魔法科高校の劣等生の弟(仮)   作:検討使

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司波兄弟暗殺計画1

2094年4月

司波家

 

達也・深雪と共に3人での同居が始まった。

 

深夜が死去した2月以降、和也は達也・深雪と共に司波家本邸で暮らすことになった。

龍郎と小百合は別邸で生活している。

だが、父との関係は完全に冷え切ったとまでも言えなかった。

 

朝は静かだった。玄関に達也が帰ってきた気配がした。

どうやら達也は早く起きて九重寺での鍛錬に参加していたようだ。

 

「おはよう兄さん、朝から精が出るね。」

 

そう言って、玄関で達也を出迎えた和也は着替えるために一旦自室に戻った。

 

「師匠からお前も参加するようにと言われているんだがな。」

 

呆れ顔の達也が和也の後ろ姿に返事をする。

風間大尉の紹介で1年半ほど前から達也と和也は

九重八雲のもとで稽古をつけてもらっていた。

 

和也は自身の体術を達也以下だと評価していたが、八雲に言わせれば

魔法ありであれば精神に作用する魔法を持つ和也は相手にしたくないところだ。

 

達也も情報次元を観測可能な精霊の目を持つが、

物理的な干渉よりも精神的な干渉が可能な和也のほうが

忍術使いには相性が悪いと八雲には判断されていた。

 

深雪はダイニングに二人を迎え入れ、朝食を共にした。

 

「達也お兄様、朝からお疲れ様です。」

「和也お兄様も、おはようございます。」

 

深雪には、以前よりも落ち着いた穏やかさが戻っていた。

和也が仲を取り持ったおかげで、深雪と龍郎の関係もある程度は改善されていた。

 

-----

大学生である夕歌のもとに、和也は偶に通うようになった。

夕歌は大学で魔法理論を専攻している。和也は研究の話をしながら、彼女の姿を見た。

ややキツさはあるが、夕歌は相当な美人だ。その目には意志の強さが現れている。

 

夕歌は大学生の自分に中学生の男の子の婚約者が居ることを大学の誰にも話していなかった。

魔法師は早婚が求められるといっても、多少外聞は悪い。

 

いくら家族公認とはいえ、中3男子を手籠めにしているとは言われたくはなかった。

幸い夕歌のマンション・アパートは津久葉家が所有するものであり、

誰かに見られるリスクは相当低いと言えたが。

 

「和也さん、夕方には帰るの?」

 

夕歌は優しく微笑んだ。

彼女はソファに座り、魔法理論の文献を開いていた。

 

窓から差し込む午後の光が、夕歌の横顔を照らしていた。

彼女の髪は、長く、艶やかだった。

 

「うん。叔母上の言い付けで兄さんと用事があるんだ。」

 

「そう、気を付けて。」

 

夕歌の声音には、確かに心配が込められていた。

 

夕歌は去年、彼女のガーディアンを失っていた。

四葉家から命ぜられた任務中に夕歌の目の前で亡くなったのだ。

 

その光景は、夕歌の心に深い傷を残していた。

和也は、そのことをよく知っていた。

 

そのため和也に心配の目を向ける。

夕歌の目には、確かに和也への不安が浮かんでいた。

 

「もちろんさ、兄さんと僕が組んで負けることはないよ。」

 

それは虚勢でもなんでもなく、純然たる事実だった。

アンタッチャブルと呼ばれる四葉家の直系である兄弟に敵う者など夕歌には想像できなかった。

 

21世紀末、魔法師は世代を経るごとに強力になるという、

研究結果が各国の研究所で共通の認識となっていた。

 

日本が2030年代に設立した

10箇所の魔法技能師開発研究所の中でも研究テーマを

「精神干渉魔法を利用した精神改造による魔法能力の付与・向上」

とした第四研究所は、

その非人道さから政府からは閉鎖されたと発表されているが、

実際には東道家がスポンサーとして四葉家での運営が継続されている。

 

スポンサーのことは和也も夕歌もこの時点では知る由もなかったが、

真夜が意向を伺う相手が居ることは薄っすらと認識していた。

 

もちろん他の研究所で製造された魔法師の系譜を侮ることはしないが、

夕歌は司波家の双子が在野の魔法師に遅れを取るとは微塵も感じてはいなかった。

 

和也はドアへと向かい、手をかけた。

 

「……じゃあ、行くよ。」

 

「うん。行ってらっしゃい。」

 

和也はドアを開け、外へ出た。

夕歌の視線が、和也の背中を追っていた。

 

-----

2094年4月7日、水曜日の夜

 

