輪廻の呪后   作:凰太郎

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〜第三幕〜
呪后再生 Chapter.1


 

【挿絵表示】

 

 意識が戻って最初に自覚したのは、己(おのれ)の身が危険に晒(さら)されているという戦慄であった!

(こ……これは?)

 エレンの瞳が拒絶を染める!

 石壇(せきだん)へと寝かされ、縛(しば)り括(くく)られている状況であった!

 枕元に立つ背高い燭台(しょくだい)には松明の朱が盛(さか)り、ギラつく熱気に孕(はら)まれた火の粉がチリチリと大気に死んで逝(ゆ)く。その断末魔の累積(るいせき)は鼻腔(びくう)に焦(こ)げ臭(くさ)い。

 体が自由に動かせぬのは、はたして薬か何かを盛られたからであろうか?

 いや、或(ある)いは……。

(呪い?)

 そう直感着くのは体感する違和のせいであった。

 痺れ(・・)ではない。

 そうした不調感ではない。

 もっと重々しい力(・・・・・)が働いていた。

 全身を鎖で縛られたかのような……神経に錨(いかり)を括(くく)られているような……或(ある)いは細胞を鉛へと変換されたかのような……そうした不自然な強制力(・・・・・・・)が働き掛けていた。

 目は動かせる。

 頭は辛うじて微々と……だが。

 ともあれ限られた範囲のみとはいえ視認は可能であった。

 声は出せない。

(祭壇? わたしは祭壇に寝かされているの?)

 何の為(ため)に?

 いや、そもそも何者(・・)によって?

 右は石壁と遮られ、何かしらの呪具と思われる小道具が祈祷用祭壇に諸々飾り並ばれていた。

 左方向へと視線を向ければ、素性不明の集団が恭(うやうや)しさに畏(かしこ)まっているではないか!

 ザッと見に一〇〇人前後か!

 その光景を見るなりエレンはギョッとした!

(邪教!)

 予備知識が無くとも看破出来る──さすがに〈黒き栄光(アスワドマグド)〉という名までは知る由(よし)も無いが。

 多くは黒い長外套(ローブ)を被り素性を隠しているが、中には素のままに在る者もいた。

 そうした中には顔見知りも!

 古書店の主人もいれば雑貨屋もいる!

 何よりも挙(こぞ)って揃うのは、アルターナ家(け)の女給(メイド)達!

(何で! どうして! 何なの(・・・)! コレ(・・)は!)

 混乱と呼ぶには生温(なまぬる)い戦慄! 恐怖!

 悲鳴を上げたくとも声は出ない!

 逃げ出したくとも浅く身を捩(よじ)る程度が関の山!

 憐れなエレン・アルターナは、魔の掌中に囚われた雛鳥であった!

(どうして! どうして! どうして!)

 思考を支配する錯乱!

 と、ややあって頭方向から一人(ひとり)の男が現れた。

 歓喜孕(はら)んだかのようなどよめきが信徒達に涌き、彼(・)が〝別格〟である事実を暗に誇示する。

 そして、自分の脇を素通りに行く姿を視認し、エレンは新たな驚愕を与えられるのであった。

(イム……リス?)

 見間違える事などあろうか!

 如何(いか)に黒(くろ)外套(マント)の装束を纏(まと)おうとも、常日頃から傍(かたわ)らに付き添ってきた長身を!

 一瞬、目が合った。

 怯える瞳に返されるは冷ややかな蔑視(べっし)。

 知る顔に無い。

 エレンの脚まで──即(すなわ)ち、祭壇中央まで歩き進んだ男は、眼前の信徒達に宣言を叫んだ!

 仰々しく!

 高らかに!

「親愛なる同胞達よ! いよいよ以(もっ)て、時(・)は来た! 我等が悲願『復活計画』が顕現する時(・)ぞ!」

 ワッと湧く高揚を一間(ひとま)好きにさせると、板に付いた貫禄で鎮まらせる。

「こうして〈生贄(アク)〉は手に入った。そして、何よりも〈羽根(・・)〉だ」

 見せびらかすかのように取り出したのは見覚えのある黄金の羽根。

 その輝きを見ればこそ、エレンの胸中は荒れる直前の潮騒と化すのであった。

(どうして、イムリスが?)

 疑問を抱(いだ)きながらも、瞬時連鎖的に推移する想いは別な危惧(・・・・)!

 何よりも大切な者への安否(・・・・・・・・)!

(姉さんは? 姉さんは、どうなったの! 姉さんを(・・・・・)、どうしたの(・・・・・)! イムリス!)

