輪廻の呪后   作:凰太郎

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呪后再生 Chapter.3

 

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 多勢な頭数がいたとしても、所詮(しょせん)、信徒は〝人間〟に過ぎない。

 到底、百戦錬磨の超人〈ギリシア英雄〉にとって敵ではなかった。

 とはいえ、ペルセウスにしてもヘラクレスにしても人間(・・)を殺(あや)めるつもりは無い──刃向かわなければ。

 黄金の剣が眩(まばゆ)く息吹(いぶ)けば取り巻く陣営は戦慄に後退(あとずさ)り、蛮勇の獅子が雄叫びを轟かせれば恐々と畏縮した。

 部屋の片隅に固まる信徒は無力な一般人に過ぎない。

 それでも厄介な事に一部(いちぶ)は臆せずに襲い来る。

 狂信的な信者勢だ。

 エジプト神に……否(いな)、スメンクカーラーに(・・・・・・・・・)心酔している者達である。

 盲信なればこそ何事も怖れない。

 心髄(しんずい)からの信徒と呼べよう。

 そうした輩は捌(さば)かねばならぬ。

 不本意ではあるが……。

 だが、それでもやはり敵ではない。

 おそらく工作兵としての技能鍛練は積んでいるようだが、王獣の牙の前には子猫の爪だ。

 金色(こんじき)が刻む軌跡は艶やかな赤を咲かせ、剛力(ごうりき)の腕(わん)は不吉な砕骨音に死体(ガラクタ)を増産する。

 誤算なり、スメンクカーラー!

 その私兵の頭数ならば呑み潰せると過信していたものの、実際に蓋(ふた)を開けてみれば半数以上は役立たずの羊であった!

「ええい! たった二人(ふたり)に何をしている! 此処はエジプト神庇護の御膝元であるぞ! 何を臆する事がある! さっさと始末しないか!」

「たった二人(・・)だけど底値が違うのよねぇ?」

 背後からの茶化しに振り向けば、そこには〈魔女〉の姿!

 生贄羊(スケープゴート)を捧げた祭壇だ!

 いつの間にやらスルリと回り込んでいた!

 否(いな)、或(ある)いは〈転移魔法〉か!

 いずれにせよ儀式の要(かなめ)たるエレン・アルターナは解放されてしまった!

「キ……キサマ!」

「ハァ~イ★」楽観的な茶化しが笑みに手を振る。「御対面は初だわね? 先の戦争では、私は前線未介入だし?」

 沸々とした睨(ね)め付(つ)けに返されるは、余裕めいた挑発視。

 一触即発(いっしょくそくはつ)の牽制が緊迫に固まる中、ようやく父娘(おやこ)は再会に寄り添えた。

「エレン! おお、エレン! 無事か!」

「父さんこそ!」

「私は平気だ。大事無い」

「良かった……」

 先程(さきほど)の不和は何処へやらで他人を心配する……つくづくエレンという娘は博愛の度が強過ぎるらしい──そう分析しつつも、メディアは込み上げてくる心地好さに軽く微笑(びしょう)を含(ふく)むのであった。

 願わくば、このまま親子関係が軟化してほしい。

 尤(もっと)も、それはアマい夢想というものだ。

 それも重々承知している。

「父さん、答えて……」とりあえずの安堵が確執を呼び覚ましたか、一転(いってん)に伏せた真顔でエレンは紡ぎだす。「姉さんを、どうしたの?」

「それは……」

「答えて! 父さんにとって、姉さんは……わたし達(・・・・)は何(・)なの?」

「エ……エレン……」

 再び堰(せき)を切る激情!

