ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

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【神楽舞】エピローグ

「ん……しょ、と」

 

いつものように石段を登りきると、そこはひぐらしのなく古手神社の境内。

 

百年もの長きに渡って見慣れた風景にひとつ息をつき、集会所のわきにいつも立てかけているホウキを取りに向かう。

 

……まったく羽入め。

 

今度シュークリームを奢ってやるから代われ、と言ってるのに「今度っていつなのですか!」とか言って頭から私を疑ってかかるのは、姉としてどうなのよ。

 

そりゃまぁ2ヶ月前に同じ約束をして、まだ奢ってないわけだけど……今度は今度よ、妹を信じなさいって。

 

そのうち「羽入、今度っていまさッ!」ってどーんと奢ってあげるんだから。そのうち。

 

「ふぅ……」

 

ホウキを手に、さっさとやって適当に終わらせようと境内の掃除を始める。

 

……姉に、妹か。

 

いま思えば、それがこの世界に来て最初の衝撃だった。

 

前の世界までの羽入は、オヤシロさまでスタンドで背後霊であぅあぅで……あぅあぅなのは今も同じだけど。

 

ツノついたままなのに人間扱いされてて、しかもオヤシロさまの生まれ変わりで女王感染者とか、いま考えてもわけのわからない設定よね。

 

そのうえ、私との百年の旅も綺麗さっぱり忘れてくれて、話が合わないったらないわよ、ほんとにもう……。

 

でも、きっとあの子も……一緒に戦うつもりで、人間としてこの最後の舞台に舞い降りたんだろうな、と思う。

 

なんだかんだで実体のある羽入にも、愛着でてきたし。

 

あのぷにぷにっぷりが……正直、たまりません。

 

……あぁ、そうそう。

 

そんな衝撃もそこそこに、私ってば単身東京へ乗り込んだのよね。

 

前の世界やその前の世界で意外な大活躍をしてくれた圭一を、本来より一年も早く雛見沢に呼びこんだ。

 

私の策略にまんまと乗せられて、わけがわからないまま村に連れてこられた圭一がちょっと可愛かったっけ。

 

でも、彼は期待どおり、いやそれ以上のことをやってくれた。

 

彼の存在は、運命の袋小路だと思っていた四年目の祟りを、私が知っていたのとは全く違う形で終わらせた。

 

そしてそこからの雛見沢と部活メンバーを、全然違う方向へと導いていった。

 

……主に明後日の方向へ、だけど。

 

とにかく羽入と圭一という二人のイレギュラーと、思いもかけないいくつもの出来事が重なり合って、私を百年かかっても見たことのない世界へと連れ出してくれた。

 

それが、いまのこの世界。

 

見慣れた風景の、でも見たことのない世界。

 

 

そう、ここは……昭和58年6月を越えた先の世界。

 

 

風が吹き抜けて、ざわざわと木々の枝を揺らしていく。

 

私の髪をふわりと撫でていったその感触が、まるで圭一のあの大きな手みたいだと思った。

 

「……ふふ」

 

小さく笑いながら髪を掻き上げて、境内の端、中途半端な位置に立つ石碑に歩み寄る。

 

私の背の二倍ほどある、石碑の表面に刻まれた文字。

 

それが、彼の名前だった。

 

「なによ、私を呼びつけるなんて圭一のくせに生意気ね。お掃除の途中なのが見えないっての?」

 

憎まれ口を叩いてやると、まるで彼が笑っているように、木々が枝を揺らしてわたしの言葉に応える。

 

ひとつ、息をつく。

 

うん。大丈夫。

 

もう、涙は流れ尽くしたはず。

 

「あんたのためになんか、泣かないわよ。ばーか」

 

……そう。

 

この石碑は事実上、彼の墓だった。

 

彼が愛した雛見沢を一望できる場所、そして……その短い生涯を燃やし尽くした場所に建てられた、慰霊の碑。

 

