ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

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第17話 ハーレムルートは男の本懐

「……梨花はちょっと変わったところがあるのです」

 

散歩のときに軽い話題のつもりでさっきの梨花ちゃんの『予言』を話したら、羽入はすこし難しい顔をしてそう言った。

 

おいおい、実の妹に対してずいぶんな言い様じゃないか?

 

と、俺の考えたことに気づいたらしく、あぅあぅと困ったように付け加える。

 

「明日の天気とか、ちょっとしたことがほとんどなのですが……たまに、未来を知っているような物言いをすることがあるのですよ」

 

「なんだそりゃ、予知能力があるってことか?」

 

「本人はオヤシロ様のお告げだと言うのですが……」

 

なるほど、そう言われれば巫女らしい言い分じゃないか。

 

「……だったら、さっきの話も本当になる可能性があるっていうのか?」

 

沙都子の叔母さんが死んで、悟史がいなくなる……か。

 

会ったこともない意地悪叔母ってのは俺にすれば正直どうでもいいが、せっかくできた友達の悟史がいなくなるってのは冗談でもやめてほしいところだ。

 

羽入はすこし迷っていたが、意を決したように俺を見る。

 

「圭一。村に来てから、『オヤシロ様の祟り』という言葉を聞いたことはありませんか?」

 

「オヤシロ様の……祟りぃ?」

 

古手神社の祭神で、確か縁結びが得意だとかいうありがたい神様だったはず。

 

その神様と祟りなんて言葉が、容易には結びつかない。

 

「この村ではオヤシロ様を信じる人は多いのですが、同時に祟り神として恐れられてもいるのです……いえ、祟り神だからこそ崇拝されているといってもいいかもしれません」

 

と、言われてもいまひとつぴんと来ない。

 

この時代に祟りなんて言われても、非現実的すぎて想像が追いつかない。

 

「圭一が信じられないのは無理もないのですが……、あぅ」

 

羽入はすこしあたりをはばかるかのように視線を流して……小さく息をついた。

 

「僕と梨花の父様と母様は、去年の6月……、オヤシロ様を祀る綿流しの夜に……」

 

死んだ、という言葉を呑み込むのがはっきりとわかった。

 

綿流し。またその名前が出てきた。

 

「……悟史と沙都子の両親は、一昨年の綿流しの日に、遠く離れた自然公園の展望台から落ちて、激流に呑まれてしまいました」

 

羽入の瞳が揺れていた。

 

……なんだよそれ。

 

2年も続けて、綿流しの夜に人が死んでいるっていうのか。

 

「その前の年……ダム現場の監督さんが、殺されてしまったそうです。綿流しの夜に」

 

さらに羽入がそう続けたので、さすがに薄気味悪くなった。

 

3年前の殺人事件。2年前の北条夫妻の事故。1年前の古手夫妻の死。

 

そのどれもが、オヤシロ様を祀るお祭りの夜に起きている。

 

迷信深い村の人たちでなくとも、なんらかの超自然的な力の存在を疑っておかしくない。

 

「で、でもさ。ダム現場の監督に、ダム賛成派だったっていう悟史たちの親はまだ祟りだっていっても通るけど、神主さん夫妻ってのは……」

 

言うなればオヤシロ様の身内じゃないか。祟り殺される理由がない。

 

「父様は……ダム戦争で過激な抵抗をする村の人たちを諫めていたのです。どうせダム計画なんてすぐになくなってしまうから、と言って……」

 

村の守り神を祀る立場にありながらダム戦争に真剣に取り組まなかったからオヤシロ様の怒りにふれた、とでもいうのか。ダム戦争で敵だった者たちに次々と死が訪れる。

 

……そこまで考えて、気づく。

 

「それじゃ、まさか……」

 

「……村のみんなは、そう思っていますです。今年の綿流しで、きっと北条家の誰かが祟りに遭うに違いないって」

 

叔父、叔母、悟史、沙都子……その中の誰かが死ぬ!?

