってから、それまでは節度あるお付き合いをしてね。」

 

真夜の言葉に、大人達はまた頷いた。

次代は明るい。大人達の一致した期待がこの場を満たした。

 

和也は静かに息を吐いた。婚約が発表されたことは、

自分が四葉家の「次期当主候補」の一人として正式に位置づけられたことを意味する。

 

だが、和也の心には、重たいものが残っていた。

 

母、深夜の病状。

そして、妹・深雪と兄・達也の運命。

 

和也は隣に座る夕歌の手を、そっと握った。

夕歌もまた、和也の手を握り返してきた。

 

「……よろしくお願いします。」

 

和也は静かに告げた。

 

夕歌さんは優しく微笑んだ。

 

「えぇ。私も、これからもよろしくね。」

 

-----

宴も酣となり、やっと主役の座から降りることができる。

大人達は昔話に花を咲かせ始めていた。

 

「和也兄さん、夕歌さん。ご婚約おめでとうございます。」

 

黒羽文弥・亞夜子

四葉家の分家である黒羽家の長男。亞夜子は双子の姉だ。

 

二人に同時に告げられ、俺と夕歌さんは返礼する。

 

「あぁ、二人ともありがとう。そして、遅くなったが新年あけましておめでとう。」

 

「いえ、あけましおめでとうございます。」

 

文弥は俺・夕歌さんと並び、四葉一族の中でも特に精神干渉系魔法の適性が高く、

素質ならば深雪を入れた4人が一族の若年層で一、二を争う程である。

もちろん精神干渉系魔法と言っても各人によって方向性は異なるのだが。

 

俺もいささか場の空気に当てられる、普段はあまり口に出さない冗談を二人に告げる。

「お年玉はもらえたのかい?」

 

「はい。皆さん、お酒が過ぎているようですからもう2周目に行こうかと、」

 

亜夜子は俺の冗談に軽く返す。

 

彼女は広い領域に干渉する魔法を得意とする万能型の魔法師だ。

文弥と異なり精神を直接攻撃する術を持たないが、

その魔法特性は黒羽家の諜報活動に大いに役立つことが証明されている。

 

去年のマナースクールを舞台にした

上流階級子女のマインドコントロール事件の対処にも大いに尽力したと聞かされている。

 

「その、達也さんは・・・・」

 

亞夜子は自身の魔法特性を理解し、極致拡散の手解きを受けた達也に好意を抱いてる。

毎年のことだが、慶春会に顔を出すことのない兄妹を彼女は変わらず気にかけていた。

 

「兄さんは、母上の体調を考慮して、今日は来ていません。」

 

和也は静かに答えた。その声音には、少しだけ寂しさが混じっていた。

「深雪も同様です。母上の傍にいます。」

 

亞夜子はわずかに頷く。その目には、確かに諦めと理解が浮かんでいた。

「……そう。わかっているわ。でも、たまには出てきてほしいわね。」

 

文弥もまた、静かに頷いた。

 

「達也兄さんは、僕たちとは違う道を進んでいる。分かってはいるけど……」

 

文弥の言葉は、半个ぶりで切れた。達也の運命を、彼らもまた知っていたからだ。

幼い頃より父である貢から達也は深雪のガーディアンなのだと言い含められていた。

 

和也は、その重さを理解していた。

兄・達也が、四葉家の「武器」として作られた存在であることを。

そして、自分もまた、深雪の「切り札」として作られた存在であることを。

 

「……いずれ、みんなで初詣に行けるようにしよう。」

 

和也は静かに告げた。

 

その言葉に、文弥と亞夜子は軽く頷いた。

 

「えぇ。楽しみにしておりますわ。」

 

亞夜子の声には、確かに期待が込められていた。

 

-----

四葉家本家にある津久葉家の離れ

 

慶春会は遅くまで続いたが、和也は早めに離れに戻っていた。

屋敷の廊下は静かで、足音だけが響いていた。

 

離れの部屋に入ると、夕歌がすでに待っていた。

窓の外では、雪が静かに降り続いていた。

 

部屋は暖房で温められていたが、窓ガラスには霜が降りていた。

外気の冷たさが、窓の隙間から微かに漏れ込んでくる。

 

夕歌は窓際の椅子に座り、和也の帰りを待っていた。

彼女の振袖は、すでに脱がされ、シンプルな部屋着に着替えていた。

 

「そろそろ、私にも本音を話して。」

 

夕歌は静かに告げた。その声音には、普段の冷静さが戻っていた。

和也は椅子に座り、静かに息を吐いた。

 

「ご当主様……叔母上は、俺を『深雪の切り札』として使おうとしている」

 

和也の声音には、確かに嫌悪感が混じっていた。

胸の奥が、熱く燃えるような不快感。

 

夕歌は微かに目を細めた。

彼女の目には、和也の気持ちを理解する光が浮かんでいた。

 

「それは、あなたが以前から気づいていたことね。」

 

「……はい。でも、兄さんを操ることはしません。深雪を護るためにも」

 

和也の言葉に、夕歌は優しく微笑んだ。

 

「えぇ。あなたがそう決意してくれるのを、私は信じていたわ。

功績があった者に報いる、そんなことも分からない大人達は一族の恥だわ。」

 

夕歌の声には、確かに怒りが混じっていた。

四葉家の大人たちへの失望が、声音に滲んでいた。

 

夕歌は和也の手に手を置いた。

その手の温もりが、和也の心を支えた。

 

夕歌の手は、和也の手よりも少しだけ小さかった。

しかし、その温もりは、確かな力になっていた。

 

「でも、和也。あなたは一人じゃない。私が、そばにいる。」

 

和也は夕歌の目を見つめた。

その目には、確かな信頼が浮かんでいた。

彼女の瞳の奥には、和也への確かな想いが宿っていた。

 

「……ありがとう、夕歌さん。」

 

和也は静かに告げた。

 

和也の声音には、確かに感謝が込められていた。

胸の奥の重たいものが、少しだけ軽くなった気がする。

 

窓の外では、雪が静かに降り続いていた。

雪の音は、静かで、穏やかだった。

 

和也は窓の外を見つめた。

雪は、屋敷全体を白く覆い、静寂を呼び戻していた。

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