ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

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第55話 驚きの白さと柔らかさ!

「怖かったに決まってるだろ。常識的に考えて」

 

夜の散歩で圭一に尋ねたら、彼はそう言って苦笑した。思い出しても寒気がすると言うように身を震わせる。

 

「あの婆さんは絶対人斬ってるだろ。刀振り回した瞬間の躊躇のなさはレナに匹敵したな」

 

「そこでお魎と比較されるレナの将来が心配なのですが……」

 

というのが僕の正直な感想だったのだけれど、圭一は実体験だといって肩をすくめた。圭一とレナがダム現場でしょっちゅう戦闘訓練をしているのは知っていたが、なんとも恐ろしいことにあの場でしたのと同じこともたまにやっているらしい。

 

……すなわち、鉈を手にしたレナめがけて素手で飛び込むという練習だ。

 

もちろん基本的にはどうタイミングをはずしてかわすか、あるいはさばくかというのが主眼だし、レナは原則として鉈の峰を向けているのだけれど……当たれば大怪我をするのは同じことだ。

 

「いつでも武器を用意できるとは限らないからな。逃げるに逃げられない状況ってのもある。そのときのための訓練だな」

 

それが功を奏したと言っていいのか、圭一には武器を持った相手と対峙する恐怖を克服する下地がすでにあったということだ。

 

「……レナと圭一がどこを目指しているのか僕にはさっぱりなのです」

 

相変わらず腕立て伏せや腹筋、走りこみなどで基礎体力づくりを進めながら、二人がしている訓練はいわゆる格闘技とか武道にあたるものではない。武器の使用や急所攻撃、効果的な逃走などを含めた、実戦のみを想定したトレーニングらしい。

 

メニューを作っているのは主にレナだというからさらに恐ろしいと思うのは僕だけ?

 

「この腕の怪我でまたすこし遅れちまうな……だいぶサンドバッグ揺らせるようになってきたのになあ!」

 

速射砲のような連打、いわゆるレナぱんで相手の動きを止めて牽制し、急所への一撃を見舞うレナの戦法は、天性のスピードに恵まれた彼女だからこそできる離れ業。

 

それを理解した圭一が教えを乞うたのは、レナがかつて沙都子の叔父に対して行ったという先制攻撃、体重と加速度を乗せた拳による一点集中突破。例の燃えアニメ的なアレだ。悟史のバットを叩き落したことや今回のお魎との激突でも一応役に立ってはいるし、圭一の好みには合っているようだから文句を言うつもりはないけれど、無鉄砲を形にしたような戦法に対して不安を覚えてしまうのは僕だけではないだろう。

 

「……そんな顔すんな」

 

圭一はそう言って僕を撫でてくれた。

 

「羽入の言いたいことはだいたいわかる。そこまで無理して嘘つくなってんだろ?」

 

「あぅ……」

 

図星だった。

 

圭一がいい加減逃げたいと思っているのに僕が強要したからこそ耐えているのだとすればさすがに申し訳が立たない。

 

「俺のやってるのが虚勢、空威張りに過ぎないってことを羽入が知っててくれるのは、俺にとっては心強いんだぜ? まぁレナあたりも勘がいいから、薄々感づいてるっぽいけど……最近、思うようになったんだ」

 

圭一は立ち止まると、夜空に向かって左手をまっすぐに天へと差し伸べた。

 

「人間ってのはさ、嘘みたいなことを本気でやろうとする馬鹿がいるから前へ進んできたんじゃないかって。昔の連中は人間が空の向こう、宇宙に飛び出していけるなんて思ってなかった。けどその嘘くさい話を本当に変えてやろうって馬鹿がどっかにいたから、そいつの魂のエネルギーでロケットは大気圏をブチ破った。大地が平面で海の向こうは滝みたいにどっかに落ちてるってのが常識だった時代に、地球は丸い、ひたすら前に進めばどっかに辿り着けるなんて嘘くさい話を信じた馬鹿がいたから、そのエネルギーを帆に受けて世界は広がっていったんだ」