 

足元が揺らぐような、掴み所のない恐怖が襲ってくる。

 

「で、でも、だったらさ。叔父と叔母なんじゃないのかよ。現場監督はともかく、2年続けて夫婦だったんだろ……?」

 

羽入は首をふるふると横に振って、

 

「重要なのはそこではないのです、圭一。最初の現場監督の事件は、犯人のうち何人かは捕まりましたが、一人が行方不明になっていますのです。……翌年の沙都子たちのご両親は、川に流されてしまって、お父さんのご遺体しか見つかってません。そして……」

 

羽入の口が重くなる。当然だろう。

 

「去年も、……行方不明?」

 

こくり、とうなずいて泣きそうな顔をする羽入。

 

それこそが、梨花ちゃんの『予言』との符号。

 

一人が死体で見つかって、一人が姿を消す……それが、オヤシロ様の祟り。

 

「この村に残る伝説なのですが、オヤシロ様の祟りで人が死んだときは、そのお怒りを鎮めるために誰かが『鬼隠し』で消えてしまうと言われているのです」

 

鬼隠し。これははじめて聞く言葉だった。神隠しのようなものだろうか、と考えて羽入の角に気づく。オヤシロ様の生まれ変わりのしるしが『角』。オヤシロ様っていうのは……鬼だったってことか。それで神隠しのかわりに鬼隠し?

 

鬼といえば昔話の悪役で、それなら祟りを起こしたとしても不思議はない。

 

「悟史たちの叔母さんが祟りで殺されて、悟史が鬼隠しに遭って消える……梨花ちゃんはそう言いたかったのか?」

 

「たぶん……そうだと思いますです」

 

悟史たちの叔父ってのはあんまり家に帰ってこないって話は聞いた覚えがある。

 

そのせいで、叔父のかわりに悟史が祟りの犠牲になる、なんて……梨花ちゃんみたいな小さい子の想像にしては気味が悪い結末だ。やっぱり本当に『予言』なのだろうか。

 

いや、待て、祟りなんて実在しない。するはずがない。

 

だとすれば……殺人事件や事故を起こしているのは、人間のはずだ。

 

何者かがオヤシロ様の伝説になぞらえて、人を殺し、その死体を隠している……と考えたほうがしっくりくる。

 

同時に、そのほうがはるかに恐ろしい想像であることに気づく。

 

……この平和な村に、そんな物騒な殺人者が潜んでいるっていうのか?

 

「圭一……」

 

つらそうな羽入の様子に気づいて、思考を中断する。

 

そうだ、一番不安なのは羽入たちに決まっている。

 

親しい友達である悟史や沙都子が被害に遭う可能性があるし、それを言ったら去年の犠牲になった両親をもつ羽入や梨花ちゃんだって安全だとは言い切れない。

 

それが神の祟りでも人間の犯罪でも……、そこに何者かの悪意は存在するのだ。

 

「……大丈夫だ、羽入」

 

「あぅっ!?」

 

俺は、さっきの梨花ちゃんと同じように羽入の身体を抱きしめた。

 

「羽入にも梨花ちゃんにも……悟史や沙都子にだって、手は出させるもんか。俺が絶対に守ってやる。この前原圭一が絶対だと言ったら、それは絶対なんだ!!」

 

腹を括る。

 

みんなを祟りなんかの犠牲にさせやしない。

 

成り行きだったとはいえこの村にやってきて、羽入たちと暮らし始め、あの奇妙な学校で悟史や沙都子、レナ、魅音……ようやく友達だって言えそうな奴等に出会った。まだ自信をもって仲間だって言えるほどじゃない、それは認める。

 

……けど。

 

なれるさ、絶対に。

 

これからいくらだって時間はある、夏も秋も冬も春も、その先だって、親父が家を建ててくれれば、俺はこの村にいつまでだっていられるんだ。

 

時間さえあれば、あの楽しい奴等と思い出を作っていける、積み重ねていける。

 

いつかは胸を張って、俺の仲間だって言えるようになる。

 

だから、俺は……その未来を守るために、戦うんだ。

 

過酷な運命とやらが俺を試すなら、お生憎様だな。

 

束になってかかってきても、この俺を屈服させられると思うなよ。

 

俺の未来はほかの誰でもない、俺が決めるんだからなッ!

 

「あぅあぅ、あぅう~!?」

 

羽入の悲鳴で現実に引き戻される。

 

見れば、真っ赤な顔をした羽入が俺の腕の中で身をよじっていた。

 

……あ、腕に力をこめすぎていたか。

 

「悪い悪い、大丈夫か?」

 

と力を抜いたら、羽入は酸欠気味なのかぼーっとした顔で俺を見ていた。

 

……って、顔が近くないか?

