小鳥遊六花黙示録   作:yy012

6 / 7
降臨の...超旦那(スーパーダーリン)

 事件は、突然起きた。

 いや、事件とは突然起きるものだ。

 しかし、俺がもっと六花の様子を注意深く観察していれば。

 もっと思考を深く巡らせていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。

 これは、俺の責任だ。十花さんや六花のお母さんに合わせる顔がない。

 俺の失態だ。

 

◆◆◆

 

 昼休み、クラスメイトとの談笑中、六花は唐突に問われた。

 

「小鳥遊さんって、富樫くんのどんなところが好きなの?」

 

「うぇっ!?」

 

 予想外の質問に思わずよくわからない声が出てしまう。

 

「あ、それ気になる〜、富樫くん優しそうだけど、2人がどんな風にイチャイチャしてるのか想像付かないかも」

 

「い、イチャイチャなんてしてない」

 

 一応訂正は入れておく。

 

「えーうっそー!『六花、お前は俺だけのものだ』とか言われたりしてるんじゃないのー?このこのー!」

 

 言いながら肘で突いてくる。

 

「やっやめ...」

 

 恥ずかしいやらなんやらでうまく身体が動かないが、抵抗の意思だけは見せておく。

 

「『六花、お前は俺が守る』とか言われてるんじゃないのー?このこのー!」

 

 そんなのはお構いなしと、今度は反対側からも肘攻撃が飛んでくる。

 

「やっやめ...」

 

「やっぱり女の子なら、彼氏にお姫様扱いされたいよねー!」

 

「そうそう!いつも側に居てくれて、私だけをずっと守ってくれる騎士様みたいな!」

 

「間違えて私の着替え中の部屋に入って来ちゃったりして、『すまない。責任は取る』なんて言っちゃったりして!」

 

 キャー、と盛り上がる女子達。

 彼女達の鞄に目をやると、『過労死したらスパダリ領主に目をつけられている貴族令嬢に転生してしまったのですが!?〜私はただ平穏な生活が送りたいだけなのに〜』というライトノベル原作の漫画の表紙が見えた。

 

「すぱだり...?」

 

 気になった単語を口に出してみると、2人がとてつもない速度で食いついてきた。

 

「そう!スーパーダーリン、スパダリよ!」

 

「いつも私のことだけを考えてくれて、甘やかしてくれて、守ってくれる、そんな旦那様のことよ!」

 

 ふむ、と考え、彼女達の誤解を解いておくことにした。

 

「じゃあ、勇太はすぱだりじゃない。

赤い果実を口にしないと怒るし、夜の探索に出かけようとするとチョップが飛んでくる」

 

「「あぁ〜...」」

 

 ユニゾンし、呆れたような声を出す2人。

 

「ま、それも愛されてる証拠よね」

 

「そうそう、実際にスパダリなんて実在しないんだから」

 

 ポン、と励ますように両肩に2人の手が置かれた。

 

 結局、すぱだり、というものを理解はしたが、それがどう良いのかはあまりわからないままだった。

 

◆◆◆

 

 朝。俺は窓に雨粒が落ちる音で緩やかに目を覚ました。

 目をこすりながら起き上がり、時計を見る。

 いつもより早い。雨のせいか、少し肌寒い。

 再び布団に倒れこみたい欲求を抑え込みながら、俺はリビングに向かった。

 

「おはよう、お兄ちゃん」

 

「ああ、おはよう樟葉」

 

 先に起きて朝食を作ってくれていた樟葉に挨拶し、六花の部屋の扉をノックする。

 

「六花ー?起きてるか?」

 

 返事がないが、いつものことだ。

 

 扉に手をかけ、押し開く。

 

 広がっていたのは黒い部屋だ。

 異世界に迷い込んだのかと錯覚するほど、その部屋は俺の家の中でも異彩を放っていた。

 

 部屋の主、小鳥遊六花はベッドの上ですやすやと寝息を立て、少し寒そうに布団にくるまっている。

 