 

まるで空を掴むように、ぐっと拳を握り締める。

 

圭一の瞳には、星にも負けないほどのきらめきがあった。

 

「だから俺は、その馬鹿になる」

 

……あぁ。

 

もう僕がやめろといったところでそれは届かない叫びだと理解する。

 

人の子が天にも及ぼうとするならば、不可能という名の重力を振り切るだけの決意が必要で、圭一はもはやそれを固めてしまった。賢い回り道や諦めるための言い訳がいくらでもあるのに、彼はそれを余分な重しだと決めて窓から投げ捨ててしまった。

 

「俺は自分が凡人だってことはよくわかってる。レナや魅音に比べればなにもできないただのガキだってことも知ってる。……でも、それがなんだってんだ?」

 

握り締めた拳を顔の前に引き戻し、圭一は自分の進む道の険しさを厭わず笑ってみせた。それがやせ我慢だとわかっていても……頼もしく思えた。

 

「俺じゃなきゃやらないこと、俺にしかできないことがどっかにある。それが、前原圭一がここにいる理由なんだ」

 

「……圭一」

 

僕は、彼のその手を両手で包み込む。

 

「ん」

 

それを胸元に導いて、目を閉じた。

 

「馬鹿は死ななきゃ治らないって言うのです。……だから、絶対に死なないでください」

 

やっぱり、僕も……馬鹿なんだろうな、と思う。

 

「なにがあっても死ななければ……圭一は、たぶん無敵なのです」

 

そう言って笑ったら、圭一も笑い声をあげた。

 

「たぶんかよ!?」

 

傷ついても敗れても戦うことをやめないほどの馬鹿がここにいる。完膚なきまでに殺さない限り絶対に止まらない、退くことなど知らない馬鹿が。だから決して折れない、曲がらない。最後までまっすぐに駆け抜け、目標を貫くのだ。

 

そう、圭一の言うとおり。

 

……世界を変えられるのは、世界に挑めるのは、その困難さを知りながらもあえて無視するような馬鹿だけだ。

 

もしもこの世に神すら及ばぬ強固な意志というものが存在するなら、それを打ち壊せる強さを持つのはただひとつ、一点集中突破型の途方もない馬鹿なのだ。

 

そうなれない僕たちにできるのは、その支えになること。

 

圭一が思う存分馬鹿を貫けるように支えるのが、僕たちの役割。

 

「……ところで羽入」

 

「あぅ?」

 

また歩き出してしばらく経ってから、圭一が周囲に視線を走らせながら囁く。

 

「今日はいったいどこまで俺を連れていくつもりなんだ?」

 

「……あぅあぅ?」

 

意識することもなく歩いていたら、いつの間にか裏山の半ばまでやってきていた。

 

「この先って、隠し湯だよな……。ま、まさか俺が片腕使えないのをいいことに襲うつもりなのか!?」

 

思わず角で地面をえぐりながらスライディングしたくなるくらいにアホな発言だった。馬鹿だったりアホだったりとつくづく忙しい人だ。

 

「あぅ……圭一じゃあるまいし、僕は襲ったりしないのです!」

 

跳ね起きて文句を言ったら、圭一は心外そうな顔をする。

 

「失敬な。俺はいつだって合意の上だぞ。……お仕置きを除けば」

 

「そのお仕置きが問題なのです! 圭一の下郎、痴れ者、罰当たり!」

 

ぽかすか殴るけど、さすがに3ヶ月も鍛えてると身体ができてきたのか、僕の非力な攻撃では圭一はびくともしなかった。

 

それどころか遠くを見つめる余裕があるらしかった。

 

「父さん、母さん、元気にしてるかい。遠い空の下で暮らすあんたたちの一人息子は、横暴な家主に殴る蹴るの暴行を受けながらもぐっと涙をこらえて生きてるよ」

 

「あぅ……人聞き悪いのです」

 

殴りつかれてぜーはーと肩で息をしながら圭一の胸に突っ伏す僕だった。

 