 癇癪(かんしゃく)にも似た糾弾に返す二(に)の句(く)を、アンドリューは用意できなかった。

 と、わざと飄々とした口調(くちょう)にメディアが割り込んだ。

「はい、スト~ップ★ いま(・・)はそんな事をしている場合じゃな~いの! 悪いけど、後にしてくんない?」

「……はい」

 沈む抑揚に順ずるエレン。

 助け船を出したつもりは無い。

 このアンドリュー・アルターナという男は、到底許されざる父親だ。

 実の娘を利己主義に売るような男なのだから。

 そう、ヴァレリア・アルターナを……。

 裁き(・・)は必ず落とされる。

 如何(いか)なる形かは知らないが……。

 それが業(ごう)というものだ。

「さて……と」

 メディアは閑雅(かんが)に数歩進み出る。

 その背に少女を保護するかのように……。

「一度(いちど)、手合わせ願いたかったところなのよね……話に聞いた時から」

「魔女(・・)如(ごと)きが! 身(み)の程(ほど)を知れ!」

「呪術師(・・・)風情(ふぜい)に言われたくないわね」

 即座に呪印を組み踊るスメンクカーラー!

 その数秒が終わると、彼を起点とした猛気流が発せられる!

 猛る口腔(こうくう)と襲い来る圧!

 然(さ)れど、メディアは涼しく流した!

 対照的に静かな詠唱が熟れた唇から紡がれるや、眼前に巨刃を据えたかの如(ごと)く突風は両断に裂け過ぎる!

 背後に轟く破砕音が威力を物語るも、魔女には動ずる機微さえ無い。

 ただ、不敵──それだけが攻撃者を呑んでいた。

「グヌヌ……ッ! 魔女めが!」

「貴方(あなた)、まだ本調子(・・・)じゃないでしょ?」

「何?」

「噂に聞いていた〈スメンクカーラー〉は、こんなものじゃない。おそらく転生して間も無いから、真の力(ちから)までには覚醒を遂(と)げていない。そりゃそうだわね。如何(いか)に〈大魔術師〉とはいえ、受肉転生すれば〝同一人物〟にして〝別人〟──当然、技能(スキル)はリセット。魂の記憶に膨大な前世知識を引き継ぐとはいえ、それを行使する術(すべ)は改めて習得していかなければならない……地道にね。おまけに魔力(まりょく)──と言うか〈呪力(じゅりょく)〉か──の方は魂に潜在こそすれ、全盛期同等には表層化出来ていない。これまた覚醒には根気よく時間を必要とする」

「知った風な口(くち)を!」

「だから(・・・)でしょ? 焦っている……焦っているからこそ、一刻(いっこく)も早く〈ジャジャ・エム・アンク〉を復活させたい。復活させて、その身に宿したい。それ(・・)が今生(こんじょう)に於(お)ける執着の原動力(げんどうりょく)ってトコよね?」

「貴様!」

 腰を低く落とした身構えは、はたして臨戦意思の威嚇か……それとも図星故(ゆえ)の後込(しりご)みか。

(先の一手(いって)で確信したが、コイツは凡百な〈魔女〉ではない! 卓越している! 魔力(まりょく)も! 魔術も! 何より場数慣れ(・・・・)だ! コチラの攻撃を見定めた上で、最適な対処呪文を手持ちから選択した……発現する瞬間まで何(・)が襲い来るかも判らぬというのに!)

 ジリジリと焦れながらも、スメンクカーラーは再攻撃のタイミングを掴み損ねていた。

(仕掛けるはいいが、はたして一体(いったい)〝何〟を仕掛ける?)

「スメンクカァァァラァァァーーーーッ!」

 背後からの意気に奇襲を悟り、咄嗟(とっさ)の横跳びで間合いを離脱する!

 因縁の相手からの一閃(いっせん)であった!

「チィ! ペルセウス!」

「よもや転生していたとはな……しかも、まさか〈呪后(じゅごう)〉の復活まで目論(もくろ)んでいたとは! それも、私利私欲の為(ため)に! 相変わらず、とことん腐った性根だな! スメンクカーラー!」

「信徒達は! 信徒達は、どうした! 何をしている!」

「みんな、おねんね(・・・・)だよ」

 激昂にも似た焦燥に答えたのは、どっしりと構えた男臭い声。

 見れば獅子兜の剛腕は、最後の一人(ひとり)を頭部鷲掴みに吊るし上げていた!