 その布団を容赦なく引っぺがし、払いのける。

 

「ああ!何をする!」

 

 目を瞑ったまま抗議の声を上げる六花に俺は言ってやる。

 

「町に不穏な風が吹いている...手遅れになる前に調査に向かうぞ」

 

 わざわざ恥を捨ててゲルゾニアンサスを降臨させてやったというのに、六花はご機嫌斜めだ。

 

「あと五分...」

 

「そう言ってお前昨日も起きなかっただろうが~!!」

 

 六花の頭を拳で挟み、ぐりぐりと中指でこめかみを押す。

 

「勇太!いたいいたい!」

 

 ひとしきりぐりぐりして気が済んだので、

 

「ほら、行くぞ」

 

 そう言って手を差し出す。

 

「勇太のいじわる」

 

 六花は不服そうにしながらも俺の手を取ってくれたのだった。

 

◆◆◆

 

 学校に着く頃には雨が強まり、積乱雲が大きく成長していた。

 

 俺たちの教室は3階にあるので、学校の階段を上る。

 

 俺が先導し、六花が後ろからついてくる形だ。

 

 窓の方を見ると、何かが光った気がした。

 あれは、と考える間もなく雷鳴が耳をつんざく。

 

「まずい、ゼウスによる攻撃がここまで迫っている。防御態勢!!!」

 

 そう言ってシュバルツゼクスパーフェクトカスタマイズゲルゾニアンサスを室内だというのに展開する六花。

 

 しかし、折り畳み傘を容易に展開できるほどうちの高校の階段の幅は広くない。

 

 とっさに俺は離れるために階段を上ろうとするが、雨で階段が濡れていたため足を滑らせてしまった。

 

「まずっ」

 

 そして俺は背中から六花のほうに落ちる。

 

「勇太!!!」

 

 突然の出来事に六花は手に持っていたシュバルツゼクスパーフェクトカスタマイズゲルゾニアンサスを手放し、俺を受け止めようとする。

 

 やめろ、無理だ、離れろ。

 様々な言葉が俺の脳内をぐるぐると回るが、それらが音として発されることはなかった。

 

 そして俺と六花は二人して階段を転がり落ちた。

 

◆◆◆

 

「小鳥遊さんの左腕は比較的きれいに折れてるから、一か月もすれば治るんじゃないかしら」

 

 医者が安心させるように笑いかけてくる。

 

「そう、ですか」

 

 だからといって安心、とは言えない。

 

「色々と不便があると思うから、彼氏さん、しっかりサポートしてあげてね」

 

「か、かれし...」

 

 彼氏、という言葉に反応して六花が顔を赤くしているが、俺には照れている余裕もなかった。

 

 そして俺は六花の折れていない方の手ーーー右手を握り、宣言した。

 

「はい。六花は俺が守ります」

 

「うん、そう言ってくれるなら安心だわ。お大事にね」

 

「はい、ありがとうございました」

 

「か、感謝する」

 

 そう言って手を握ったまま部屋を出る俺と六花。

 

「あらあら、最近のカップルはお熱いのねえ」

 

 その言葉は扉に遮られ、俺たちに届くことはなかった。

 

◆◆◆

 

 病院から帰ると、時刻は12時を回っていた。

 もう授業に出ることは諦め、今日は家で過ごすことに決める。

 

 今日は学食を食べる予定だったため、俺も六花も弁当を持っていない。

 そして樟葉は学校に行っているので、昼食は俺特製炒飯だ。

 

 この家には、母さんが調子に乗って買った中華鍋があるため俺が作る炒飯はそれを使ったものになる。

 基本的に料理の腕前では樟葉に劣る俺だが、樟葉には中華鍋を振る筋力がないため炒飯だけは俺ののほうが美味い、と我が家では評判である。

 

「六花、できたぞー」

 

「わかった、今行く」

 

 六花の部屋に声をかけると、ドア越しに返事が聞こえた。

 六花が来るまでに炒飯を皿に盛りつけ、テーブルに並べていく。

 

