ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

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第50話 前原圭一の単調な日常

「くっくっく……いいのか、たった一分で」

 

あの連中、この俺の怒りがどれほどのものかまだわかっちゃいねぇようだな。すぐに後悔させてやる、前原圭一という危険人物を本気にさせたことをな!

 

それにしても詩音の奴、メイド服4人ぶんちゃんと用意できるんだろうな。半端は許さないぜ、なにしろ圭一ハーレム王国という遠大な野望がかかってるんだからな。

 

奴等はきっと思い知るのさ、俺に逆らうことの愚かさを、そして理想のご主人様に巡りあえた喜びを……わずか一日だからどうした、それで十分だ。

 

俺にそれだけの時間があれば、お前らの身も心も圭一様のメイドに変えてやるぜぇえッ……!

 

「……?」

 

って、そろそろ一分どころか二分くらいは経ってると思うんだが……。

 

そう思ってうんともすんとも言わないキッチンタイマーを覗いてみたら、残り時間が表示されるべき窓にはなんの数字もなかった。あれ、おかしいな……時間は1分に合わせてあるし、ちゃんとスイッチはオンになってるのに……。

 

「なぬッ!?」

 

よく考えたら電源コードがささっていない。これじゃ動くわけないじゃないか!

 

……そうか、だから詩音の奴、『時間が来たら追いかけていい』なんて言ったんだな!?

 

そうとは知らない間抜けな俺は、タイマーからなんらかの音が鳴ったりするのを期待して、ここで無駄に時間を過ごしちまったってわけかよ……!

 

「くそ、こしゃくな真似を! この程度で時間を稼げると思うなよ……!?」

 

役立たずのタイマーを投げ捨てると、俺は早速行動を開始する。

 

まず狙うべきは……当然、運動神経と要領の悪さを兼ね備えた羽入だ。

 

それにあいつなら、シュークリームをおごってやると約束すればこちらの味方につけてほかの3人の居場所を探させることも可能なはず。くっくっく、戦いは数だよ兄貴!

 

羽入が走っていったのはたしか、校舎裏だった。

 

別に頭は悪くないのだが部活の戦場では要領の悪さが目立つあいつのことだから、おろおろしながらどこかに隠れようとしているはず……む!

 

朝、レナと激闘を繰り広げた体育倉庫前まで来て、俺は足を止めた。

 

体育倉庫の扉が……開いている!

 

もちろんそれだけでそこに羽入がいると決め付けるのは賢明ではない。ほかのクラスの子たちが遊び道具を持ち出したときに閉め忘れたのかもしれないし、俺に中を調べさせて時間を稼ごうとする、梨花ちゃんあたりのトラップということも当然考えられる。

 

ここは、押すべきか。それとも引くべきか……!?

 

迷いながら倉庫の扉の前まで行った俺は、聞き耳を立てる。人の気配がするなら、押し込んで取り押さえる……!

 

「あぅあぅあぅ、どこに隠れたら……!」

 

がくんと顎が落ちそうになった。隠れる以前に、普通に声が丸聞こえだぞ羽入!

 

体育倉庫の中という逃げ場のない空間にいるときにこの俺に捕捉されるなど、迂闊に過ぎる……ふん、羽入など我ら部活メンバーの中で最弱の存在よ!

 

がらりと扉を開き、両手を広げて飛び込む!

 

だが!

 

「……いない、だと!?」

 

馬鹿な、あの声は幻聴だったとでもいうのか。そんなはずはない、気配だって確かにしたし、窓はあるけど高い位置で、敏捷とはほど遠い羽入がわずかな時間であれを潜り抜けてその上外から閉めていったなどとは信じ難い。もちろん姿を消したり壁を通り抜けたりなんて非人間的なことができるはずはない。

 

落ち着け前原圭一、クールになるんだ。羽入はこの部屋のどこかに、必ずいるッ!

 

「羽入ぅ……どこだぁ~?」

 

隙をついて逃げられてはかなわないので、がらがらと後ろ手に扉を閉めながら声をかける。

 

「!」

 

……聞こえたぞ。場所までは特定できないが、小さくひっと息を呑む声がした。羽入は間違いなく、この体育倉庫に隠れている。ならばそれはどこだ……?

