輪廻の呪后   作:凰太郎

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はじまりの幻夢 Chapter.4

 

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 曇天もどきの陽が明けた。

 現状は仕事(・・)ではない。

 だから、クソうざったい相方にも拘束されずに済む。

 ヴァレリアは貴重なオフタイムを満喫がてらにカイロの街を彷徨(うろつ)いた。

 明確な目的は無かったが〝何かしらのヒント〟は欲しい。

「黄金の羽根……ねぇ?」

 皆目見当がつかない。

 (いな)()かは大凡(おおよそ)の見当が着いている。

 が、目的(・・)意図(・・)が解らない。

「エレンは〈マァトの羽毛〉と結論していたが……アタシも同感だ。おそらく、そいつで間違いねぇだろう。だが、()を意味する? こんな埋葬品なんざ前例が無ぇ……」

 そう(こぼ)しつつも、彼女の胸中には別な違和感(しこ)っていた。

何か(・・)を見落としている。だが……()だ?)

 悶々とした思索。

 出口どころか眼前の路面すら闇に溶け込む謎。

 そして懸念材料は、もうひとつ(・・・・・)

黒月(こくげつ)……か」

 あの〈(ファラオ)〉の図象が片手にしていた錫杖(・・)──その先端に据えられた巨大単眼を核する大円盤形状は、それ(・・)にしか見えなかった。

 が、あるはずがない。

 この異形怪物が顕現(けんげん)したのは闇暦となってからだ。

 旧暦──それも紀元前の古代エジプトに伝わっているはずがない。

 だから、誰にも言わずに胸の内へと仕舞い込んだ。

 そう、あるはずがない。

 あるはずがない(・・・・・・・)のだが……ヴァレリア自身は、その可能性に確信めいた見解を拭えなかった。

 そうした諸々の謎が彼女の気持ちを五里霧中に惑わす。

 そして、この不可解な謎が集約された〈女〉は、はたして何者(・・)なのであろうか?

(まぁ解らない以上、そいつは未知(・・)だ。データも無しに推測を羅列しても仕方無ぇ……か)

 それでも、こうして動いていれば何かしらの変化(・・・・・・・)には出会(でくわ)すはずだ。それがヒントになるか(いな)かは別としても。

 能動的な進展誘発である。

 得た情報は取捨選択すればいい。

 大通りには諸々の店も歓待を開いていたが、負けず劣らずで露店商も雑多に構えている。食料素材や小物品、それから口先三寸の占いや嘘八百な神託屋など様々だ。

 馴染みの果実露店を見つけると「よぉ」とフランクな挨拶を向けて無造作に林檎(リンゴ)をひとつ(かじ)った。無論、魔貨(まか)は払う。

「おや、久しぶりだねぇ? ヴァレリアちゃん?」

「婆さん、いい加減〝ちゃん〟やめろ。もうガキじゃねぇ」

「こんな小さい頃から知っているからねぇ? イッヒッヒッ……」

 果実露店の〝マティナ婆さん〟は顔馴染みだ。

 数少ない懇意(こんい)でもある。

「にしても、よく続くなぁ? (もう)けはあるのかよ?」

「ボチボチね……日銭ぐらいは稼げているよ」

「ふぅん?」

 (かじ)りながらに通りを展望する。

 構えた店と露店商の雑多混在──それは語らずとも格差の実態でもあった。

「店、構えたいトコだろうな」

「正式に店を構えるには〈ギリシア勇軍〉への申請と認可が必要だからねぇ……あたしゃ〈信仰〉を捨てる気はないよ」

 領地支配勢力〈ギリシア勇軍〉から課せられた税は月一回(つきいっかい)魔貨(まか)納税と〈オリンポス信仰への強制義務〉である。

 前者は主従的社会構図を自覚に刷り込むべく(おこな)っている便宜的な儀式ではあるが、後者は闇暦税(あんれきぜい)としての本分と言えた。

 早い話が〈踏み絵〉だ。

 信仰対象が〈エジプト神〉でも〈イスラム教〉でも関係無い。

 捨てさせる(・・・・・)

 心を折る(・・・・)

