ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

116 / 120
第115話 山狗さん逃げてー!?

圭一がいなくなった。

 

 

それは普通に考えれば、中学生の男の子が夕飯の時間になっても家に帰ってこない、その程度のことだ。

 

だけど、僕たちはそう考えなかった。

 

五年目の崇りを迎え撃つべく準備を整えようとしていた僕たちにとって、それが何を意味するかは明白だ。

 

先手を打たれた、ということ。

 

圭一がいつ、どうして消えたのかは正直わからない。

 

最後に圭一の姿を見たのは、同じ前原屋敷に住む羽入ちゃんと梨花ちゃんだ。

 

園崎家で謎の一夜を過ごしてグロッキーな圭一に、しばらく休んでから登校するように言って家を出た。

 

でも、圭一は学校に来なかった。

 

レナのお見舞いに行った梨花ちゃんや沙都子と別れて境内のお掃除をすませた羽入ちゃんが帰宅したとき、すでに圭一は姿を消していた。

 

朝から夕方まで、空白の時間がある。

 

その空白の時間に圭一の身になにかが起こって……、伝言ひとつ残さずに消えた。

 

羽入ちゃんの行動は迅速だった。

 

村のほうぼうに電話して圭一の所在が掴めないことを確認し、その事実は村じゅうに伝播した。

 

当然北条家にも連絡があって、狼狽える沙都子をその場に残し、僕は圭一を探しに行くといって家を出た。

 

まず目指すべきは、園崎家だった。

 

詩音は今日、用事があるといって平日は毎日続けていたレナのお見舞いを珍しく休み、帰宅したはずだ。

 

「あぁ、悟史くんかい……。圭一くんがなにか大変なことになってるって聞いたよ」

 

園崎家で対応してくれたのは魅音と詩音のお母さん、園崎茜さんだった。

 

圭一の不在は、園崎家にも伝わっているらしかった。

 

「そ、そうなんです……あの、魅音は帰ってますか!?」

 

「魅音なら、集会所に行ってるよ」

 

これが平時だったら、その艶やかな着物姿の胸元に顔を埋めても構いませんか?と丁重にお願いするところだけど、さすがに今はそんな余裕はない。

 

でもこの人は意外に「ふふ、しようのない子だねえ」とか言って許してくれそうな気がしないでもないな……。

 

しかし、中学生の娘がいるとは思えない艶やかさだなぁ。

 

それに着物がよく似合う……絵になるっていうのかな。

 

我らが師父マスターワンやトミーだったらモデルになってくれませんかって言い出しそうだ。

 

ああ、いいなあ。僕も画家を目指そうかな。今度マスターワンに基礎から習おうか……なんていったっけ、あれ。

 

えーとえーと……裸婦絶賛(らふぜっさん)!?

 

あれ、なんだか僕にもできそうな気がしてきたぞ……ってだから、今はそれどころじゃないんだってば!?

 

「ありがとうございます、集会所ですね!」

 

集会所といえば古手神社の境内にある。

 

北条家の僕たちにとっては長らく近寄りがたい場所のひとつではあったけど、今はそんなことはない。

 

町会は去年圭一が起こしたメイド旋風以来、北条家に対する態度を180度変えている。

 

ダム戦争を戦い抜いた鬼ヶ淵死守同盟はいつの間にか沙都子ちゃん死守同盟に名を変えている。

 

今年からメイド記念日に行われる雛見沢メイド祭りでは、沙都子にメイド服で奉納演舞をつとめてほしいなんて真顔で依頼してくるくらいだ。

 

むぅ、沙都子大人気。メイドとして嫉妬。

 

いやそれはともかくとして、僕は自転車を走らせて古手神社の前へと滑り込んだ。

 

石段を駆け上がり、息を切らせながら集会所へ向かうと、ちょうど集会所から町会の人たちが出てくるところだ。

 

その中には、詩音の姿もある。

 

「し……、魅音っ!」

 

声をあげて駆け寄ると、詩音は僕のほうを見てすぐに用件を察してくれたらしく頷いた。

 

「悟史。……圭ちゃんのことだね」

 

詩音は『魅音』の顔で言う。

 