「よぉ、随分といいように弄んでくれたな?」

「ヘラクレス!」

 飽きたオモチャを「フン!」と投げ捨てる豪傑!

「まさかアンタが暗躍の黒幕だったとはな……イムリス大先生(・・・・・・・)よォ?」

「キサマ?」

 覚(さと)った!

 その呼び名で白い歯を見せられれば覚(さと)れるというもの!

「そうか、オマエ(・・・)だったか……道理で、あのような無謀を強行できたワケだな」

「互いに化かし合っていた(・・・・・・・・)ってワケだ……トンだ間抜け話だぜ」

「フン……」

「イムリス(・・・・)さんよォ? さっきの話、ヴァレリアをどうしたって?」

「だったら? 敵討(かたきう)ちでもするか? クックックッ……」

「だったら(・・・・)〝やる事〟は見えた──妹(エレン)を護る。護り続ける。これから先、例え何があろうとも……アイツ(・・・)の代わりにな!」

「ほぅ? 思ったよりも薄情だな?」

「あん?」

「てっきり貴様は、もう少しヴァレリア・アルターナに情を抱(いだ)いていると思ったが……淡白なものだ」

「でもねぇさ……膓(はらわた)は煮え繰り返ってらぁ。テメエはテメエでブチのめす! だが、柄(がら)じゃねぇのさ。声高に『敵討(かたきう)ち』なんてホザくのはな。俺も……アイツも!」

 正面にメディアを見据え、更に左側からはギリシア勇者二名(にめい)が征伐とばかりににじり寄る。

 スメンクカーラーは完全に包囲網の内へと晒されていた。

(どうするか。魔女の指摘は正解だ。なまじい受肉転生を果たしたばかりに、神話時代のような呪力(じゅりょく)までには覚醒できていない)

 本質は〈スメンクカーラー〉だとしても、今生(こんじょう)の人生経験を歩むのは〝イムリス〟だ。

 こればかりは遅々着々と覚醒していくしかなかった。

 だからこそ、前世以上に固執したのである!

 彼(か)の『ジャジャ・エム・アンク再生』に!

 その憑霊(ひょうれい)融合(ゆうごう)に!

(見渡せば有象無象の〈怪物〉が犇(ひし)めき争う現世魔界で〝人間(ひと)〟の身では脆弱過ぎる! 力(ちから)も! 寿命も!)

 歯痒(はがゆ)い。

 覇権を望む性(さが)なればこそ。

(エレン・アルターナに〈呪后(じゅごう)〉を宿らせ、贄(にえ)として瞬殺する──その算段ではあったが見直さねばなるまい)

 最上の生(い)け贄(にえ)──眩き宝石の如(ごと)き献上品──〈呪后(じゅごう)〉。

 然(さ)れど、それは叶わぬ。

 あの〈魔女〉の背後に護られては……。

 逆境打破を巡らすべく、今一度(いまいちど)室内を視野に滑(すべ)らせる。

 とはいえ、使える(・・・)人材は二大(にだい)英雄によって叩き潰された。

 片隅に固まる頭数は優に在(あ)るものの恐々と身を寄せるだけの無能な群(むれ)。

(あれだけの人数が居ながら……役立たず共が!)

 と、持ち前の悪意が鎌首をもたげ始めた。

(……いや、それならば相応(・・)に役立ってもらう(・・・・・・・)か)

 活路を見出(みい)だす!

 彼らしい策謀を!

「魔女よ、貴様は言ったな? 量より質……と」

「それが?」

「ならば、私は……質より量(・・・・)だ!」

 即座に早業(はやわざ)の呪印(じゅいん)を結(ゆ)う!

 流れ出る呪言(じゅごん)は流水(りゅうすい)の如(ごと)く!

「させるかよ!」

 条件反射的にヘラクレスが飛び込んだ!

 正直、何(・)をする気かは判(わか)らない……が、何かをさせてはならない(・・・・・・・・・・・)!

 この狡猾(こうかつ)には!

 だがしかし、紙一重(かみひとえ)に紡(つむ)ぎは終わる!