 部屋から出てきた六花が皿を運ぶのを手伝おうと近づいてくるので、それを手で制す。

 

「おとなしく座ってろよ」

 

「...うん」

 

 六花は悔しそうだが、俺のせいで怪我したんだ。別に気に病むことなんてない。

 

「「いただきます」」

 

 二人で手を合わせ、食事を始める。

 

 俺はレンゲに一口分より少し少ないくらいの炒飯をよそい、六花の口に近づけた。

 

「はい、あーん」

 

「じ、自分で食べれる。右腕は無事」

 

 慌ててそれを拒絶する六花。

 

「でも左手使えないんじゃ食べにくいだろ。今月だけだから、おとなしく甘えとけ」

 

 俺がそう言うと、六花は観念したように口を開いた。

 

「美味しい、勇太は天才。こんな美味しい炒飯、食べたことない」

 

 一口食べると目を輝かせ、もう一口、と身体を揺らしてせがんでくる。

 どうやら俺自慢の炒飯は六花にも受け入れられたようだ。

 

「そうか、そりゃ良かった。ゲルゾニアンサスの黒炎による圧倒的な火力が美味しさの秘訣だな」

 

「さすがはゲルゾニアンサス。能力の応用が凄まじい」

 

 あまり夢のない能力の使い方だとは思うが、まあ六花にウケているようなので良しとしておく。

 

 

 昼食の片付けを済ませ、葛葉が帰ってきたら夕食の買い出しに向かおうかと思っていたころ。家の電話が鳴り響いた。

 

「はい、富樫です」

 

「あ、お兄ちゃん?」

 

 電話の相手は樟葉だった。

 

「おお樟葉か、どうしたんだ?」

 

「私、今日は友達の家に泊まることになったから、二人でご飯食べといてもらってもいいかな?」

 

「ああ、分かった。そちらのお家に迷惑かけないようにな。ちゃんとお礼言うんだぞ」

 

「はーい」

 

 そう言って電話が切れた。

 

 樟葉が友達の家に泊まるのはよくある話なのでいまさら『ということは...2人きりか!?』などと取り乱すようなことはしない。俺も成長したのだ。

 

 そういうことなら、と夕食の献立を何にしようか考えていると、六花がひょこっと部屋から顔を出した。

 

「勇太...お風呂入りたい...」

 

「あぁ、確かに雨に濡れちゃったからな。

樟葉に手伝ってもらっ...」

 

 ん?樟葉?

 

「しまったああああああ!!!!!」

 

 俺の叫びがリビングに響き渡った。

 

◆◆◆

 

「そ、それじゃ...出すぞ」

 

「うん...来て」

 

 決していかがわしいことをしようとしているわけではない。黒炎龍に誓って。

 ただシャワーから水を出そうとしているだけだ。

 

 俺たちは制服からTシャツに短パンという濡れても良い服に着替え、六花を風呂に入れようとしていた。

 水着という案も出たが、あまりにも六花が片手で難易度が高いため却下となった。

 

 そしてギプスは濡らさないように言われているので、ビニール袋を被せて紐で縛り、そこだけ濡れないようにしている。

 

「ひゃん! つめた...」

 

「変な声出すな!!」

 

「そんなこと言っても...んぅっ!!」

 

「だから変な声出すなって!!」

 

 慌ててシャワーの水を止める。

 

「今のは不可抗力...」

 

 むくれる六花のことは気にせずシャワーの温度を調節し、今度こそゆっくりと六花の頭を流していく。

 シャンプーを手に出し、六花の頭を泡立てる。

 

「痒いところはございませんかー?」

 

「勇太、どうしたの」

 

「あれ、これって美容室あるあるじゃないのか?」

 

「いつもプリーステスが髪を切ってくれるから行ったことがない」

 

「さすが十花さんだな」

 

 そんな話をしながらシャンプーの泡を洗い流していく。

 

