多勢のデッドもどきに取り囲まれ、ペルセウスとヘラクレスの奮闘は続く!
敵ではない。
余りにも愚鈍。
余りにも脆い。
到底〈神話英雄〉の相手にはならない。
が、
タフネス値だ。
四肢を斬り落とそうが、頭部を殴り砕こうが、活動を停止する事は無かった。
先兵の頭数はガラクタと化そうと減少せず、醜怪な人海が潮流と囲い呑んだ。
プロセス
内在する〈
敵ではない。
疲労にも及ばない。
が、終わりは見えない。
面倒な足止めだ。
それを観察視に覚ればこそメディアも決意を定める。
この男を……眼前に対峙する仮面呪術師を相手取れるのは、
「
呪文に暴風を呼ぶ!
至近した
はたして射程!
しかし!
「ウソ……でしょ?」
スメンクカーラーの……
(さっきまでとは……
明確な戦慄を
それに裏打ちされているからこそ、彼女の横柄とも映る自信は揺るぎない……が、ここに来て崩された!
「……脆弱な呪文だな」
余裕に満ちた
出し惜しみした覚えは無い。
彼女が習得した攻撃呪文でも上級部類には入る。
それが無効化された……
これを慄然とせずにいられようか!
「……お返しだ」
静かに向けられる人差し指──その直後、水平竜巻が牙を
「マズイ!
咄嗟の防御対応に風圧の壁を生む!
上昇気流による分厚い層が透明防壁として
同質元素の異なる
「死なない? アウッ!」
貫通して来た不可視の突きを浴び、魔女は後方へと弾き飛ばされた!
とはいえ、その
だがしかし、それでも軽く正拳突きの
肉弾戦に非順応な彼女にしてみれば、到底
「メディア!」「メディアさん!」
ぐったりと疲労慢性に眠るかの
夏夜の寝苦しさのように肢体をくねらせ、
(あのメディアすらも? どうすればいい……こんな
改めて
加担するべきではなかったのだ!
よもや、これほどの魔性と
「エレン・アルターナ……アンドリュー・アルターナ……」
「ハッ!」「ひっ?」
重暗い抑揚が
ゆらりと
「よくも
「ま……待て! 悲願は叶ったはずだ! もう私達親子に執着する意味は無い! そうだろう?」
「……ああ、そうだな」
「ならば!」
「面白くはない」
「何?」
「そう、面白くはない……この私が散々煮え湯を飲まされたのだからな……そう、この
「ま……待て! グアッ?」
「父さん!」
再び心臓を
ゆるりと
「お願い! イムリス! もうやめて!」
少女の清廉が
どうする事も叶わない。
どうしていいかも分からない。
だから、ひたすらに訴えるしかなかった。
悲嘆の涙に濡れながら……。
さりとも、呪怨は鎮まらぬ。
「案ずるな……次はオマエだ」
「イム……リス?」
「不幸なエレン・アルターナ……長く仕えてきた温情だ。今度こそ父や姉と仲良く暮らせばいい……
「させるかぁぁぁああ!」
突如、背後から剛腕の奇襲!
ヘラクレスだ!
叩きつける根棒は不快に重い砕骨音を捕らえ、仮面呪術師の脇腹をえぐり折る!
不自然に曲がる体幹!
と、獅頭の蛮勇は不敵に
「そう何度も
振り向く勢いに凪ぐ根棒!
だが──「いない?」──拍子抜けを帯びた違和感。
これまでの対戦では幻像を囮として死角から奇襲返しを仕掛けて来るのが
そのパターンを逆手に取るべく!
にも
(まさか
困惑に巡る黙考。
時間として数秒のラグ──
「ヘラクレス! 後ろだ!」
「何っ? グアッ!」
ペルセウスの警告に振り向いた
「クックックッ……残念だったな? せっかくの浅知恵を台無しにして失礼した」
眼前で
潰された脇腹からほぼ直角に横折れと化し、そこからは件の触手……
奇怪な事に、
あまりに醜怪!
あまりにもグロテスク!
そうした重篤な異形にあって、当の仮面呪術師には
あくまで平常!