 

しかもなんか、こう……梨花ちゃんのときより感触がやたら柔らかいといいますか……。

 

最初見たときは低学年かと思った(ごめん)梨花ちゃんとは違って、しっかり発育してるんだな羽入は、なんて考えたらまともに視線を合わせるのが急に恥ずかしくなってきた!

 

「あ、ぅ……」

 

ほわほわした表情のまま一歩、二歩と羽入が後退する。

 

脳内梨花ちゃんが、なぜかやさぐれぎみな風情で『はいフラグ立った!』と旗を立てる。

 

ま、まさかこれは……!

 

閉鎖的な村にありがちな変わった風習で、男が女を夜道で抱きしめたらプロポーズを意味するのだとか言われてしまうのだろうか!?

 

「……そんな風習はないのですが、あぅ。そういう意味にとってしまっていいのですか?」

 

って、また喋ってたー!?

 

「い、いや、待て! いまのはその、親愛の情というかなんというか……」

 

慌ててそう言ったら、なぜか羽入はすこしがっかりした表情であぅ~と両頬をおさえて縮こまってしまう。な、なにか気まずい……あの六畳一間で寝食をともにする相手に対してこの感情はいろいろとまずい!

 

「そ、そうだ。これは萌えだ。親父が言うところの、萌えなんだっ!」

 

そうとでも思わなければやっていられない。それ以外だったら実にまずい。

 

「俺は、羽入萌えだぁあーッ!」

 

雛見沢の夜空に、俺の魂の叫びがこだましていった。

 

羽入が耳まで赤くなっていたのは……うん、その、見なかったことにしよう。

 

翌日は、朝から悟史とバイトだった。

 

羽入とも梨花ちゃんともなんだか顔を合わせていると落ち着かないのでちょうど良かったが、バイトを終えてもなんだかすっきりしないものが残っていて、すぐに神社へ帰る気分ではなかった。

 

自転車で村を適当に回っていたら、橋を渡ってしばらくいったところで川沿いの開けた地形に突き当たる。……いや、開けた、と表現するのが躊躇われるくらいに粗大ゴミがあふれていて、とても景色がいいとはいえないのだが。

 

「なんだこりゃ……」

 

どこにいっても自然の風景ばかりが続いていて、人の営みはその合間で細々と行われているようにしか見えないこの村に、こんな場所があったというのは驚きだった。

 

見回せば、奥のほうにフェンスに囲まれた一角があって、重機やらなにやらが放置されているのが見えた。それで、ようやくこの場所の意味がわかった。

 

「ダム現場ってのは、ここだったのか……」

 

思い出すのは、教室で聞かされたダム戦争の話。

 

それに……3年前の、ダムの現場監督が殺されたという事件。

 

詳細はわからないが、きっとあのフェンスの向こう側がその現場だったのだろう。

 

気味の悪さと所在無さ、どっちが上かとはかりかねていたら声をかけられた。

 

「あーっ、圭一くーんっ!」

 

ゴミの上でぶんぶんと元気良く手を振っていたのは……レナだった。

 

いつも学校で見るセーラー服ではなくて、白いワンピースにお揃いの白い帽子。

 

この場所にはとても不似合いだけど……、正直、レナの笑顔にはとてもよく似合っていた。

 

「おーう、レナ!」

 

手を振って叫び返すと、レナは小首をかしげてにこっと笑う。

 

まるで踊るように軽やかなステップで粗大ゴミの上を飛び跳ねながら俺のそばまでやってきて、体操選手みたいに「ほっ♪」と両手を広げて着地を決める。

 

……なぜかスカートの正面に開いた不可思議なスリットから、危うく足の付け根が見えてしまいそうな勢いだったので、思いっきり目をそらさなければならなかった。

 

なにあれ、なんであんな大胆なデザインなのッ……!?

 

という俺のもっともな疑問は、レナの発したとんでもない質問で吹き飛んだ。

 

「圭一くん、羽入ちゃん萌えってホント!?」

 

「なんで知ってるんだっ!?」

 

質問に質問で返す間抜けとはこの俺です、はい。

 

「やっぱりホントなんだね! 今朝からみんな噂してたんだよ。だよ☆」

 

にこにこと嬉しそうに、俺にとってはあまり嬉しくない事実を教えてくれるレナ。

 

俺が羽入萌え宣言をしたのは昨日の夜だというのに、24時間経たないうちにその話が村を駆けめぐっているとは……雛見沢の噂の伝播速度、恐るべし!