 

もっともありそうなのは、跳び箱の中に隠れるという、隠れんぼならば常套手段とも言える作戦だ。だが……そう思わせておいて、ドッジボールのボール籠の後ろとか、積み重なったマットの間で息を潜めているというのも、ありえる……。

 

そしてそのどれかを確かめて外れてしまったときは、さすがの羽入でも隙をついて逃げることは十分に考えられる。

 

よ~く観察しろよ、圭一。観察するっていうのは、『見る』んじゃあなく『観る』ことだ。『聞く』んじゃあなく『聴く』ってことだ……むむ!

 

跳び箱の下から4段目と5段目の間、白い布のようなものが挟まっている。

 

あれはおそらく体操着。この前原圭一ともあろう者が、ただの布切れと女子体操着の放つ輝きの違いを見分けられないわけがない。つまり、羽入は……ッ!

 

「見つけたぞ……ここまでだ、羽入!」

 

俺は跳び箱へと素早く駆け寄り、その上へと飛び乗った!

 

そして視線を上にあげると……、

 

「あぅあぅあぅ……!?」

 

跳び箱に乗らなければ死角になるような吊り棚の上、そこに羽入が隠れていた。小柄で体重の軽い女の子だからこそできる荒業だ。

 

「あの体操着はフェイク、跳び箱を開けばそこには誰もいない。羽入は囮として体操着をここに残してほかへ逃げた、そう思わせるための小細工……そうだな、羽入?」

 

にやりとしながら言ってやると、羽入は観念したような表情になる。

 

「そもそもあれじゃ体操着の位置が上過ぎるぜ。座った体操着の裾が挟まれるなら下から2段目くらいだ(具体的)。重くて動かなかったんだろうが、仕掛けが甘かったな」

 

「あぅ……僕の負けなのです、圭一。実は自分で降りられなくて困っていたのですよ、手を貸してほしいです」

 

「あっはは、まったくしょうがないやつだな。だいたい、なんて格好だよ!」

 

「あぅう、あんまり見ないでほしいのです……」

 

体操着を脱いだからといって、着替えを持ち込む余裕まであったわけではなく、羽入は上半身下着姿だった。あの短時間でとっさにここまでする根性と機転は、やはり部活メンバーと言ってもいいのかもしれない。

 

胸を隠した羽入を両手で横抱きにしたところで、いきなりぴしゃりと体育倉庫の扉が完全に閉ざされる。

 

「何ッ!?」

 

扉の向こうからは、くすくすくすという笑い声と、鍵をかけたらしい音。

 

「甘いわね、圭一。誰か一人でも逃げおおせればいいルール。この私、古手梨花が……我が姉、羽入を囮にしないとでも思ったの!?」

 

しまった……!

 

この体育倉庫と羽入、それ自体が梨花ちゃんの仕掛けた巨大なトラップだったとは……。これで倉庫から出られなければ自動的に時間切れで俺の負け、どうにかして出られたとしても大幅に時間をロスしてしまうことは確実……!

 

やるじゃねぇか、あの幼女!

 

「あぅ!? 梨花ぁ、僕を餌に使うなんて酷いのです!」

 

じたばたと羽入が暴れるものだから、跳び箱の上という不安定な足場にいる俺はぐらりとバランスを崩してしまう。

 

「は、羽入、暴れるな……!」

 

「あぅあぅ!?」

 

どうにか身体をひねって、羽入の下になるようにしながら積み重ねられたマットの上に落下する。衝撃でたまっていた埃がもうもうと舞って、俺たちはけほけほと咳き込んだ。

 

「くすくす……羽入、せっかくだから圭一に可愛がってもらうのね。時間終了まで圭一をそこから出させなければ、私たちの勝ちでもあるんだから一石二鳥でしょ?」

 

悪魔の囁きを残して、梨花ちゃんの気配が倉庫の前から遠ざかっていく。

 

「あ、あぅ……そういわれても、ですね……」

 

息を整えた羽入が、困惑顔で自分の下敷きになっている俺を見下ろす。

 

「……圭一、あんまり見ると恥ずかしいです」

 

そう言いながらも、ぽわぽわした表情のまま胸を隠そうともせずに見つめてくる。

 

「羽入、正気になれ。マウントポジションとってる場合じゃないだろ」

 

「でもですね、圭一。これは部活ですから、勝利のためにはどんな手段だって使うのが当然なのです……い、色仕掛けだって、立派な戦術なのですよ。あぅ!」

 

ふるふると身を震わせながらも、俺の足止めを買って出ることを決めたらしい。やれやれ……羽入は本当に健気なやつだな。ときとして感心してしまうくらいだ。

 

「でもな、羽入」

 

「……圭一。鬼ごっこなんて忘れて、僕を可愛がってほしいです」

 

そう言ってゆっくりと顔を近づけてくる羽入だったが、あと数センチというところではっと目を見開いてぴたりと動きを止めた。

 

「……こ、この感触……あぅ、まさか!」

 

「そのまさかだぜ、羽入……!」

 

俺はにやりと残忍な笑みを向ける。その意味するところは……!