 Tシャツが透けて六花の白い肌がうっすらと見える。

 

 みんなで海に行った時に背中なんて平気で見ていたはずなのに、Tシャツ越しの方がいかがわしく感じるのは何故だろうか。

 

 いらぬ妄想に励んでしまいそうな脳にストップをかけ、六花を洗うことに集中する。

 

「さ、身体は自分で洗えるだろ」

 

 頭を洗い終え、リンスも済ませたので、俺は立ち上がる。

 

「あ...」

 

 六花が何かを言いかけた気がするので、振り返る。

 

「なんだ?」

 

「なんでもない」

 

 そうか、と言い残して俺は風呂場を出た。

 

◆◆◆

 

 今朝はあれだけ降っていた雨はすっかり止んでおり、青空が広がっていた。

 

 俺と六花は学校に向かい、再びあの階段を登り始める。

 

「ほら、六花」

 

 そう言って手を差し出すと、六花が不思議そうに首を傾げる。

 

「魔法陣?」

 

「違う。書くなよ。そうじゃなくて、手、握っとく。

危ないからな」

 

「もうポセイドンの怒りは鎮まった。心配は不要」

 

「いいから」

 

 そう言って強引に六花の右手を握った。

 

「ゆ、勇太、学校でこんな...恥ずかしい...」

 

「腕が治るまでは我慢しろ」

 

「うぅ...」

 

 しゅうううと頭から湯気を出している六花を連れて、俺は教室に向かった。

 

◆◆◆

 

 怪我をしてからというもの、勇太の様子がおかしいことに六花は気づいていた。

 

 いつだったか丹生谷が言っていた、倦怠期というやつではない。

 六花から勇太への愛が薄れることはないし、勇太からの愛も、契約がある以上心配はないだろう。

 というか、むしろ逆だ。

 

 異常なまでに勇太が六花のそばを離れようとしないのだ。

 

 ご飯や登下校は常に一緒だったが、最近は家に居る時も、教室に居る時も、移動教室の時でさえ勇太は六花に着いて回る。

 

 確かに、普段から雑に扱われることに不満はあった。

 赤い果実を食べろと言うし、部屋を片付けないと怒るし、朝起きないとすぐにチョップを繰り出してくるし。

 

 もう少し彼女らしく、丁寧に扱って欲しいとは思っていた。

 

 だが、今の現状はおかしい。

 常に気を張り、周りをキョロキョロと見渡している勇太。

 隣に居てくれるのは嬉しいが、話しかけても返事はそっけないし、出かけようと誘っても断るし。

 一体どんな呪いにかかってしまったのだろうか。

 

「ねえねえ小鳥遊さん」

 

 珍しく勇太が六花の側から離れた瞬間を見計らって話しかけてきたのは丹生谷だった。

 

「富樫くん、どうしたの?

なんだか小鳥遊さんにべったりで」

 

 びく、と六花のアホ毛が跳ねた。

 

「勇太はゲルゾニアンサスから、すぱだりに進化しようとしている」

 

「スパダリ、ねえ。たぶん、そういうのとはちょっと違うけど...」

 

「じゃあ丹生谷は、今の勇太をどう分析する?

今こそ、数百年生きた魔術師モリサマーの知恵が必要」

 

「モリサマ言うな。...そうね、私が思うに...」

 

 言いかけたところで、教室に勇太が戻ってきた。

 

「ほら六花、飲み物買ってきたぞ」

 

「おお、これは魔力補給用ポーション!」

 

 勇太が買ってきたのは紙パックのカフェオレと缶コーヒーのブラックだった。

 

「どっちが良い?」

 

「今日はこっち」

 

 そう言ってカフェオレを指差すと、勇太が慣れた手つきでストローを刺し、口元に近づけてくるのでそれを咥えて飲み始める。

 

 ぷは、とストローから口を離すと、クラスの視線がこちらに向いていることに気がついた。

 

「勇太、いけない!民衆は組織に洗脳され、私たちを捕らえるつもり!」

 

