ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

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第59話 アイ罠ビー!

翌日、東京から帰ったその足で面会時間も過ぎているのに圭一さんと梨花が診療所へ駆けつけてくれた。

 

「……そうか。大変なときにいなくて、悪かったな」

 

「沙都子、ごめんなさい」

 

事の経緯を聞いて全然悪くもないのに頭を下げる二人がおかしくて、思わず笑ってしまう。腫れた顔が痛いくらいだった。

 

「そんなの謝られるようなことではありませんわよ」

 

圭一さんは、それでもすまんと言って東京のお土産を渡してくれた。

 

シュークリームと……ペンギンのぬいぐるみだった。

 

「みんなのが私のとお揃いなのよ、ほらほら」

 

と言って梨花が自分のを見せてくれたけど、……もしもし?

 

どうして私のはリボンをつけた可愛らしい黄色ペンギンさんなのに、梨花のは酒瓶らしきものを持ってやたらと目つきの悪い黒ペンギンさんなのやら……。

 

ちなみに羽入さんのは鬼のツノが頭についた涙目の紫ペンギンさんで、魅音さんのは私と同じリボンの緑ペンギンさん。レナさんのはサングラスをつけて頬に傷のある青ペンギンさんらしかった。……ネコミミをつけた黄色のペンギンさんが誰のぶんなのかは、聞かない方が幸せなんでしょうね。

 

それにしてもさすがは東京。バリエーションが半端ではありませんわ!?

 

「あら、素敵ね。私もぬいぐるみを集めているから興味あるわ」

 

病室に入ってきた鷹野さんに、圭一さんはそれじゃあと言って梨花に無理矢理買わされたという自分のぶん、やっぱり目つきの悪い赤ペンギンさんを手渡した。

 

「ちょっと、圭一~! せっかく私とお揃いなのに~!」

 

「いいだろ、沙都子を守ってくれたお礼だよ。鷹野さん……ありがとうございました!」

 

圭一さんの言い分に梨花もしぶしぶ引き下がり、鷹野さんはいいのかしらと遠慮がちにそれを受け取ってまじまじと眺めてから、とっても嬉しそうにぎゅっと抱きしめていた。

 

「か、かわいいっ☆ この目つきの悪さがたまらないわっ♪」

 

……ときどき子供っぽい表情を覗かせるのは、レディとして重要なテクニックかもしれませんわね。圭一さんがほわんとした顔で見とれているし、学習しておくことにしましょう。

 

どうやら同じところが気に入っていたらしい梨花は微妙な表情になって自分のをまじまじと見ていたけど、そのうちやっぱり可愛いという結論に達したのかにぱ~☆としつつぎゅっと抱きしめていた。……やっぱりこの子はなかなかのアホだ。

 

顔の腫れが引いてようやく退院を言い渡されたのは、9月も終わる日のことだった。

 

「お帰り、沙都子」

 

にーにーは家の前で待ってくれていた。

 

私と鷹野さんは、手を繋いだまま北条の家を見上げる。

 

この家に、私はあまり良い思い出がないけれど……でも、これから新しい思い出を刻んでいこう。それはきっと、しあわせな記憶になる。

 

まるでその私の想いが通じたみたいににーにーが、鷹野さんが微笑みながら頷いてくれた。

 

「ただいま、帰りましたわー!」

 

元気にそう言って、玄関の扉を開ける。

 

その途端、目の前に長い布のようなものが落ちてきて床でぐしゃりと丸くなった。

 

「あ、あれ?」

 

慌てて入ってきたにーにーが、ばつの悪そうな顔をしてその布を高々と持ち上げる。

 

『おかえり沙都子、ようこそ鷹野さん!』

 

と書かれていた。私はくすくすと笑ってからおおげさに肩をすくめて、

 

「詰めの甘いトラップですわね! もっと精進なさいませ!」

 

「むぅ……わかったよ」

 

それから、お夕飯をみんなで作った。

 

メイドの仕事だからと鷹野さんは遠慮したのだけれど、にーにーも私もお料理を覚えたかったから無理やりに。にーにーはメイドの必須技能という理由で、私は自分がもっとしっかりしなければという理由だったけれど。

 

それから鷹野さんと一緒にお風呂をいただいて、にーにーが昼間干してくれたらしい、おひさまの匂いがするふかふかのお布団で一緒に寝た。

 

