魔法生徒ユウま! 〜ネギま!の世界に、神様転生したので、おねショタハーレムを築き上げます!〜 作:富山 狸吉
01時間目:プロローグ 〜終焉からの始まり〜
世の中には、生まれながらにして幸福の切符を握りしめている人間と、どうあがいても裏街道を歩まされる人間がいる。
享年36歳。
それが彼の人生の最終ステータスとなるのだが、その中身はあまりにも薄く、そして幸が薄いものだった。
身長は平均以下、容姿は10人並みにも届かない冴えない眼鏡の男。
定職には就けず、いわゆる「万年フリーター」として、日雇いの派遣労働や、コンビニの深夜ワンオペを綱渡りの様に掛け持ちする日々。
貯金と呼べる程の蓄えはなく、築40年の家賃が安いボロアパートの一室で、明日の生活費に怯えながら暮らすのが、彼の日常であった。
そんな彼の唯一の救いであり、生きる糧となっていたのが、所謂サブカルチャーの趣味だった。
アニメ、漫画、ゲーム、そしてライトノベル。
特に彼が、10代の多感な時期に熱狂した2000年代初頭のラブコメ作品は、彼の擦り切れた心を癒やす最大のオアシスだった。
「はぁ……。今日もきついシフトだったな。でも、帰ったら録画したアニメと、漫画を読み返そう」
深夜のアルバイトを終え、凍える様な夜道を、トボトボと歩きながら、悠助は、ボロアパートの自室を目指していた。
彼にとって、お気に入りのキャラクター達が、画面の中で、或いは、紙面の中で、生き生きと恋をし、冒険をする姿を見る事だけが、自分がこの世界に存在していいと思える唯一の証明だったのだ。
特に、かつて週刊少年誌で一世を風靡した『魔法先生ネギま!』の様な、圧倒的なヒロインの数と、濃厚な世界観を持つ作品は、彼の妄想の最高の拠り所だった。
沢山の魅力的なお姉さん達、そして可愛い女の子達に、囲まれる様な人生が、もし自分にも、一瞬でもあったなら。
いや、そんなものは、うだつの上がらない36歳の独身おじさんには、分不相応どころか、夢のまた夢、おこがましい妄想に過ぎない。
現実の悠助は、女性との浮いた浮いた噂など、これまでの人生で一度としてなく、告白された事もなければ、こちらからアプローチする勇気すら持てなかった男だ。
ただただ、社会の歯車として、それもいつ交換されてもおかしくない摩耗しきったネジとして、孤独に年を重ねていくだけの人生。
「もしも、もしも本当に人生をやり直せるなら……」
そんな使い古された、けれど彼にとっては、切実すぎる願いが、冷たい夜風に溶けて消える。
コンビニの安い弁当が入ったレジ袋を、カサカサと鳴らしながら、悠助は信号のない交差点へと足を進めていった。
自分の人生が、まさか、ここから数分後に、想像もつかない形で、急転直下するとは、この時の彼は、知る由もなかったのである。
※※※
冬の夜、気は容赦なく悠助の薄いコートを突き抜け、体温を奪っていく。
カサカサと音を立てるコンビニのレジ袋を見つめながら、彼は少しだけ歩調を早めた。
早く帰って、冷え切った体を、温かいカップ麺と、大好きな漫画のページで、満たしたかった。
その時だった。
静寂に包まれていた夜の住宅街に、不釣り合いな爆音が、響き渡った。
『キィィィィィィッ!!』
それは、制御を失った車の激しいスキール音だった。
悠助が驚いて音のする方へ目を向けると、交差点の向こうから、ヘッドライトの光を激しく揺らしながら、蛇行運転する1台の乗用車が、猛スピードで突っ込んでくるのが、見えた。
おそらくは居眠りか、或いは、悪質な飲酒運転だろう。
車は完全に直進の軌道を外れ、歩道側へと乗り上げ様としていた。
「危ないっ……!?」
悠助は、思わず声を上げた。
しかし、彼が本当に驚愕したのは、その車の暴走そのものに対してではなかった。
その暴走車の光軸が照らし出す先に、小さな人影があったのだ。
それは、塾の帰りなのか、或いは、親の迎えを待っていたのか、小さなランドセルを背負った小学生くらいの女の子だった。
少女は、突然目の前に現れた巨大な鉄の塊と、眩い光に、完全にすくみ上がってしまい、一歩も動けずに、その場に立ち尽くしていた。
距離にして、僅か十数メートル。
車が少女に激突するまで、1秒あるかないかという刹那の時間。
普段の悠助であれば、リスクを恐れ、我が身の安全を、最優先にして、その場から逃げ出していたかもしれない。
何せ彼は、36年の人生で、1度も主役になった事のない、うだつの上がらない通行人Aなのだから。
だが、この時ばかりは違った。
彼の脳裏を過ったのは、自分が愛してやまないサブカルチャーの世界のヒーロー達の姿だった。
窮地にある者を救う為に、自らの命を懸けて戦う格好いい男たちの姿が、一瞬で網膜に焼き付いた。
(ここで、動かなきゃ……、俺は、本当に、ただのゴミクズとして、死ぬだけだ……!)