 

「ブラずれてるぞ」

 

「あぅあぅあぅ! 酷いのです酷いのです、もっと早く言ってほしいのです!」

 

ぼんっと顔を赤らめた羽入は泣きながら胸を両手で隠して、俺から離れようとしたがマットの山の上から転げ落ちそうになったので、とっさに抱きとめてやる。

 

「あぅ……、は、恥ずかしさで死ねそうです……」

 

消え入りそうな声で喘ぐ羽入に背中を向けさせ、ブラをつけ直してやった。というか、俺の体操着に素肌で触れる前に気づけよ……常識的に考えて。

 

ちなみにずれたのはあくまでもさっき落ちたときの不可抗力だ、俺は悪くないぞ。一緒に暮らしていてもお目にかかったことのない素敵な光景を前にして、思わず目を奪われてしまったのは事実だがな。とりあえず俺の心のメモリー、レナとの思い出の隣に光の速さで保存したぜ!

 

ついでに跳び箱に引っかかっていた体操着を引っ張り出して、羽入に渡す。

 

「羽入よ、お前をこんな目に遭わせたのは誰だ?」

 

「あぅ?……強いて言うなら、梨花でしょうか」

 

体操着を着終わって小首を傾げる羽入にさっと手を差し出した。

 

「ならば俺と来るがいい。お前にその恥辱を与えた梨花ちゃんへの復讐に手を貸せ。奴らに平穏は与えぬ、俺が勝った暁にはお前を我がハーレム王国のメイド長に任命し、俺の隣でおやつのシュークリームを楽しむ権利を与えてやろう。悲しみを怒りに変えて、立てよ国民よ!」

 

「け、圭一……! 僕は圭一のハーレム王国に忠誠を誓うのです!」

 

羽入は俺の伸ばした手を、両手で握り締めて力強く頷いた。

 

「よぅし、その意気だ。まずは脱出するぜ羽入!」

 

「あぅ!」

 

羽入を寝返らせた俺は、二人で協力しながら窓から脱出した。

 

「いいか、ここからはいったん別行動だ。羽入は校舎の中に誰か隠れていないか探せ。俺は校庭を調べてから合流する!」

 

「わかったのです、ご主人様!」

 

羽入と二手に分かれた俺だったが、営林署の重機が並ぶ一角へ進んだところで立ち止まる。いや、立ち止まらざるを得なかった。

 

不敵に腕を組んでその場に佇むのは詩音、鬼の名を持つ鋼の部長!

 

「くっくっく……沙都子が一時離脱している今、我が部の策謀を担う梨花ちゃんの張ったトラップをたったこれだけの時間で潜り抜けてくるとは……前原圭一、侮れないね」

 

「く……!」

 

腕組みをすると巨砲がより強調されるなぁと余計なことに戦慄してしまう俺だった。

 

う、いかん……、さっきの映像やら感触やらがオーバーラップして変なほうに想像力がかきたてられてしまうじゃないか!?

 

「……な、なんかおかしな方向に思考が転がってない、圭ちゃん!?」

 

せっかくの口上をなんともしまりのない顔で聞く俺に、不服そうに口を尖らせる詩音。

 

「き、気にするな。俺も気にしない。というか、これ以上気にすると石化してしまうのでぜひ話を進めてくれ!」

 

俺の必死な様子をどう受け取ったのか気を取り直した詩音は話を続ける。

 

「こほん、……ともかく圭ちゃん。身の程知らずにも私たちに喧嘩を売ったんだ、すこし痛い目に遭ってもらおうかね……!」

 

言いながら、詩音は身を低くして構えをとる。

 

力ずくで来るつもりか……!?

 

だが格闘戦ならば、詩音の身体に触れるチャンスなどいくらでもある……!