 そして〈オリンポス神〉を畏敬崇拝させる。

 そうやって求心力を高めるのだ。

 永劫の現世魔界で〈神力(しんりょく)〉を蓄積(ちくせき)すべく。

 この軍門に下った者は優遇的処置に預かれ、その具体的な特権のひとつが〝公式出店権利〟であった。

 逆に屈せぬ者は、眼前の実態のように非合法な出店に稼ぎを得るしかない。

 こうした格差は配給品等にも影響を刺した。

 そして、根底的な人権の扱いにも……。

「表向きだけでも折れりゃいいだろう? そうした店は(いく)つも在る。昨晩も〝ハラール〟食ってきたぜ?」

「折れたら終わるのさ……本当の〈信仰〉ってのは、そういうものだよ」

「婆さんは〈イスラム教〉じゃなくて〈エジプト神信仰〉だったよな? 旧暦でも、かなり珍しいぜ?」

「おや、そうかね? イッヒッヒッ……」

 旧暦中世紀以降、エジプトに於ける宗教は〈イスラム教〉が主流となる。土着の〈エジプト神信仰〉が宗教と機能したのは古代までだ。

「ところで、ヴァレリアちゃん? 今日は何の用(・・・)だい?」

 本題を切り込まれて、ヴァレリアの抑揚がスゥと重味に鎮まる。

「……〈マァトの羽根〉」

「ふむ?」

「王家埋葬品として、ソイツが存在したという記録は?」

「あたしの知るところ無いかねぇ? あくまでも〈マァトの羽毛〉は神話上のアイテムで口伝(くでん)概念に過ぎない。現存する物品ってのは聞いた事も無いよ」

「ふぅん?」

 この婆さんは〈専門家〉ではないものの、土着民俗という面で〈エジプト神話〉に精通していた。

 学術的にはアマい知識ではあるが、時として民俗流布の観点から考古学研究者すら知り得ぬ牧歌情報を呈してくる事もある。

 だから、ヴァレリアは時々行き詰まると訪れた。

 父すら知り得ぬ彼女だけのパイプだ。

 知恵袋というヤツである。

「どうしてだい?」

「いや……」

 言い掛けて淀みに呑んだ。

 説明しない方がいい──直感が、そう告げる。

 確信も無い〈女の勘〉だ。

「仮に……仮に(・・)だぜ? 婆さんが〈マァトの羽根〉を埋葬するなら、どういう心情だい?」

「現物を作って……かい? わざわざ?」

「ああ」素っ気なく林檎を(かじ)る。

「あたし自身に……かい?」

「とは限らない」

「そうさね……」往来に思考を逃した後、ややあってマティナ婆は紡いだ。「あたし以外(・・・・・)に埋葬するなら、そいつは〝すごく大切な人〟って事だ。だから、少しでも〈死者の裁き〉で減罪されるように……って想い(・・)を込めた品だろうね」

 寂しくも優しい(ともしび)に染まる眼差(まなざ)しは、はたして虚空に誰を思い描いているのか……。

 いや、()くだけ野暮(ヤボ)だ。

 死に別れた実娘──。

 流れ者の獣人に喰われた娘──。

 無惨にも喰い散らかされた娘──。

 回顧話には聞いている。

 子供の頃から……。

(クソッタレた時代だよ……この〈闇暦(あんれき)〉は)

 ()(ぐち)の無い(いきどお)り。

 胸クソが悪くなる。

 浅い(うつ)に酔わされ掛けた時、穏やかな母性が想いを明かした。

「その時は、たぶん〝ありったけの愛情〟を込めるよ。少しでも〝いいところ〟へ行けますように……ってね。そのためだけに作ったような物だからね……その〈マァトの羽根〉は」

「愛情……か」

 いまひとつ感慨(かんがい)(いだ)けない慕情に、ヴァレリアは軽いジレンマを覚える。

 正直〈親子愛〉というものには実感が涌かない。

 母とは幼少期に死別し、父親はクソ野郎だ。

 だが、もしも……。

 もしも自分自身に〈愛情〉が眠るとすれば、それは……。

「サンキュ。また来るわ」

「あまり無茶するんじゃないよ? エレンちゃんが心配するから」

「わかったよ」背中に聞き流して手を振る。「婆さんも、あまり派手に盗むなよ? 農家にゃ死活問題だ」

 

 

 

