東京、国立魔法大学付属第一高校。通称、一高。
日本全国の9箇所に設立された国立魔法大学の付属高校の一つ。
定員は通常、1学年100名。毎年、狭き門をくぐり抜けたエリートのみが入学を許される。
魔法科高校と一般的には呼ばれる、優秀な魔法技能師(略称「魔法師」)を育成する教育機関。
その中でも一高だけは例外で、その定員は1学年200名。
上位100名が一科生、下位100名が二科生と呼ばれていた。
一科、二科、両者の違いは魔法師である教員の個別実技指導を受けられるか否か。
基本的に入学時点から転科は考慮されておらず、
卒業(できれば)するまで科が変わることはない。
一科生は二科生を制服にエンブレムの無い"雑草"と見下し、自身のことを"花冠"と誇った。
確かに入学試験時点での優劣は覆しようが無いが、
もちろん、一科生から一定数の落ちこぼれは発生する。
いわゆる補欠である二科生は、有事の際のスペアでもあった。
2030年前後から始まった寒冷化に端を発する
第三次世界大戦(2045年に勃発)は正式にはまだ集結していない。
その情勢下で、文字通り、日本の将来を担う人材を育成する国策機関であった。
この時代、教育機関である大学校は完全なる学術機関と化し、
一部富裕層(芸術系、文学系、音楽系)を除き、
モラトリアムを過ごす就職予備校ではなくなった。
中学卒業目前で進路選択を迫られ、
実務に重きをおいた職能別の専科高等学校(専門学校)に進学するか、
大学を目指す普通科高校(特進高校)に進む。
いわゆる魔法科高校は専科高等学校(専門学校)に分類されるが、
その授業内容は「魔法理論+魔法実技+特進並の一般教養」であり、高度な学びを要求された。
晴れて単位を取得すれば二科生も魔法科高校卒業資格を得られる。
たとえ二科生だとしても魔法科高校卒業という肩書は一般的に上澄みと見られていた。
高度に体系化されたと言われる現代魔法であっても、
個々人の適性は異なり、教員も生徒全員に対応することは困難であった。
魔法科高校には国策機関として、魔法科大学に毎年100名以上の卒業生を供給するノルマがある。
魔法事故で魔法を使えなくなった生徒の穴埋め要員として、
教員の確保がままならぬまま、二科制度は見切り発車で開始された。
生徒数に対して教員の数が充足に近づいた現在であっても、
前例踏襲を続ける学校側の体制に声を上げる者は極少数であった。
国立魔法大学および魔法科高校は文部科学省の管轄ではあるが、
魔法の利用分野が能力至上主義の土台を作り出した。
大学卒業生の大半の就職先が防衛省、内閣府
(国家公安委員会及び警察庁、総務省消防庁)に偏っており、
民需に必要とされた工程数の多い、大規模な魔法を発動できる魔法師は
民間企業でも高待遇であり、いささか特権階級とかしていた。
就職先が限られていることから奴隷的だとする説もあったが、
魔法師であったとしても国立大学卒業者が
非魔法系企業に就けない訳でもないし、その言説は一笑に付されていた。
(国民の義務として就業の義務はあるが、就職先は強制されない。)
魔法協会と十師族体制(十師族、師補十八家、百家)がこれを座視、自己保身に走り、
そして、選民思想を悪化させ、やがて一科と二科の深刻な確執を生む結果となり始めていた。
-----
2095年4月
入学式早朝
「……納得できません。」
美女と言うにはまだ幼い、美少女が怒気を強め独りごちる。
「まだ言っているのか……?」
開会前の一高の校門。
まだ着慣れない制服に身を包んだ三人の男女がなにやら言い争っている。
「何故、達也お兄様が補欠なのですか?筆記の成績はトップだったじゃありませんか!」
「まぁ、深雪の言うことも分からなくは無いよ。
けれど、入試の実技評価項目は国際魔法基準に則ったものだ。
これを曲げさせるのは流石に無理だよ。」
「魔法科学校なんだから、一部魔法理論を含む一般教養より魔法実技が優先されるのは当然じゃないか。
俺の実技成績で二科生徒とはいえよくここに受かったものだと、驚いているんだけどね。」
「そんな覇気のないことで、どうしますか!?
それに本来ならばわたしではなく、次席である和也お兄様が新入生総代を務めるべきですのに!」
「家でも散々話したじゃないか、
魔法式の構築・実行速度(Speed)、規模(Capacity)、干渉力(Power)。
どれを取っても、深雪には敵わないよ。」
現代において、特に重要視される魔法師の国際評価基準は下記の三要素であり、
Speed:処理速度、エイドスに投射するサイオン情報体を構築する速度
Capacity:演算規模、サイオン情報体の構築規模
Power:事象干渉力、対象物の情報を書き換える強度
和也によって事象干渉力の正体は霊子(プシオン)による波であると仮説が立てられていた。
しかし、霊子(プシオン)操作による事象干渉力の強化は
未だ実験室の試技段階レベルの話であり、とうてい高校の入試で使える技術ではない。
和也は僅差で深雪の後塵を拝していた。とはいえ実技試験3位の生徒とは隔世の感があるが。
達也は深雪を宥め、彼女の頭を撫でる。
「そんなことより、俺に可愛い妹の晴れ姿をみせてくれよ。」
「お兄様……なんだか丸め込まれている気もしますが。分かりました。
和也兄様も見守っていてください。」
「あぁ、行っておいで。」
和也はそう答え、そうして双子の兄弟は深雪の背を見送った。
総代となった妹のために式の予行演習前に登校した少年たちは、
式が始まるまでどう過ごすか、顔を見合わせた。