 

「くっくっく、さっき自分がどういう目に遭ったか忘れたわけじゃないよねぇ!?」

 

そう言いながら詩音が取り出したのは、……スタンガン!

 

くっそ、鬼ごっこにスタンガン装備って、そんなのありかよ!?

 

「あ、甘いな。その武器はリーチが短い。こっちだって武器を持てばいいってことだ!」

 

素早く横へ飛び、ほかの子が放り出したらしいバットをひっつかんで構える。これで懐に飛び込まれない限り、あのスタンガンは脅威になるまい!

 

「はっ、甘いのはどっちかね。リーチのある武器を持ってるのが自分だけだとでも!?」

 

「何ッ!」

 

瞬間、足元の地面に走った影を見て、とっさにバットを頭上へと跳ね上げた。

 

がいんっと金属音が響き渡り、俺は転がるように離れて校舎の壁を背にする。

 

「……レナかッ!」

 

「あはははは、よく避けたね、よく避けたね!」

 

笑いながらびゅんびゅんと鉈を振り回す正統派ヒロイン。

 

詩音が絶対の自信を持っていたわけがわかる。屋根の上から俺の頭上へと忍び寄ったレナが、飛び降りながら鉈による峰打ちを仕掛けてきたのだ。

 

……てか怖えーよお前ら!

 

「鬼ごっこに鉈やスタンガンを持ち出すなんて本気すぎるのにもほどがあるだろ!」

 

「泣き言は聞きたくないね……これは真剣勝負だってこと、忘れたの!?」

 

詩音が距離を詰めてくる。同時に、レナも俺の退路を塞ぐかのように動いていた。ぞくりとするような殺気を全身に浴びながら、二人の息の合った動きに対処するすべはないかと思考を回転させる、が……。

 

何も思いつかない!

 

「くそおおっ!」

 

ばしっという音がして詩音が小さく悲鳴をあげスタンガンを取り落とす。同時に俺は背後のレナが振り下ろしてきた鉈をバットで弾き返して叫んだ。

 

「……悟史ッ、恩に着るぜ!」

 

そう、数メートル先に立っていたのは悟史だった。やつの投げたホットおしるこの缶が、詩音の手に命中してスタンガンを叩き落したのだ。

 

「圭一、事情はわからないけど間に合ってよかった……!」

 

悟史はぐっと拳を握り締めて叫ぶ。

 

「田舎の自販機をなめちゃいけない……、冬から入れ換えてないあったか~いホットおしるこの缶が、商店街にあったのを思い出したんだよ!」

 

「いや、今そこは重要なポイントじゃないから!」

 

躍りかかってくるレナの鉈を受け流しながら必死で叫ぶ。

 

「そ、そうなの? むぅ……」

 

「とにかくこっちを頼む! こいつは俺のプライドがかかった一戦なんだ!」

 

言い終わるのと同時に悟史へとバットを投げ渡し、それを空中で受け止めた悟史が追撃してくるレナの前へと飛び出す。

 

「わかった、レナは僕が食い止める!」

 

言葉通りに背中を預け、俺は詩音ひとりに対処することにした。ぶっちゃけ鉈持ったレナに勝てる気がしないので、ヤバいほうを任せたのは秘密にしといてくれ。

 

がんがんという打撃音と悟史の悲鳴を背中で聞きながら走ったが、詩音はすでに落としたスタンガンを取り戻して構えるところだった。

 

「悟史を引き入れるなんて、圭ちゃんもやることがセコいね……くっくっく!」

 

俺は素手、向こうは一発で俺の敗北を決定付ける無力化兵器。

 

かてて加えて、単純な力比べならともかく運動能力では明らかに詩音が上!

 

まともに相手をすれば勝てるわけがない、それを承知している俺は詩音を視界にとらえたまま校庭で遊んでいるクラスの子たちの真ん中へと走りこんだ。

 

「撹乱のつもり? だめだめ、そんなんじゃあらぶらぶデートの権利は譲れないね!」

 

小さな子たちの間を鮮やかにすり抜けてくる詩音、その速度は明らかに俺よりも速い。これじゃあ逆に、追いつかれるだけだ……!