 またも肩越しに注がれる蔑視(べっし)。

 恰(あたか)も〈他心通(テレパシー)〉でも備わっているかの如(ごと)く……。

 然(さ)れど淡白に切り捨てると、再び先導の弁舌へと戻るのであった。

「この〈羽根〉こそが〈呪后(じゅごう)の霊(カー)〉を封じし遺物であり、また、そこに奉(まつ)られし彼女(・・)こそが〝最上の器(アク)〟である! 何の不備があろうか? 否(いな)、これ以上の最良手など無し! いまこそ〈呪后(じゅごう)〉を復活させ、そして瞬時に殺すのだ! 然(さ)すれば我等が大いなる〈ジャジャ・エム・アンク〉は、それ(・・)を道標と現世降臨なされる! 忌々しき偽善の虚像〈ギリシア勇軍〉も! 慢心に腐った〈怪物〉達も! 等しく塵芥(ちりあくた)と弾劾制裁に下されるであろう!」

 歓喜に高まる興奮と熱狂!

(呪后(じゅごう)? 復活計画? 何の事? 何を言っているの(・・・・・・・・)?)

 皆目(かいもく)解らない。

 ただ、事態が進展している点だけは分かった(・・・・)。

 最悪と思われる事態が……。

 と、その直後、高揚する狂喜に水を差す怒声が張り上げられた!

「話が違う!」

 鎮まる一同(いちどう)が出所へと意識を注げば、石室の入口(いりぐち)に憤(いきどお)る男の姿。

 それは、またもやエレンを困惑の渦中へと叩き落とす。

(え? 父……さん? な……何で?)

 娘の注目など気づいてもいないのか……滾(たぎ)る憤慨(ふんがい)を精一杯(せいいっぱい)に押し殺し、アンドリュー・アルターナは人海を割って歩き進んだ。

 司祭たる従者の下へと!

 発散される怒気(どき)は周囲の手出しを躊躇(ちゅうちょ)に呑み込ませる程(ほど)に強い。

 それはチリつく緊迫感に道が拓ける様から明らかだ。

 さりながら、イムリスに後(しり)込(ご)む様子は無い。

 警戒も無い。

 威嚇も無い。

 ただ優越めいた余裕だけがあった。

「何がです? アンドリュー・アルターナ?」

 眼前まで漕ぎ着けた反目に、冗談めかした苦笑が肩をすくめる。

 普段と変わらぬ挙動も現状(いま)となっては腹立たしい。

「エレンには……娘には手を出さん約束だったはずだ! その対価として、これまで研究データを受け渡してきた! 横流ししてきた!」

「ええ、その通り。貴方(あなた)は、実に貢献してくれた。おかげで〈ギリシア勇軍〉に関する内情も具(つぶさ)に把握する事が出来た。貴方(あなた)が通じていた(・・・・・)おかげで」

「真名(レン)も教えた! オマエ達だけ(・・・・・・)に! 〈ギリシア勇軍〉どころか研究所職員ですら知らん! 未解明のフリで通してきた! オマエ達だけ(・・・・・・)だ!」

「感謝していますよ。貴方(あなた)は実に有能でした」

「騙したのか!」

「滅相も無い。ですから、手を出さないできた。約束ですからね。ですが、もはや貴方(あなた)から得るべき有益情報は何も無い。契約終了です」

「イムリス! キサマ!」

「それは仮の名……と言っても、伝えていませんでしたか」

 そう含(ふく)むと、不敵な笑みは頭上に手を翳(かざ)した!

 迸(ほとばし)る黒電の奔流(ほんりゅう)!

 圧が暴れる!

 荒れ狂う!

 圧(・)だ!

 純然たる圧(・)!

 害は及ぼさない……が、その圧(・)は、その場の総てを威圧に呑んだ!

「なっ? これは魔力? いや、呪力(・・)か?」

 体感的に覚(さと)る!

 その禍々(まがまが)しい力(ちから)は身を以て知った(・・・・・・・)!

 体験したばかりだ!

 自分を殺した(・・・)〈呪い〉の力(ちから)を!

 遥か古代からの思念〈呪后(じゅごう)〉の片鱗を!

 眼前の波動は、それ(・・)と同質!

 黒き球電の内部に物体が這い出て来た!

 奇獣の仮面!

 山犬(ジャッカル)とも鰐(ワニ)とも着かぬ架空の獣頭!

 それを装着すれば、長身従者の風采は一転(いってん)に変貌した!

「我(わ)が名(な)は〈スメンクカーラー〉!」

 見慣れた仮面師の顕現に、アンドリューは驚愕を染めずにはいられなかった!