 

「レナもね、羽入ちゃん萌えだよ~。仲間だね、だね!」

 

とんでもなく嬉しそうなレナに、同類扱いされてしまったときの対処方法を誰か俺に教えてください。それだけが、私の願いです。って願いごとちっちゃいな俺!

 

でも、そうだな……確かに羽入は萌える。

 

さすがにいまは小学生なので世間的にいろいろとアレだが、来年は中学生なわけだ……さらに何年かしたらきっと綺麗になるだろうし、あの年で家事全般こなせるのは大したもんだ。冗談抜きで、嫁にもらってもいいかもしれないな……。

 

と、思わなくもないが……それをそのまま伝えてしまったのでは、俺の人物像とか理性とかが大ピンチになってしまう予感もあるので、ここは冗談で流すべきだろう。

 

「すまん……俺は、レナと仲間にはなれないんだ」

 

「え……、どうしてかな、どうしてかな」

 

レナは、悲しげな色を瞳に滲ませて俺を見る。そんなせつない表情をしないでくれ、思わずやっぱり同類になってしまいたくなるじゃないか。

 

それにしても、なんでこの村は可愛い女の子がごろごろいるのだろうか。

 

目の前のレナはもちろん、羽入や梨花ちゃんも可憐の一語に尽きるし、沙都子だって将来性は抜群だ。魅音でさえ親父くさいところさえなければ十分美少女の部類に入るのは昨日の件でよくわかったし……くっ、悟史。お前、俺が来る前からこんなある意味男のパラダイスで暮らしていたのかよ。あの天然ジゴロ、許せねえ!

 

俺は毅然とした表情をレナに向けて言った。

 

「俺は……、レナ萌えでもあるからさ!」

 

「……はぅ?」

 

俺の言葉に、レナは目を丸くしてぽかんとする。

 

その言葉の意味を理解するにつれて下から上へと目に見えてレナの顔が紅潮していき……頭頂部に達したあたりでぼんっと音をたてて帽子が上に飛んだ……ような気がしたけど、これはさすがに目の錯覚だよな!?

 

「は、はぅぅううッ!?……け、圭一くん、何を言ってるのかな、かなッ!?」

 

物凄く狼狽えているレナの可愛さときたら、昨日の羽入に勝るとも劣らない。

 

「ぅ、嘘だよね、嘘嘘嘘、絶対嘘だッ!」

 

……などと言われて、嘘だと言えるだろうか?

 

だってレナが萌えるのはどうしようもないくらいに事実じゃないか。

 

だから俺は、慌てるレナの両肩をがっしと捕まえて、言ってやった。

 

「嘘じゃない。レナはめちゃめちゃ可愛いぜ!」

 

「そ、そんなことないよ!」

 

レナはまるで刑事に問いつめられる容疑者のような必死さでぶんぶんと首を横に振る。

 

「レナ、可愛くないよ。変な子だよ!」

 

「俺は変な子、大好きだぞ!」

 

というか、この村、可愛いけど変な子しかいないし。

 

「圭一くんは知らないんだよ! レナ、危険人物だよ!」

 

「ちょっと危ういその魅力がラブリー!」

 

というか、この村、可愛いけど危険な子しかいないし。

 

「ほんとのレナを知らないからだよ、嫌いになるよっ!」

 

「……たしかに、知らないな」

 

ふと真顔に戻ってそう言ったら、レナが目をまんまるにして俺を見る。

 

「だったら賭けようぜ。これから俺がレナをもっと好きになるか、それとも嫌いになるか」

 

にやりと笑って、親指を立てながら言ってやった。

 

「もちろん俺は、好きになるほうに賭けるぜ!」

 

レナはしばらくぽかんとしていたが……しばらく経って、ふにゃっと笑顔になった。

 

「レナも、嫌われるほうに賭けるなんてイヤかな……」

 

くすくすと笑いながら、レナは身体の後ろで手を組みながらふわりとターンして俺から離れる。

 

そして黄昏の柔らかなオレンジ色の光の中で、穏やかに微笑む。

 

「あはは……。圭一くんは、やさしいね」

 

でも、なぜか……そのときのレナの表情は、泣き笑いみたいにみえた。

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