ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

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第57話 息子さんをください!

がつん。がつん。がつん。

 

泣きながら振るう私の拳が、床に横たわる圭一の顔面へと降り注ぐ。

 

「圭一の……、裏切り者ッ!」

 

もう自分の拳が痛くてたまらないけれど、涙も拳も……止められなかった。

 

がつん。

 

何発目かのその拳を受けて、手首を圭一が掴み取る。

 

「梨花、落ち着けって」

 

ひょい、と腹筋で身を起こすだけで、私の軽い体はころんと後ろに倒れかけ、圭一の伸ばした腕に抱きとめられていた。

 

「放して、放してよ!」

 

泣きじゃくりながら言う私を捕まえて抱き上げ、ぎゅっと強く抱きしめる。

 

「暴れるな。……とりあえず、落ち着いて話を聞いてくれ」

 

しばらくもがいていたけど、足が床から浮いてしまっているのでうまく身動きがとれずに諦めるしかなかった。

 

「む~……圭一のばか~……!」

 

「ばかは酷いな。ったく」

 

やれやれと言いながら、私をもとのソファの上に押し戻す。

 

「……いや、びっくりしたな。ずいぶん、仲良くなったんだな」

 

「ほんとね。まるで恋人同士みたい」

 

向かいのソファに座った伊知郎と藍子が苦笑しながら私たちをそう評した。まぁ似たようなものだという自覚はあるけど……でも、だからこそ信じられない。

 

圭一は、私たちの防災倉庫を出て前原屋敷に引っ越すと両親に告げたのだ。

 

ここは東京のとあるマンションの3階、前原家のリビング。

 

私と圭一は予定通り東京の前原家に向かうため、羽入に見送られて興宮の駅を出た。

 

穀倉で乗り換え、名古屋からは新幹線。

 

そこでは圭一の腕に自分の腕を絡めて思う存分甘えていたんだけど、昨夜楽しみで寝つけなかった反動か迂闊にも寝こけてしまい、気がついたら圭一がハンカチで私の涎を拭いているところだった……という素敵な失態をしてしまった。

 

とほほ。やっぱり私、アホなお子様キャラ?

 

東京についてからは五月の私の迷走っぷりが嘘みたいに圭一は私の手を引いてさっさかと乗り換えながらいくつかの観光スポットをまわってくれた。

 

個人的には初めて行った水族館が良かった。圭一は解説のプレートも見ずに面白可笑しく雑学混じりにひとつひとつ解説してくれて、その博識っぷりに感心すればいいのか無駄な知識を溜め込んでいるのに呆れればいいのかと悩むところだったし、初めてみる実物のペンギンの可愛さは異常だった。思わず羽入流でどっすんばったんと地団駄を踏んでペンギンのぬいぐるみを圭一にねだってしまったくらいだ。ちなみに圭一はその後、色とか顔のデザイン、くっついてる小物なんかが違うそのぬいぐるみを羽入やレナたちのお土産にと言ってたくさん買い込んでいた。

 

サメの大きさに驚いてあとじさったら壁に後頭部を激突させてしまったのは恥ずかしかったけど……あとくらげは思ったより透き通ってて綺麗だな、とか、ショーをしてたイルカがこれまた結構大きくて大迫力だったりして、あまりお出かけの経験がない私としては大満足の時間だった。……羽入も連れてきてあげたかったな。

 

それはともかく、手をつないで街を歩いているとデートみたいで……いやいやこれはデートよね、間違いなく。たりらりら~ん♪と理性が踊り出すのも放置して、私は圭一に甘えてはしゃぎまわるばかりだったのだ。

 

でもって夕方になって見覚えのある駅で降りて住宅街に向かい、今に至る……というわけなんだけど。

 

「普通そこは、兄妹みたいじゃないのか」

 

「……圭一。あんた、まさか気づいてないの!? だってこの子、融合型スタンドって言っても通じそうなくらいの好き好きオーラ出してるじゃないの!」

 

あのネタの宝庫ともいえる作品をよくご存じない人のために一応解説すると、スタンドというのは普通スタンド使いにしか見えないのだけれど、物と融合して操るタイプのスタンドはそのルールの例外となる。つまり藍子はこう言っているのだ……『一般人でも普通に見えてしまうくらいのぶっちゃけっぷり』だと。

 

まじですか。……私ってそんなにわかりやすい?