新ソ連のエージェントを掃除するようにと、達也と和也は四葉家当主である真夜から国防軍、

正確には佐伯少将麾下の国防陸軍第一〇一旅団独立魔装大隊のオーダーを承っていた。

 

佐伯少将の肝いりで創設された第一〇一旅団独立魔装大隊は

2092年の沖縄侵攻の際に達也が接触した風間大尉(現少佐)が大隊長に就任している。

 

真夜と佐伯少将との間でどんな取引があったのかは兄弟の預かり知らぬところではあるが、

二人は特務士官(特尉)として入隊している。

 

未成年の魔法師を軍属とするのは超法規的措置ではあるが、

兄弟の片割れである戦略級魔法師が軍の管理下にあることを

ポーズだけでも示したかったのかもしれない。

 

沖縄侵攻と同時に発生した新ソ連による佐渡侵攻では

一条家の長男が弱冠13歳の義勇兵として参戦していることといい、

日本海側の防衛は民間の魔法師に依存している現実がある。

 

もちろん国防陸海軍もそれなりの規模の戦力を展開しているが、

局所的な戦闘では即応できたとは決して言えない。

 

十師族の軍閥化を阻止し(もはや軍閥と言っても過言ではないが)、

国防軍に力を集めたい佐伯と十師族との連携を重要視しない真夜との利害が一致したものと見られる。

 

「兄さん、首尾は?」

 

真夜経由で入手した今回のターゲットに関する情報を頭に浮かべる。

目標はスパイの排除及び略取されたデータの消去、そして痕跡の隠蔽だ。

 

このような案件を四葉に依頼するとは国防軍も人手不足と見える。

通常、国外勢力の調査追跡は内閣の国家情報局の管轄であるが、

普段管轄争いをしている内情も対魔法師に関しては

敵対勢力の排除というお題目のもと国防軍と共闘することがままあった。

 

そもそも魔法師は絶対的な数が不足しており、どこの勢力も人員の確保には難儀していた。

いわゆる組織同士での足の引っ張り合いはあるものの、

敵対勢力を前に反目するほど腐ってはいなかったようだ。と分析する。

 

「あぁ、問題無い。早速、現場に向かおう。」

 

達也は気負いもせず、普段どおりに応じた

 

-----

榛有希はその小柄な体に似合わぬ腕力で簪に擬態した刃を、ターゲットの青年の首に突き込んだ。

「Nuts to you!(くたばっちまえ)」

 

その日、彼女は二人目の殺人を終えた。

薄暗い現場には彼女とターゲットであった物言わぬ青年の体が転がっていた。

街灯の光が、血溜まりを紅く照らしている。

 

彼女は亜貿社に所属する暗殺者だ。亜貿社は表向き、

株式会社の形態を取ってはいるが、その実は忍術使いが所属する政治的秘密結社だ。

社会正義に基づき、悪を社会から排除するという理念を標榜する。

と言えば聞こえはいいが嘱託殺人だという事実は変わらない。

 

現時点で40名弱の暗殺者を抱えており、非合法分野では無視できない団体となっている。

殺人には変わりないが、

一般人には比較的被害を出さないことから清濁併せ呑む権力者からは重宝されている。

 

もし一般人が運悪く現場に居合わせた場合は

本人には悪いがコラテラル・ダメージとして処理されてしまうだろう。

とはいえ殺人現場を抑えられれば司法の裁きを受けるのは必然。

 

彼女は簪を投げ捨て、速やかに現場から立ち去るべく周囲を見回した。

事前にこの路地に人が余り寄り付かないことは確認してあるとは言え、

殺人現場に残り続けるのはリスクが高すぎる。警察も無能ばかりではないのだ。

 

彼女は影に溶け込むように歩を進めた。

そして、路地の入口に立つ少年二人と目があって。

 

(誰だ!?)

 

彼女の名誉のために言えば、彼女は身体強化一辺倒の所謂脳筋では決してない。

忍術使いの端くれとしてある程度の隠形は身に付けている。

 

(完全な不可抗力か……?)

 

いや、それにしても少年たちは随分と大人びた顔立ちをしていたが、

体格から見ておそらく中高生だろうと自分の姿形を棚に挙げて彼女は判断した。

 

それにしてもこの双子(二卵性か?)は抜き身の刃のように落ち着きすぎている。

 

「な、待て!」

 

思わず硬直した自身を観察して、興味を失ったのか少年たちは歩き始める。

一瞬、追いかけることを躊躇ったが、目撃者を生きて返す暗殺者など居ない。彼女は走り出す。

 

この路地はまだ人通りが少ない、ここで仕留めなければと焦燥に駆られる。

こんなへまがバレたら、社長、いや専務による指導という名のお説教があるに決まっている。

 

悲しいかな社会人(?)の一員として上司の顔が脳裏に横切った。

急ぎ、路地を出て少年たちの背中を探す。

 

(見つけた!)