 

「うわ、前原さん!?」

 

しまった、と思ったときにはもう遅い。

 

詩音のほうを気にしていたせいで富田くんにぶつかって、もろともに転んでしまった。

 

「いたた……ひ、ひどいですよぉ」

 

「わ、悪い……く!」

 

その間にも詩音は追撃の手を緩めず、わずか数メートル先まで迫ってきていた。

 

「頼む、見逃してくれ!」

 

思わず泣き言も口をつこうというものだが、詩音は笑って流す。

 

「あはははは、だぁぁめぇぇぇぇぇえ!」

 

狂気にも似た表情でスタンガンを振り下ろしてくる詩音に、俺もジョセフ・ジョースター(第3部)ばりに笑みを返した。

 

「……なら、しょうがないな」

 

転んだときに富田くんが取り落としていたものを構えて、ほとんどゼロ距離で引き金を引いていた。

 

「わぷっ!?」

 

ばしゃりと勢いよく飛び出した水が、詩音の顔面を襲う。

 

そう……、富田くんと岡村くんは水鉄砲で遊んでることが多いのだ!

 

「く……う、このくらい……!」

 

詩音は顔を拭いながら俺から距離をとる。そう、これは鬼ごっこであり、鬼の俺に触られたら負けになるのだから当然だろう。

 

「スタンガンのスイッチ、切ったほうがいいんじゃあないのか? 俺はお前の感電するところなんて見たくないぜ」

 

俺は水鉄砲を構えながら立ち上がり、強気で前にでる。

 

「そんな口車に……!」

 

身体の後ろへスタンガンを隠す詩音、それでスタンガンと右腕を水鉄砲の攻撃から守り、俺が間合いに踏み込んだなら即座に死角から繰り出してノックアウトしようという必殺の構えだ。

 

この場の相手が俺以外ならば、……あるいは勝算もあっただろうにな!

 

「終わりだ!」

 

俺が引き金を引くのを見て、詩音は前に出している左腕で顔をかばった。当然だ、いまの状況では視界を奪われないことが第一!

 

だが、俺が狙ったのは顔ではなく……詩音の体操着!

 

「うひゃあッ!?」

 

大量の水を浴びて、一瞬にして詩音の肌と下着に体操着の生地が張り付く。

 

「お、おぉー!? さすが前原さん、僕たちにできないことを平然とやってのける!」

 

「そこに痺れる憧れるッ!」

 

富田くん岡村くんが目を見張るが、詩音はスタンガンで片手がふさがっていて、そのあまりにも優美な透け透けメロンを片手で隠しきれるはずがない……!

 

「い、嫌ぁあ……ッ!?」

 

だから、俺が隠してやった。真っ赤になって狼狽する詩音を素早く引き寄せて胸に抱き、年少組の男子たちの視線からガードしてやる。

 

「お前の負けだな、……詩音?」

 

耳元で本名(推定)を呼んでやると、詩音は力なくうなだれて、スタンガンをそのまま取り落としてしまう。そしてぎゅっと両手で俺にしがみついてきた。

 

「もぉ……圭ちゃん、酷いです」

 

「ごめんな。どうしても……お前のメイド姿が見たかったんだ」

 

至近距離で笑いかけてやったら、はぅあぅとレナなんだか羽入なんだかわからない声をあげながら詩音の全身から力が抜けていくのがわかった。

 

仕方ないので、俺は自分の体操着を脱ぐと詩音の頭からかぶせてやった。

 

「悪いな、すぐにレナと梨花ちゃんを片付けてくる」

 

「う、ぅん……が、がんばって……きゅうぅん☆」

 

俺の体操着を着込んで襟元に顔の下半分を隠し、なにやら赤い顔で深呼吸している詩音は実に弱々で可愛かったが、それをいつまでも鑑賞しているわけにもいくまい。

 

そう……、男には、戦わねばならぬ時があるのだ!

 

「前原さん、漢を見ましたッ!」

 

「あなたについていきますッ!」

 

岡村くんと富田くんが口々に言ったが、俺は空の彼方を見つめて首を横に振った。

 

「……往く道は険しく、辿り着くべき場所は遥かに遠い。その果てにあるのが修羅の定めと知りながら、可愛い後輩たちを連れていくことなどできるはずもないだろう……」

 

笑いながら水鉄砲を富田くんたちに返して、再び戦場へと向かう俺。

 

「ま、前原さぁーん!」

 

「ハーレム独り占めっスかぁー!?」

 

二人の惜別の声を背に受けて、俺は……進み続けるッ!

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