 非常に即興的な呪術であった。

(小ネタ? 何を?)

 違和感に疑問を抱くメディア。

 起死回生の一手(いって)を警戒していたからこそだ。

 そう、それ(・・)は強い不安を覚えさせる肩透(かたす)かし!

 なればこそ、警戒心は鳴子のままに!

 次の瞬間、目が眩むほどの閃光が一帯(いったい)を白に呑み潰す!

「しまった!」

 目論(もくろ)みを察した魔女が焦燥を咬む!

 本番(・・)は、これから(・・・・)だ!

 そのために即興性に富む〈閃光呪術〉を選んだのである!

 隙を強いるために(・・・・・・・・)!

 本格的な呪文詠唱の時間を!

「グアッ? この野郎!」

 動揺に怯(ひる)むも勢い任せに凪(な)ぐ混棒!

 当たろうはずも無い!

 捕捉されない当てずっぽうでは!

 呪声の動きから察するに、悠々とした回避に間合いを離脱したのは明白だ!

「クソッタレ!」

 見えぬ!

 眼界は白に封じられた黒のみ!

 その中に聞こえる低い粘りは、ペルセウスの警戒心を鋭敏に尖らせた!

 聞き覚えがある抑揚と緩急であった……我(わ)が身を以(もっ)て!

「まさか……死霊(・・)を!」

 そう懸念(けねん)した直後、新たなる違和感が押し寄せる!

 詠唱に織り込まれるが如(ごと)く聞こえる悲鳴!

 雑多に奏でられる断末魔!

「ぎゃぁああ!」「ひいいい!」「いや……いやあああ!」

 誰(・)かは判る!

 信徒達だ!

 部屋の片隅に恐々と身を竦(すく)めていた非戦闘要員達だ!

「何を……何(・)をしている! スメンクカーラー!」

 やがて視力が落ち着いてきた。

 霞(かすみ)と晴れる白光に拓けた光景は……死屍累々の惨状!

「なっ!」

 驚愕の絶句に固まる!

 信徒達は一人(ひとり)残(のこ)らず命を奪われていた……。

 その肉体は干ばつに晒されたかのように干からび、全身の水分を失っていた。

 宛(さなが)ら〈ミイラ〉そのものと……。

 さりながら、その顔面に刻まれた筋肉の形跡は酷(むご)たらしい苦悶を如実に訴える。

 数秒──呪文詠唱が終わるまで僅(わず)か数秒である!

 その間に、これだけの地獄を顕現(けんげん)させたのだ!

 この呪術師は!

「スメンクカーラー! 貴様という男は……っ!」

 憤(いきどお)りに睨(ね)めつけるペルセウス!

 当の仮面呪術師は部屋中央に居た。

 包囲網から抜け出した余裕もあってか立ち構えは涼しい。

「この惨劇を招いたのは、オマエ達(・・・・)だ……ペルセウス」

「何だと!」

「私を追い詰めた(・・・・・)……邪魔立てしなければ、小奴等(こやつら)が死ぬ流れは無かった……そう、エレン(・・・)・アルターナを差し出せば(・・・・・・・・・・・)!」

 名指しにゾッと恐怖を甦らせ、身を竦(すく)める少女──と、両者を防壁と遮るかのように隆々たる守人(もりびと)が割って入った。

「都合のいい責任転嫁してんじゃねえよ、このエゴイストが」

「……ヘラクレス」

「生憎(あいにく)、俺は爺さんと違ってソイツラ(・・・・)に同情の念は涌かねぇ。所詮(しょせん)〈邪教徒〉──テメエで〈闇(やみ)堕(お)ち〉を選んだ末路(ツケ)だ。だが──」肩越しにエレンを一瞥(いちべつ)する。「──コイツに手出しはさせねぇよ」

 獅子頭の蛮勇──何故、このギリシア勇者が自分(・・)を特別視するのか……何故、護ろうとするのか……姉が導いた奇縁を、エレン・アルターナは知る由(よし)もない。

「クックックッ……」肩を揺らす仮面。「もう必要ない」

「スメンクカーラー! 何のために信徒達を……その命を奪った!」

「ふたつ(・・・)だよ、ペルセウス。ひとつは、私を守ってもらうため……」

 その真意を命令と感知したかのように死体達は動き出した!