 レストラン〈アスーダ〉──。

 鮮明(にご)る黄昏が染め上げた十八時を回った辺りで毎度の顔触れが揃う。

 ヴァレリア……エレン……クリス……そして、イムリス……。

 そして、いつも(・・・)の公論会が始まった。

「ネフェルティティの隠し子?」

 姉の突飛な発想には、さすがのエレンも珍しく頓狂な顔を浮かべるしかない。

「アタシは、そう見ているけどね」

 ヴァレリアは平然と肉料理を頬張る。

 件の古文書(パピルス)に記された〝潰された名前〟について……だ。

「誰だよ?」と、隣席で疑問符を浮かべるクリス。

 この無知ぶりには、さすがのヴァレリアも苦虫に思うのだ──これで、よくも初面識に「よう! オマエ有能だな? 俺と組もうぜ?」などと相方申請に出れたものだ。きっとコイツの脳筋はスポンジ構造に違いない。

 殺気めいた苛立(いらだ)ちを察したかは不明だが、助け船を出したのはエレンに同伴したイムリスであった。

「簡潔に言えば、第十八王朝の女王(ファラオ)ですよ。夫である(ファラオ)〝アクエンアテン〟の逝去後に王権を掌握していた時期があるのです。そして〝ツタンカーメンの母〟にして、その妻〝アンケセナーメンの母〟でもある」

「ちょちょちょっと待て? ツタンカーメンの母で……その妻の母? って事は……ツタンカーメンは近親婚じゃねぇか?」

「そうなりますね」

 動揺に呑まれるクリスとは対照的に、イムリスは肩を(すく)めるだけで落ち着く。

「珍しかねぇよ。旧暦の歴史には、有力者が家系の血筋を色濃く残すべく近親婚をする政略なんかザラだ。古代文明ともなれば尚の事だろうさ」

「いや、そうかもだけどよォ」

「もっとも、この辺りは()も多い。確定史実というよりも有力視された仮説のひとつに過ぎないさね」

「ですね。例えば〝ツタンカーメンの義母に過ぎない〟という説も(いま)だ根強い」と同調を示したイムリスは考察の糸口(いとぐち)(さら)に広げた。「確かネフェルティティには(すで)に数人の子供がいたと思いましたが?」

「ああ。ざっと挙げるなら〝メリトアテン〟〝メケタトン〟〝アンケセンパーテン〟〝ネフェルネフェルアテン・タシェリト〟〝ネフェルネフェルレ〟〝セテペンレ〟……全部、子女だ。この内〝アンケセンパーテン〟は、後の〝アンケセナーメン〟だな。国宗が〈アテン信仰〉から〈アメン信仰〉へと復権された際に改名した」

「そして、ツタンカーメン……ですか」

「ずいぶんと子沢山だな?」

 クリスの驚嘆が肯定の後押しにも思えればこそ、孤高の考古学者は口角(こうかく)を微々と上げる。

だから(・・・)だ。一人(ひとり)ぐらい隠し子がいたとしても不思議じゃない」

 一方でエレンは熟考へと浸りながらも()には落ちなかった。

「けれど、ヴァレリア姉さん? ネフェルティティは聡明で誠実な人間性だったはずよ? 夫である〝アクエンアテン〟へも献身的に夫婦愛を捧げていた。貞節だってあったはず」

「オマエ、会った(・・・)ワケじゃないだろ?」

「それは……そうだけれど」

「じゃあ、判ったモンじゃねえさ」ドライな正論を吐いてシガレットに火を付ける。「声高(こわだか)(まか)り通っている学説なんてのは、どれもこれも研究データを礎石(そせき)とした憶測に過ぎないのさ。真相なんて解りゃしないんだよ……自分自身が触れてない〝過去〟なんてな」

 乾いた達観を自嘲(じちょう)と浸ったヴァレリアは、一息(ひといき)休憩とばかりにカルカデを(くち)にした。

「姉さんが断定する理由は?」

「件の古文書(パピルス)──削られた名前は、おそらく未発見王族の真名(レン)。でなきゃ、わざわざ記されない。些末なパンピーレベルが史実に刻まれるものか」

「しかし、高位であれば王族でなくとも可能性があるのでは? 例えば有力的な神官とか?」と、イムリス。

「まぁな。だが少なくとも、今回の件は第十八王朝──それもツタンカーメン政権時代前後を背景に敷いている。そして〝王家絡み〟という背景も……な。(さら)に言うなら、ツタンカーメンは未熟な年齢にして王位へと就いた──となりゃ、残留的に残った前政権時代の宰相共は(こぞ)って傀儡(くぐつ)と取り巻くさ。そんな環境で神官レベルとなりゃあ、後世に名を残されるほどの権力者は何者(・・)か決まってくる。例えば〝スメンクカーラー〟とかな」