「うん」

 

「いま各常会に情報を集めてもらうように指示したところだよ。青年団の頭数が揃う時間になっても圭ちゃんが戻らないようなら、捜索に入るつもり」

 

さすがというべきか、もう打てる手は打っているようだ。

 

青年団に所属する大人たちが街から帰ってその報せを受け取るにはもう1~2時間は必要だろう。

 

「悟史、こっちへ」

 

町会の人たちが境内を出て行く背中を見送りながら、詩音は僕に集会所にあがるように促した。

 

「う……、うん」

 

僕を招き入れた詩音が、後ろ手に扉を閉める。

 

振り返ると、さっきまでのみんなを取りまとめていた魅音の顔はそこにはなく、いまにも泣きくずれそうな弱々しい表情の詩音がいた。

 

「とんでもないタイミングです……、私が昨夜、圭ちゃんを引きとめたばっかりにこんなことに……」

 

「そ、そんなの……!」

 

違う、とは言い切れない。

 

圭一は普段、古手姉妹と一緒に登校している。

 

山狗が圭一を拉致するとしても、登校時のタイミングではありえなかった。

 

たまたま今日、圭一がひとりで登校する状況になったから山狗が動いた、というのはありえるんだ。

 

でも、それを嘆いても意味が無い。

 

「……詩音のせいじゃないよ」

 

登校時じゃなかったとしても、圭一がひとりになる機会はいくらでもあった。放課後、レナのお見舞いの帰りに圭一がひとりで行動したかもしれない。

 

その瞬間がたまたま今日だっただけで、相手が明確な意思で圭一を襲撃したのなら、それはいつか起きたことだ。

 

強いて言えば、この事態を予測していなかった僕たち全員が迂闊だったというだけの話。

 

「そうかもしれませんけど……」

 

目を伏せて僕の主張を聞いていた詩音は、それでも納得がいったというそぶりではなかった。

 

それは無理もない。

 

魅音、レナに加えて圭一までが入江機関の手中に落ちてしまったのだとすれば、僕たちに勝ち目はない。

 

「お姉だったらきっと、もっとうまくやれるのに……」

 

歯噛みする詩音だが、それは言っても仕方のないことだ。ここに魅音がいない以上、僕たちがこの事態をどうにかするしかない。

 

「詩音、とにかく今は状況を整理しよう。僕には、圭一が黙って捕まったとは思えない。絶対になにか、手がかりを残してくれたはずだよ」

 

「……そうですね」

 

詩音はかすかに長い睫毛を震わせて、すっと顔を上げた。

 

まだかすかに瞳が潤んでいるけど、冷静さが戻っている。

 

凛と引き結んだ小さな唇は、思わずため息をつきたくなるほどに綺麗だった。

 

「まず問題なのは山狗が圭ちゃんを狙う目的です」

 

「……普通に考えるなら、圭一が発症したってことかな」

 

梨花ちゃんからもたらされた雛見沢症候群と入江機関についての詳細な情報、山狗の本来の役割を素直に解釈すればそういうことになる。

 

圭一が発症して、疑心暗鬼に陥った。

 

山狗は圭一が事件を起こす前に身柄を確保した。

 

これが一番わかりやすい。

 

「でもこれは、山狗が入江機関の意志で動いていると仮定した場合の結論。鷹野さんが独断で動かしている場合は、違う答えもありえるってことです」

 

鷹野さんの目的、というのは……羽入ちゃんの殺害を目標とする意味不明の行動であり、その情報源は梨花ちゃんの予言だった。

 

梨花ちゃん自身にもそれが何を意図しているのかはわからないし、それが最終段階なのかどうかも不明。

 

ただ、その行動を邪魔する者は容赦なく殺されるだろう、ということと、羽入ちゃんが捕まればお腹を裂かれて内臓を撒き散らされる悲惨な結末が待っている、とだけ。

 

彼女の言葉を借りれば、それは一年以上前に予知した未来であり、現在は必ずしもその予知に沿わない。

 

その未来では僕が魅音のかわりに山狗に捕まって診療所の地下に送られ、圭一はご両親と一緒に、今年の五月に転校してくるはずだったらしい。

 