あくまでも平然!
「クッ……この
負傷箇所から
体勢
散々
「……
重暗い声音に呟かれた呪言は腸槍の血液を種油として豪炎を生んだ!
貫通に捕縛した
「ガアアアァァァァァ?」
火柱と育つ!
燃芯とばかりに呑み込む!
「ウアアァァァーーッ!」
「ほう? 覇気にて
ややあって鎮まる刑罰──触手は在るべき箇所へと引き戻り、
これで総て
拷問具を引き抜かれた頑健は
「不死身相手とは言え〈
「クアッ! ハァ……ハァ……」
「フン……
「させん!」
勇者ペルセウスの
花弁のような軽さに
「……ペルセウスか」
見れば
さすがに部位レベルの
「ふむ? 多少時間を掛け過ぎたか?」
「貴様の悪行、好き勝手にはさせんぞ! スメンクカーラー!」
刃と向けられる覇気は鋭くも気高い。
が、それさえも涼しく流すと、切断された
新たな手首を!
何事も無かったかのように!
そして、邪視は冷徹に滑る──因縁の仇敵へと!
「……
「何まごついてやがんだ! ギリシア勇軍は!」
頭上に大きく映し出された戦局へと見入り、ヴァレリアは憤慨を毒突いた。
オマエの妹の安否を見せてやろう……と。
そうして赤の中空へと投影されし現状は、到底
──スメンクカーラーのヤツ、どうやら〈ジャジャ・エム・アンク〉の
「何だと?」
──だが、オマエの妹は無事だ。
──そう、
──その代用品が
──安く見積もられたものだな、
「何が
──あの
「何?」
──
──
──
「……不完全で、あれほどのバケモンなのかよ」
──いいや。
──
──到底、
──もっとも〈完全体〉でも
「ハッ! たいした自信だな? ええ?
──
「な……に?」
──そう、
──あと
──神々の封印は瓦解した。
──残すは〈
──それさえ
(コイツ……
妙だとは思った。
現状の顛末を見せてやろう──そう申し出た時には。
何故、このタイミングで現実の展開を見せたのか?
何故、このタイミングでエレンの状況を見せつけたのか?
ヴァレリアを焦躁に駆らせて、その身を差し出させる算段であったのだろう。
妹を見捨てられない心情を見透かした上で……。
だが……その通りだ。
悔しくも
──さて、どうする?
──
──造作も無い。
──オマエの妹とやらも救えよう。
──フフフフフ……。
(クソッタレ!)
ヴァレリアにとって
それを〈アヌビス神の天秤〉と賭けるのは、
紀元前の再戦とばかりに
大広間とはいえ室内──
確かに〝飛翔〟には遠い超跳躍のレベルではあったが、
天井や壁は着地を刻むに申し分なく、そこを起点として
鋭角的な
四方八方から飛び交う
「チィ……
滑る浮遊に
それを
身体能力も動体視力も格段に向上していた。
おそらく〈
限界はある。
避け切れぬとなれば
さりながら直後には、またもや特攻の乱射だ。
キリが無い。
(ペルセウスめ……
術発現に要する集中の隙が生まれぬ。
いや、
(魔女の呪文は到達までの
さりとも、最低限の集中は必要とする!
精神を平静に鎮める時間は要する!
仮に数秒でも!
(意識を逸らさせぬ……それを最重視と据えるからこそ、らしからぬ『下手な鉄砲』へと終始する!
時として簡易的な攻撃呪術を応戦に織り交ぜるも、ペルセウスは盾に
(鏡面の
そうでもなければ、あの蛇頭女怪〈メデューサ〉を
視線合わせた者を問答無用に石像へと変えたギリシア神話史上最悪の女怪を!
その鱗、
その皮膚、青銅
単なる
物理的戦闘に於いても脅威たる〈怪物〉なのだ!