 

「いやさすがに気づいてるぞ。梨花の好き好きオーラときたら雛見沢じゃ3つの子供でも『梨花お姉ちゃんは圭一さんが大好きなんですね。わかります』と理解してるくらいにあからさまだからな」

 

え、ちょ、それもマジすか!?

 

フハハ、この古手梨花、雛見沢にどんな顔して帰ればいいのやらさっぱりよッ!

 

「……素晴らしいぞ圭一。半年もかからずにこんなちびっちゃい巫女幼女を籠絡して、親の前でマウントポジションとらせて殴打プレイを見せつけるほどの仲になっていたとは……息子のあまりの手際の良さに父さん、涙で前が見えなくなってきたぞ!?」

 

さ、さすが圭一の父ね。変態性が並じゃないわ。

 

でも圭一は深刻といっていい顔をして組んだ手の上に顎を乗せ、

 

「ところがだな、父さん。……梨花の姉であるツノ付き巫女さんの羽入も、同い年にして俺と転校生コンビを組む正統派ヒロイン、レナも。そして父さんも前に顔を合わせたツインキャノン搭載の重装型、魅音も……俺にマウントポジションするのをまったくためらわないくらいの仲なんだよ、これが!」

 

えぇえ、言っちゃうんだそれ!?

 

「なんと!」

 

「まあ!」

 

息子の衝撃の発言に、さすがにのけぞる前原夫妻。どーすんのよ圭一……。

 

「圭一よ……、お前を師と呼ばせてくれまいか!」

 

「勉強ばかりだった子が、立派になって……!」

 

……うん、ごめん。ちょっと予想してたわ。圭一の親だけに、斜め上の反応するんじゃないかって。

 

という想いが顔に出てしまったのか、前原親子は3人が3人とも、残念そうに小さく「ちっ」と舌打ちした。……あんたら、絶対私をからかって遊んでるだろ。

 

「それでな、父さん。……梨花と羽入を、新しい家に一緒に住ませてほしい」

 

圭一が口にしたのは、いつだったか悟史が言っていたハートフルストーリーっぽい提案だった。

 

「俺はもう二人を家族だと思ってるし、女の子二人だけであんなひと気のない場所で暮らさせるのは正直心配なんだ。それに、梨花も羽入も人並み以上に家事はできるから、母さんが父さんと一緒に家を空けても俺が途方に暮れることはないしさ」

 

「ふぅむ……」

 

伊知郎は腕を組んで考え込む。

 

「二人は両親がいないそうだが、いまの親権は……?」

 

「村長の公由さんが後見してくれてる。俺が話を通せば……大丈夫だと思う」

 

喜一郎はもともと私が防災倉庫で暮らすことにあまり良い顔をしていなかったし、いまやお魎に次ぐともいえる発言力を持つ圭一が自分の家に私たちを引き取るならそうそう文句は言わないだろう。……さっきの圭一の話が本当なら羽入はもちろん、私の気持ちも知られてしまっているようだし。

 

「でもね、圭一。犬や猫の子をもらおうっていうんじゃないのよ。余所様の大事なお子さんを預かるとなれば、責任ってものが必要なの」

 

藍子も現実的なことを言い出した。

 

「大丈夫だ。散歩だって毎日するし、トイレの躾はもうバッチリだぜ!」

 

すぱんっ!と私の手にしたスリッパが圭一の頭を直撃する。

 

「犬や猫の子の話でしょーがそれは!」

 

「うむ……躊躇も容赦もない、いいツッコミだ。まずは私たちと暮らす資格はあると認めよう」

 

……伊知郎、コントの相方としての適性で家族たる資格を量るのはいっぱしの社会人としてどうなのよ。そりゃ年中このノリを家の中でやられるとすれば、確かに必要な資質かもしれないけど。

 

「責任は俺がとる。……それじゃダメか?」

 

「子供にとれる責任などたかが知れているだろう」

 

伊知郎が厳しい言葉を投げるが、圭一は首を横に振った。

 