僕が失踪してから梨花ちゃんたちと防災倉庫で暮らしていた沙都子が叔父さんに連れ去られ、圭一が村を焚きつけて沙都子をそこから救い出してくれるはずだった。

 

そしてみんなは女王感染者、つまり羽入ちゃんを狙う鷹野さん率いる山狗と戦って敗れ、皆殺しにされる……。

 

予言の才を持つと噂され、誰に教わるでもなく入江機関や山狗について言い当てた梨花ちゃんの口から出たのでなければとても信じることができない、荒唐無稽な未来だ。

 

でも梨花ちゃんはその無残な未来を変えるために、沙都子の救い手となるはずの圭一を一年もはやく村に招いた。

 

その結果は、僕らの知っているとおりだ。

 

運命は書き換えられた。

 

僕のかわりに魅音が消え、詩音が魅音になりかわり、村の人たちは北条家を受け容れ、最大の敵になるはずだった鷹野さんが沙都子や僕の家族となり、部活の仲間になった。

 

梨花ちゃんは、書き換えられた運命の先にある未来を見ることはできないらしい。

 

だから、わからない。

 

魅音は本当に僕の身代わりに地下にいるのか、鷹野さんはやっぱり敵になるのか、梨花ちゃんにはわからない。

 

でも。

 

彼女は、強い意志は確定された未来を作るとも言った。

 

女王感染者が昭和58年6月に殺されるという未来には、何者の強い意志が感じられた、と。

 

だから鷹野さんでなくとも、誰かが羽入ちゃんを狙うかもしれない。鷹野さんは命令されただけで、命令した誰かの意志が揺るぎない未来を作っているかもしれない。

 

……そうだとすれば、決して油断はできないのだ。

 

「圭ちゃんの失踪が女王感染者、羽入を捕まえるために必要な一手だった場合……山狗は圭ちゃんが邪魔だったってことになりますよね?」

 

「そう……なのかな。圭一は確かに、いろんな意味で村に影響力があるけど、今回消せたってことはその気になれば簡単に消せるんじゃないかな」

 

僕が意見すると、詩音はなるほどと言って腕組みをする。

 

「この時期に圭一を消したのはどうしてだろう? もっと綿流しの直前とかでもいいと思うんだけど」

 

この質問には、詩音はすぐに理由が思い当たったようだ。

 

「……そりゃ、そんな時期に圭ちゃんが消えたらそれこそ大騒ぎになりますよ。私だったら、圭ちゃん捜索のために綿流しを中止にしちゃいますね」

 

ああそうか。

 

圭一が失踪して、これから二、三日は村が騒ぎになる。

 

考えたくないけど死体でも見つかった場合は自粛の可能性もあるかもしれないが、結局見つからなかった場合は?

 

圭一は古手姉妹と同居しているけど、明確に古手神社の関係者ってわけではないから神事を中止にするほどの理由にはならない。

 

村に影響力があるといっても、やっぱり役員でもなんでもないから、お祭りそのものの中止にはつながらない。

 

「つまり……山狗は、綿流しを実行させたい?」

 

「綿流しのお祭りを実行させた上で羽入を連れ去りたい。最悪の崇りのための演出……ってことですかね?」

 

そこに儀式的な理由が絡んでくるとなると、どうも防衛庁がやることとは考えにくくなる。

 

僕たちと暮らす前、ちょっと不気味なおっぱい美人だった頃の猟奇ナース鷹野さんならいかにも考えそうなことだと思ってしまうんだけど……。

 

「癒しの天使、メイド鷹野さんはそんなこと考えない!」

 

僕は力強く断言していた。

 

「確信の仕方は正直どうかと思うけど、実は私もそう思います。仮に彼女が敵に回っているのだとしても、鷹野さんがそれを楽しんでいるとは絶対に思いません」

 

それは多分、部活メンバーの誰に聞いてもそう答える。

 

これまでもこれからも、僕たちはなにかの理由で仲間同士敵対するときもあるかもしれない。

 

でもそれは、互いに譲れない理由がそこにあるからだ。

 

