魔法科高校の劣等生の弟(仮)   作:検討使

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別離編

2094年1月

司波家

 

正月明け、司波家の本邸は静かに、一定の温かさに包まれていた。

窓の外では、雪が静かに降り続いていた。

俺は母上の見舞いと新年の挨拶を兼ねて司波家を訪問していた。

 

和也と夕歌の婚約を、深雪と達也は祝福した。

「おめでとう、和也。」

 

達也の言葉は短かったが、確かな納得があった。

その声音には、兄としての情愛が込められているように見えた。

 

「和也お兄様、おめでとうございます。」

 

深雪の微笑みは、本物だった。

彼女の目には、和也への純粋な喜びが浮かんでいた。

 

だが、その祝福の場に、重たい現実が影を落とした。

深夜自身から、体が保たないことを告げられたのは、その夜だった。

 

「……和也と夕歌さん。二人の婚約、とても嬉しいわ。」

 

深夜の声は弱かったが、確かな意志が込められていた。

彼女の顔は、明らかに痩せていた。頬はこけ、目には影が落ちている。

 

「でも、私の体が、もう保たない。」

 

その言葉に、場の温度が一気に下がった。

 

和也は唇を引き結んだ。

精神干渉魔法の研究者である彼には、病というものの限界が、誰よりも残酷に見えていた。

 

達也も深雪も、表情こそ抑えていたが、動揺を隠し切れてはいなかった。

和也はそんな二人を見て、胸の奥に熱いものを感じた。

 

「達也さん、和也さん。深雪さんのことを頼みましたよ。」

 

母である深夜は達也への人造魔法師実験による影響か、

息子達への愛情が希薄になっていることは誰の目にも明らかだった。

 

長年、床に臥せっていた期間が長く、息子たちと過ごす時間が少なかったこともある。

それにも関わらず、いま際の際で本来の心を取り戻したかのように和也には見えた。

 

「奥様、あまり無茶をなさらず。横におなりください。」

従者が深夜の体を労る。従者の声音には、確かに心配が込められていた。

 

「お母様!」

深雪が深夜の手を取る。

深雪の手の震えが、和也にはっきりと伝わった。

 

母の最期、俺はその光景を目に焼き付けていた。

 

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2094年2月

 

雨の降る日だった。

灰色の空が、墓地全体を覆っていた。

雨粒が、黒い傘を叩く音が静かに響く。

 

和也は母の墓前で静かに頭を下げた。雨粒が、和也の頬を伝う。

 

「……母上、安らかに。」

 

和也は静かに呟いた。

 

母である深夜は小康状態を繰り返した末に静かに息を引き取った。

葬儀は限られた者だけで行われ、叔母である真夜が訪れることはなかった。

 

真夜は来なかった。

それは和也にとって、意外でも何でもなかった。

 

式が終わった後、和也は実の父である司波龍郎に声を掛ける。

 

「親父、母さんを恨んでいるのか?」

 

和也は実の父である司波龍郎に声を掛ける。

そこには優柔不断な男の引きつった顔があった。

 

龍郎はしばらく黙っていた。

その後、ゆっくりと息を吐き、空を見上げた。

 

「いや、そんなことはできない。するべきではないんだ。」

 

サイオン保有量が高いという理由で深夜の結婚相手とされ、分家である司波家を興された。

ある意味で被害者と言える彼には恋仲にあった古葉小百合と引き離された過去があった。

 

「最初は勿論嫌だったさ。だが、誰がアンタッチャブルから逃げおおせることができる……?」

どこか諦観の念を抱いた男の独り言は虚空に消える。

 

和也は龍郎の背中に、複雑な感情を抱いた。

龍郎もまた、四葉家に縛られた犠牲者だった。

 

「……親父、また今度メッセージを送るよ。」

 

和也は静かに告げた。

龍郎は少しだけ振り返り、和也に小さく頷いた。

 

