いにしえの詩
紀元前一三三〇年、古代エジプト──。
月夜を呼吸する大砂漠が殺伐然たる夜闇にセピアの叙情を染め被せる。
荘厳に
魔の情景を戦場とし、
自軍兵士は〈
対する敵軍兵士は乾燥保存死体〈ミイラ男〉──包帯巻かれの
ともあれ、双方とも高度知性や感情機微は欠落している。
ただ黙々と命令をこなすだけの簡易雑兵だ。
共に〈
異形の
そんな虚無的な魔景に身を置きながらも、しかし、彼の気高き戦意は
ギリシア神話きっての英雄〝ペルセウス〟には!
精悍な青い瞳は眼前に浮遊する人影を
女であった。
しなやかな小麦肌は裸身同然の露出を唄い、要所々々のきらびやかな黄金装飾が高貴な身分を
右手にした錫杖には巨眼意匠を刻んだ大きな金盤を先端に据えていた。
奇怪な印象が拭えぬのは、その全身に
もっとも特異な印象を与えるのは、顔すらも同様に封じられている点である。素顔には値踏みめいた
彼女こそ、まさに〝破滅の美〟そのもの。
勇者は敵意を噛み締め、その名を
「……〈
「…………」
物言わぬ
まるで
この者の
が、便宜的に〈
「
超人的な跳躍を可能としたのは〈伝令神ヘルメス〉から授けられた聖具〈金翼靴タラリア〉の
その眼中に映るは〈
はたして届いた!
「もらう!」
神剣が
その対応に勇者は攻撃成功を確信する!
望む結果!
かつては頑健な
その切れ味は
「……ッ!」
鈍くも
「何だと!」
弾かれた!
慣性の後退に滞空するペルセウス!
「チィ……魔術師めが!」
「…………」
反目は対極的な視線に交わされる。
眩いほどに熱く
太古に
確かに人類による古代文明は確立していた。
遥か神話の時代を経て〈神〉や〈悪魔〉と呼ばれる高次元存在は絶対不可侵の聖域魔域へと
しかしながら、その
それを
そして、
エジプト禁忌の
「ようやくだ……ようやくエジプト王権は、我が意のままとなる」
仮面の魔導師は
既存の動物ではないやも知れぬが……。
名を〝スメンクカーラー〟という。
第十八王朝の
その魔術手腕のみならず知恵袋としても頼りにされ、時として〈共同統治者〉として表舞台に出て来る事すらもあった。
絶大な信頼からアクエンアテン死後には次期
「王族埋葬を
外界の騒乱とは無縁とばかりにピラミッド内部は鎮まり返っていた。
石廊を蒼い霊気が流動し、
そこに瞑想儀式の
深く吐いた息に体内の不純物たる気を乗せると、スメンクカーラーは頭上仰ぎに神気を深く吸った。
吸い込むのは深呼吸ではない。
大宇宙に
「ピラミッドパワー……
この位置の真上は、そのままピラミッド頂点に重なっている。
「
呼び込む。
ひたすら瞑想に集中して呼び込む。
それは
現代では石段に築かれた威風を
時として織り交ぜられる閃光の
「
「…………」
煌めく切っ先を紙一重の推移に
──侵略者風情が何を言うか。
「だが、貴様は……
詰める間合いに金光の軌跡!
裂かれる寸前に光彩分裂と掻き消える
捜せば、すぐさま右上空に出現した!
転移魔術である!
「チィ! 詠唱すら無く……厄介な!
「…………」
──ああ、そうだ。
──両親から〝忌避の子〟と
──
「
──アマい。
両者の距離は回避を開くに充分。
だから、
背後から月明かりが
振り向けば退路を絶つ巨漢の姿。
雄獅子の毛皮を鎧と
獅子頭を兜としていたせいで〈獣人〉にも錯覚してしまうところだが、絞まり無く開いた
あの〝ペルセウス〟とかいうヤツ共々、幾度か交えた相手だ。
名は、確か──。
「よぉ〈
次の瞬間、両拳固めの肉槌が華奢な女体を殴り落とした!
「フンッ!」
矢のような落下!
背後から虚を突いた奇襲に魔術防御を展開出来なかった!