「なっ? オマエが……オマエが〈スメンクカーラー〉だったと言うのか! イムリス!」

「オマエ(・・・)呼ばわりは不快だな」

 徐(おもむろ)に翳(かざ)し向ける右掌!

「フン!」

「がっ……あ!」

 アンドリューの身体を激痛が蝕んだ!

 血圧が狂う!

 動悸に錘(おもり)が吊るされる!

 不可視の手が心臓を掌握していた!

 それは霊気か!

 はたまた念力(ねんりき)か!

 苦悶の様を悦としたスメンクカーラーは、軽く仕置きが済んだとばかりに解放してやる。

「クックックッ……」

「ハァ! ハァ! ハァ!」

「意外なところで間抜けだったな? アンドリュー・アルターナ? よもや我(われ)が〝イムリス〟に変じていたとは露(つゆ)ほども考えなかったか?」

「何の為(ため)に!」

「網を張る為(ため)……より磐石(ばんじゃく)に」

「監視か! ずっと以前から画策していたというのか! この展開(・・・・)を! 私の前に〝イムリス〟を名乗って現れた時から! ずっと……ずっと謀(たばか)っていたのか! 私達〝親子〟を!」

「貴様も〈黒き栄光(アスワドマグド)〉の一員(いちいん)ならば知っているはずだが? 我々(われわれ)は何処にでも潜み、何者にも溶け込む。その構成を総て把握する事など不可能……例え信徒同士であろうとも」

 思い当たりゾッとした。

 基本的に素性隠しの狂信集団である。

 仮に正体を知り得たとしても、それは限られた数名……多くは〝何処〟の〝誰〟かなど判ったものではない。

 そして、その組織構成は闇深い。

 何処まで根を張っているかすら判らない。

 その狡猾にして陰湿な抜け目無さが、この闇暦(あんれき)という怪物天下にても軽視出来ない存在と維持された背景なのである。

 たかだか〈人間による徒党(・・・・・・・)〉風情が……だ。

 スメンクカーラーの言う通り、誰(・)が〈信徒〉であるかなど知る由(よし)も無いのである。

 汝の隣人が──或(ある)いは友人が──家族さえもが──一皮(ひとかわ)剥けば〈黒き栄光(アスワドマグド)〉かもしれないのだ!

 父親や付人(つきびと)が、そう(・・)であったと知らなかったエレンのように……。

「尤(もっと)も、最初の接触は違ったが……。単純にオマエの有能さを利用させてもらう為(ため)。況(ま)してや〈エジプト考古学博物館〉の館長だ……研究解析に於(お)いては申し分無い潤沢な環境と言えよう?」

「だ……だったら──」

「──だが、事情(・・)が変わった。遂(つい)に〈呪后(じゅごう)〉の真名(レン)が解析された時、貴様は蒼白となったな? どうにかこの展開(・・・・)を回避せんと模索に足掻(あが)いたであろう? 従者(・・)として傍(かたわ)らで見ていたからな……クックックッ」

 まざまざと突きつけられる諜報力(ちょうほうりょく)。

 その絶望感は頑固な強気を折るには充分機能した。

「娘(・)なら差し出した! アイツを……ヴァレリア(・・・・・)を! そうなれば、エレンは関係無いはずだ! 見逃してくれ! アイツ(・・・)を好きにすればいい!」

「クックックッ……いまの言葉、もう一度(いちど)ハッキリ聞かせてやったらどうだ?」

「何?」

 スッと退く長身。

 そして、目が合った!

 娘と!

 エレンと!

 不覚であった!

 死角故(ゆえ)に気を失っている(・・・・・・・)と思っていた!

「どういう……事?」

「エ……エレン! こ……これは……」

「どういう事よ! 姉さんを差し出したって、どういう事なの! 何なのよ! これは!」

 身を切られるような糾弾!

 双方に……だ。

 エレン自身は気付いていなかった。

 発声が出来るようになっていた事に……。

 憤慨(ふんがい)が枷を破った?

 違う。

 解かれたのだ(・・・・・・)。

 卑劣なる悪意によって。

 仕掛人は含(ふく)み笑う。

 眼前の親子不和を……。

 鬱積(うっせき)の暴発を……。

「何(・)がどう(・・)とかは知らない! けど……けれど! 貴方は売ったのよ(・・・・・・・・)! こんなヤツラに! いかがわしい人達に! 実の娘を! 姉さんを!」

「違う! 違うんだ! エレン!」

「何が違うのよ! 人でなし!」

「なっ?」

「そうよ! 貴方(あなた)は〝人でなし〟だわ! 保身に……我(わ)が身可愛さに姉さんを売った!」

「オマエのため(・・・・・・)なんだ!」

「わ……わたしの……わたしのせいだって言うの! 今度は!」

「私が教えて差し上げましょう? エレン・アルターナ?」

「ひっ!」

 異形の仮面がヌッと顔を近づけた。

 聞き慣れた声音──しかし、それは生理的嫌悪すら誘発する卑しさを感じさせた。

「この男は、我々(われわれ)〈黒き栄光(アスワドマグド)〉のメンバーだったのですよ」

「やめろ! イムリス!」

「……スメンクカーラー(・・・・・・・・)と言ったはずだが?」

「ガッ!」

 苦悶に心臓を押さえる!