ともすれば、石化視線は鏡面反射で
(さすがに〈
場当たり的な即興呪術で
まさに『鬼に金棒』を地で行く厄介さであった。
かといって、大掛かりな呪術は集中を封じられている。
負の堂々巡りが続く。
(
腹立たしさを咬む。
と、滞空回避の渦中で、視界の
この超常交戦を恐々と仰ぎ眺める傍観者を……。
(エレン・アルターナ……)
眼下の少女から感受する不確定な
攻撃は避わし続ける。
(こうなったからには、もはや何の価値も無い小娘だ。確かに清楚可憐な存在感を
だが、
(
不確かながらも
仮面呪術師の流動が止まる。
僅かな精神集中へと没すればこそ……。
「腹を決めたか! スメンクカーラー!」
好機の訪れを確信する勇者!
おそらくは回避のジリ貧に限界を感じた……
いずれにせよ回避は
それを代償に
なれば雌雄を決する
呪術が先か!
跳躍を重ね背後へと回った!
死角からの攻撃ならば勝率は上がる!
渾身の跳躍が足場の壁面を蹴り退ける!
「貴様との因縁、これで終わりだ!」
繰り出す剣!
刺突は星の瞬きとばかりにまばゆく!
「……
動ぜずにゆるりと向き直る仮面呪術師。
どうやら呪術発動は終えたようだが構わぬ!
射抜くのみ!
だが!
「何?」
刹那の急転にペルセウスの瞳孔は驚愕と
黄金の貫通に
赤き血潮が花と咲く!
しかし、
それは……それは……それは!
「な……何故、
「ぁ……ぁ……」
命の喘ぎを紡ぎ、エレン・アルターナは混乱に
先刻まで宙を眺めていた。
そして、次の瞬間には熱さが内臓を
勇者の剣に
誰にも……。
ペルセウスにも……。
エレンにも……。
「どう……して……」
「…………」
「勇者様……どう……して……」
目と鼻の先には儚く潤む
「……すまない」
事後の致し方無さに剣を引き抜けば、支えを失った白花は
「姉……さん…………」
地に赤が広がる。
すかさず取り乱した父親が駆け寄ったが、何を叫んでいるかも聞き取る気は無い。
続けざまに向けられる憎悪の罵倒も、どうでもいい。
虚脱が支配した。
滞空に
「……転位呪術というワケか」
ようやく絞り出した
それは独り言にない。
背後の策謀者へと向けたものであった。
「
思惑通り、相当に
何故ならば〈勇者〉とは偽善の自尊者──この顛末は最大級の
「もはや〈
「……身代わりとしてか」
「
「キサマはァァァーーーーッ!」
振り向きざまに叩き込む
勇者ペルセウスの
「
「何? グアッ!」
突如として下方より噴出する巨拳!
噴火の大岩直撃とばかりに凄まじい衝撃が叩きつける!
「ガッ……ハッ!」
呪術師の障壁とばかりに
「そんな……嘘だ……こんな……こんなのは……エレン……エレェェェーーン!」
ヴァレリアの絶叫は胎動する赤に呑まれるだけであった。
非情は
謀らずも事は好転した。
忌避の
──案ずるな。
──まだ生きておる。
──
「生きて……いる?」
──もっとも風前の灯火。
──果てるは
──フフフ……。
「…………」
──さて、
「……条件を呑む」
──聞こえぬな。
──声が小さい。
「条件を呑む! 条件を呑んでやる! だから……だから!」
──……。
「
──髪を切れ。
「な……に?」
──髪を切れ。
言われて氷解した。
(そういう……事か? 古代エジプトに
シンプルである。
実にシンプルである。
あまりの馬鹿々々しさに吹いてしまうほど……。
(だが、
愛用のジャックナイフを取り出すと、ヴァレリアは掴み束ねた長髪を乱雑に切り落とす。
母親譲りの艶やかさは
妹を……エレンを救えるならば、安い担保だ──そう、
もっとも
構わない。
エレンを救う
だが、いい気になるなよ。
アタシの〈
──そう、それで善い。
──
──
赤い闇は高揚に
ヴァレリアの周囲に在る赤の情景は、そのまま〈
そして、なだれ込む!
彼女の
「な……何! うわぁぁぁああーーーーっ!」
膨大なる意思の荒海は、小さき意思を岩礁の欠片と呑み潰した。