──
撃墜の事後を見下ろす獣頭勇者に、ペルセウスが並び寄る。
「ヘラクレス!」
「よぉ、
フランクな社交辞令は、多少の優越感を帯びていた。
その光景を仰向け落下に視認し、ようやく
──ああ、確か〝ヘラクレス〟とか言ったな。
──あの〝ペルセウス〟と並ぶ〈ギリシア英雄〉にして、血筋的には
──別段、興味は無い。
そして地平と広がる砂漠は
四肢は千切れ飛ぶ。
人知超越の戦乱を奏でるギザの砂漠を西に据え、茫洋たるナイル川を両断に挟んだ東地域は平穏が寝息を立てていた。
無論、首都メンフィスも、そうである。
さりながら対岸の遠景と視認できる位置に構えた白亜の宮殿では、その天変地異を
「嗚呼、きっとまた〈
例えようも無い複雑な感情に
彼女の背後に控える侍女が代弁とばかりに思いを紡いだ。
「ギリシア──
「そうね。そして、哀しい孤独」
彼女の目には、そう映る。
「哀しい?」
「ええ、とても……」
「あの〈闇の
「ええ、判っています。彼女が〝忌避されるべき呪われし存在〟という事は……」
しかし、それでも〈
かつて、偶然にも正視に据えた事がある。
その際に見つめた〈
かと言って、善や慈愛も感じない。
例えるなら〝無垢〟のような……。
以来、彼女は何故か〈
「そもそも王権は
「その結果、こうして
「い……いえ、そ……そんな
「けれど──」心に秘めた
「え?」
「王権を完全に掌握したいのならば、私を始め血族総てを根絶やしにするべき──なのに、こうして生かし続けている。軟禁環境とはいえ……ね」
「恩情がある……と申されますか? あの者に?」
「
「は……はい」
ハイビスカスの亜種〝ローゼル〟を煮出した冷茶である。煎れるに少々手間と時間は掛かるであろう。
仰ぎ眺める星空は澄み渡り、穏やかな呼吸に
茫漠の彼方で繰り広げられている戦乱とは無縁であるかのように……。
ナイルの流れに隔離された別世界のように……。
「〈
新月は暗雲のベールに恥じらい隠れ、その向こう側にて黒き月と化ける。
月?
黄色く淀んだ単眼を据えた
喜悦のままに地表の混戦を見下ろす
雲間が拓けば、それは紛れもない白月であった。
「いま……のは?」
幻であろうか。
さりながら、底知れぬ
得体知れない不安が拭えない。
だからこそ、直感は確固と訴えるのだ……
仮に、それが
「幻視……遥か未来……」
彼女〝アンケセンパーテン〟は噛み締めるかのように
先代
「ジャジャ・エム・アンク……ジャジャ・エム・アンク……ジャジャ・エム・アンク……ジャジャ・エム・アンク……ジャジャ・エム──」
と、次第に強くなる霊気の潮流を感受した。
「感じる……感じるぞ! この石室内を飛び回っている
狂ったかのように名を連呼した!
確信に酔いしれるまま呼び続けた!
「ジャジャ・エム・アンク! ジャジャ・エム・アンク! ジャジャ・エム・アンク! ジャジャ・エム・アンク! ジャジャ・エム・アンク! ジャジャ・エム・アンク! ジャジャ・エム──」
嗚呼、いまこそ……いまこそ、
第四王朝に伝説と語り継がれた大魔術師と!
森羅万象を意のままに操れた超自然存在と!
それぞ、まさに〈神〉の領域!
自身の魔術など稚技と霞むであろう!
狂喜に染まる狂気が、
「ジャジャ・エム・アンク! ジャジャ・エム・アンク! ジャジャ・エム・アーーーーンクッ!」
極まりし!
呼応の大落雷が
落雷だと?
この砂嵐が暴れる天候に?
雷雲など無いというのに?
これは純然たるエネルギーの集束!
登頂を避雷針として怒号吼える巨光の鎚が叩き落ちる!
起点たる瞑想は天からの
「さあ、甦れ……神話の大魔術師〈ジャジャ・エム・アンク〉よーーーーっ!」
眼下を警戒する二大英雄。
「……気を抜くなよ、ヘラクレス」
「生きてるってか? あの直撃で?」
「ヤツは〈
ヘラクレスにしてみれば正直面白くない警告ではある。
血筋とはいえ共に〈ギリシア英雄〉としての自尊に誇る者達だ。
内心、
「ハッ! 言っておくが、俺の怪力は人外の域だ──この装身具として
わざと仰々しく
彼が制覇した〈十二の難事〉はギリシア神話史上最大の試練と名高い。
どうだ思い知ったか──そう慢心するもペルセウスは乗ってこない。
あくまでも沈着な観察を砂の海原へ投げ続けるだけ。
愚直な短絡者といえど、さすがに
自然と目線を追い、黙視に鎮まる。
「……あるんだよ」
ややあって、ペルセウスは静かな抑揚に紡ぎだした。
「あ? 何がだ?」
「過去の交戦──数十年前、ヤツを袈裟懸けに斬り捨てた……
「何だって?」
「
「不死身……か?」
「解らん。だが、
重い沈黙に投げられる視線を、
静寂──。
沈黙──。
はたして今回こそ〈
世界が振動に大きく
「な……何だ? これは、まさか〈
「ペルセウス! あれを見てみろ!」
ヘラクレスの指示を追う!