「……ああ。頼む。達也と深雪にもよろしく……」

 

その声音には、確かに感謝が込められていた。

 

深夜が病床に臥せっている間も、

内縁の妻の関係である小百合さんと頻繁に会っていることは薄っすら把握していた。

それでも和也は、それを不自然だとは思わなかった。

完全に心を許しているわけではない。だが、敵意を向ける理由も、和也にはなかった。

 

俺は深雪の側で彼女の肩抱く達也の方へ歩を進めた。

 

達也の腕の中で、涙は流さずとも深雪は静かに泣いていた。

和也は、二人の傍に立ち、静かに息を吐いた。

 

雨は、まだ降り続いていた。

 

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2094年3月

 

表向きは四葉とはなんの関わりもない

FLTのトーラス・シルバーがループ・キャストを公表した。

 

ニュースは、瞬く間に魔法師界全体に広がった。

 

和也は研究室のモニターで、そのニュースリリースを確認していた。

ニュースリリースのリンク先である公開論文にはこう記述されていた。

 

「起動式の最終段階に同じ起動式を魔法演算領域内に複写する処理を付け加えることで、

二度目以降の起動式の展開工程を省略し、反復発動を高速化する。」

 

従来の魔法は、一度発動すれば終わってしまう。

しかし、ループ・キャストを使えば、魔法を「循環」させ、持続させることができる。

 

魔法利用を根本から変えるシステムに俺は驚嘆した。

「達也兄さん、ついに……完成させたんだね。」

 

俺は携帯端末を取り出し、達也を呼び出す。

数十秒後、通話がつながった。

 

「和也か、どうした?」

 

達也の声音は、相変わらず静かだった。

 

「ループ・キャストの公開を見てね。居ても立っても居られなくて。」

 

「あぁ、俺もこんなに早く公開できるとは想定していなかった。

牛山主任や第三課、そして親父と小百合さんのおかげだな。」

 

小百合さんは四葉に引き離された過去があるため、最初は兄弟妹達を邪険に扱っていた。

それはそうだろう、好きな男にできた他の女の子供に愛情を向けろとは普通言えない。

 

それでも小百合さんの態度が軟化したのは、俺の地道な説得と、

彼女も本心では子供には罪は無いと理解していたからだ。

 

ただ、それとは別に奪われたという意識は依然残っていた。

だからせめて家族までとは言わなくても、

ビジネスパートナーとしては良好な関係を築けるように尽力した。

 

「ループ・キャストはFLTが公開しなくても、他の誰かが発表するのは時間の問題だった。」

 

達也は静かに続けた。

 

理論上は可能とされていたが魔法の発動と

起動式の複写を両立させる配分が難しく実現されていなかったため

営利企業は研究に二の足を踏んでいた。

政府機関も実現されるまで、その重要性を認識できていなかった。

 

「いや、これは偉業だよ。兄さん。」

和也は純粋に研究者としての称賛を達也に送った。

 

「素直に受け取っておくよ。お前とは得意な分野が違うだけだ。」

 

和也は静かに息を吐いた。

 

ループ・キャストの技術は、確かに画期的だった。

魔法の再発動速度を劇的に向上させ、持続魔法の運用を現実的なものにする。

 

しかし、和也の心には、確かな不安が残っていた。

ループ・キャストで高速化された魔法が、大量破壊兵器として転用されることを。

 

「……兄さん、この技術は、制御できるのかい?」

 

和也は静かに尋ねた。

通話の向こうで、達也が少し黙った。

 

「……俺が、兵器としてではない魔法の使い方をこの世界に提示する。

だが、それにはまだ時間も力もたりない。」

 

達也の声音には、確かな意志が込められていた。

和也は静かに頷いた。

 

「……そう。信じてるよ。」

 

通話を切った後、和也はモニターを眺めたまま、静かに息を吐いた。

 

窓の外では、春の花が咲き始めていた。

しかし、和也の心には、重たい予感が残っていた。

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