 自我損失のままに!

「ミイラか!」

「いいや、そんな高等な代物(シロモノ)ではない。プロセスとしては近しいが、即興的な別物(・・)だ。確かにコイツらの〈魂(バー)〉は頂いたが〈霊(カー)〉は遺した……肉体(アク)の内にな。そして同時に看守(・・)も封じてある」

「看守?」

「死霊だ」

「なっ?」

 ゆらりと……そして、次々と起き上がる乾燥死体達!

 不気味な足取りが陣形を築くのは、はたして簡素な自我か……それとも呪力支配(じゅりょくしはい)に依(よ)るものか……。

「ぁ……ぁぁぁ……」「ぉぉぉ……」

 零れる呻き。

 それは呪詛(じゅそ)にも苦悶にも聞こえ……。

「解(わか)るか? この乾燥死体は〈牢獄(・・)〉にして〈無限地獄(・・・・)〉……コイツらは常に死霊の恐怖に晒(さら)されながらも、決して逃げ道など無い。閉鎖の内で追われ続け、殺され、再生する──その繰り返す負念を糧(かて)に、死霊は更に支配力(しはいりょく)を増す」

「永遠の贄(にえ)ってか……とことん、えげつないヤツだぜ」

「還元(・・)と言ってほしいものだな、ヘラクレス」

 立ちはだかる黒集(くろだか)り。

 それをバリケードと据え構え、スメンクカーラーは安全圏へと数歩(すうほ)退(しりぞ)いた。

 眼前の不死異形(アンデッド)は〈デッド〉のようでもあり〈ミイラ〉のようでもあり……。

「胸クソが悪くなるぜ」

「ああ」

「……下手な憐(あわ)れみは向けるなよ、爺さん」

「無論だ……迷いは無い」

 おそらく、この者達を救う手立ては無い。

 元には戻せない(・・・・・・・)。

 それを覚るからこそ両英雄は苦渋を咬むのである。

 屠るしかない(・・・・・・)……解放の手は(・・・・・)!

 さりながら、魔女だけは別な懸念(けねん)を抱(いだ)いていた。

「マズイわね」

「何がだ? メディア?」

 アンドリューの訊(と)いに簡素な一瞥(いちべつ)を向けるも、すぐさま視線はスメンクカーラーの警戒へと……。

「エレン・アルターナの代替よ」

「代替?」

「……質より量(・・・・)」

 嫌悪に睨(にら)みつけながらも、冷静に巡る分析眼が我(われ)ながら疎(うと)ましい。

(凡(およ)そ一〇〇人弱……即興にして質の落ちる贄(にえ)とはしても、それなりの頭数。おまけにアレ(・・)からは同人数の負念が無尽蔵に発散され続ける。儀式の餌(エサ)としては充分かしらね)

 危惧の的中とばかりに邪悪が嘲(あざけ)りに酔う!

「そして、本題(・・)こそが魂(バー)よ! 我(わ)が悲願〈ジャジャ・エム・アンク〉の贄(にえ)よ! フハハハハハ!」

「何だと!」「紀元前のアイツ(・・・)か!」

 慄然に呑まれるペルセウスとヘラクレス!

 だがしかし、メディアだけは確信の的中に睨むのであった……忌々(いまいま)しい苦(にが)さを帯びつつ「やはり!」と。

「至上の贄(にえ)〝エレン・アルターナ〟……いえ〈呪后(じゅごう)〉は、言わば〝最高品質の宝石〟──それを献上する事が叶わないならば、代わりに〝宝石屑(くず)の山〟を目一杯(めいっぱい)捧げようって腹よ。塵(ちり)も積もれば山となる──質より量(・・・・)」

 距離に在る眼前で儀式が始まる!