 

彼女の予想に反して、少年たちはすぐに見つかった。

街灯の下、二人の少年は静かに立っていた。

 

得物がない状態でも素手で、

二人同時に相手をするのは不可能ではないとその時までは考えていた。

ただ、彼女は兄弟の素性を知らなかっただけなのだ。

 

「……何者だ?」

 

二人が同業者である可能性を感じ取っていた。

彼女は静かに問うた。達也は一瞥で状況を把握した。

 

「……用済みなら俺達に構わず、消えてくれ。」

達也の声音には、確かな警戒が込められていた。

 

和也は即座に精神干渉を仕掛けた。殺すつもりはない。

一介の女暗殺者など、わざわざ殺すまでもない。

路傍の石のように打ち据えるだけだった。

 

(何だこれは……?)

 

彼女の意識は混乱していた。私は目撃者を排除しなければならない。そのはずだ。

なのに前に進む気力が湧いてこない。まるで雲を掴むような……

 

「……消えろ。次に会った時は、容赦しない。」

 

達也の声音には、確かな警告が込められていた。

榛有希は抵抗を諦め、影に溶け込むように立ち去った。

 

夜はまだ明けそうにない。

 

-----

よくあるワゴン車の助手席で彼女は大きく深呼吸をした。

普段は余り見せない疲労の色を隠せていない。彼女は口は悪いが、それ以上にプロだ。

同僚とは言え、コンビを組んでいる男に仕事の疲れを隠さないとは異常事態と言えた。

 

「ナッツ、さっきの少年たちは……」

 

「現場を見られた。」

 

運転席から問いかけた男に彼女は即答する。

 

「失敗したんですか!?」

 

男が驚愕の声を上げる。

 

「いや、当初のターゲットは仕留めた。

ただ、通り掛かったあいつらに指一本触れられなかった……

クロコ、あいつらが何処の所属か調べられるか?」

 

クロコ

本名は鰐塚。ナッツこと有希の同僚であり、コンビを組んで4年になる。

 

「レコーダーに映像が残っていますから、表面的なことなら……

あなたが苦戦するとは……もしかして、魔法師ですか?」

 

「分からん。」

 

彼女は不機嫌さを隠さずに吐き捨てた。

どちらにしろ目撃者を排除しなければ暗殺者の沽券に関わる。

まずは何より少年たちの素性を調べてからだ。

 

コンビの失敗を組織に隠すのは悪手だが、

目撃者がどこの誰かわかりませんでは、支援要員として落第もいいところだ。

 

亜貿社は確かに会社の形態をとってはいるが、

暗殺に失敗した暗殺者に次の仕事が来るとは思えなかった。

 

もし危険な組織が裏に潜んでいるのであれば、その時は会社に相談すれば良い。

この仕事を請け負った上司の責任とすればいいと、やけくそ気味に男は考えた。

 

「……参りましたね。」

 

-----

和也は少女が飛び乗ったワゴン車が見えなくなってすぐに達也に問い掛けた。

 

「殺さなくてよかったの?」

 

和也の声音には、僅かな疑問が込められていた。

 

「あぁ、今回の任務に少女の殺しは含まれていない。

それに素性を知らない人間を下手に消すと、その後が厄介だ。」

 

達也の声音には、確かな冷静さが込められていた。

和也は静かに頷いた。

 

「……そうか。兄さんの言う通りだ。

僕たちに辿り着けるとも思えないしね。」

和也は静かに答えた。

 

「新ソ連のエージェントには悪いがさっさと片付けよう。」

達也の冷徹な目には任務の達成がすぐそこに見えていた。

 

「そうだね、深雪のところに早く帰らないと。」

失敗することなど露とも思わなかった。

 

兄弟は恙無く任務を終え、表通りに出た。

そこにタイミングよくありふれた白いセダンが停まる。

 

少年たちは堂々と、当たり前であるかのように乗り込んだ。

 

「特尉方、いえ、達也さん、和也さん、問題は?」

 

妖艶な大人の、いや意識してかお姉さん然とした

雰囲気を醸し出す女性が少年たちに首尾を尋ねる。

 

「対象は全員、この世界から消失しました。情報端末は回収してあります。」

達也は静かに答えた。

 

「こちらです。」

和也は回収した情報端末を藤林少尉に渡した。

 

「ありがとう。お疲れ様。」

 

藤林少尉は端末を受け取り、静かに頷いた。

少尉は第一〇一旅団独立魔装大隊に所属する技術士官だ。

少尉の声音には、確かな敬意が込められていた。

 

