中二恋にハマるのが遅すぎてブームにかなり乗り遅れている感は否めないけど、それでも需要はあると信じて投稿していきたい。
そして、放課後が来た。
さりげなく森夏に近付き、耳打ちする。
「丹生谷、作戦通りに」
「分かったわ」
森夏は強く頷き、勇太に近づく。
「富樫くん、今日ちょっと生徒会で重めの荷物を運ぶんだけど、人手が足りてなくて...良かったら手伝ってくれない?」
「分かった、すぐ行く」
六花に向けて、ぐっ、と親指を立てる森夏。
それを確認し、六花は部室へと向かう。
◆◆◆
「お待ちしておりましたデス、マスター!」
そう言って、早苗がお菓子の入った箱を手渡してくる。
「うむ、確かに」
頷き、それを受け取る。クリスマスに食べた物と同じ物だ。
「それとマスター、これを」
そう言って、早苗はもう一つ今度は一回り小さいお菓子の箱を渡してくれた。
「凸守。これは?」
「これはクリスマスの時のものよりもさらに強力な薬デス!
これをダークフレイムマスターの分とすり替え、ダークフレイムマスターも酔わせてしまうのデス!」
「なるほど、妙案」
「ありがとうございますデース!」
凸守が深々と頭を下げと、自慢のミョルニルハンマーが地面にポテっと落ちた。
その頭を見下ろし、早苗との付き合いも長くなったものだ、と思う。
そう考えると、なんだか目の前の少女がとても愛おしく思えてきて、つい頭を撫でてしまった。
「ま、ますたー?これは...」
「ありがとう、凸守。
こんな不甲斐ないマスターに、今まで着いてきてくれて」
目を瞑り、感謝の意を告げると早苗は下を向きながら、頬を膨らませた。
「...邪王心眼は最強、マスターは超カッコいいデース...きっと、ダークフレイムマスターもそう思っているはずデース...」
「...そうかな」
「違いありませんデース、あの坊主頭がよく、『勇太の奴、会うたびに惚気話聞かせてきやがるんだよ!六花が肉じゃがを作ってくれようとしたんだけど、とか、体育のバレーボールが上手くなった、とか!』
と言っていたデース」
それは惚気話というより育児奮闘記のようにも聞こえるが。
それでも、勇太が六花の居ないところでも六花を想ってくれているのはとても嬉しい。
「凸守のこのマジックアイテム、ありがたく使わせてもらう」
これで舞台は整った。
あとは、勇太を待つのみである。
◆◆◆
「この段ボールを向こうに運べば良いのか?」
「そうそう、お願いね、冨樫くん」
よっ、と段ボール箱を持ち上げ、歩く。
そこへ、同じく段ボールを持った森夏が横に並んで歩いてくる。
「なぁ丹生谷、さっき六花になんか言われてたろ。あれ、なんだったんだ?」
「さぁね〜?」
「また何かおせっかい焼いてるんじゃないだろうな」
ジト目で森夏を見る勇太。
「今回はそんなんじゃないわ。
小鳥遊さんが自分で決めたことよ。
冨樫くん、ちょっと過保護すぎるんじゃない?」
「そうか?」
「ええ。私には、小鳥遊さんを守ろうとしすぎて、逆に小鳥遊さんの成長も止めてしまってる気がするわ」
「そうか......丹生谷、いつもありがとうな」
「なっ!何!?急にどうしたの!?」
森夏の顔が急激に熱くなり、思わず持っていた段ボールを落としそうになる。
「おせっかいだのなんだのって言ってるけど、それでもめちゃくちゃお前に助けられてるなって、そう思っただけだよ。
俺が不甲斐ない時は背中叩いてくれて、六花が悩んでる時は話を聞いてくれて...」
「別に、そんなのお礼を言われることじゃないわよ。あんたたちが分かりやすすぎるだけなんだから」
「それでも、お前と1年の時同じクラスで良かったと思うよ」
そう言って笑う勇太の頬は少し赤かった。
それを見て、森夏は大きなため息をついた。
「なーに終わった感じ出してんの、これからでしょ、こ・れ・か・ら!」
ぐいぐいと肩で背中を押しながら、森夏は笑った。
「あと、残りの分は私がやっとくから富樫くんは先に部室行ってて良いわよ」
片目を瞑り、森夏は目で語りかける。
『ここまで言えば、わかるでしょ?』と。
「分かった、ありがとう丹生谷」
そう言い終わる前かに、もう勇太は走り出していた。
その背中を見送り、森夏は。
「...バカね、小鳥遊さんに早く会いたいって顔に出てるのよ」
◆◆◆
勇太が部室に着く頃、部屋には六花が1人ぽつんと座っていた。
「あれ、凸守はどうした」
言いながら、勇太は隣に座る。
「丹生谷の加勢に向かった」
「なんだかんだ、あいつら仲良いんだよな」
などと、他愛もない雑談を続けていると、六花が突然立ち上がった。
「勇太、話がある。ここではできない、大事な話」
瞳は潤んでいたが、いつものように弱々しい眼ではなかった。
むしろ、決意が漲っているような。
「んじゃ、そろそろ帰るか」
帰り道、六花の鞄が妙に膨らんでいるのに気づいたが、それは指摘しなかった。
◆◆◆
「ただいまー、って、樟葉は居ないんだったな。
六花、俺は晩御飯作るから、洗濯物取り込んできてくれ」
「了解した」
いちいちポーズを取り、とうっ!と言ってベランダに飛び込んでいく六花を見送り、勇太もエプロンの紐を縛った。