「俺はそうは思わない。……俺たちの仲間に、悟史と沙都子って兄妹がいる。親権を持っていた叔父夫妻は村八分にされていた二人を守るどころかいじめたりこき使うばかりで、二人はおかしくなる寸前までいっちまった。村の大人たちだって、それを知っていながら誰も二人を助けてやろうとしなかった」

 

思い出しただけで怒りがこみあげてきたのだろう、拳を膝に叩きつける。

 

「二人を守ろうとしたのは仲間たちだけだ。いまは村の連中もようやく二人の味方になってくれたけど、それだって大人同士が話し合って決めたことじゃない。俺たちが声をあげて、喧嘩を売って、それでようやく取り戻せたんだ!」

 

そう言ってまだ包帯の巻かれた腕をかざす。

 

「大人だから守れる、子供だから守れない、そんなもんじゃない。責任持って守るってのは、守りたいと思うかどうかなんだ!……そりゃ、子供は大人に比べればできることは少ないさ。法律がそうなってるからな。だけどいざってときに梨花や羽入を守れなかったら俺は一生後悔する。ヤバいときにはすぐにでも駆けつけて俺にできる全力で守りたい。いつだって二人のそばにいて、寂しい思いなんかさせたくない。だから絶対、二人には目の届くところにいてほしいんだ!」

 

そう言って圭一は、私の肩をぐっと引き寄せた。

 

「それが……守るってことだろ!」

 

「……圭一」

 

幾多の世界で私が見てきたかつての前原圭一に、こんな強さがあっただろうか。

 

そりゃ人より多少頭がよかったり、仲間思いだったりはしたけど……やっぱり普通の中学生の少年に過ぎなくて、親の庇護下にある当たり前の子供だったはずだ。

 

でも、いまの彼は違う。

 

私たちとの共同生活やいまもいくつか続けているバイトが彼をそうしたのか、それとも祟りや北条家の一件で大人たちとわたりあったことで考えを変えたのか。

 

圭一はもはや、守られる側ではなく守る側の人間として振る舞っている。

 

「でも、俺はまだ子供だ。今の俺に家を建てられるだけの力は無い。この先梨花や羽入が必要としなくなるまで養っていけるだけの経済力もない。だからいまは父さんたちに頼むしかないんだ。……余計な厄介を抱えさせるかもしれないし、余計な金もかかるかもしれないけど、それでも頼む。いつか返せるものは返す、だから俺の身勝手を許してくれ」

 

そう言って頭を下げる彼には、すでに風格とでも言うべきものが備わっていた。

 

「……顔を上げなさい、圭一」

 

言われて顔を上げたものの、圭一は伊知郎をまっすぐに見つめていた。

 

良い返事を聞くまで目はそらさないとでも言うように。

 

「私たちは春にあんなことがあって、お前を心配していた。私たちがお前を勉強に駆り立て、追い詰めていたのなら……私たちのいない見知らぬ土地でしばらく心を休めるのもいいのかもしれないと思った」

 

伊知郎は笑う。

 

「ところがどうだ。生活に困らないだけの生活費を渡しているはずなのにアルバイトを始めると言うし、喧嘩か何かで怪我をして入院、はてはなにかの事件に巻き込まれて警察にまで話を聞かれたという。どれも結局大したことではなかったみたいだが、正直なところ雛見沢の家はやはり別荘として残し、圭一は呼び戻したほうがいいんじゃないかと思っていたくらいだ」

 

……圭一の両親からみればこれは当然の感想だろう。

 

アルバイトだって普通中学生がするべきことではないのだし、鉄平に殴られて入院した数日後に悟史との立ち合いで骨折してまた入院、四年目の祟り関連で警察に話を聞かれ、今月になってもお魎との対決でまた腕を怪我したのだから心配にならないほうがおかしい。

 

「だがそういう経験はまったくの無駄ではなかったみたいだな。……いや、ひょっとすると父さんたちでは想像さえつかないような修羅場を潜り抜けてきたのかもしれない、そう思わされたよ。……先日、園崎さんがここに見えてな」

 

藍子が席を立って、奥から取ってきた名刺と通帳をテーブルの上に置く。

 

名刺には茜の名が、圭一名義の真新しい通帳には500万の入金が刻まれていた。

 

「これ……!?」

 