 振り向きもせぬ無造作に翳(かざ)された右掌は、またも不可視の鷲掴みに伏した。

「父さん!」

「貴女(あなた)も知っての通り、この男は〈ギリシア勇軍〉の後ろ楯あって現職に就いた……〈エジプト考古学博物館〉の最高責任者に。しかし同時に、我々(われわれ)〈黒き栄光(アスワドマグド)〉にも加盟していたのですよ。いつから? 最初から(・・・・)。それこそ、貴女(あなた)達〝姉妹〟が産まれる以前から。何故だか分かりますか?」

「イム……リス? やめて……嗚呼」

「それは我々(われわれ)が〝エジプト神信望者〟で構成された組織だからですよ。彼にしてみれば有益な情報源です。そして、表立った研究施設や資金は〈ギリシア勇軍〉から……通常では入手困難な貴重な情報は我々(われわれ)〈黒き栄光(アスワドマグド)〉から……両天秤というヤツです。ま、彼にしてみれば研究(・・)さえ実れば、それでいい。仮に主導権(イニシチアブ)を取るのが、どちら(・・・)でも善いワケです。実に賢(さか)しい男だ……クックックッ」

「御願い……やめて……イムリス」

「長い月日を掛けて探し求めて来たのは、我等が欲する〈呪后(じゅごう)〉の解析。表立っては〝各遺跡の解析調査〟としていましたが、その実、彼が追って来たのは〈呪后(じゅごう)〉の片鱗。貴女(あなた)が古文書(パピルス)を見付けたのは偶然ですが、これは大きな進展となった。礼を言いますよ、エレン? クックックッ……」

「嗚呼、やめて……」

「だが、ひとつ(・・・)だけ大きな見誤りがあった。やがて呪后(じゅごう)の真名(レン)が明らかになると、彼は焦燥に駆られた。何故なら、貴女(あなた)の──と言うよりも、貴女達(・・・)〝家族(ファミリー)〟の名字と同一(どういつ)だからです。それはつまり貴女(あなた)こそ器(アク)としての資格に在るという事実──そこで彼は代用品(・・・)を差し出した。貴女(あなた)と同じ条件(・・・・)に在る者を」

「同じ……条件? まさか!」

「ええ」

「姉……さん?」

「ところが、私でさえ予想外の要素が絡んできた。即(すなわ)ち、貴女(あなた)が〈呪后(じゅごう)〉に干渉されていたという事実です。確信した……やはり貴女の方こそが適している(・・・・・・・・・・・・)と。同時に、ヴァレリア・アルターナと行動を共に出来るのは好機でもある。彼女が所有する〈羽根〉は、我々(われわれ)にとって不可欠な代物(シロモノ)でしたからね。そこで彼女から〈羽根〉を奪い、尚且つ貴女(あなた)には器(アク)として身を捧げてもらう事としたのです」

「姉さんは……姉さんは!」

「御心配なく。貴方(あなた)が、どれだけ姉を慕っているか……私は見てきましたから」

「そ……それじゃあ!」

 一縷(いちる)の希望に晴れる少女を、しかし淀む悪意は一転(いってん)した奈落へと叩き落とすのであった。

「ちゃんと埋葬(・・)しましたよ。柩(・)に」

「そ……そんな?」

「クックックッ……」

「嘘よ! 嘘々! 姉さんが死ぬわけない! 姉さん……が……」

「いいえ? 本当(・・)ですよ? 死の瞬間まで、ふてぶてしい方(かた)でした。最期の捨て台詞、実に笑える……貴女(あなた)にも是非聞かせたかったものです。クックックッ………」

「ぃゃ……いや! 姉さん! いやぁ! ぅあああ!」

 心が壊れそうな程(ほど)の苦しみ!

 怒濤(どとう)と決壊する哀しみ!

 形振(なりふ)り構わぬ号泣に溺れながらも、エレンには身を捩(よじ)るしか為(な)す術(すべ)が無かった……。

「姉さん! 姉さん! いやぁ……うわぁぁぁーー!」

 発狂にも似た慟哭。

 その様に悦を覚えながらも、スメンカーラーは単なる加虐心にて酷(こく)を仕向けたわけではない。

 策謀は黒く含(ふく)む──「壊れてしまえ」と!