 ヴァレリアが名を呟いた途端、隣席の食器がガシャンと(わめ)いた。

 怪訝(けげん)に注視すれば、クリスがナイフとフォークを手から滑り落とした音である。

 落とす視線は皿を見つめながらも料理へと見入っているワケでもない。

 (さなが)ら胸中の具象化でも睨み据えているかのように眉間を(しわ)寄せていた。

 こんな険しい表情は、つるむヴァレリアにしても初めて見る。

「どうした?」

 相棒の呼び掛けに(われ)へと返ったクリスは、ばつ悪そうに平静を(つくろ)った。

「あ……ああ、いや……ソイツの名前なら、俺でさえ聞き覚えがあるな……とな? ハハッ」

「ふぅん?」

 この脳筋にしては珍しい事もあるもんだ──と、内心(いだ)きながらも、ヴァレリアは軽視に流して関心を正面へと戻す。

「この面子(メンツ)に、わざわざ語る蘊蓄(うんちく)じゃないが……スメンクカーラーは先代(ファラオ)〝アクエンアテン〟そして女王(ファラオ)〝ネフェルティティ〟と共同統治を(おこな)ったとされる人物だ。しかし、王政に常駐していたワケでもない。彼が──もしかしたら〝彼女〟かもしれないが──表舞台に登場したのは二回。ひとつはアクエンアテンの参謀として。もうひとつはアクエンアテンの死亡直後であり、その際には王妃ネフェルティティの代行として国政を取り仕切っている」

「そうね。そして、仮説としては〝アクエンアテンとネフェルティティの共同偽名〟というものもあるわ」

「実弟説もな」

「謎多き人物ですね」と、片眉吊り上げにおどけるイムリス。

「まぁな。だが、少なくとも眉唾(マユツバ)な偶像じゃない。確実に〝史実〟に存在していた証拠として〈仮面〉なども多々発掘されている。だからこそ〈偶像〉とは切り捨てられない厄介さにあり、古代エジプトを紐解(ひもと)くに最大級の謎のひとつでもあるのさ」

「けれど、姉さん? 仮に〝スメンクカーラー〟が実在した人物として……それが姉さんの否定仮説となる根拠は?」

「まずは消去法だ。重要な容疑人物(キーパーソン)を特定していくなら、まず〝ツタンカーメン〟と妻〝アンケセナーメン〟そして父王〝アクエンアテン〟と母王〝ネフェルティティ〟だが……コイツらという事は無い。そして〝メリトアテン〟〝メケタトン〟〝ネフェルネフェルアテン・タシェリト〟〝ネフェルネフェルレ〟〝セテペンレ〟といった姉妹達もな──(すで)に名が知られているワケだから隠蔽(いんぺい)する意味が無い。となりゃあ、唯一(ゆいいつ)残る容疑者は〝スメンクカーラー〟だが……件の古文書(パピルス)は〈ツタンカーメンの王墓〉から発掘されたと聞く。共同統治者だった〈アクエンアテンの王墓〉ならいざ知らず──(ある)いは〈ネフェルティティの王墓〉でもいいが、コイツは現在も未発見だ──未介入の新王権となった子息〈ツタンカーメンの王墓〉へと埋葬されるなんざ可能性が低過ぎる。つまり古文書(パピルス)が示すのは〝スメンクカーラー〟じゃない」

「ちょっと待って? それじゃ容疑人物(キーパーソン)全滅よ?」

「だな。そして、第十八王朝年代の高位に限定するならば、必然的に前王権〝アクエンアテン政権〟か〝ネフェルティティ政権〟の息は残留的に掛かる。だから(・・・)〈無名王族〉──つまり〝隠し子〟って着地なのさ」