「今回の圭一の怪我は園崎家に責任がある、治療費や当面の生活についてはこちらで面倒を見る。それとは別に、慰謝料として受け取ってほしい……と言われてな。返そうと思ったんだが、先方は是非受け取ってほしいと。そして何よりも、圭一を雛見沢に残して欲しいと頭を下げられた」

 

私と圭一は顔を見合わせた。

 

なるほど、お魎のしたことだから園崎家が慰謝料を持参するのはわからなくもない。けど圭一を雛見沢に残してほしいというのは……どういうことだろう。

 

茜は人の親として、圭一の両親が一連の話にどんな印象を受けるかをわかって自ら東京に足を運んだのだろう。そこまでは理解できるが……。

 

「母さんたちもね、雛見沢にあるいろいろな事情についてお話を聞いたけれど、半分も理解できていないわ。でも……村の人たちが何年かかっても足踏みしていて、どうにもできなかったものを圭一は一瞬で埋めてくれたんだって言われたのよ」

 

「圭一はもう雛見沢にとって必要な人間になっている、いきなりいなくなれば雛見沢の人間は途方に暮れるしかない。これはほんの手付けのようなもので、圭一がこの先雛見沢にいる限り、圭一の行動、生活については園崎家が全面的に後援する……とまで言われて、父さんたちがどれだけ驚いたかわかるか?」

 

前原夫妻が驚くのも無理はないが、茜がそれだけの価値を圭一に認めているのも不思議ではなかった。それは私を含めて雛見沢の誰もが圭一に対して持っている思いなのだ。

 

もしいま圭一を失ったら、などと……考えるだけでも恐ろしい。

 

「まぁどうもカタギの人ではないようだったから、私たちが圭一を誇りに思っていいのかどうかと正直悩んでいたんだが……今日、お前の顔を見てようやく納得できたよ」

 

「圭一。母さんたちの見えないところで、いつの間にか……本当に立派になったのね。誰かに、いいえ……みんなに必要とされる立派な人に」

 

二人が涙ぐみながらそう言い募るものだから、圭一は所在なげに視線を彷徨わせた。

 

「いや、その……よ、よせよ。俺はそんな大したもんじゃない。たまたま俺が目立ってただけで、みんながいたからできたことだし、内心びくびくしながらやってんだ。……でも、俺は」

 

そこで圭一は言葉を切って私を見た。大切なものを見つめるまなざしで。それから両親に向きなおって、

 

「……いままでやってきたことも、これから先も、嘘にしたくない。でかいことを言っちまったんだ、俺は雛見沢の前原圭一だって。雛見沢のために、みんなのために、先頭切って戦ってやるって。いまさら俺はガキだからなかったことにしてくれなんて言えない。その時点では嘘だったとしても、これから先で絶対に証明するつもりだ。あのときの言葉は嘘じゃなかったって」

 

そこで腕の包帯をとって、まだ完全にはふさがっていない真一文字の傷口を見せる。

 

「父さんや母さんには心配をかけるかもしれない。でもこいつは、俺が決めた俺の道だ。その金があろうがなかろうが、帰ってこいったって帰るつもりはないし、やめろと言われてやめるつもりもない。俺は前原圭一で、そいつの守るべき居場所は雛見沢だってもう決まってる。……全部バレてるんじゃ許してくれなんて言える義理じゃねぇけど、もう一度頼むぜ。……梨花と羽入を、一緒に住ませてくれ」

 

そう言って頭を下げようとした圭一の手に、私はそっと手を重ねた。

 

「……梨花」

 

私は彼に微笑み返すと、圭一の両親を見た。

 

「圭一の言うことも、園崎家の言うことも、全部本当のことです。あなたたちの大切な息子さんは、私たちにとっても本当に大切な人になりました。私は彼が大好きです。姉の羽入も、レナも魅音も、ほかのみんなも……圭一のいない未来なんてきっと耐えられない。だからあなたたちに、ただのあなたたちの子供だった圭一を返してあげることはできません……でも、きっと彼が幸せになれるように、私たちも圭一を支えていきたいと思ってます。だから……許してください。いえ、許さなくてもいい。ただ、見逃してください」

 

そう言って、私も……頭を下げた。隣では圭一も。

 

しばしの沈黙のあと、伊知郎と藍子は苦笑した。

 