枕元には、大きなくまさんのぬいぐるみと、その足元に仲良く寄り添うように赤と黄色のペンギンさん。それはまるで、素敵な日々のはじまりを祝福しているみたいだった。

 

翌朝。

 

「それじゃ、いってらっしゃい。帰りは迎えにいきますから、皆さんによろしくね」

 

「いってきます」

 

「いってきますですわ~!」

 

鷹野さんに見送られて、私とにーにーは学校へ向かう。もちろん鷹野さんの作った朝食を食べて、鷹野さんの特製お弁当を持って。

 

以前は家を出るときは、これで半日は解放されるんだと逃げるような気分だったけど、今は違う。とても晴れやかな気持ちでいられる。学校でみんなに会うのが楽しみで、勉強も部活も楽しみで、帰っても暖かい時間があると知っているから。

 

「久しぶりの学校だね、沙都子」

 

……にーにーの通学用メイド服(冬用)にはこの際目をつぶりましょう。

 

鷹野さんはこれから家の中のことを済ませ診療所へ出勤して、夕方ははやめに切り上げて私たちのお夕飯を世話してくれたあと、また診療所へ戻って何時間か残業をするらしい。なんとも大変な二重生活をさせてしまって申し訳ないけれど、そう言うと本人はとても幸せそうに笑って、『沙都子ちゃんは心配しなくていいわ。こう見えても私、できる女なんだから♪』と可愛らしくガッツポーズをしてくれたからそれ以上は何も言えなかった。

 

よく監督がメイド鷹野さんを女神のようだって言ってるけど……私にとっては本当にそうかもしれない。叔母はもちろん、お母さんも自分の恋愛にかまけてなかなか与えてくれなかった優しさや愛情を、惜しみなく与えてくれるんだもの。

 

小径を抜けて村道へ出ると、畑に出ていた村の人たちが顔を上げて、声をかけてくれる。

 

「おはよう、沙都子ちゃん、悟史くん」

 

「今日から学校かい? 勉強がんばりな」

 

その笑顔も、私たちがずっと望んで得られなかったもの。圭一さんたちは、本当に大きなものを私たちに取り戻してくれたのだと実感する。

 

「おはようございますわ! みなさんもお仕事頑張ってくださいませ!」

 

そう声を返したら、みんな愉快そうに笑ってくれた。

 

しばらく行くと、前方に古手家の3人組が見えた。今日から衣替えだから、3人とも久しぶりにみる冬服姿になっていた。

 

「おはよう、みんな」

 

「おはようございますわー!」

 

私たちの声で振り返った圭一さんたちが笑いかける。

 

「おう、二人とも、おっはよ!」

 

「おはようございますです、沙都子に悟史」

 

「おはよう、沙都子。ついでにメイド」

 

梨花の言葉に、にーにーが苦笑する。

 

……メイドは事実だけど、ついでは酷い。

 

圭一さんは普通の学生服で、相変わらず胸元から赤いTシャツの襟が覗いている。身体を鍛えているせいかそれとも背が伸びたのか、春に見たときよりもなんだかたくましく、大きく見えるのは気のせいだろうか。

 

羽入さんはいつものベストの上に白のブレザーを羽織っていて、スカートが赤系だからかその色の取り合わせは巫女服を連想させてなんだか面白い。見慣れた姿のはずなのに、どこか新鮮に思えてしまうのが不思議だ。

 

そして梨花はスカートと同色のブレザー。長い黒髪に黒系統の制服はやけに映えるし、襟元のリボンが鮮やかなワンポイントになっている。表情や口調の違いのせいか、しなやかな黒猫を思わせる雰囲気だった。

 

「あぅ、今日は梨花がなかなか起きなくて苦労したのです」

 

「梨花は寝起きが悪いですものね。どうやって起こしましたの?」

 

「ちょっと、羽入! それ言ったらブッ飛ばすわよ!?」

 

羽入さんにとても妹とは思えない勢いで凄む梨花だったけど、

 

「こう、羽入が膝枕してな? パジャマの襟元から氷を入れるんだよ」

 

「こ、氷……それはまたマニアックだね。ナインハーフ!?」

 

前方でにーにーに圭一さんが話しているから意味がなかった。

 

「で、パジャマの上から氷を指先で動かして肌をなぞって……おわ!」

 

「余計なこと言うんじゃないわよ、圭一のばかー!」

 

真っ赤になって背中から圭一さんを蹴りつける梨花だった。

 