圭一はそっと僕を抱きながら、思い出したように言う。

 

「そういえばさ、今度親父たちに呼ばれてるんだが」

 

「あぅ? 東京へですか?」

 

「ん。今後のことを話し合いたいから、羽入たちも連れてこいって」

 

「今後のこと……?」

 

ちょっと首をかしげて、圭一を見る。

 

「姉妹揃って圭一に傷物にされたぶんの莫大な慰謝料のお話でしょうか」

 

「それこそ人聞き悪いわッ!?」

 

「僕の希望としては、生涯にわたり毎日3シュークリームくらいが妥協点ではないかと思うのですが……」

 

「安ッ!?……ってそうじゃねえ!」

 

さすが圭一、いまの一瞬で暗算したらしい。

 

「違うのですか、残念無念です……すこしわくわくしてしまったのです」

 

なに考えてやがるという顔をする圭一だった。

 

……普通に考えれば、話というのはあれしかないだろう。

 

「では僕と梨花、どちらの婿になるかという……」

 

「違ぁーう!」

 

あぅ、最後まで言わせてほしいのです……。

 

「要するに、もう来月末くらいには家が建つ予定だからさ。いまの状態をどうするかって話だよ。俺は半年近く居候してることになるわけだし、羽入や梨花の意向も確かめないとダメだろ。……来てくれるか?」

 

話の内容はだいたい予想どおりだった。

 

もともと圭一が雛見沢にやってきたのは梨花の意向だったのだし、もうすっかり圭一の家族と言っていいくらいに親密になった僕たちと、今後の圭一の身の振り方を話し合いたいというのは自然な流れだろう。

 

「……申し訳ないのですが、僕は神社のお仕事が忙しいので頭首代理として梨花を派遣しますのです」

 

でも、さすがに雛見沢から東京に出るのは半日がかりだ。

 

とても日帰りで行って帰ってこられる距離ではない。僕が最低でも二日雛見沢を留守にするというのは、入江たちの許可が下りないだろう。

 

女王感染者が雛見沢を離れた場合の影響について、実証されたデータというものがない以上、入江たちが慎重になるのもわからなくはない。

 

「そうなのか?……俺が前日まで手伝うからさ、それじゃダメか?」

 

「古手家頭首として、みだりに神社をあけるわけにはいかないのです。これはしきたりのようなものなのですよ」

 

別に口からでまかせというわけじゃない。古手の長子は村を出るな、というしきたりは実際にあり、過去に僕が雛見沢をもっとも遠く離れたのはせいぜいが穀倉までだ。そもそもこの外見では、あまり街に出たいとも思わないのだけれど。

 

「そっか……。旅行とかしたことないって言ってたから、喜ぶかと思ってさ……ごめんな」

 

しょんぼりした様子の圭一。でもその心遣いに胸があたたかくなる。僕に外の世界や、圭一の育った場所を見せてくれるつもりだったのだろう。

 

……うん。できることなら、圭一や梨花と一緒に、まだ見ぬ世界を歩いてみたかった。

 

でも、仕方ない。僕はこの村が大好きで、僕のささやかな我慢でこの村を守ることができるなら、我が儘を言うわけにはいかなかった。

 

「いいのです、圭一。僕はその気持ちだけで、とても嬉しいのですよ」

 

「む。……どのくらい嬉しい? 30文字以内でその喜びを表現しなさい」

 

また圭一が何か変なことを言い出した……。

 

「どのくらいって、あぅ。……43シュークリームくらいでしょうか」

 

「わからん! その単位、まったくわからねぇッ!?」

 

うがーっと頭を抱えて吠える圭一だった。

 

……毎日のように思うことだけど、監視の山狗は僕たちの会話する様子を遠巻きに見て、どんな感想を持ってるんだろう……。

 

「金額的にはたいしたことないけど、言ってるのが羽入だから1シュークリームでも物凄い喜びの量なのかもしれないと思ってしまうじゃないか。やはり独善的な単位はいかん。もっとこう、俺のような凡百の夫にでも理解できそうな表現で言ってくれプリーズ」

