赤の
対峙する。
運命の
忌まわしき
そこは茫洋たる赤だけが撹拌されている異次元であった。
ヴァレリア
だが、
「よぉ、ようやく遭えたな? 〈
応えるは淀む赤。
──ヴァレリアとか言ったか。
──
──フフフ……気に入った。
──とはいえ、些末な
この空間自体が
だとしても〈
確固たる
別段、交渉に肉体は必要無い。
「
──
「性分でな。謎は解き明かしておきてぇんだ」
──善かろう。
「まず……
──エレン?
「アタシの
──妹?
──フフフ……成程。
納得の悦に空間が淀む。
ヴァレリアにしてみれば薄気味悪さを
「答えろ」
──
「何?」
──オマエだ。
「あん?」
──
「はぁ? オイオイ、微塵も身に覚えが無ぇぞ?」
──そう……。
──そもそも
──だが、
──おそらくは〝
「あん? 意味解らねぇぞ?」
──オマエ達〝姉妹〟は心底にて強く通じている。
──
──無自覚な共感。
「おいおい? まさか〈
──心当たりはあるはずだ。
「だから!
──いいや。
──その兆候は過去にもあったはずだ。
──ただ失念しているだけ……。
──
──フフフ……。
「しつこいな! アタシもエレンも〈
ふと言い淀む。
心当りが芽生えればこそ。
(そう言えば……何故、アタシはエレンの居場所が分かる? それも的確に?)
真っ先に思い浮かべたのは、幼少期の思い出だ。
まだ幼かったエレンが、ふらふらと街へ徘徊した日……。
捜索に戸惑っていたら、間違いなく〈デッド〉の
何故、根拠も無く確信めいていた?
山勘──虫の知らせ──そうしたものだと捉えてきた。
しかし、
理路整然と合理性に在る。
とはいえ、そう易々と受け入れられるはずもない。
これまでの人生に
(まさか……そんな?)
過去の局面から否定要素を探るも、それを
(この間の再会も、そうだ。確かにエレンが〈エジプト考古学博物館〉に勤務しているのは先刻承知だが……何故か迷いなく「今いる」と確信を
次々と湯水のように涌く不自然。
(その前も……
それだけではない!
(アイツが悩んでいる時……悲しんでいる時……その原因を察する事が出来た。そして、いざ相談に乗ってみればドンピシャだ。あの頃は〝姉だからこそ妹の性格を熟知していて当然〟と考えていたが……
──フフフ……揺らいでおるな?
──心当りに触ったか?
「……うるせぇ」
──認めるしかあるまい。
──過去は現実の証言だ。
──オマエなら解るであろう?
──そう……。
──古代の歴史を紐解いてきたオマエなら……。
「うるせえって言ってんだろ!」
──その過敏こそが
──
──フフフ……。
(クソッタレ!)
腹立たしい。
忌々しい。
逃げ道を封鎖する的確な指摘であればこそ……。
その万事を見透かしたかのような観察は……。
挙動ではない。
魂そのものを見透かされているかのような……。
「……何故、
──別にオマエだろうが〈妹〉だろうが、誰であろうが構わぬ。
──たまたま
──そう、誰でも構わぬ。
──誰でも……。
「……だとしても、不自然だな?」
──不自然?
「ああ、根本的に不自然だ」
──フフフ……面白いヤツだ。
──
──つくづく女傑たる気質のようだ。
「言ったろ? 謎は解き明かしておきてぇ性分なのさ」
──善かろう。
──申してみよ。
「オマエがアタシへと働き掛けていたとして……だとしたら、何故
──霊力。
「あん?」
──お前の方が潜在霊力が高い
──そして、その思念は湖面写しの鏡像へと行先を推移した。
──
「有り得ねぇな」
──ほう?
「アタシは変哲もない
──無自覚。
──
──その要因……。
──妹との差異……。
──おそらくは……。
「何だ?」
──いいや……フフフ……。
(チッ! 乗っては来ないか)
化かし合い。
双方、腹の底を隠しつつ、相手の
とはいえ、
相手は強大無比な
おまけに
その気になれば隠し事などガラス張りも同然であろう。
だからこそ、隙や動揺を見せてはならない……
その自己警鐘を胸に、ヴァレリアは対話の推移を
「目的は? 何故、エレンにエジプト神のアイテムを盗ませた……いや、
──察しているのであろう?
──貴様の
「……やはり現世復活か」
──結界。
「あん? 結界?」
──
──現世復活を阻止せんが
──それを崩壊させるには、各神々の
──
「つまり、あの〈エジプト神の
──
──
──それら
──
──もっとも、働き掛けたのは
──そう、本来は
「ハッ! ンな
──
「じゃあ、
──
──確かに
「羽根……か」
──
「ヘッ……
──オマエが、あの墓へと立ち入ったのは偶然だが……実に好機ではあった。
──何せ
──幻夢支配こそ叶わなかったが、深層意識に働き掛ける事は出来た。
──フフフ……。
「よく言うぜ。その割には〈ミイラ男〉なんざを差し向けやがってよぉ? おかげで、こちとら
──アレを配備せしは、
──王族……
──不遜な侵入者を排斥せんが
(成程な。だから、ありとあらゆる王墓にアイツは配備されている。そして、配備目的が〝王墓の警護〟に特化しているからこそ、表には出ない……か)
だとすれば納得にも足る。
(そいつを知っていたからこそ、
とはいえ軟化策もいいところだ。
普段から神話の威光を誇示する領軍にしては、不甲斐ない
笑える。
──そして、
──そこまでして、
「で、首尾良く盗ませた後は、その条件が、より強固になるって寸法か。アタシ自身が肌身放さず忍ばせていたんだからな。そりゃ常態的に干渉影響下だ」
──
「あの時……エレンが〈羽根〉を預かろうと申し出た時、アタシは拒んだ。
──いいや。
「あ?」
──確かに、その流れは
──しかし、拒んだのはオマエ自身の意思。
──
「アタシが?」
──解らぬでもない。
──オマエは
──格好の奇異対象を手放したくはあるまい。
──だが、結果として好転ではあった。
──おかげでオマエに干渉する機会は常態的に得られ、
「イムリス!」
──そう名乗っていたな……オマエ達の前では。
──だが、
──即ち〈スメンクカーラー〉……。
「な……に?」
──気付かなかったか?