笑いながら武器を振るい、火花を散らしたとしてもその奥には悲しみがある。

 

一生忘れないだろう、あの嵐の夜の僕と圭一がそうだったように……引けない理由を振りかざしながらも、胸の奥に涙と悲鳴を押し殺すだけ。

 

だからこそ、僕たちはその勝敗を受け容れる。

 

意地をぶつけ合ったあとは、笑い合えると信じている。

 

なら……鷹野さんも同じだ。

 

たとえ今回僕たちと敵対していても、賭けられた罰ゲームが互いの命だとしても、そこは絶対に曲げないはず。

 

詩音も頷いて、

 

「悪趣味な演出じゃないとすれば、羽入が殺される条件に綿流し以後でなければいけない理由がありますね」

 

「……うん。そうなるよね」

 

その理由については、可能性がいろいろとありすぎて今の僕たちが持っている情報から特定するのは難しい。

 

「なら詩音、こういうのはどうかな? 詩音や僕、それに梨花ちゃんが姿を消すんだ。圭一も含めれば四人も子供が消えることになる」

 

羽入ちゃんの妹である梨花ちゃんまで含まれているから、これは圭一ひとりがいなくなるのとは訳が違うだろう。

 

「これなら、綿流しが開催されることはないよね」

 

そう言ったら、詩音は何故かにやりと笑みを浮かべた。

 

「……悟史くんも、相当圭ちゃんに影響受けてますね」

 

言われてみればそうかもしれない。

 

圭一は部活のとき、勝敗の前提条件を丸ごとひっくり返すような豪快な手段を好んで使うことが多い。

 

「でも、その手はダメ……かな」

 

目を閉じて考えをまとめながら却下する詩音。

 

「お祭りの開催が、絶対条件じゃない可能性があります。羽入殺害の具体的な条件はただ単に日付の問題であって、最悪お祭りがなくてもどうにかなる、って場合ですね」

 

なるほど、単に騒ぎが大きくなりすぎて警察なんかが介入してくるのを避けるために、って可能性もあるわけか。

 

「なら、大石さんにお願いして警察を村に貼り付けてもらう手は使えないかな」

 

「警察にも山狗の手は入ってるから、それを仕掛けようとすれば妨害が入るでしょうね。大石のおじさまの協力は、一度きりの切り札だと思ったほうがいいです」

 

大石さんが味方にいるのは強力だけど、相手に対策をとる暇を与えるようでは有効に使えない戦力だということか。

 

「それに向こうにはレナとお姉、場合によっては圭ちゃんもいます。こっちが強硬手段に出ればそのカードを躊躇うことなく切ってくるでしょうね」

 

「……そうだね」

 

考えれば考えるほど厄介な状況だ。

 

悪くすれば圭一を消したことそのものが、僕たちにこうして迷走させるための揺さぶりだという可能性もある。

 

と、詩音が顔を伏せたままで肩を震わせた。

 

「くっくくく……」

 

あれ、笑ってる……?

 

「……こうなってみると、圭ちゃんにとってはこの状況もある程度予想済みだったんじゃないかと思えてきますね」

 

「どういうことさ?」

 

「ちょっとした頼みごとをされてるんですけど……無事に終わるまでは、悟史くんも知らないほうがいいですね」

 

詩音の、妙に含みのある言い方でぴんと来た。

 

言外に僕まで消えるかもしれないと言っているのだ。

 

相手が正攻法ばかりで攻めてくるとは限らない。

 

僕たちに気づいてるのなら魅音として村をまとめてる詩音でもなく、羽入ちゃんの身内である梨花ちゃんでもなく、僕を拉致して手の内を探ってくるかもしれない。

 

「でも圭一本人が捕まっていたら、その手もバレてるってことになるんじゃないかな?」

 

相手は医者で軍隊なんだ、自白させるような薬物の使い方もきっと心得ているに違いない。

 

「その点は大丈夫です」

 

自信たっぷりに詩音は言った。

 

「出どころが圭ちゃんだけなら、多分誰も信じないような奇策です。鷹野さんでさえデタラメだって言いかねない。なにしろ私だって、いまだに馬鹿馬鹿しいと思ってます」

 