最高に可愛い私たちをあまりに早く置き去りにしていった大馬鹿野郎の、馬鹿っぷりを讃えた記念碑。

 

一年前のあの日、小此木を倒してあの雛見沢最後の戦争に決着をつけた圭一は……結局、二度と目覚めなかった。

 

興宮の病院に運ばれ、数日の間こんこんと眠り続けた後にあっけなく、そして静かに、この世を去った。

 

なにしろ運ばれた時点で、検査した医者がこれで生きてるのがおかしいだのと悲鳴をあげるような状態だったというので、彼はもうとっくに命を使い果たしていたのだろう。

 

自分でこの世にないと言い切った奇跡を創り出すために、残りカスまで全部が全部、燃やし尽くしていたのだ。

 

彼の両親は、報せを受けてすぐに東京から飛んできた。

 

そして彼が息を引き取るまでの数日、彼が雛見沢で何をしたのか、何をやり遂げたのかを、私たちや見舞いの村人から聞き知って、彼の最期を見守った。

 

圭一の顔に白布が置かれたあとで、伊知郎は病室にいた皆に深々と頭を下げて、謝辞を述べた。

 

彼は自ら望んで戦い、そしてやり遂げて力尽きた。

 

それを支えてくれた全ての人にありがとう、と。

 

誇らしげに、本当に誇らしげに、胸を張っていた。

 

藍子は泣き崩れたけど、私たちに恨み言は一切なかった。

 

彼女が産んだひとつの命は、本当にたくさんの命を救い、たくさんの未来を拓いて、笑顔で燃え尽きたのだ。

 

だからきっと、彼女も胸を張っていい。

 

……もちろん、私たちは泣いた。

 

部活メンバーも、村人たちも、彼が大好きだったから。

 

でも、数日経ち、数週間経つ頃には、それぞれに心の整理をつけて立ち直り、またみんなで馬鹿騒ぎをした。

 

だって、彼は私たちを泣かせるために逝ったんじゃない。

 

みんなに心から笑って欲しいから、戦っていたんだ。

 

いつかは忘れられるなんて、思わない。

 

彼の記憶は鮮明で、鮮烈で、最期の瞬間まで輝いていた。

 

だからそれはもう私たちの魂に焼き付いて、一生消せない焼き印のようなもの。

 

彼はいつも強がっていたけれど、時折見せた弱さも含めて、その記憶は私たちにとって一生の宝となるだろう。

 

でも、私たちは生きている。

 

彼の拳が拓いてくれた未来を生きているのだ。

 

だからそこに絶望なんて、ない。

 

そんなものはもうとっくに、捨ててしまった。

 

私たちが笑って過ごし、幸せに生きていれば、きっと彼も安心して……もう強がる必要のない場所で、笑ってる。

 

「……たった一年だけど。みんなすこしずつ変わってる。それを見られないなんて、早まったわね~。あんたも」

 

せっかくだから、みんなの近況を教えてやろう。

 

あまりの幸せっぷりに、「俺もまぜろよ!?」なんて悔しがっても後の祭りだ、たっぷり後悔しなさい。

 

 

詩音は、夏休み明けで魅音と入れ替わり、新たに園崎詩音として雛見沢分校に移籍してきた。

 

詩音自身は2年生の5月頃に通っていた女子校を脱走していたことになっているので、本人の強い希望もあって姉の魅音よりも一学年下の2年生として通うことになった。

 

もっとも、分校のみんなにとっては転校生の詩音がいままでの魅音と同じ髪型、同じ服装で、委員長の魅音は一年前の制服と、見慣れない三つ編みになっていたわけだから、何がなにやらという心境だったんじゃないだろうか。

 

愛しの圭ちゃんがいなくなってほかの世界のように悟史になびくのかと思いきや、いまだに浮いた話ひとつない。

 

どちらかといえばレナと一緒に遊んだり、沙都子のお世話をするほうに力を入れていて、いい姉貴分になっている。

 

 

