小鳥遊六花黙示録   作:yy012

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夢現の...境界線(ボーダーライン)

 気がつくと、六花は制服姿で勇太の部屋のベッドに座っていた。

 扉が開き、同じく制服姿の勇太が入ってくる。

 当然のように勇太が隣に座り、顔を近づけてくる。

 唐突な展開に驚き、逃げ出そうと勇太から顔を背ける。

 

 しかし、勇太はそれを許してはくれなかった。

 

 勇太の左手が六花の肩をしっかりとホールドし、右手で六花の顎をつまむ。

 そして右手が動き、無理やり勇太の方を向かせられた。

 

(ちかいちかいちかいちかいちかいよおおお!)

 

 六花の内心はしっちゃかめっちゃかだった。

 ふわふわとした少し癖毛の茶色の髪から、安心する匂いがこちらに流れてくる。

 いつも優しいダークブラウンの瞳と目が合うだけで、六花の心臓はきゅうきゅうと締め付けられ、蕩けてしまう。

 

 そして、優しい触れるだけの口づけをされた。

 

「ほぁ...」

 

 六花の口から、思わず溜息が漏れてしまう。

 その口を塞ぐように、勇太は再び唇を合わせた。

 今度は長く、長く。六花を味わうように。

 

 気がつけば勇太の舌が、六花の中に入り込んでいた。

 

 最初のキスでもう脳がキャパオーバーを起こしてしまったため、六花は放心状態で口内を犯され、されるがままになるしかなかった。

 

 顎をつまんでいた右手はいつの間にか六花の頭の上へ移動し、優しく髪を撫でている。

 

 ぷはっ、と唇を離し、悪戯っぽい笑みを浮かべる勇太。

 

「六花...お前をもっと感じたい...」

 

そう言って六花をベッドに押し倒し、覆い被さるように勇太が上から六花の首筋にキスを落とす。

 

 そして勇太の手は六花の制服のシャツのボタンを外しにかかりーーーーーーーー

 

 

 

 

「だめーーー!!!!!」

 

 飛び起き、目は瞑ったまま手をぶんぶんと振り回しながら六花は叫んだ。

 

 ...なにか違和感がある。

 

 これだけ暴れたら、なにか勇太からのリアクションがあってもいいはずなのだが。

 

 恐る恐る目を開けると、そこには数々のぬいぐるみが棚に並び、壁には様々な銃火器が飾られている。

 部屋の隅には段ボール箱が積んであり、その中には数々の魔石などのコレクションが所狭しと収納されていた。

 どこからどう見ても、六花の部屋である。

 

 そこでようやく、六花は先ほどまでの光景が全て夢であったことを理解した。

 

「...トイレ」

 

 もぞもぞと、自室のベッドの上に横たわる六花は動き出した。

 毛布をどけて起き上がると時計が目に入り、もう日付が変わってから2時間ほど経っていることが確認できた。

 

 さっき大声を出してしまったから要らぬ心配かもしれないが、勇太と樟葉を起こしてしまわないよう細心の注意を払って部屋の扉を開ける。

 

 足音を殺しながらトイレに向かう。

 

 トイレを済ませ、洗面台で手を洗う。

 

 ふと、鏡に映る自分を見た。

 

 顔が赤い。

 そりゃそうだ。あんな夢を見たのだから。

 

 夢に見るということは、内心自分は期待しているのだろうか。

 

「〜〜〜〜っ!!」

 

 あまりの恥ずかしさに、バシャバシャと水を顔にありったけ浴びせかける。

 手で器を作り、そこに水を溜めては浴びせる。

 それを続けている間だけは、恥ずかしさを少しだけ忘れられた。

 

「おい、何をやっている」

 

 後ろから声を浴びせかけられた。

 心臓が口から飛び出してしまいそうなほど驚いたが、それを飲み込み、平静を装う。

 

「しゅ、修行をしていた」

 

「ほう、なんの修行だ」

 

 予想外の切り返しに、そこまでは考えていなかった六花が焦る。

 

「それは...そう、水魔法に対抗する術を身につける」

 

「それ絶対今思いついただろ」

 

 いつものようにチョップが飛んでくる。

 

「あうっ」

 

 あっさり見抜かれてしまった。

やっぱり、あの瞳には全てを見抜かれてしまうのだ。

 夢の中での勇太の眼を思い出し、また顔が熱くなる。

 

「はぁ。ほら、パジャマ濡れてるし。

待っててやるから早く着替えてこい。

そのままだと風邪ひくぞ」

 

 ため息を吐きながら勇太は六花の部屋を指差す。

 

「待っててくれる...?」

 

 なぜ勇太が六花の着替えを待っていてくれるのだろうか。いやもちろん嬉しいのだが。

 

「どうせ怖い夢でも見たんだろ。

明日は土曜だし、今日はこのまま寝ずに一緒にいてやる。

ゲームでもして過ごせばすぐ朝になるだろ」

 

 そう言ってあくびをしながらリビングへと向かう勇太。

 

 その背中に六花は飛び込み、しがみついた。

 

「どわっ!?なんだ!?」

 

「...なんでもない」

 

「...そっか」

 