誰も信じないくらいに馬鹿馬鹿しすぎる秘策、か。

 

……なんとも圭一らしい話だけど、圭一をよく知ってる鷹野さんでさえ信じないというんだからよほどのことだ。

 

その馬鹿馬鹿しい作戦を僕が知っていて、拉致されて自白したらそれが裏づけになってしまう、ということだ。

 

「それだと詩音が危なくないかな。圭一は、詩音にそれを頼んだことまで話す可能性があるだろ?」

 

「ええ、もちろんです。もし圭ちゃんからその話を聞いたとすれば……確認のためにイチかバチかで私を狙ってくる可能性はありますね」

 

言うまでもないことだったのかもしれない。

 

詩音にとってはそれも織り込み済みだったということだ。

 

村のまとめ役という立場をもつ詩音を拉致するのは、敵にとっても大きなリスクを覚悟しなければならない。

 

「葛西にガードを手配するよう連絡してあります。場合によっては私自身を囮にしてでも……圭ちゃんやお姉は取り戻してみせますよ」

 

危地をくぐる覚悟と決意が、その瞳にあった。

 

双子の姉である魅音、それに恋人といってもいい圭一。

 

大切な二人のためなら、詩音は地獄の業火にだって飛び込んで灼熱にその身を晒すだろう。

 

そして地獄の鬼以上に鬼らしい彼女が、ちょっとやそっとの業火で焼き尽くされるとは思えなかった。

 

たぶん……彼女を焼き焦がせる炎は世界にただひとつ。

 

彼女自身の胸に燃える、恋の炎だけだ。

 

その対象が自分ではないことにほんのすこし悔しさを覚えながら、一応ツッコミをいれておくことにした。

 

「……レナは取り戻さなくていいの?」

 

彼女にとってかけがえのない親友の名前。

 

ちょっとした嫌がらせになってしまうかもしれないと思う僕だけど、そんな心配は杞憂に終わった。

 

詩音は肩をすくめ、ふふんと軽く笑ってみせる。

 

「悟史くん、私の親友をちょっと舐めすぎてませんか?」

 

そこにあるのは、絶対の信頼。

 

「レナがあんな目に遭ったのは、相手がしょぼすぎて不意を打たれたからです。診療所が敵地だって知ってる以上、今のレナに油断なんて万に一つだってあり得ません」

 

僕は納得するしかなかった。

 

考えるまでもなく、詩音はこう言っているのだ。

 

竜宮レナにとってはいまの状況など、捕まっているうちには入らない。

 

その気になればいつでも抜け出せる、と。

 

「奴等がレナを捕まえているつもりになっているのなら、それこそとんでもない油断ってヤツです」

 

自信たっぷり、まるでかつての魅音が乗り移ったみたいな大胆不敵な言い草だった。

 

「猛獣を鳥籠に入れて安心してるようなもんです。本気でレナを閉じ込めておきたいなら、鎖で両手両足を縛って、窓のない部屋にでも吊るしておくべきですね」

 

私なら絶対そうします、と言いたげだ。

 

親友の女の子を捕まえてそこまで言うのはどうだろう、と思わなくもないけど……事実なら、それはそれで僕たちの切り札になる。

 

「ま……、どちらにせよ同じことです」

 

レナのことを全く言えないような、獰猛な色の瞳。

 

ここにいるのは、ついさっきまで泣きそうな顔をしていた中学生の女の子じゃない。断じてない。

 

覚悟を決めた園崎詩音は、そんなに生易しくはない。

 

「レナがやらなくても、連中は私が食い殺しますからね。よりにもよってお姉や圭ちゃんに手を出すなんて、山狗もよくよく不幸な星のもとに生まれたもんです……」

 

……僕は正直、山狗に同情したくなってきた。

 

彼らはこれまで、追い詰められたときに泣いたり怒ったりする、普通の人間しか相手にしてこなかったんだろう。

 

こんな、どうしようもなく不利な状況で、

 

 

「この雛見沢で、誰に喧嘩売ったか教えてあげますよ」

 

 

笑えるのは多分……、人間じゃない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。