悟史は、骨折も夏休みの間に治って、雛見沢ファイターズに復帰した。いろいろあって精神的にも一皮剥けたのか、ピンチであろうがチャンスであろうがコンスタントに打てる、押しも押されもせぬ不動の4番打者になった。

 

もっとも、登下校のメイドっぷりやソウルブラザーっぷりも相変わらずで、その意味においては圭一のポジションを継承したと言えるのかもしれない。

 

冬には受験も無事に終え、4月から興宮の高校へ進学。

 

野球部に入部し、一年生にして期待のスラッガーと県下で注目されている。

 

でも本人としては幼馴染みキャラを甲子園に連れて行きたいが、魅音と詩音には脈がないので新たな幼馴染みキャラを開発するのが最近の目標らしい。

 

……それどんな目標よ。

 

 

魅音は、部長および委員長として2学期から雛見沢分校に復帰、詩音と正式に入れ替わった。ついでに、町会の顧問代理の座も取り戻したらしい。

 

赤坂との仲はいつの間にやら周知の事実で、挨拶に連れていったときにはずいぶんと緊張していたのに、お魎直々に頭を下げて孫をよろしく頼むと言われたらしい。

 

拍子抜けでざまあよね。

 

もちろん連れ子の美雪にもお魎、茜とともに大喜びで、ほかの世界の私なみに好き放題可愛がられているのだとか。

 

くそう……私も、もっとちやほやされてぇ。

 

ちなみにお魎の最近の口癖は二人目はまだかというもので、そのたびに魅音はまだ高校生だから無理!と真っ赤になって答えるのが定番になっているのだとか……。

 

家に帰れば赤坂家の主婦、本家にいけば次期頭首、昼間は興宮で女子高生と、なかなかに忙しい人生を送っている。

 

 

沙都子は、私と一緒に中学生になった。

 

もっとも雛見沢分校に通っている限りはどこか変わったわけでもないのだけれど……。

 

相変わらずトラップ作りは趣味として楽しんでいるものの、最近はどこかの造園業のお兄さんが手伝いに駆り出されているらしく、私や悟史に声がかかることはない。

 

手伝いの上に引っかかる実験台までさせられるから便利だと沙都子は主張しているが、持っていくお弁当がだんだん豪華になっていたり、興宮の街で二人を見かけたなどと言う噂も聞くので、そのお兄さんは今度殲滅したいと思う。

 

もちろん母親代わりの鷹野との仲も良好で、最近は本当の母子のように見えてしまうくらいで、微笑ましい限りだ。

 

 

その鷹野は、富竹の工作と弁護が功を奏したらしく、警察からも『東京』からもその後の追及は受けていない。

 

あくまで研究スタッフは被害者の立場となり、事件は小此木と山狗の暴走として処理されたらしい。

 

面白いのは、小此木や山狗のほとんども鷹野の罪を語らなかったそうで、私は魅音がなにか取り引きを持ちかけたのではないかと思っているが……沙都子に言わせれば、三四さんの人徳ですわーということになるそうだ。

 

前の世界でワタ流された私としては面白くないので、ヤツの秘蔵のスクラップ帳からポップでキュートな拷問祭具『三日かけて沈めるクン』の設計図をくすねて沙都子に見せてやったら黙った。メシウマ。

 

赤坂もうまくやったのだろう、計画が瓦解した『東京』の各派閥の中心にいた何人かが別件で起訴されたりと、上層部は入江機関どころではないらしい。

 

入江機関は規模を縮小され、山狗も秘密保持のための数人を残す程度、研究スタッフも入江と鷹野しか残らなかったが、治療薬の研究は着々と進めてくれている。

 

それがきっと鷹野なりの罪滅しであり、執行猶予なのだろうと思っている。

 

きっと来年か再来年には、成果を出してくれるだろう。

 

私も羽入も……そのときには、彼女が重荷を下ろせるように、言葉を尽くすと決めていた。

 

 

レナは、……一番変わったかもしれない。

 