◆◆◆
「「ご馳走様でした」」
2人一緒に手を合わせ、すぐに後片付けに入る。
勇太が皿を洗い、六花が拭くという分担で次々に食器を処理していく。
2人並んでこうやって家事をしている時間が、何物にも代えがたく、幸せだ。
一緒に暮らしている、ということを強く実感できる。
勇太も同じように思っていてくれたら良いな、と思う。
「勇太、また料理上手くなった?」
「あぁ、今日のは十花さんから教わったレシピで作ったんだ。
俺も将来のために料理上手くなった方が良いだろうと思って」
「将来...」
それは、料理下手な六花のためにこれからも料理を作ってくれるという意味だろうか。
考えていて顔が熱くなってきたので、頭をぶんぶんと振り、皿拭きに集中する。
「そういえば勇太、今日はデザートがある。
凸守がくれた」
「おっ、じゃあコーヒーでも淹れるか。六花はブラックで良いか?」
「砂糖とミルクをたくさん入れて欲しい」
「なんだ、ブラックは卒業したのか?」
「今朝もう戦ったから今日はもういい。戦士には休息も必要」
「はいはい、六花は机を拭いといてくれ」
◆◆◆
とてとて、と六花が皿にチョコレートのケーキのようなものを乗せて歩いてくる。
「ん?これ、凸守の家でクリスマスパーティした時の...」
「そう」
「大丈夫なのか?気分悪くなったりとか...」
「一つなら平気。それに、必要なこと」
「...そろそろ、何の話をしてくれるのか聞いても良いか?」
「...食べ終わってから」
下を向いて恥ずかしそうに六花が言うもんだから、勇太は頷くしかなかった。
2人とも無言で食べ進める。
でも、不思議と気まずさとか退屈とかは感じなくて。
むしろ、どこか心地良い。
「ご馳走様でした」
一足先に、六花が食べ終わった。
顔が赤いのはアルコールのせいか、それとも恥ずかしいのか。
勇太の経験上、おそらく両方だろう。
「勇太は朝、『なんで我が城に移り住んでから、寝坊するようになったのか』と聞いた」
「そんな言い方したかはさておき、まぁ聞いたな」
「その問いに、今こそ答えよう」
六花は立ち上がり、バッ、バッ、とポーズを切り替えつつ、自分の1番のキメ顔を作る。
「いちいち忙しい奴だなお前は」
「いいから聞いて」
机の向かいにいた六花が、勇太の隣に座る。
唐突なあまりの近さに勇太の心臓が高鳴った。
頬は紅潮し、首元からは汗が噴き出す。
手が震えそうになるのを理性で抑えつける。
(落ち着け俺、相手はあの中二病患者の六花だぞ)
六花が上目遣いで、潤んだ瞳をこちらに向けてくる。
そして、口を開いた。
「勇太が、起こしてくれるから」
それはか細く、場合によっては聞き取れないかもしれないくらいの声量だった。
しかし、勇太の耳にははっきりと届いていた。
「俺が...?」
「目覚めた時、最初にこの眼が捉える景色が勇太であって欲しい。
勇太の顔を見ると、安心する。
勇太の声を聞くと心が温かい。
もっと聞いていたい」
「お前、よくそんな恥ずかしいこと言えるな」
「...本当のこと」
俯き、またしてもか細く呟く六花。
その様子を見て、突き放してしまったのかと焦って勇太も言葉を紡ぐ。
「その、別に俺も起こすのが嫌でそんなこと聞いたんじゃない。
むしろ、なんか新婚さんみたいで良いな、と思う。
いつの間にか、朝起きて支度して、六花を起こして、朝ご飯を樟葉と3人で食べて、学校に行く。それが当たり前になった。
そんな日々が、たまらなく幸せで、大切だよ」
「...勇太こそ、そんなことよく平気で言う」
「お前な...」
ついつい場の雰囲気に流されてつらつらと並べ立ててしまった。超恥ずかしい。
照れ隠しに、ビシ、とチョップを喰らわせる。
「あうっ」
ふぅ、と勇太が息を吐いた。
そして、パクパクと残りのケーキを食べ進め、一気に皿を空にした。
「どうだ?六花。満足したか?」
「伝えたいことは、これで終わり」
「そうか、じゃあ片付けて風呂入って...」
立ち上がろうとする勇太を見て、六花は焦る。
「勇太!!」
焦りのせいで、ついつい大きな声が出てしまった。
凸守の言っていた言葉が脳内で反芻される。
『ケーキの効果が出るのは食べてから少し時間がかかるデース。
だから、話を終えてもそこで終わらせてはいけませんデスよ』
なんだか必死そうな六花の様子を見た勇太が目尻を下げる。
「...なんだ?風呂掃除当番はお前だろ?
代わってやらないぞ」
「違う、そうじゃない。勇太の意地悪」
「はいはい」
「むぅ」
適当な対応に頬を膨らませる六花。
そんな様子を見て、不覚にも、
「可愛いな」
と、零れ落ちてしまった。
「へあっ?」
六花は、顔にみるみる熱が集まるのを感じていた。
「あ」
やってしまった、と口元を抑える勇太。
「ゆゆゆゆゆゆ勇太、今、今...」
「違う、これは違くて、いや違わないんだけど、でもその...」
「私、お風呂入ってくる!!」
逃げ出すように、六花は風呂場へと駆け出していった。
「あ!六花!!」
手を伸ばすが、悲しいかな、もう卒業してしまったダークフレイムマスターは無力であり、邪王心眼の歩みを止められなかった。