 

圭一はすでに凡百の夫とやらを超越してしまっている気がするのですが……。

 

「あぅあぅ……ではその、圭一の日常で言いますと、巫女仕様の僕と梨花が、ツイン甘々フルコースをねだってくる程度の嬉しさではないかと」

 

「なんだとぅ! そんな楽園昇天級のとてつもない嬉しさだっていうのかよ!? やべえ、俺は気づかぬうちに羽入の人生の未練をことごとく駆逐しちまったというのか……!」

 

み、未練をことごとく駆逐……あぅ、そんなに嬉しいのでしょうか。わりと圭一にとっては日常茶飯事に近いことを言った気がするのですが。

 

「圭一、やり直しを要求するのですプリーズ」

 

「そ、そうか。そうだよな。いくらなんでもそこまでじゃないよな。いまのは想像しただけでこう『こっからヤバい領域に突っ込んでいくぜ……!』って独特のタッチでやけにリアルな運転中の無表情を演じたくなってしまったからな」

 

圭一の言っていることがさっぱりわからない。

 

「ではですね……スクール水着仕様(ニーソ装備)の魅音とレナが、どっちとポッキーゲームをしたいかと四つん這いの上目遣いで迫ってくる程度なのです」

 

「マジかッ!? どうみても30文字超えてる上に嬉しすぎるだろそれ!? つーか狂おしいぃぃぃ……いったいどっちを咥えればいいんだよ、この世にゃ神も仏もいねぇのか、どっちもって選択はダメなのか!? それにその角度は反則だろぉお!」

 

叫びながらごろごろと地面を転がる。

 

……これでもそんなに嬉しいのですか。圭一の嬉しさの基準が掴めないのです。

 

「あぅう! これが、夫婦間における相互の無理解というものでしょうかっ」

 

「一応は男女間にしておいてくれると嬉しいが、そんなところだな……ふぅ。こんな時間に恐ろしい妄想を展開させて俺を悶えさせやがって羽入め。覚悟はできてるんだろうな。家に帰ったら風呂場で全身運動をしてしまいたくなる俺がいるぜ……」

 

「思いっきり口に出てる上に、是非一人でお願いしたいのです、あぅあぅあぅ!?」

 

慌ててそう叫んだら、圭一はきゅぴーん☆と目を光らせた。

 

「ほほう、羽入さんよ。全裸でヒンズースクワットをするのに、一人でする以外のどんな選択肢があるのかぜひ教えてほしいものだぜ。全裸で」

 

「あぅう!? なんという言葉責めッ、圭一が意地悪モードに入ると健全さのパラメータが大変なことになるから自重するのです下郎、あと文末に余計なものをつけるなと主張したい僕なのです!」

 

「なんだとぅ、俺的にはそこが最重要ポイントだぞッ!?」

 

道のりに人家がなくて近所迷惑にならないのをいいことに、ぎゃーぎゃーと喚きあいながら帰宅する僕と圭一だった。

 

……で。

 

玄関を一歩はいるなり、ぱっかんという音とともに圭一が床に倒れふす。

 

「……あんたら、うるさい」

 

圭一の頭に叩きつけた空の醤油瓶を手に不機嫌そうな顔で言う鬼のような妹を前に、がくがくぶると震えるしかないかよわい僕。

 

「あぅあぅ、命だけはお助けなのです梨花……」

 

圭一の上体を起こして盾にしながらそう言ったら、梨花はにこりと笑ってみせた。

 

「じゃあ冷蔵庫のシュークリームくれたら許してあげる」

 

「……命を懸けて巨大な敵に立ち向かわねばならぬときもあると、僕はその夜知ったのですよ、あぅ!」

 

ここが僕の戦場!と覚悟を決めて前に出たところで、いきなり足首を掴まれてひっくり返る。見れば梨花も僕と同じように倒れていた。

 

「てめぇら姉妹の……」

 

ゆらりと起き上がるのは、僕たちの足首を掴んだままの圭一だった。

 