さすがに本人のあの性格はあまり変わらないのだが、とりあえず状況は一変している。

 

興宮で働きだした父親と和解して家に戻ったまではいいが、妊娠が発覚してまた一悶着。

 

結局また前原家に戻り、去年の冬に出産した。

 

いまは娘ともども、私たちや圭一の両親と一緒に暮らしている。

 

伊知郎や藍子は最初で最後となる初孫に喜ぶばかりだが、レナがまだ中学生なのを忘れないでほしいものだ。

 

レナの娘は、和奏と名付けられた。

 

和を奏で出す人になってほしいという願いをこめたらしいが、名付けた本人が娘をカナちゃんカナちゃんと呼ぶので、みんな呼び名がカナで定着してしまった。母と同じく本名はめったに使われないことになりそうだ……。

 

もともと母性の強いレナだし、藍子に私たちやしょっちゅう入り浸っている詩音など世話のできる人間は揃っているので育児に問題はないだろうが……将来父親のことをどう話すつもりなのか、あんたも興味あるんじゃない?

 

ま、私もあることないこと吹き込む予定だけどね?

 

 

羽入は、まぁ、相変わらずあぅあぅだ。

 

詩音と一緒になってカナをあやしながら自分も子供が欲しかったと言い合う毎日で、神様的なナニカだった頃の記憶はかけらも思い出さないから単なる人間の女の子のまま。

 

ちなみにその話によると羽入は子供が産まれたら桜花と名付けたかったのだとか。春以外に産まれたらどうすんのよとツッコんだが、それはそのとき考えるらしい。

 

詩音は初音にするとか言ってて、なにそれボーカロイド?髪も緑色だし?とかツッコみたくて仕方なかった私です。

 

あと二人とも娘の名前で男だったらどうするんだとツッコんだら女子寮の管理人でもしそうな名前とか、ろくなのを出してこなかった。

 

んなもん圭一の一をもらって一馬に決まってんでしょと言ったらそれも早死にしそうとか言われたわよ。

 

……ってこれ、もう羽入の近況じゃなくね?

 

 

私は……えーとえーと。

 

そうそう、身長が30cmほど伸びて、胸もDカップに、

 

「捏造乙」

 

人の妄想を捏造乙の一言で片づけた不届き者は、それに飽きたらず私のキュートな頭頂部にチョップしてきた。

 

「なにすんのよう!」

 

頭のてっぺんにズビシと入ったわよ!

 

このまま背が伸びなくて、150cmにすら届かなかったらどうすんのよ!?

 

「なにすんのじゃねぇ。黙って聞いてりゃ、妄想の中で人を殺した上にあることないことごちゃ混ぜで語りやがって」

 

声でわかってたけど、当然ながらそれは圭一だった。

 

「はぅ……レナなんか中学生でお母さんになってたよ?」

 

「僕のはどうでもよさそうだったのです……あぅあぅ」

 

「子供の名前の話は、女子限定の約束じゃないですかー」

 

レナに羽入、詩音も一緒に来ていたらしい。

 

乙女の妄想を黙って後ろで聞いてるなんて、なんてひどいやつらだ。

 

次の妄想のときにはもっとひどくしてやる。

 

「おいおい、ひどいのはどう考えても梨花だろ!? レナが出産とか、人聞きが悪いのもほどがあるぞ!」

 

「簡単にお父さんと和解できたら、レナも苦労しないよ。今度の職場は、1ヶ月続くといいんだけど……はぅ」

 

「いやー、圭ちゃんの死んじゃうあたりなんか、けっこう涙ぐんじゃってましたよ。圭ちゃんかっこよすぎ!」

 

「と言いながらおなかを抱えて笑い転げる詩音も鬼畜だと思うのですが……事実も入ってるのがタチ悪いのです」

 

まあ、その、なんだ。

 

うん。

 

長々とモノローグしたけど、スマンありゃ嘘だった。

 