「そんなわけないだろ、あとクラスメイトを民衆言うな」

 

「あ...」

 

 いつものようにチョップが飛んでくることを予知し、身構えるもその必要はなかった。

 

 不思議なもの寂しさを感じ、六花が右手で自分のおでこをさすった。

 

「あんたたちがイチャついてるからみんな気になって見てたのよ、自覚は無いみたいだけど」

 

 代表して丹生谷が口を開いた。

 

「あぁ、いつも通りだからな」

 

 どよよっ、とざわめくクラスメイトたち。

 

 あまりの恥ずかしさに六花はカフェオレを飲むことに集中することで周囲の目線を遮断しようとする。

 

「なんだか富樫くん、変わったわね。

前までならイチャついてるとか言われたら否定してたじゃない」

 

「まぁ俺たち付き合ってるし、イチャつくことぐらいあるだろ」

 

 再びざわめく教室。

 ぶほ、と六花がむせた。

 

「ふーん...ま、私は良いけど、小鳥遊さんが大変なことになってるわよ?」

 

 そう言われて勇太も六花の状態に気付き、ポケットからハンカチを取り出した。

 

「あーもう、可愛い顔が台無しだぞ」

 

 六花の口元を拭いながら、その言葉は何気なく、まるで天気の話でもするみたいに平然と告げられた。

 

 ひゅ、と六花の喉が鳴った。

 

 慌てて立ち上がり、逃げ出そうとするが、片手が使えない今、バランスを崩す。

 

 世界がスローに感じる。

 

 自分の身体が傾き、倒れ込む姿を幻視するが、そうはならなかった。

 

 ふわりとそれを受け止めてくれた腕があったからだ。

 

「ったく、急に立ち上がったりしたら危ないだろ」

 

 そう言う勇太の腕は六花の背中と膝をがっちりと支え、抱き抱えていた。

 

 というか、これはーーー

 

「な、な、な、な...」

 

「な?」

 

「なんじゃ◯◇×〜!?」

 

 お姫様抱っこ、というやつだ。

 

 声にならない叫びを上げる六花の中で、ぷつんと何かが切れた。

 

「ゆ、勇太は組織の洗脳を受けて、別人格に代わっている!!!

本物の勇太を探しに行く!!!!」

 

 勇太の手を振り解き、教室を走って出て行く六花。

 

「おい!!また転けたらどうすんだ!!」

 

 そう叫びながら後を追う勇太。

 

「はぁ...あの2人、どうしていつも噛み合わないのかしら」

 

 丹生谷のその言葉を皮切りに、クラスメイト達は各々の日常に戻っていった。

 

◆◆◆

 

 六花を追いかけて辿り着いたのは、極東魔術昼寝結社の夏の部室だった。

 

 中に入ると、肩で息をしている六花が座っていた。

 勇太もひとまず息を整え、六花の前に座り込む。

 

 先に口を開いたのは六花だった。

 

「今の勇太は何らかの精神攻撃を受けている。

じっとして」

 

 掌を前に向け、そう告げる六花。

 

「受けてない」

 

 だが、勇太は当然首を振る。

 

「本人に自覚は無いタイプ...厄介」

 

 あくまで設定を崩さない六花。

 

「とりあえず、転けたら怪我が悪化するから走るの禁止な」

 

「私は元々走ったことはない。

走っているように見えて、実は少し浮遊して飛行している」

 

「ドラ◯もんか」

 

勇太がツッコミを入れるが、やはりチョップは飛んでこない。

 

「勇太は最近私への態度が変。

いつも怖い顔して、私の話を半分くらいしか聞いてくれない」

 

「元々お前の話は話半分くらいに聞いてるけどな」

 

 六花が頬を膨らませる。

 

「勇太が私を攻撃することもなくなった。

それどころか、私をまるで魔力水晶のように扱う」

 

「嫌だったか?」

 

「たまになら良い。でも、さみしい」

 