──愚かなものよ。
──フフフ……。
「オマエ、知っていたのか? イムリス……いや、
──無論。
──
「色?」
──
「よく解らねぇが……要するに〝魂の波動〟みてぇなモンか?」
──好きに呼べば善い。
──いずれにせよヤツの
「貧弱? それだけ悪質だっていうのに?」
──黒は深い。
──触れた他色を呑み潰す
──だが、貧弱だ。
──少なくとも、
──フフフ……。
静かなる
労せずスメンクカーラーをも
その脅威性を感受出来るからこそ、さすがのヴァレリアも慄然を咬むのであった。
だがしかし、
(相手は〈
これはヴァレリアの気丈だからこそ
並の人間ならば〈
場数慣れだ。
謀らずも幼少から裏社会で生き延びてきた経験値が活きた。
「じゃあ、察しているよな? アイツの目的を?」
──ジャジャ・エム・アンクか。
「ああ。確か、第四王朝
──よくぞ知っていたものよ。
──後世の身に在りながら。
「
──ほう?
「事実、
──……フフフ。
「オマエだけじゃねぇ。あの〈スメンクカーラー〉も実在していれば、ギリシア神話の勇者様とやらも
──そのようだな。
──
──
──ひとつめは〈科学〉とやらを根にした文明の
──その結果、人々は慢心に〈神〉を忘れた。
──畏敬を忘れた。
──世は欲望のまま飽食に潰され続けた。
──ふたつめは〈
──
──
──そう、慢心溺れの盲目に対する逆襲。
──愚者への罰。
──
──愚かしい。
──
「オマエは
──……。
「
──どちらでもない。
──些末だ。
──どうでも善い。
「何にしても残念だったな? オマエが
──フフフ……ハハハハハハハ!
「何だ? 何を笑っていやがる?」
──フフフ……いや、何……トンだ間抜け共であったが
「ああ?」
──オマエも……だが、何よりもスメンクカーラーが、ここまで愚かしいとは……クックックッ。
──短絡。
──実に短絡。
──短絡にして無知過ぎる。
──よもや、このような白痴者に警視を巡らせておったとは……
「だから、
──アレは
──それ以上でも以下でもない。
──それを〈宿り木〉などと……。
──愚かしい。
「な……に?」
──だが……結果として予期せぬ好転ではあったか。
──おかげで、
「あ? 何がだ!」
──……フフフ。
(コイツ……
得体の知れない不安を噛む。
とはいえ、明かす流れにはあるまい。
これまでの問答で肌に感じたが、
──ともあれ、アレは〈呪具〉に過ぎん。
──壊されたなら再修復すれば善いだけの話。
──そして、
──造作もない。
(どういう事だ?
そして、ハッと思い当たった!
(待てよ!
おそらく、その推測に間違いはない……そう確信しつつも、それによって産み落とされた新たな疑問が
「仮に、そうだとして……仮にオマエの話が本当だとして、いざ現世復活を試みた際に実質的な
──答えてやろう。
──まずは〈封印〉……それこそは
「此処が……封印地?」
改めて周囲を見渡すも、そこは果てなく茫洋の赤が広がるだけの世界。
「実際には
──物質的概念に捕われては知り得ぬぞ?
──
「つまり〈精神世界〉って事か? それとも〝あの世〟か?」
──好きに呼べば善い。
──何処にも存在せず、何処にでも在る。
──それが霊的世界の
「ふぅん? じゃあ、この監獄が在る限りオマエは
──いいや、封印は解かれた。
──首尾は上々に好転した。
「あ? まだ集めただけだろうが? 神々の
──そうか……オマエは知り得ぬか。
──不在に起きた事
──封印具は破壊された。
「な……に?」
──スメンクカーラーの信徒に依るものであった。
──確か〈
「まさか……婆さんか?」
──手引きは……な。
──そして、最大の難関たる封印は〈冥界神オシリス〉の
──オマエ自身の手によって。
「オシリスだと?」
思い当たる!
呪后の玄室へと通じていた隠し通路の壁画を!
「っ! テメエ……ハメやがったな!」
──フフフ……
──オマエが立ち入った事で聖域は汚され、その封印
「テメェ!」
まんまとハメられた!
ただ単に
──さて、続けて〈
──とは言え、
「っ! まさか……エレンを!」
──いいや。
──確かに〝現世の資格者を代替とする〟という策は
──貴奴と同じ着想というのは腹立たしくもあるが……。
──だが、
──貧弱過ぎる。
──到底、
──
「そ……そうか」
ホッと胸を撫で下ろす。
とりあえず
呪后
だが、そうすると?
「じゃあ、オマエの
向けられた
──