実はまだあれから3ヶ月しか経ってないし、圭一も死んでないし、レナに子供はいない。

 

カナがカナカナ言う未来を見たいのはホントだが、それはこの先のお楽しみに過ぎないというワケだ。

 

「世にも酷い告白があったものなのです……あぅ」

 

圭一が大怪我で数日眠り続けたあたりは本当。

 

医者が手遅れだと悲鳴をあげたのも本当。

 

ここ数日がヤマだとか言われて私たちや両親を死ぬほど心配させておいて、けろっと目覚めて腹減ったとか言い出したときには絞め殺してやろうかと思ったのも本当。

 

それからはぐんぐん回復し、眼以外は夏休みの間にほとんど治ってしまって、同じ医者がノイローゼになりかけたのも本当だったりする。

 

……まったくもって、人騒がせな主人公だ。

 

もっとも私は、圭一が助かったのは鷹野と入江の必死の応急処置があったからだと思ってる。

 

診療所地下の施設は山狗に封鎖されて使えなかったのに、地上の診療所に残されていた薬と器材だけで出来る限りの手当をしてくれたから……圭一の死が、嘘で終わったのだ。

 

ベッドの上で起きられるようになった頃に圭一は、鏡を見せられて自分の右目に眼帯があるのに気づいて「バチが当たったってやつかな?」と笑った。

 

ふん。あんなこと私のほうは忘れかけてたくらいなのに、誰がバチを当てるのよ。

 

物語の始まりと終わりがつながるなんて、そんな出来すぎた偶然は狗にでも喰わせてやればいい。

 

退院して学校に復帰したときには魅音がコスプレ用なのか海賊風のアイパッチを無理矢理押し付け、気に入ったのかは知らないがいつの間にかなじんでしまっている。

 

もちろん相変わらず雛見沢の名物男で、あの件でいよいよ郷土の英雄としての名声も上がったけど、懸案事項が片づいたためか本人はいくぶん肩の力が抜けてきたようだ。

 

まあ、さすがに今回の件で息子の放置が心配になったのか8月も下旬になった頃に伊知郎と藍子が押し掛け、正式に雛見沢で暮らし始めたのもすこしは影響しているのかもしれない。

 

親の庇護下にあるおかげで、多少は村人の見る目や園崎のラブコールが緩和されたのもいい傾向だろう。

 

「ま、相変わらずしょっちゅう仕事で東京に行ってるから、実際はそれほど生活が変わったわけじゃないけどな」

 

まぁそーゆーこと。

 

レナがいまも前原家で暮らしているのも本当。

 

本人が言っていたとおり、まだ父親と和解できていない。

 

本当は双方が和解を望んでいるが、父親のほうにもなけなしのプライドがあるらしく、圭一を唸らせるような立派な職について見返してやりたいと気張りつつ、職を転々としているという。レナパパ必死だな。

 

そんな事情を抱えながらもレナ自身は内面も含めてずっと明るくなっており、父が彼なりの人生を築くのを気長に待つつもりでいるようだ。

 

「ホントはね、今度こそいい人を見つけてくれたらいいなって思ってるよ。レナだって、いつまでも娘のままでいられるわけじゃないから……ね?」

 

「そこで俺を見るのは、カナちゃんフラグなのか?」

 

言っておいて赤くなっている圭一もなんだが、レナも意味ありげにはにかむんじゃありません!

 

「あぅ……レナはときどき大胆なのです」

 

本人たち以上にどきどきしている羽入だが、こいつが一番変わりないように見える。

 

といっても、6月の出来事はやっぱり大きかったのだろう。

 

ふと気づけば前以上に圭一を眩しげにみているのがわかるし、苦手な科目や運動にも挑戦する気概が見えるようになった。

 

最近は古手の当主として町会でも積極的に意見するようになり、時には魅音と丁々発止の遣り取りを繰り広げているらしい。

 

「僕には将来、圭一とともに古手家を再興して神社を継ぐという大役があるのです。魅音やレナに負けてはいられないのですよ!」

 