身体が、思考よりも先に動いていた。
悠助は、手に持っていたレジ袋を放り投げ、アスファルトを強く蹴った。
36歳の鈍った身体とは、思えない程の爆発的な1歩。
彼は、文字通り必死の形相で、少女の元へと飛び込み、その小さな身体を、両腕で強く抱きすくめた。
そして直ぐに、渾身の力で少女の身体を、暴走車の軌道から、外れた植え込みの方へと突き飛ばす。
少女が安全な場所へと転がっていくのが、スローモーションの様に見えた。
それと同時に、悠助の視界は、真っ白なヘッドライトの光で、埋め尽くされる。
『ドンッ!!!』
凄まじい衝撃が、悠助の身体を襲った。
鈍い衝撃音と共に、彼の身体はまるで、紙切れの様に、宙を舞い、冷たいアスファルトの上へと叩きつけられる。
骨が砕け、内臓が破裂する感覚が、一瞬の激痛の後に、急速な麻痺へと変わっていく。
自分の身体から、信じられない量の血液が流れ出し、体温を奪っていくのが分かった。
視界が急速に狭まり、暗闇が広がっていく。
(ああ、俺……死ぬんだな……?)
遠くで、自分が助けた少女の泣き声が、聞こえた様な気がした。
それが、彼女が無事である証拠だと理解した瞬間、悠助の心に、不思議な満足感が広がっていく。
最後の最後で、誰かの役に立てた。
それだけで、自分の薄っぺらかった人生にも、ほんの少しだけ、価値があったと思いたかった。
そうして、平良悠助の意識は、深い深い闇の底へと、沈んでいった。
あまりにも突然で、しかし、彼にとっては、劇的な人生の幕切れであった。
※※※
深い闇の中を、ただただ、漂っている様な感覚だった。
痛みも、寒さも、アスファルトの冷たさも、もう何も感じない。
平良悠助は、自分が死んだのだと確信していた。
36年の生涯の幕引きとしては、あまりにも急だったが、最後に、1人の少女を救えたのだから、不思議と後悔はなかった。
「――おやおや、漸く目が覚めましたかな?」
突然、頭上から穏やかで、しかし世界の全てを包み込む様な、重厚な声が響いた。
悠助がハッと目を開けると、其処は、一面の銀世界ではなく、満天の星々が、足元にまで広がる、文字通りの「宇宙空間」の様な場所だった。
そして、彼の目の前には、長い白髭を蓄え、柔和な笑みを浮かべた、いかにも神々しい老人が立っていた。
背後からは、後光の様な光が放たれており、直感的に理解せざるを得ない。
この目の前の存在こそが、所謂「神様」なのだと。
「此処は……。俺、やっぱり死んだんですね?」
「いかにも。貴方の肉体は先程、現世において、命を落としました。しかし、悲しむことはありませんよ、平良悠助。貴方の最期の行動は、実に素晴らしいものでした」
神様は、優しく微笑みながら、空間に手をかざした。
すると、そこへ現世の映像が浮かび上がる。
其処には、悠助が身を挺して突き飛ばした少女が、軽傷だけで済み、駆けつけた警察や、母親に抱きしめられて、泣いている姿があった。
「貴方が救った、あの少女はね、将来、多くの人々を救う、大きな運命を持った子供だったのです。貴方が命を懸けて、彼女を救った事は、世界の因果において、計り知れない功績となりました。本来なら、うだつの上がらない一生を終える筈だった貴方の魂ですが……この大善行により、莫大な『徳』が与えられました」
「徳……ですか?」
「左様。そこで、神たる私から、貴方に褒美を遣わそうと思います。平良悠助、貴方の望む世界へ、望む姿で、もう一度人生を、やり直させてあげましょう」
神様の言葉に、悠助の心臓が、いや、魂が激しく脈打った。
望む世界。
望む姿。
それは、彼が、前世で擦り切れる程、読み返し、妄想し続けたサブカルチャーの世界、そのもののシチュエーションではないか。
「本当に……俺の生前の妄想みたいな願いでも、叶えてもらえるんですか?」
「ふむ、貴方の記憶は、全て視えていますよ。あの『魔法先生ネギま!』の世界ですな? しかも、女性の比率が圧倒的に高く、一夫多妻制度が認められた、貴方にとって、都合の良い……、ゴホン、大変に賑やかな世界を、ご希望の様だ」
神様は、悪戯っぽく笑いながら、悠助の頭の中の願望を、次々と読み上げていく。