その光景に、さしもの勇者達でさえ言葉を失った!
ピラミッドが輝いているではないか!
石材建築の墓標が!
全高約一五〇メートルもの巨影が青白い発光に包まれる様は、まさに圧巻と呼ぶしかない!
「
「解らん! だが、油断するなよ! ヘラクレス! これは
両雄は武器を身構えた滞空に警戒を張り詰める!
正体不明の発光は地表の陽たる眩さと月光の
ペルセウスは感じる──光が鎮まるタイミングに合わせて
それは〈霊気〉とも呼ぶべきものであろうか。
肌寒い流動が背後から追い抜いていく。
やがて、登頂に人影が現れた。
黒き獣の仮面師だ。
寛容に両腕を広げる姿は自身の慢心を実力の裏打ちと捉えている証か。
いや、それはいい。
だがしかし、あの全身を
「コイツが
察するペルセウス。
その呟きを拾えなかったのか、ヘラクレスは挑発的な威圧に
「おい、誰だオマエ? 奇妙な仮面なんざ着けやがって!」
「
ペルセウスが制止するも
「
「
思慮が
相手の不穏さを嗅ぎ取れぬというのか?
この得体の知れぬ不気味さを?
それこそ〈
「クックックッ……」ややあって、仮面師は肩を揺らした。「そうか……
「おうよ! このヘラクレス様の手に掛かりゃあ、
ペルセウスが感じる違和感!
何故だ?
自分達の
「まぁ、いい。
「ッ!」
本性を見極めた!
狡猾なる策謀者だ!
あの〈
忠臣を装いながらも!
「キサマ、何者だ!
ペルセウスの気迫に、対極的な静けさで答える。
「……
「何?」
「絶大なる
「
「神なんだよ……勇者ペルセウス!
「儀式……だと?」
「貴様には……いや、
「同視に据えるな! 邪心の
吼えながらも、ペルセウスは
(相当な自信……手の内は解らんが、それだけの裏打ちを確信しているのだろう。
「御託はいいってんだ!」
「ヘラクレス?」
驚く隙も有らばこそ、蛮勇は敵の間合いへと飛び込んでいた!
「ォラアッ!」
渾身に振り下ろされる棍棒!
仮面頭を
「ヘッ……ウダウダと
優越めいて歯を見せる喜悦。
確実に殺した!
が、その余韻を噛み締めた直後──「なっ?」──獲物の体が砂柱と崩れ消えた!
「バ……馬鹿な? 確かに!」
「確かに……何だ?」
ゾッと慄然した!
背後からの
深淵からのような重暗い声音に!
「クッ!」
振り返り様の棍棒
固まるほど愚かではない!
隙を与えてやるような狭心者ではない!
俺は〈勇者〉だ!
野太い棍が仮面頭を潰し飛ばす!
しかし、またも砂塊と崩れ散る!
「クソ! 魔術師が!」
「此処だ……此処にいるぞ?」
「ッ!」
右方向の宙に浮いていた!
いや、違う!
「此処だ」
背後!
「何処を見ている?」
左側での浮遊!
気付けば前後左右から仮面師に包囲されていた!
「クソッタレ!」
「「「「ハハハハハハ……アハハハハハハ……」」」」
嘲笑のハーモニー!
戦慄が狭まって来る!
絶体絶命の瞬間!
「ハァァァーーーーッ!」
飛び込んで来たペルセウスが振るう黄金の一閃!
攻撃対象とされた
滞空の着地と同時に分身が消えていく……。
「何故、看破できた? 勇者ペルセウス?」
「
「なるほど……な。かつて〈蛇妖メデューサ〉の〝見た者を石化する魔力〟を無効とした
納得と同時に、スメンクカーラーは思い当たる。
この〈ペルセウス〉と〈ヘラクレス〉の性質差を……。
(確かにヘラクレスが消化した〈十二の難事〉は、ギリシア神話最大の試練として名高い。しかし、相手の多くは強靭な身体能力に依存した敵──つまりは〝ストロングスタイル〟であった。対して、ペルセウスは違う。先の〈蛇妖メデューサ〉を始めとして、その姉妹たる〈ゴルゴン〉
ともすれば、彼に〈ギリシア勇軍司令官〉が任されたのは、至極、利に叶った人選だ。
名声的には〈ヘラクレス〉の方が勝っているというのに……。
「
「邪心の
「どうかな?」
不敵を返した仮面魔術師は、クンッと
低く鳴動する大気!