 絶望を呼び込む呪印詠唱(じゅいんえいしょう)が!

「ジャジャ・エム・アンク……ジャジャ・エム・アンク……ジャジャ・エム・アンク……ジャジャ・エム・アンク……ジャジャ・エム──」

「みすみすさせる(・・・)かよぉぉぉーーーーっ!」

 すぐさま飛び込むヘラクレス!

 無論、死体(・・)が妨(さまた)げる!

 だが、躊躇(ちゅうちょ)は無い!

 進路妨害と塞ぐなら無双の剛腕で排除するだけだ!

「どけぇぇぇ!」

 横凪(よこな)ぎに殴(なぐ)り弾(はじ)く昆棒!

 脆(もろ)い!

 華奢(きゃしゃ)なだけにミイラ男よりも!

 西瓜(スイカ)のような重さと軽さに、頭部は根本(くび)から折れ千切れた!

 が──「な……に?」──活動は止まらない!

 頭部損失を物ともせず乾燥死体が腕へと抱(だ)き絡(から)む!

「冗談だろ! ミイラ男もデッドも頭部を破壊されりゃくたばるぜ!」

 毒突く間にも次々と死者達が群(むら)がる!

「ジャジャ・エム・アンク……ジャジャ・エム・アンク……ジャジャ・エム・アンク……ジャジャ・エム・アンク──」

「おおぉぉぉ?」

 圧倒的な人海の圧!

 動きが呑み潰される!

 不死身を得た肉体は、もはや無力(むりょく)な人間(・・)ではない!

 邪(よこしま)なる作為が造り出した新種の〈怪物(アンデッド)〉!

「散れぇぇぇ!」

 黄金の一閃(いっせん)!

 ペルセウスの援護であった!

 斬激が拘束の屍腕(しわん)を斬り棄てたのを見極めると、ヘラクレスは後退の跳躍に再び間合いを開く!

「大丈夫か! ヘラクレス!」

「ああ、すまねぇ。しかし、頭部破壊でも活動を止めねぇとは……どんな珍しい性質してやがるんだか」

「言うなれば〈ゾンビ〉の亜種よ」

「メディア?」

「ゾンビ……って、じゃあ〈デッド〉って事じゃねぇか!」

「いいえ、そもそも〈ゾンビ〉と〈デッド〉は似て異なる別物。死体の内に〈下級精霊〉を憑依させて使役させるブードゥー呪術の怪物が〈ゾンビ〉──本質は内在する〈精霊〉だからこそ、如何(いか)なる肉体破損でも活動を停止しない」魔女が顎(あご)で指し示した床には、斬り落とされた腕がヒクヒクと別生命のように足掻(あが)いていた。「捨て身のタフネスさだけなら〈デッド〉を上回(うわまわ)る」

「では、それ(・・)を古代エジプト呪術(じゅじゅつ)で再現した……と?」

「そんなトコ。おまけに、これだけの頭数……厄介よね」

「ヘッ! だがよ、所詮(しょせん)は雑魚(ザコ)の時間稼ぎだ! 性質さえ解(わか)れば、二度(にど)と虚(きょ)は突かれねぇ! 〈死人(しびと)返(かえ)り〉如(ごと)き〈神話英雄〉の敵じゃねえって思い知らせてやる!」

「そこ(・・)じゃないわよ……厄介なのは」

 醒めた眼差(まなざ)しが滑(すべ)る先には、クライマックスが興じられようとしていた。

 卓越した呪文の使い手であるからこそ解(わか)るのだ……僅(わず)か数分の余裕さえあれば事足りる(・・・・)と。

「ジャジャ・エム・アンク! ジャジャ・エム・アンク! ジャジャ・エム・アーーーーンクッ!」

 怒号にも似た完遂!

 闇天を裂く霊破は落雷と化して遺跡を貫(つらぬ)いた!

 仮面呪術師を避雷針として!

 

 深い呼気……。

 

「我(われ)こそは──〈ジャジャ・エム・アンク〉也(なり)」

 

 そして、降臨は叶った…………。

 

 

 

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