「……やれやれ。まるで結婚を認めてくれと言われているようで、面映ゆいな」

 

「本当ね。どうもお嫁さんの候補が何人もいるみたいで余計に複雑だけれど」

 

う……たしかにそう聞こえなくもないけど。

 

「だが、……そうだな。今決めたよ、圭一」

 

圭一が顔を上げた。

 

「雛見沢の家はやはりアトリエ、別荘にする」

 

「えっ……」

 

私も慌てて顔を上げようとしたけど、圭一の手が私の手をぎゅっと握ってそれを制した。

 

伊知郎は笑顔で続けた。

 

「……私たちにとっては、な。使わない間は、仕事用の部屋以外は圭一が自由にするといい。そこに誰と住もうが、いままでどおり梨花ちゃんたちの家に住もうが、私たちは干渉しない。お前にとって雛見沢がお前らしく生きられる場所であるなら、親である私たちに文句などあるはずがないだろう?」

 

「ふふふ、圭一。あなた今、いい顔をしてるわ。こういうのを、男の顔って言うのかしらね。……母親としては生活面のことがすこし心配ではあるけど、そんなにお嫁さん候補がいるなら大丈夫かしら。……梨花ちゃん、お夕飯の支度手伝って貰える? 圭一が太鼓判を押す腕前を見せてちょうだいな」

 

藍子も、ウィンクをしながら立ち上がる。

 

「は……はい! おまかせなのです!」

 

私も頷きながら気合いを入れて立ち上がり、圭一が笑みをこぼした。

 

……極上のにぱ~☆で、返してやった。

 

それにしても、まさか私が言う前に、茜に『息子さんをください』を言われてしまうとは思わなかった……園崎家め、けっこう本気で狙っているな……?

 

連れ立ってキッチンへ向かう私たちの背中で、父と子がなにやら盛り上がっている。

 

「それで圭一よ、いったいその4人の誰が本命なんだ? やっぱり梨花ちゃんか? 年下の幼妻、たまらんよなぁ~。ずびッ!」

 

「本命だと? 甘いな親父。男なら4人全部、ハーレムルートに決まっとるだろうが! いいやこの先、4人でとどまるかどうかも怪しいものよ!」

 

「な、なにぃぃぃぃ!? 貴様、我が息子ながら、なんという女の敵……というか既に全世界の男の敵だぞ!? そこになおれぇぇ!」

 

「くっくっく! 敗者のタワゴトが耳に心地良いわぁ……あんたらには恩返しとして、二桁くらいは孫を抱かせてやるからせいぜい腕を鍛えておきやがれ!」

 

「ぐっ……! な、なんという鬼畜の所業、だがさっそく今日から腕立て伏せを始めてしまう私がいるぞ! wktkしつつ待ってるから、なるべく早めにお願いね!」

 

「おう、まかせな。まあ一人目はせいぜい4年、いや3年ばかり待ってくれれば余裕だぜ……たったの二桁、この先十年もあれば楽勝ってもんだなあ、ふはははは!」

 

誰かあの変態父子を止めてください。

 

それだけが私の願いです。

 

ため息をつきながら、借りたエプロンをつけて腕まくりをする私だった。

 

さぁて、みんなを代表して腕を振るうとしましょうか。

 

古手梨花、百年の軌跡を見せつけてやるッ!

 

「梨花ちゃん、そんな包丁振ったら!」

 

一瞬で手が軽くなった。

 

「……あ」

 

視線をたどった先には、互いの眼前数センチの壁に突き刺さった包丁を見つめて顔面蒼白で震える伊知郎と圭一がいた。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「許して下さい許して下さい許して下さい」

 

うわごとのように口を揃えて手を合わせる二人に、私は……、

 

「にぱ~☆」

 

と誤魔化すしかなかった。

 

「小学生にして、なんという鬼嫁っぷり!……こ、これが園崎さんの言っていた、雛見沢は鬼の棲む村という意味なのねッ!?」

 

藍子、それ違うし……。

 

ともかく、こうして思わぬ大金と前原屋敷をゲットした私たちではあったのだけれど……その夜、電話を借りて羽入に連絡した私は、思わぬ事件を耳にすることになった。

 

「え……、沙都子が!?」

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