悠助は、恥ずかしさで顔を赤くしたが、神様は、気に留める風もなく、むしろ楽しそうに話を続けた。
「良いでしょう。これ程の徳を積んだ魂です、そのくらいの役得は、あって然るべきだ。貴方を、その世界へ、誰もが見惚れる『絶世の美少年』として、転生させましょう。更に、前世での不遇を、完全に埋め合わせるに足る、世界の頂点に立つ様な家柄と、強力な血統を、用意して差し上げます。新しい人生は、何不自由なく、貴方の愛した世界を、全力で謳歌しなさい」
「神様……ありがとうございます……!」
悠助の目から、自然と涙がこぼれ落ちた。
前世の36年間の苦労や孤独が、この一瞬で、全て報われた様な気がした。
「では、新しい人生の始まりです。
神様が、優しく手をかざすと、悠助の魂は、眩い黄金の光に包まれた。
意識が再び、遠のいていく中、彼は、今度こそ、誰もが羨む様な輝かしい未来へと、その魂を委ねていくのだった。
※※※
眩い黄金の光が、徐々に収まり、次に意識が覚醒した時、其処は、先程の静寂な宇宙空間とは、全く異なる、温かくて心地よい光に満ちた世界だった。
「――おぎゃあ、おぎゃあ!」
自分の口から、信じられない程、高い鈴の音の様な産声が響き渡る。
その瞬間、かつて、平良悠助だった男の魂は、自分が、本当に新しく、小さな赤ん坊の身体へと宿り、生まれ変わったのだと確信した。
「生まれました! 非常に元気な男の子です!」
「ああ……私と貴方の子、私達の愛しい宝物……」
視界は、まだぼやけていたが、自分を優しく抱き上げる温かい手の主が、絶世の美女である事は、直ぐに分かった。
その女性こそ、関東魔法協会の重鎮であり、かつて、魔法世界の英雄パーティー【
25歳という若く妖艶で、慈愛に満ちた瞳が、生まれた我が子を愛おしそうに見つめている。
「よくやった、静巴。これで、我が小津家も安泰だな?」
その傍らから声をかけたのは、静巴と同い年の夫、小津
彼もまた、関東魔法協会の重鎮にして、私立麻帆良学園都市の最大出資者であり、小津家の4代目当主。
そして【紅き翼】のNo.2として、【無敗の武術家】の称号を持つ、誰もが、憧れる様な細マッチョのイケメン青年であった。
西暦1995年09月12日。
この日、明治時代から続く、老舗の世界最大財閥、小津財閥の長一族に、次期5代目当主となる男児が誕生した。
その名も、小津悠馬。
抱き上げられた悠馬は、自分の小さな手を見つめながら、これから始まる、あまりにも規格外な人生に、胸を躍らせていた。
神様が用意してくれた、この新しい世界は、悠馬が、前世で愛した『魔法先生ネギま!』の世界そのものだった。
だが、前世の記憶にある原作知識とは、大きく異なる、この世界独自の「歪み」にして、「天国」の様なルールが存在していた。
それは、世界中(そして魔法世界も含めて)の男女比率が「1:9」という、圧倒的な女性過多社会であるという事。
深刻な少子高齢化を食い止める為、この現代世界においては、「一夫多妻制度」が完全に復活し、法的に認められていたのだ。
ただでさえ、男というだけで、希少価値が高い世界において、悠馬は、世界最大財閥の御曹司であり、最高位の治癒魔法使いと武術家の血を引くサラブレッド。
更に、神様の約束通り、赤ん坊の時点で、将来「絶世の美少年」になる事が、約束された様な、完璧に整った顔立ちをしていた。
(本当に……、本当に転生しちゃったんだ。しかも、この男女比1対9の世界に……!)
前世では、幸が薄く、うだつの上がらない万年フリーターとして、孤独に死んでいった男が、今、世界の頂点に君臨する一族の、誰もが羨む、超ハイスペックな主人公として、第2の生を受けた。
原作メインヒロイン達よりも5歳年下という、絶妙な「おねショタ」ポジション。
これから、悠馬を待ち受けるのは、数多の魅力的なお姉さんや、少女達に囲まれる、波乱万丈で、甘いハーレムラブコメの数々だ。
小さな胸の中で、前世のオタク知識と、不屈の魂を燃やしながら、悠馬は、静かに誓う。
今度の人生は、この与えられた奇跡の様な世界を、全力で、文字通り命を懸けて、謳歌してやると。
こうして、最強の魔法少年、小津悠馬の、偉大なる伝説の幕が、静かに上がったのである。