 紫煙の(いぶ)しか……ヴァレリアは表情を曇らせつつカルカデを(すす)った。

「んでもって、コイツはエラく忌避されている」

「確かに、そういう風にわたしも見たけど……」

 いまひとつ煮えきらない妹を見て、ヴァレリアは古文書(パピルス)のポラロイド写真を卓上へと呈した。

 エレンから預かった貴重な考察資料だ。

「理由は、この古文書(パピルス)に描かれた図象だ。こいつは〈アヌビス神の裁判〉……ってのは、説明するまでもないか。ところが、この場には〈冥界王オシリス〉が象徴と据えられ、加えて〈セト神〉が警戒に身構えている。当の〈アヌビス神〉に至っては『帰れ』とばかりに門前払いの所作だ」

「わたし達の先入観って事は?」

「まぁ、無くは無い。そこで〝名前が削られている〟って事実だ。この両要素を(もっ)て客観的に推測するのであれば、アタシの見立ても遠からず……だと思うね。つまり〝死者の国へさえ行かせてはならないほど忌むべき存在〟であり、だから〝名前も知られてはならない存在〟って忌避対応だ」

「どうして、そこまで?」

「さてね。王族の恥部か……(ある)いは、邪悪と見做(みな)されし存在か……。いずれにせよ相当に嫌われている(・・・・・・)

 ヴァレリアの眉間が苦々しさを(はら)む。

 目敏(めざと)く察知したエレンは黙して案ずるのだ。

 もしかしたら……いや、おそらく重ねているのだろう。

 父親と訣別した自分(・・)と……。

「ですが、ヴァレリア? アンケセナーメンではなく、ネフェルティティの子とする根拠は?」

 イムリスの沈着な追求に自嘲的な微笑(びしょう)で答える。

女の勘(・・・)

「悪いけど不確定要素が多過ぎるわよ。現状、総てが姉さんの仮説に過ぎない」

「だから何だ? 切り捨てる? ハッ! そんなんで〈真相〉に辿り着けるかよ? 少しでもキナ臭いなら考察材料の一端(いったん)として平等に(かか)え込む──それがアタシの探究鉄則だ」

 カルカデ(すす)りに黙考の一間(ひとま)

「発見は〈ツタンカーメンの王墓〉だったよな? 何処で?」

「〈王の間〉よ。その一角(いっかく)に隠し部屋があって、そこから発見されたの」

「隠し部屋……ねぇ?」

 淡白な態度に情報を反芻(はんすう)

 それを見れば、大方()を思い当たっているかは察しが着く──予想通りの反応に、クリスは密かな苦笑を(ふく)んだ。

 だからこそ、彼女を相棒(パートナー)に選んで正解だ。

 何事にも縛られない無鉄砲さには手を焼くが、それでも正解だ。

 この女に何か(・・)(くつがえ)す予感を覚えればこそ……。

 

 

 

 

 何事も無く(エレン)を家まで送り届けた。

 数メートル手前で停車すれば、家屋に灯りは付いていない。

(当然と言えば当然だが、(さいわ)いと言えば(さいわ)いだな。手際悪く遅れていたら、親父(アイツ)と鉢合わせになっていた)

 とはいえ、そうそうゆっくりもしていられない。

 現時刻は午後八時手前。

 そろそろ相手も博物館を出たであろうし、そうなれば帰宅タイミングも解らない。

 顔を会わせるのは御免だ。

「じゃ、行くわ」

「……うん」

「シケたツラすんな? この案件が片付くまでは、毎晩顔会わせんだから」

「片付いたら?」

「そ……それは……」

 気まずい沈黙に支配される。

 場の重さから逃避するかのように、ヴァレリアはシガレットを取り出して一服蒸かした。

 ややあって()()ずと切り出す妹。

「あの……ね? 姉さん?」

「あん?」

「姉さんも加わったら、どうかな? 発掘調査隊……」

「……冗談よせよ」抑えられぬ不快感を深い紫煙に乗せる。「あのクソヤロウの下に敷かれる気は無いね」

「父さんには会わせないようにする! 姉さんが加わったのもバレないように裏工作するから!」

同じ(・・)だよ。結果として、あのヤロウの下に着くって事だ」

「姉さん……」

「アタシはアタシで勝手にやらせてもらう」

 エレンの消沈は重い。

 分かっていた事だ。

 姉は〈自分〉を殺せない。

 そういう性分である。

 あまりにも不器用で……それでも、真っ直ぐな生き方しか出来ない。

 さりとも拒絶の(いばら)一途(いちず)な純心に刺さる。

 気高い野薔薇(のばら)(トゲ)であった。

 寄り添うだけで白百合は傷付く。

 

 

 

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