どのあたりで目が覚めたのかは興味津々だけど、さすがに親友として梨花をそこまで追い詰めるのも悪いので聞かないでおいてあげることにした。

 

でもこの前の手洗い羽入さんのお話といい、この3人の日常にはやけに変質的な香りが漂っている気がしますわね……圭一さんが押しも押されぬ立派な変態で、梨花も変態風味がないとは言えないし、羽入さんは……ええと、なんというか。被害者的なオーラを全身に纏っている……と言ったら失礼かしら。

 

「わ、わかってくれるのですか心の友よー!」

 

だーと涙を流しながら私に同意してくれる羽入さんだった。

 

「すこしずつ……すこしずつ……でも確実に、僕の清らかな日々はあのアホの子どもに侵蝕されているのです。恐ろしいことに最近はですね、お散歩のあと僕がお風呂に入っているのに圭一や梨花がなにくわぬ顔で入ってきても『またなのですかーしょうがないですねー』くらいで諦めてしまっている自分がいるのです。それどころかなにげなく圭一の背中を流している自分を発見してしまったり、梨花が『もうすこし詰めてよ』と言いながら浴槽の中でぴったり抱きついてくるのをおかしいとも思わない僕がいるのです、あぅあぅ!」

 

あぅあぅあぅーんという嘆きの声には、確実に毒されていることを知りながらもそれを止めることのできない自らの無力への哀惜がこめられていた。

 

「それはなんといいますか……ご同情申し上げますわ。羽入さんも、遠い世界にいってしまいますのね」

 

「あぅ、そこで手を振られるとなんだかとてもせつないのですよ沙都子ぉー!?」

 

笑顔でグッバイ☆してあげるのが、私の友人としてのせめてもの情けですわ。

 

などと騒ぎながら歩いていると、学校の手前で向こうの道からゆっくりと歩いてきた魅音さんとレナさんが手を振ってくる。

 

「おっはよーぅ、みんなっ☆」

 

「おはよう、諸君っ」

 

「おーっす。今日は追いかけっこはなしか。衣替えだからまたレナが暴走してるんじゃないかと思ったんだがな」

 

圭一さんを先頭に、私たちも手を振って応えながら合流する。

 

魅音さんは5月までとは違うグレーのブレザー型の冬服で、ここらではみかけないデザインだと思ったら、遠方のルチーアなんとかいう学校の制服を取り寄せたらしい。それにしては新品に見えないのは、卒業生の古着なのかもしれない。相変わらずスカートは短いけどきっちりした清楚なデザインを見るとそういえばこの人も名家のお嬢様だったと改めて思い出す。

 

レナさんは以前と同じ、長袖の青いセーラー服に戻っている。スタンダードな正統派ヒロインとしての魅力を見せつける素朴さ、見習いたいものだった。でもいまの時期はいいけれど、この生地ではすこし寒くないだろうか? 登下校時はコートなんかを着ればいいけど、冬場すきま風の入る分校の教室は案外寒いのだけれど。

 

そう思って聞いてみたら、レナさんは笑顔で応えてくれた。

 

「冬は下にTシャツとか着るしね、別にカーディガンもあるから平気だよ」

 

「うむ、そこで俺から提案なのだがレナ」

 

「うん、却下するね☆」

 

なにげなく話しかけたのに振り向きざまに笑顔で却下されてしまうあたりは、圭一さんの日頃の行いというか人徳(の欠如)がにじみ出ていた。

 

「するなよ、聞けよ!? ほら、レナって私服のときニーソはいてるだろ、黒いやつ。冬場はだな、アレをリクエストしたい」

 

「えぇー? 似合うかなぁ」

 

「大丈夫だレナ、俺を信じろ! 絶対似合う、この前原圭一が絶対だって言ったら、それは絶対なんだよ!」

 

……なにも、そこまで大げさな話ではないと思うのだけれど。

 

「う~ん……圭一くんが喜んでくれるなら、考えてみようかな☆」

 

さっきは却下したくせに、聞いてみると悪くないと思ったのかもしれない、笑顔をみせるレナさんだった。

 

「おう、楽しみにしてるぜ!」

 

親指を立てながら笑い返して、先頭に立って下駄箱に入った圭一さんが自分の上履きを取り出した瞬間にその異変は起こった。

 

「どわっ!?」

 