 こういう時、深くは聞かないでくれる勇太のことが好きだ。

 大体、自分でもどうして飛び込んでしまったのかわからないのだから説明しろと言われてもできない。

 身体の奥底から衝動がこみ上げてきて、なんだか無性に勇太にくっつきたくなったのだ。

 きっとこれは邪王心眼がゲルゾニアンサスの魔力を欲しているに違いない、と自分を納得させる。

 

 着替えを済ませ、リビングに戻るとトランプを持った勇太がにやりと笑い、言った。

 

「スピードでもするか。勝った方は相手になんでも言うことを一つ聞いてもらえるってのはどうだ?」

 

 六花は不敵に笑って答えた。

 

「望むところ」

 

「「スピー.......ド!!!」」

 

 お決まりの掛け声でゲームはスタートする。

 1枚、2枚と自分の持ち札を順調に減らしていく2人。

 

 先に出せる札が無くなったのは勇太だった。

 続いて六花も出せる札は無くなる。

 勇太は残り8枚、六花は残り4枚。

 このままいけば六花の勝利だ。

 

「勇太、降参するなら今のうち」

 

「言ってろ、ここで俺は真の力を発動する」

 

はあああああ、と気を高めるように唸り、勇太がトランプを持つ右手に力を込める。

 

それを見た六花も真似をして、はあああ

あ、と右手に力を込めた。

 

お互いに口の端を歪め、おそらく最後となるだろう掛け声を出す。

 

「「スピー......ド!!!」」

 

 まずは六花が9を出し、それに続いて8を出そうとする。

 

 そして、勇太はその瞬間を待っていた。

 六花の持つ8が出される前に、自分の10を滑り込ませるようにして出す。

 しかしそれに反応しきれなかった六花は8を出す手を咄嗟に止めることはできなかった。

 

 その結果、勇太の手に六花の手が重なった。

 

 六花の脳裏に蘇る、夢の中の景色。

 慌てて手を引っ込めると、その隙に勇太が自分の持ち札を全て消化し切っていた。

 

「フッ...俺の勝ちだな」

 

 右手を顔に当ててカッコつける勇太。

 ぐぅ、とそれを見て六花は悔しそうに唸った。

 

「さぁ、俺の願いを叶えてもらおうか、邪王心眼!」

 

 勇太がバッ、と手をこちらに向けてくるので、六花は膝をついてふらつく。

 

「ぐっ...仕方ない、勝負は勝負。

願いを言うが良い...」

 

「六花...」

 

 名前を呼びながら顔を近づけてくる勇太。

 

(こ、これって、夢で見た...)

 

 その時、六花の脳内で言葉が再生された。

 

『六花...お前をもっと感じたい...』

 

(だめ!!! はずかしい!!!!!

 

...でも、邪王心眼に二言はない。

勝負に負けたなら仕方ない...)

 

 六花も覚悟を決め、勇太の目をまっすぐと見つめ、頷きかける。

 

「勇太...なんでも言って」

 

 その言葉に安心したような顔になる勇太。

 六花はもう、勇太の全てを受け入れる覚悟を決めていた。

 

「六花...」

 

「うん...」

 

 勇太の願いはーーーーーーー

 

 

 

 

 

「トマト、食べてくれ」

 

「へ?」

 

 思わず間抜けな声が出てしまう。

 

「明日の夕飯はトマト尽くしメニューにする。

荒療治ってやつだ」

 

「...勇太のバカ」

 

 ふいっとそっぽを向き、頬を膨らませる。

 

 それを見た勇太は六花の頬を指で突いた。

 ぷしゅ、と音を立てて六花の口から空気が放出される。

 

「六花のほっぺ、柔らかいな。もっと触っても良いか?」

 

「さっきのお願いを無しにしてくれるならいい」

 

「じゃあいいや」

 

「ゆうたぁ!!」

 

 涙目で詰め寄る六花。

 

「ったく、そんなにトマトは嫌か?」

 

 コクコクと必死に頷く。

 なんだかその必死さがとてもおかしくて、可愛くて、勇太は思わず笑ってしまいそうになった。

 

「しょうがないな。じゃあ俺の願いは、今日一日六花のほっぺ触り放題、だ」

 

 勇太がそう宣言すると六花はぱあっと顔を明るくし、両手を広げて勇太を迎え入れる体勢に入る。

 

「受理した。好きなだけ触るが良い」

 

「じゃ遠慮なく」

 

 それから勇太は六花の頬をふにふにもちもちと指でつまんだり、押したりして遊んでいた。

こんなのの何が楽しいのだろうか。

 

 せっかく六花は覚悟を決めたというのに、その結果がほっぺ触りとは。

 夢と現実のあまりのギャップに拍子抜けしてしまった。

 

 ただ、勇太がこれまであまり見せたことのないふにゃふにゃとした締まりのない顔になっているので、これはこれで良いか、と思うのだった。

 

 この日以来、勇太は朝六花を起こす時や六花がリビングで本を読んでいる時など、事あるごとに頬に触れようと手を伸ばしてくるようになった。

 

 悪い気はしないので受け入れているが、なんだか小動物のように扱われている気がするのが少し気に入らないポイントではある。

 

 学校で触るのはさすがに禁止しているが、部室に2人で居る時などは特別に許可することにした。

 

 その様子を丹生谷や凸守に発見されるのは、また別のお話。

 

つづく?

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