突如として暴風が荒れ狂い、地表の砂を巻き込み育つ!
砂嵐!
それも大規模な砂の竜舞である!
重い風圧は文字通り五体を粉砕し、
一瞬にして両軍共々、壊滅に散らされた!
生き残ったのは、一騎当千たる存在のみ!
「グゥ!」
防御硬直の中で盗み見れば、ヘラクレスはピラミッド登頂で平伏にしがみついていた。
彼の屈強な肉体を
忌々しい術師の方は、
「ハハハハハハハ……アハハハハハハ!」
「クッ……何を笑っている! 自軍まで巻き添えにしながら、貴様は何を笑っていられる!」
「自軍?」向けられた指摘に、冷淡な
「何?」
「
「愛国心は……祖国への大義は無いのか!」
「無いな」
「貴様は
「言ったはずだが?
ドス黒い。
ペルセウスとて〈戦争〉を美化する気は無い。
どう飾り立てようが、それは侵略行為に他ならない。
しかし、だからこそ崇高な
正当化のみの問題ではない。
異様な虐殺環境に
その誇りこそは、寸での局面で歯止めとなるからだ。
が、この魔術師には、
有るのは
「
「あんな〈
右掌を
「フンッ!」
水平に生じる落雷!
「グアァァァーーーーッ!」
ペルセウスの全身を毒牙が駆け巡る!
暴風の枷に身動きを封じられた現状では、回避も試みれぬままに直撃を浴びるしかなかった!
「先刻、私が何者か
「グゥゥゥウ!」
「
「ハァ……ハァ……」
「ほう? さすがに〈神話勇者〉だな……しぶとい」
「き……貴様に
「満身創痍のクセに、よくもほざける。いや、此処は『さすがは勇者』と感嘆してやるべきか? あのダメージながらも、この暴風下で滞空しているのだから……。仮に、オリンポス神の庇護を授かっているとしても……な」
邪笑を歪めた。
「では、これならどうだ?」
大仰な仕草で振り狂わせる左腕!
呼応に立ち込める霊気!
暗く淀んだ滞留は不可視ながらも黒い濃度を感受させた!
その違和は体感としてペルセウスを困惑させる!
「こ……これは?」
ガシリと右腕を捕まれた!
「な……何!」
驚愕に見れば、淡い人型を刻む灰色の気体!
死霊であった!
黄金剣を構えた腕が
左腕に! 右脚に! 左脚に! 腰に! 肩に!
次々と死霊が
「ぅおおおーーーーっ?」
戦慄!
「クックックッ……動けまい?
死霊達が
ペルセウスの五体を引き千切らんと!
「グアァァァーーーーッ!」
筋肉に食い込む実態無き爪!
四肢がミシミシと軋みを上げ始めた!
「散れ! 勇者よ! 肉の花と赤を咲かせよ!」
ペルセウスが抵抗とする
「
突如として下方から迫る怒号!
察知したスメンクカーラーは後退滑りに回避する!
ピラミッド登頂からの奇襲特攻であった!
「チィ……ヘラクレスか」
邪魔立てに処刑術が
幻影と霧散する死霊達。
「おい、大丈夫か! じいさん!」
「ハァ……ハァ……済まない」
「
「ああ。そして、決して看過してはならぬ
「で、どうするよ?」
「裁くさ……それが〈勇者〉の本分だ!」
「ヘッ……違いねぇ」
再び並び立つ両雄!
互いに武器を構えて邪悪を睨み据える!
「ギリシア
「ハッ! 俺達
「
牽制の緊迫を砂塵の吹雪が
触発を
その時、均衡をブチ壊す爆噴が生じた!
天へと
それは巨大な右腕と形を
比喩ではない!
文字通り、
「こ……これは? まさか?」
凶を予感するペルセウス!
「……
確信を
敵味方が垣根を越えて不安を共有した!
ややあって、今度は
高々と掲げられた掌上を舞台に立つ女影!
それこそは、まさしく彼等が畏れる
流れる肢体は怪我ひとつ負っていない!
四肢が千切れ弾けた痕跡すら無い!
怪力無双のヘラクレスが渾身に叩き落としたというのに!
醒めた
──此処に来て、ようやく
闇深い瞳が映す意思に、スメンクカーラーは歯噛みを
「チィ、
頬を伝う焦燥。
だからこそ、ギリシア勇者に始末を負わせたというのに!