下駄箱の全ての棚が斜め下を向いて、そこに入っていた上履きや下履きが圭一さんの足元へと雪崩落ちたのだ。

 

「な、な、なんだこれぇ!?」

 

その驚き慌てた顔に胸がすく思いだった。

 

「をーっほっほっほ、油断しましたわね圭一さん! これぞわたくしの早起きの成果、トラップマスター北条沙都子の復活の狼煙ですわー! 名付けて、『朝から☆神経衰弱』!」

 

ただ驚くには飽きたらず、めちゃくちゃに混ざってしまった靴をひとつずつ揃える手間暇まで強要するあたりが精神的損害・時間的損害を大きくするなかなかのトラップだ。

 

「……朝ご飯の前に大工道具を持って出かけたのはこれだったんだ」

 

にーにーが感心したように言う。

 

「くっ、こんちくしょー! もとに戻すからお前も手伝え!」

 

「あっははは、みんなで手伝うよ。戻せた数が一番少なかった奴が罰ゲームね!」

 

魅音さんの宣言で、その場はたちまち戦場となった。

 

我先に靴を拾い上げては対になるものを探し、同じのをもっている人には仁義無きバトルを仕掛けて奪い合う。でもそれも長々やっていたらほかの人に数を稼がれてしまうから、じゃんけんや取引が炸裂する。5分もせずに全ての靴が下駄箱へと戻された。

 

珍しいことに、ここで負けたのは梨花だった。

 

「みぃぃ……一番上の段に手が届かなくて苦戦しただけよ! 誰よ、アホの子だから神経衰弱は苦手だったんだって納得してる奴は!」

 

誰に怒ってるかは知らないけど、とんでもなく悔しそうだった。

 

「そんじゃ罰ゲームはこれね」

 

魅音さんが梨花に、黄色のたすきをかける。

 

「み?」

 

たすきには大きな文字で『カレークィーン』とどこかの爆弾スタンドに似た言葉が記されていた。

 

「……あら?」

 

タイミング悪く職員室から出てきた知恵先生の目にそのたすきがとまる。

 

「梨花さん……それはひょっとして、私への挑戦ですね!?」

 

「みッ!? ち、違うのです、知恵。これはですね……」

 

「いいでしょう。私もカレーに全てを賭けた女、女王を名乗られて引き下がるわけには参りません。梨花さん、お昼休みは私とカレー十番勝負です!」

 

「どんな勝負よ!? ちょちょちょっと知恵ぇえー!?」

 

「委員長、午前の授業は猛烈な勢いで自習をお願いします!」

 

炎を背負って知恵先生が職員室へとって返し、中でなにかを料理しているらしい音が聞こえ始める。……いまから十種類のカレーを用意するつもりらしい。

 

「……梨花ちゃん、あとで保健室から胃腸薬もらってくるね」

 

レナが沈痛そうなまなざしを梨花に向ける。

 

「みぃぃ……辛い物は好きだけど、食べ過ぎで死ねそう」

 

「はは、まあつらかったら帰りはおぶってやるよ……いでッ!?」

 

大騒ぎの末にようやく上履きを履いた圭一さんが悲鳴をあげて、ぴょんぴょんと廊下を片足で跳ね回る。雛見沢の英雄ともあろうお方が、なんたる不様!

 

「てめッ、やりやがったな、沙都子ぉ!?」

 

「あぅ……まだなにか仕掛けてあったのですか、沙都子」

 

羽入さんが感心半分呆れ半分で私を見る。

 

「ええ、靴雪崩に気をとられて見逃した上に、片づけて安心したところで無警戒に履くだろうと思いまして、定番の靴画鋲をほんの少々」

 

靴に画鋲、扉に黒板消しなどの定番トラップは定番だからこそ単独ではなかなか引っかかってくれないが、それをコンボに組み込むことで有効に活用するのがトラップの醍醐味というものだ。

 

「復活の登校初日からこの騒ぎとは……、まったく侮れない奴だね!」

 

魅音さんはそう言って、私を撫でてくれた。

 

それからはみんな必要以上にトラップを警戒して、戸口や椅子に座る前には念入りに確認していたのがなんだかおかしかった。

 

鷹野さんに診療所で教わっていたとはいえ起きている時間が少なかったぶんやっぱり勉強はすこし遅れていたから、自習とはいえ授業は真剣にならざるをえなかった。

 

「みぃぃぃぃ……も、もうダメです……」

 