「仕方ないだろ。俺にはお前を守る責任がある。十花さんやお前のお母さんと約束したんだ」

 

「邪王心眼は最強!!!」

 

 立ち上がり、宣言した。

 

「そもそも、私がシュバルツゼクスパーフェクトカスタマイズゲルゾニアンサスを展開しなければこうはならなかった」

 

「いいや、俺が転ばなければ問題は無かった」

 

「...ダークフレイム頑固マスター」

 

 蹲ってぼそりと呟く六花を見て、勇太は大きく息を吐いた。

 

「わかった、悪かったよ」

 

「邪王心眼は最強」

 

「はいはい」

 

「...でも、かっこよかったからたまにやって欲しい。それに、勇太を狙う敵への牽制にも...」

 

 もじもじしながらそんなことを言ってくる六花。どっちなんだよ。

 

「もうやらん」

 

 きっぱりと勇太が断ると、六花の目が潤んだ。

 

「そんなぁ...勇太ぁ...」

 

「ったく、しょうがねえな...」

 

 そう言う勇太の顔が、過去最大に近づいた。

 

「俺は六花しか見てないから、牽制する必要なんかない、だろ」

 

 首筋をぽりぽりと掻いて視線を斜め上に彷徨わせながら、勇太はそう言った。

 

 六花は勝手に緩む頬を抑えようとするも、左手が使えないため右手だけを頬に当てる。

 空いた左側の頬に勇太が触れると、六花がすりすりと擦り付けてくる。

 

 チャイムの音が鳴り響き、昼休みの終わりを告げる。

 

 教室に戻ろうと立ち上がる勇太の袖を、六花が掴んだ。

 なんとなく何が言いたいのかは理解したが、一応言葉を待ってみる。

 

「なんだ、どうした?」

 

「ぐわあ!!ぐっ!!腕が!腕がぁ〜!!」

 

 そう言いながら左腕を押さえてのたうち回る六花。

 

「何!? 敵襲か! くそ、奴ら、どこから見てやがる!!」

 

 すぐさま制服のブレザーを翻し、警戒態勢を取る勇太。

 

「今この結界の外に出るのは危険か...」

 

 そう勇太が言うと、六花が嬉しそうに頷いた。

 

◆◆◆

 

「ふんふんふーん♪凸守は今日もアジトに向かうデース♪」

 

 放課後、鼻歌を歌いながら廊下を歩く凸守は、いつものように部室前まで来ていた。

 

「マスター!おはようございますデース!」

 

 元気よく挨拶をしながらドアを開ける凸守が見たのは、

 

 仰向けになって気持ち良さそうに眠る勇太と、その腕を枕にしてこちらも気持ち良さそうに眠る六花の姿だった。

 

「な、な、な、な...」

 

「あら2年、来てたのね。富樫くん達は...」

 

 そして凸守の後ろからひょこっと顔を出して部室の様子を見た丹生谷も固まる。

 

「あー、モリサマちゃんに凸ちゃん!久しぶり〜! どうしたのそんなところで固まって...」

 

 そしてくみんも部室内の様子を把握した。

 

「この神聖なるアジトで何をしているデース!!!! ミョルニルインパクト!!!!」

 

「げふっ!!!」

 

 凸守によって叩き起こされた勇太は、丹生谷と目が合った。

 

「で?仲直りは済んだの?」

 

「まぁ、一応な」

 

「はぁ、『六花は俺が守る』なんてくっさいセリフ吐いちゃって何が元中二病よ、バリバリ現役じゃないの」

 

「聞いてたのか!?」

 

「後を追ってきてみたらあんたたちが怒鳴り合ってるのが聞こえたのよ」

 

 最悪だ、と頭を抱える勇太。

 

「六花ちゃんのお昼寝珍しいね〜写真撮っちゃお〜」

 

 勇太はくみんの呑気な声を聞いて、後でその写真を送ってもらうことを心に決めるのであった。




聖地巡礼行きたい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。