「……血の色は何色だぁぁぁ!?」

 

「あぅうーッ!?」

 

「みぃぃぃぃ!?」

 

片腕を怪我してるくせに怒涛の勢いで襲いかかる圭一に、姉妹のみに通じるアイコンタクトで即座に共同戦線を張って対抗する僕と梨花。

 

六畳一間のリングで繰り広げられる二対一の熾烈な肉弾戦に、全員ノックアウトという形で決着がつくまでには小一時間を要したので途中経過を省略。

 

「……というわけで、だな。来週、梨花には俺と東京に来て欲しいわけだが」

 

ようやく息を整えた圭一がタンクトップの襟をぱたぱたさせて風を入れながらそう言った。

 

「別にいいけど……当然お泊りは素敵な夜景のホテルなんでしょうね」

 

だるそうに言うのは、ぐったりと疲れきって圭一のおなかを枕にして寝転がっている梨花。

 

「梨花、贅沢は敵なのです……。東京にだって、あぅ、公園のベンチとか、ガード下のダンボールハウスとか、野宿スポットはあるのですよ、あぅぅ……」

 

一番体力のない僕は、まだ荒い息をつきながら圭一の足の上に突っ伏していた。

 

「いやいや、普通に親父たちのとこに泊まれると思うけどな」

 

「それはなにより、です。……あぅ、この前雑誌に載ってたお店で、シューをお土産に買ってきてほしいのです……あぅあぅ☆」

 

思わずにまにましてしまう。

 

本当は自分で作りたてのを食べにいきたいけど、我慢我慢。

 

「それって、あの馬鹿みたいに高いヤツ!? それこそ贅沢は敵なのです、にぱ~☆」

 

「あぅ!?……そ、そんな殺生な……あぅあぅ~、あぅあぅあぅう」

 

泣きながらかろうじて身体に残った命の炎を燃やして畳をばたばたと蹴る。

 

「うわ、鬱陶しい……」

 

10年以上も苦楽をともにした実の姉が死に瀕しているというのに、酷い妹もいたものです……。

 

「まぁそう言うな梨花。羽入の末期の頼みくらい聞いてやろうじゃねぇか」

 

圭一はやっぱり優しい……あぅ、末期?

 

「……そうね。普段五月蝿いのがすっかり体力使い果たしたみたいだし、とどめをさすにはいい機会よね。くすくすくす!」

 

梨花が不気味に笑いながら立ち上がると、圭一も呼応するように起き上がる。

 

そして突っ伏したまま動けない僕の足首を二人が片方ずつ掴む。

 

「あぅ……い、いったいなにを……!?」

 

そのまま二人は不気味に笑いながら僕を脱衣所のほうへ引きずりはじめる。

 

「くすくすくす……!」

 

「くっくっくっ……!」

 

「ま、まさか、僕を洗濯機の中に体育座りさせて洗い殺すつもりなのですか……!?」

 

なんという悪魔の所業……と思っていたら、二人は残忍な笑みとともに僕を見下ろした。

 

「なに言ってんだよ羽入、そんな乱暴な真似するわけないだろ……?」

 

「そうよね圭一。繊細な羽入は手洗いするものと相場が決まってるわ」

 

手洗いって……え、なにを? 僕を?

 

「……はぁあうぅッ!?」

 

 

 

 手 洗 い 殺 さ れ る ッ!

 

 

 

「嫌なのです嫌なのです、いぃぃやぁぁ~!?」

 

いまさらじたばたと暴れようとしても足を掴まれているから抵抗できない。

 

「羽入の白さと柔らかさは犯罪ですよ圭一さん」

 

「漂白剤も柔軟剤も必要ないのですな梨花さん」

 

「あぅあぅ、たぁぁすぅけぇぇぇてぇぇぇ!?」

 

畳に爪を立てるも力は入らず、無力な僕はずるずると扉の内側に引き込まれ、目の前で希望の扉が閉ざされる。

 

六畳一間には、つかの間の平穏だけが残されたのだった……。

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