フンスと鼻息荒く語ってくれちゃう羽入だが、

 

「なんか、園崎から詩音の旦那にならないかって言われてるし、最近村長さんも孫を紹介しようとか言い出して困ってるんだが……」

 

御三家を統一した男として村史に名を遺しそうな圭一である。

 

鬼というより鬼畜の血統になっちゃうわよソレ。

 

あと、鷹野たちが雛見沢症候群を撲滅した暁には古手の古いしきたりを変えるんだって息巻いていたわね。

 

「あぅあぅ、僕も是非東京へ! 圭一と水族館なのです! あとできたてシュークリーム!」

 

そういう考え方ができるようになったのは、……昔の羽入を知ってる身としても、嬉しい限りだ。

 

でも、その><って目はやめて。可愛いから。

 

「んー、水族館ですか。それもいいかも☆」

 

などと次のデート先の選定に余念がないのは詩音である。

 

こいつも肩の荷が下りたからなのか、最近とみに可愛くなりやがって。

 

次のデートは絶対ついていくから覚えとけ。

 

レナはペンギンで釣れるし、羽入は赤坂家からくすねた羊羹で寝返るはず……どうせならみんなで行くのが正しい男女交際よね!? ふひひ。 

 

「一対多の不健全な交際を、胸張って肯定しなくても……はぁ。羽入のいけそうなとこを探してみますか」

 

うは、詩音ってばいいヤツめ。

 

魅音の家を襲撃するついでなのかなんなのか、詩音が前原家に遊びにくることが以前より増えたのも本当だ。

 

なにしろ詩音であることを公言したうえ学校も雛見沢にしてしまったので本家にもいづらいが興宮に帰るのも遠いとあって、しょっちゅう泊まっていく。

 

具体的には週4日くらい。

 

残りの3日の内訳は赤坂家に1日、北条家に1日、残りの1日が本家か興宮の自宅のどっちかだというから、お魎も茜も寂しい限りではないだろうか。

 

「気ままな遊び人の詩音ちゃんは住所不定なんですよー。決して圭ちゃんに夜這いかけるためじゃないですよー」

 

「だからそれはやめろと……。また親父が泣くぞ」

 

伊知郎に嘆かれたり藍子に叱られるので最近はなかなか添い寝もできないが、隙を見て圭一の部屋に忍び込むのが楽しくなってきている私たちだ。

 

あ、お風呂に関しては私だけは藍子に黙認されている。

 

……え、それってどういうこと?

 

なんで?

 

私だけいいの?

 

「自分で自分が周囲にどう見られているか、すこしずつ気づき始めている妹を微笑ましいと見守る僕なのです」

 

なまあたたか~い姉の視線がちょっとイヤ。

 

「それよりさっさと帰ってメシにしようぜ。なんたって今日は、鷹野さんがご馳走作ってくれるらしいからなぁ!」

 

「レナたちも手伝っちゃうよ~、はぅ!」

 

「お姉たちも来るらしいですから、急がないと!」

 

「あぅ、今夜は賑やかになりそうなのです!」

 

圭一たちは何をしにきたのかと思えば、手にしている紙袋には古手家にしまってあった衣装が入っていた。

 

ああ、あれか。

 

野球のとき以来のメイドシスターズ用の衣装だ。

 

なにしろ今週の日曜は栄えある第一回雛見沢メイド祭り。

 

全村あげてメイド衣装という、ハレの舞台なのだ。

 

一年前に圭一が沙都子を救った記念日でもあるから、当然楽しみでないわけがない。

 

鷹野のメイドも久々に見られそうだし、沙都子のメイドはまさに今回のメインイベント。

 

一所懸命練習していたメイド演舞がどんだけキュートか、いまからわくわくしている私である。

 

「トミーを、フリーのカメラマンを呼べ!」

 

「あはは、そうですねー。でも私たちも撮られちゃうかもしれないなぁー、スタイルに自信ないのにぃ」

 

くねくねしながら私に当てつける詩音である。

 

畜生……、畜生……!