──喜ばしい。
──実に喜ばしい。
──この者の野心は判っていた。
──この者の本性は見透かしていた。
──これで遠慮なく貴様を
──謀反者よ。
「退けるか……ここまで来て! 歴代
──王位に就くべきは、
──玉座に就くべきは、
「侮るな!
覚悟を定めた仮面術師は最大級の魔術を行使した!
内在する総てを注いで!
「天よ嘆け! 地を
吼える邪念に解放する
その物々しい鬼気は、勇者達にも違和感を
怨敵への激しい呪怨にも見え……。
憐れな
「どうしたってんだ? アイツ、さっきまでと違うぞ?」
「……
「何?」
「脅えているんだよ……〈
呼び込め!
呼び込め呼び込め呼び込め!
可能な限り森羅万象を!
眼前の〈勇者〉など比べるに値せぬほどに!
呼応にピラミッドが発光を帯び始めた!
大宇宙のエネルギーを集束供給せんと!
「
灼熱を帯びた巨岩!
隕石であった!
ゆっくりと降下して来る神の巨拳であった!
狂気の制裁を前に、神話の勇者も血の気が引く!
「じょ……冗談じゃねえぞ! あんなモンが落下してきたら!」
「この地ごと……総てを葬ろうと言うのか!
「ハハハハハハハハ! アハハハハハハハハ!」
狂気が高笑う!
勝利の確約に!
天空から迫り来る
その圧迫を涼しく仰ぎ、
──ジャジャ・エム・アンク。
──エジプト第四王朝に語り継がれる伝説の大魔術師。
──その
──その
──だから、何だ?
──
錫杖を頭上にて円舞させると、その軌跡は光の魔方陣と虚空に刻まれる!
単眼を核とした異様の円陣と!
見開かれた瞳孔へと右掌を
それを門として潜る禁忌の
巨大だ!
迫り来る脅威と同等に!
夜空に据えられた単眼魔方陣は
「何……だと?」
驚愕に固まるスメンクカーラー!
とてもではないが
メリメリと別空間へと流されていく隕石!
果たして行き着くは虚無の胃袋か!
巨眼の加護下に在る世界は、そのまま何事にも侵されはしない!
「嘘……だ……嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! 嘘だーーーーっ!」
仮面術師が現実拒否を叫ぶも、それが何になろう?
この〈
圧倒的な底値差、そして
──さあ、それでは処罰を授けようか……謀反者よ。
冷ややかな宣告を向ける
と──「……フ……フフフフフ……アハハハハハハッ!」──突然に笑いだす仮面!
「何だ? さては発狂したか?」
狂乱染みた様を見て、ヘラクレスは短絡に憶測した。
が、ペルセウスは違和感を感じる!
確信は無い……が、何故か胸中に
「何を笑っている? スメンクカーラーめ!」
ゆらりと虚脱に体勢を立て直すと、仮面魔術師は怨敵へ笑んだ。
「クックックッ……認めよう、
「…………」
「だが! 今回の敗因は、
「…………」
「フッ……とはいえ、
「!」
一転に覗かせた鬼気!
それは最期の覚悟を源泉とした報復の牙!
「
自身の内から光を解き放つスメンクカーラー!
禍々しい白は膨張に育ち、緊迫した戦慄を
内在する全
「アハハハハハハ! アハハハハハハハハハハハハ!」
「あのヤロウ、自爆する気か!」
「総てを道連れにしようというのか! エジプトを……罪無き
戦慄に呑まれながらも、両勇者に
自分達は、あくまでも〈勇者〉──人知超越せし者ではあれど〈神〉ではないのだ!
対して、
──
眼前に単眼魔方陣を刻み生んだ。
──
──だが、
腕をゆるりと頭上へ運ぶと、不可視の掌握に連動して魔方陣が運ばれる。
──……
──
喰らう単眼陣が瞬時に拡張した!
戦場
「アハハハハハハ! さあ、共に
正気を欠いた暴走が
白の
「退くぞ! ヘラクレス!」
「ダメだ! 間に合わねぇ!」
「ぅおおおーーーーっ?」
「クソッタレがーーーーーっ!」
──
──
──
生まれる白夜が万象を染め尽くした。
死者の谷
単眼の魔方陣は破滅の光を包み囲い、歴史の闇と隔離する。
残されしは巨大な墓標と砂の海原……。
世は何事も無いままに……。
ティーポットに浮かぶローゼルの花弁が微震に揺れ騒いだ。
ただ、それだけの事である。
「……
晴れて正妃と嫁いだアンケセンパーテンは〝アンケセナーメン〟と
そして、
人知れぬ歴史の仇花と……。
少なくとも西暦一九九九年七の月までは……。