お昼休み、教壇の長テーブルで知恵先生にカレー十番勝負を挑まれた梨花は善戦虚しく5皿目の半ばにして力尽き、十皿プラス梨花の残した5皿と半分をぺろりと平らげた知恵先生がカレークィーンのたすきを奪い取って勝ち誇るのを横目に、私たちは賑やかにお昼を楽しんだ。

 

「むむ、鷹野さんもなかなかやるね!」

 

「そうだね、レナも負けてられないかな」

 

鷹野さんの詰めてくれた私とにーにーのお弁当に箸を伸ばした魅音さんとレナさんが戦慄とともにそう言ってくれるものだから、とても気分がよかった。

 

「あぅ、また僕たちの食卓に彩りが加わったのですよ」

 

「悟史作のは、ヘビーローテーションだったからなぁ」

 

「むぅ……冷凍食品なんだからしょうがないよ」

 

あの女のぞんざいなお弁当もそうだったし、にーにーが手ずからこさえたお弁当では確かに見劣りしたのだろうけど、これからは私たち北条家のお弁当も園崎家や竜宮家、古手家と肩を並べられるのだと思うと本当に鷹野さんには感謝するしかない。

 

……それではしゃぎすぎてしまったのだろうか、放課後の部活では缶蹴りをしたのだけれど、ブランクが長かったせいでトラップの配置が甘かったり、体力が落ちていたせいもあって初のビリを頂戴したばかりか、自分の落とし穴の位置を忘れていたせいで泥だらけになってしまった。

 

「それじゃ、沙都子にはこいつを着て帰ってもらおうかねぇ」

 

身体を拭き終わったところで私に課せられた罰ゲームは、……紺色でフリルがいっぱいついた、私専用のメイド服着用だった。

 

「ふぇぇぇん、こんなのあんまりですわぁ~!」

 

「メイド沙都子ちゃん、思ったとおりかぁいいよ~☆」

 

レナさんに抱きつかれてぶんぶんと振り回されるこちらの身にもなってほしいものだった。

 

ちなみに昼から保健室で再起不能(リタイア)状態だった梨花は当然、不戦敗ということでネコミミに首輪と尻尾までつけられて圭一さんにおぶさっての帰宅となった。

 

わいわいとみんなで騒ぎながら校舎を出たところで、学校の敷地の入り口にメイドさんが立っているのに気づく。

 

「鷹野さん!」

 

ぱたぱたと近寄ったら、鷹野さんは私の格好を見て目を丸くしながらも、くすくすと笑ってくれた。

 

「うふふ、可愛いメイドさんね。沙都子ちゃんとお揃いで嬉しいわ」

 

そう言って撫でてくれたから、恥ずかしいのにこちらも思わず笑みがこぼれてしまう。

 

「あ、あの……それで、部活で服を汚してしまったんですの……」

 

手提げ袋に入れた制服をおずおずと見せたら、鷹野さんは微笑んで、

 

「そう、元気でいいわね。怪我はしなかった? 帰りにクリーニング屋さんに寄りましょうか」

 

と言って、私の手をとってくれる。

 

……もう、服を汚したといって叱られることを気にしなくていい。

 

罰ゲームのおかしな格好で帰ったって、折檻されたりしない。

 

一緒に笑ってくれる、優しい人が待っていてくれる。

 

だから帰ろう、私の大切な、大好きな優しい家へ。

 

私は嬉しくなって頷き、振り返ると仲間たちに手を振った。

 

「また明日、ですわ!」

 

こんなにあたたかい気持ちで家に向かう日が来るなんて、……ほんとうに、夢みたい。

 

にーにーも追いついてきて、私と同じくらいに笑顔を見せてくれた。

 

もちろん鷹野さんも、優しく微笑んでいて……幸せ、だった。

 

たとえ仲間たちが背後で、

 

「……メイドが3人で帰っていく光景もシュールだよな」

 

「いいねいいね、かぁいい☆ まとめてお持ち帰り~!」

 

「あぅ、雛見沢ではもう誰も驚かないと思うのです……」

 

「やれやれこりゃ、沙都子もメイド属性獲得かなぁ……」

 

「……けぷ。もうカレーはしばらく見るのもいやよ……」

 

勝手なことを言っていても……本当に、幸せだった。




新たに、同時期に掲載された時明かし(圭一×レナ)も投稿しました。是非、ご一読を。

https://syosetu.org/novel/417958/
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