 

そのあふれんばかりの自信も、オヤシロ様にでも喰わせちまえ!

 

「大丈夫だ梨花、貧乳メイドもそれはそれで最高だッ!」

 

「貧しいってゆうなー!」

 

とにかく。

 

百年の旅路で一度も見たことのなかったそのデタラメなお祭りを、絶対に楽しもう。

 

ホウキを元の位置に返し、みんなと一緒に石段を降りるところでふと石碑を振り返った。

 

その石碑に刻まれている文字は、

 

 

『 前原圭一、ここに眠る 』

 

 

そう……これが圭一の墓にあたるのは、本当。

 

町会に記念碑を建てると言われて、病院のベッドの上で圭一はそう刻んで欲しいと告げた。

 

圭一は将来、この村に骨を埋めるつもりなのだ。

 

そして文字通り骨になったあとでもこの村を見守り続けたいからと、そう希望した。

 

でも、本当の理由はきっと違う。

 

圭一にとっての『前原圭一』を、あの碑に葬った。

 

嘘だらけの英雄はあの日、小此木と戦って『死んだ』。

 

そういうことにしたいのだろう。

 

自分は自分、等身大の前原圭一として生きるために。

 

もちろんこれからも、私たちや雛見沢に敵が迫るときは、圭一は必死になって戦うと思う。

 

でもそれは、決して間違いではない。

 

圭一がそれを守りたいと思い、そのために拳を振るうならそのときは、彼が、死んだ『前原圭一』のかわりとなる。

 

それがあの日、神楽舞を務めながら神自身がやめろといってもやめなかった、圭一の至った答え。

 

死して英雄の物語は受け継がれ、何者かが雛見沢を脅かすときはそこにいる誰かが、ひとりひとりが『前原圭一』となって立ち向かう。

 

いまの圭一も、その『託された』側のひとりに過ぎないのだ。

 

ありもしない幻に圧し潰されるより、自らが本当の強さを手に入れることを望んだから、『嘘』を葬った。

 

「おーい、梨花。さっさと帰るぞー」

 

気が付くと、みんなはもうとっくに石段の一番下に降りていて私だけが取り残されていた。

 

手を振る圭一が、『本物』の彼がいまこの世界に生きていることが嬉しくて、笑顔がこぼれる。

 

「けーいちぃぃー!」

 

元気よく駆け出して、石段の途中で空へと身を投げる。

 

びゅんびゅんと風をきって、ぐんぐん仲間たちが近くなる。

 

「あぅあぅ、妹があいきゃんふらいです!?」

 

「わ、わわっ、危ねぇだろ!?」

 

一直線に目指すのは、彼の腕の中。

 

彼は絶対に、わたしをつかまえてくれる。

 

絶対に取りこぼしたりしないと、信じてる。

 

「みっ!」

 

……ほら、ね。

 

「うぉわッ!」

 

ちゃんと、着地点は彼の腕の中。

 

「……ったく、何をするかわからんなお前は!」

 

目の前に、圭一のひとつしかない瞳がある。

 

「あはっ、もちろんそうよ!」

 

そこに映る少女は満面の笑顔で目を輝かせ、

 

「何でもできる、何にでもなれる! ここはそういう世界だもの!」

 

私の世界の支配者であることを、宣言する。

 

じゃあこれから何になるのかって?

 

そんなこと知らない。

 

未来の私にでも聞けばいい、これから決めるんだから。

 

そうね、でもたったひとつ。

 

「魔女になるのだけは、もう御免だけどね!」

 

 

 

私は手に入れた。

 

望む世界と、望む未来を。

 

だから決めた。

 

幾百の世界で死んだ私は『嘘』で、いまの私が『本当』。

 

鷹野が黒幕というのは『嘘』で、優しくて可愛い鷹野が『本当』。

 

あの百年が『嘘』で、ここからの百年が『本当』!