 心が壊れてしまえば、それだけ憑依は容易となる。

 況(ま)してや、エレンの潜在的な頑固さは姉であるヴァレリアから聞き及んでいる。

 そうでなくとも〈従者〉として付き添った実感から承知済みだ。

 だから、最善の拷問(・・・・・)を強(し)いた。

(壊れろ……壊れてしまえ!)

 積年たる親子不和の暴発──。

 父親への失望感──。

 そして、何よりも最愛なる姉の死────。

 これほどの拷問が有ろうか!

「ぅぁぁ……姉……さん……姉さん……」

(壊れてしまえ! エレン(・・・)・アルターナ(・・・・・)など!)

 必要なのは〈肉体(アク)〉だ!

 防壁と阻む〈心(・)〉など無くていい!

 無い方がいい(・・・・・・)!

 呪后(じゅごう)の憑依を潤滑化するには!

 悪魔の祭儀が最高潮に達するかと思えた、その時───「な~るほどねぇ?」──場違いに弛緩(しかん)した納得が上げられた。

 信徒の芋洗いからだ。

「誰だ?」

 不可解と不快を孕(はら)んで、黒集(くろだか)りへと注視を向ける。

 応えるかのように長外套(ローブ)がスッと立ち上がった。

「儀式中に於(お)いて私語は禁じていたはずだが?」

「あ、そう? 聞いてなかったから」

 不遜な抑揚。

 だからこそ、スメンカーラーは直感する!

 有り得ない(・・・・・)!

 有り得ないのだ!

 教祖にして統率者である自分(・・)に、畏敬を抱(いだ)かぬ〈信徒〉など!

「貴様! 何者だ!」

 警戒心を張り巡らせる!

 不審者は浅く覗ける口角(こうかく)をフッと軽く上げた!

 颯爽と脱ぎ捨てる長外套(ローブ)!

 黒の引き潮から露出したのは、対照的に艶やかな色気を発散する女であった!

「解説、御苦労様~★ おかげで背景が、よ~く判ったわ」

「貴様は〈ギリシア勇軍〉の!」

 初対面だが重要情報は頭に叩き込んである。

 確か〈魔女〉だ。

 名は〝メディア〟とか言ったか。

「ま~さか〈ツタンカーメンの王墓〉に、まだ〝隠し部屋〟が在ったとはねぇ? それも地下深くの最下層……そりゃ、あんだけの〝隠し部屋〟が在るんだから気付(きづ)かれ難(にく)いわよね。だって〝隠し部屋〟が〝隠し部屋のカモフラージュ〟になっているんですもの。まさに『灯台下暗(とうだいもとくら)し』だわ」

「メディア? オマエ、何故?」

 不可視に責め苦を浴びせられ続けるアンドリューに掌(てのひら)を翳(かざ)して解放を詠唱すると、魔女は小悪魔的な笑みでヒラヒラと手を振り返した。

「ハァ~イ★ 林檎(・・)は、まだ持っている?」

 意味深を示唆されて思い当たる。

 だから(・・・)、此処を発見できたというワケだ。

 一方で奇獣面の呪術師は冷静さを取り戻していた。

 確かに唐突な不測事態(イレギュラー)に動揺を覚えもしたが、よくよく俯瞰視すれば別段優勢は変わらぬ。

「如何に〈ギリシア勇軍の魔女〉とはいえ、単身乗り込むとは無策過ぎるな……愚かしい」

「あら? そう?」

「クックックッ……周りが見えぬか?」

 言われて関心薄い展望を流すメディア。

「どれだけの頭数がいると思う?」

「ふむ? 別に〈魔術〉や〈呪術〉なんか備わっていない人間(パンピー)みたいだけれど?」

「人海に圧し呑み潰せる優位性に在ればこそ、別段狼狽(うろた)える道理には無い」

「あー、ゴメン! アタシ、ケーキバイキングよりもケーキ店で買う主義なんで」

「……何?」

「『量より質』派 ♪ 」

 頃合い見極めしとばかりに両隣が長外套(ローブ)を脱ぎ捨て立ち上がった!

 然(さ)も彼女の護衛の如(ごと)く並び立つのは〈黄金勇者〉と〈蛮勇戦士〉の威風!

「久しぶりだな……スメンクカーラー!」

「ペルセウス!」

「よもや、また相(あい)見(まみ)えるとは思ってもいなかったが……今度こそ引導を渡してやる!」

 

 

 

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