「真田大尉に試用結果の報告を受けるように言われているのだけど……」

 

「トライデントは所定の機能を発揮しました。」

達也が追加で所感を告げる。

トライデントは真田が達也のために開発したCADであり、魔法の名称だ。

 

「和也さんの方は?」

真田には良い返事ができそうだと藤林は考え、和也にも目を向けた。

 

「どうやら相手に精神干渉を得意とする魔法師は居なかったようです。取り越し苦労でしたね。」

和也は苦笑いした。

精神干渉系の魔法師が相手なら、和也の出番だったが、今回はそうではなかった。

 

「そう、内情には精査不足だと釘を差しておくわ。」

 

藤林少尉は静かに答えた。そして、車は交通管制システムの流れに乗った。

 

-----

朝、いつの時代になっても生徒たちの通学風景は変わらない。

 

教科書が電子化され、重いカバンを持つ必要がなくなったといえ、

幼少の頃に集団生活をして他者との関わりを持つことは

21世紀末になったとしても、社会常識として定着している。

 

東京郊外のこの私立中学校も他の学校と同じく登校時間だった。

少女、榛有希は周りの少女たちと同じセーラー服で変装し、人混みに紛れ込んでいた。

 

普段見かけないはずの彼女に誰も意識を向けないのは、ひとえに彼女の隠形によるものだ。

 

(いや、こうだよな。)

 

彼女は周囲を確認し、自身の隠形が効果を発揮していることを噛みしめる。

先日の夜、少年たちに全くといっていいほど有効的に見えなかったのがおかしいのだ。

 

(えぇ……)

 

彼女は自身のことを、そこそこの美少女だと自認している。

身長が低いのはコンプレックスだが、暗殺業にはメリットになることもある。

 

しかし、眼前の美の化身を前にして、彼女は思わず立ち竦む。

 

(年下の女の子に見惚れるとか、どうかしてるぜ。)

 

「君、見かけない顔だね?」

後ろから例の少年たちの片割れに声をかけられるまで、

接近に気づくことすらできなかった。

 

(こいつらが中学生とか嘘だろ……)

素早く脱兎のごとく踵を返す。これは戦略的撤退だと自身に言い聞かせた。

 

和也は彼女を追いかける素振りを見せず、達也と深雪に近づいた。

 

「報告すべきだな。」

達也が冷静に告げる。

 

「お兄様……」

深雪が兄二人に不安げな表情を見せた。

 

-----

司波家

 

3人はビジフォン越しに四葉真夜に経緯の報告をしていた。

いつものように筆頭執事である葉山が後ろに控える。

 

「あらあら、国防軍には困ったものだわ。予定外の客を招き入れるだなんて。」

真夜の声音には、呆れが込められていた。

 

「いえ、叔母上のお手を煩わせて申し訳ありません。」

和也は静かに頭を下げた。

 

「畏まる必要はありませんよ。会った全員を消していてはキリがないですもの。

もとから断たねば。そうでしょう貢さん」

 

どうやら画面外に黒羽貢が同室しているようだ。

 

「真夜さんの仰る通りだとおもうが、

最初から現場で消しておけばこのような自体には……」

 

「あら、国防軍の依頼よりも優先すべきだったと?」

 

「……この男の異能であれば容易だったはずだ」

達也を疎んじているようで、その能力は評価している貢は苦い顔で答える。

 

「まぁ、ここで話しても問題は解決しないわ。……良いことを思いつきました。

文弥さんの教材としてピッタリだと思わないかしら。

相手のことを一から調べる経験を積んでおくべきだわ。」

 

真夜の表情に、確かな計略が浮かんでいた。

 

「真夜さん、そんなこの男の尻拭いのようことを文弥にとは……」

貢の声音には、確かな不満が込められていた。

 

「まぁ、そこには和也さんも居たのですけどね。」

 

貢の顔が歪む、どうやら拒否できないようだ。

「……わかった。文弥に任せる。」

貢は苦虫を噛み潰す声で答えた。

 

「ありがとう、貢さん。文弥さんに伝えて頂戴。お仕事ですとね。」

そして、ビジフォンから真夜の姿が消えた。

 

葉山が静かに言葉を添えた。

「お疲れ様でした。和也様、深雪様、達也殿。」

葉山の声音には、確かな敬意が込められていた。

 

「その暗殺者については既にお聞きのように黒羽様にお任せするようにとのことです。」

 

葉山は静かに続けた。

「和也様、深雪様、達也殿は普段の生活に専念してください。」

 

和也は静かに頷いた。

「……わかりました。夜分、ありがとうございました。」

 

俺は深雪に寄り添う達也と共に礼をしてビジフォンの接続を切った。

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