 

惨劇なんて知らない。

 

望まない運命なんて認めない。

 

誰にも、どこの神様にだって文句は言わせない。

 

文句があるなら、どうぞかかってらっしゃい。

 

私たち部活メンバーが、魅せてあげる。

 

 

 

そう、とっておきの 『 神 楽 舞 』 を!

 

 

 

 

ひぐらしのなく頃に 神楽舞  完




<雑談>

<あとがき/作者よりひとこと>

神楽舞、全146話。
ここにようやくの完結です。

……長かった。

今こうして最後まで投稿し終えてみると、本当に「よくここまで書いたな」というのが一番の感想です。

この作品自体はかなり昔に書いたものなので、正直なところ、作者自身も細かい部分を忘れていました。今回の再投稿にあたって文章を見直したり、細かな修正を加えたりしながら投稿してきましたが、改めて読み返してみると、「こんなこと書いてたのか」と自分で驚く場面も結構ありました(笑)。

もちろん、昔の執筆中には展開に悩んだり、更新が止まってしまった時期もありました。

当時のあとがきを読み返してみると、最終幕をどうするか、圭一を最後に生かすのか、それとも死なせるのか――そんなことまで真剣に悩んでいたようです。

特に圭一の生死については、本当に最後まで迷っていました。

物語として考えるなら、最後に圭一が力尽き、仲間たちがその死を乗り越えて未来へ進んでいく結末も、それはそれで成立していたと思います。

それでも最終的に今の結末を選んだのは、やっぱり圭一には「格好よく永遠になる」よりも、「無様でもいいから生きていたい」と願ってほしかったからです。

理想の英雄を演じ続けてきた彼が、最後にはその仮面を捨てて、自分自身として生きる。

作者としては、そこまで辿り着けたことに一番意味があったのかなと思っています。

そして、この作品を書いているうちに、最初に想定していた以上にキャラクターたちが勝手に動き始めたのも印象に残っています。

悟史があそこまで圭一のソウルブラザーになったり、詩音が裏方として活躍したり、沙都子が思っていた以上に芯の強いキャラクターになったり、鷹野の存在感がどんどん大きくなったり。

……まあ、レナ無双だけは予定通りだった気がしますが(笑)。

そういう意味では、この作品を書いたことで、作者自身も「ひぐらしのなく頃に」という作品をより好きになったのだと思います。

そして今回、こうして再び投稿して、最後まで読んでくださる方がいたことは、昔の自分にとっても、今の自分にとっても本当に嬉しいことでした。

何年も前に書いた作品ですから、文章の拙さや展開の荒さなど、今の自分から見ると気になるところも当然あります。

それでも、当時の自分が「こんなひぐらしが読みたかった」と思って、一生懸命に書いた物語であることだけは間違いありません。

そして、それを今になって誰かに読んでもらえた。

それだけでも、今回この作品を再投稿してよかったと思っています。

全146話という、とんでもなく長い物語に最後まで付き合ってくださった皆様。

感想や評価をくださった皆様。

そして、途中からでもこの物語を見つけてくださった皆様。

本当にありがとうございました。

『ひぐらしのなく頃に~神楽舞』は、これにて終演です。

……ただ、こうして振り返ってみると、昔の自分は本当にひぐらしが好きだったんだなぁ、としみじみ思います。

そして今も、やっぱり好きなんですよね(笑)。(竜ちゃん。新作、信じてるからな...)

長い長い物語でしたが、あなたの心のどこかに、ほんのひとしずくでも残るものがあったなら、作者としてこれ以上嬉しいことはありません。

最後までお付き合いいただき、本当に、本当にありがとうございました。

それでは――

また、何かのなく頃に。(竜ちゃん風)


神楽舞完結後、次に読みたい作品は?

  • 神楽舞、お疲れ様会もやってほしい
  • ひぐらし短編集
  • ひぐらし連載、長編もの(圭羽、梨圭など)
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