ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

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第60話 最後の決め手はメイド力

「あぅうっ!」

 

狙われているのは、やはり羽入だ。

 

それがわかっているから、彼女も懸命に逃げようとするのだが……生来の運動能力の低さだけは、どうにもならない!

 

「貰ったぁ!」

 

命中するとわかった瞬間、羽入は痛みを覚悟してぎゅっと目をつぶった。

 

「っしゃあ!」

 

ばん、と音がして……羽入の前に飛び込み、その鋭いボールの一撃を胸の前で受け止めたのは、圭ちゃんだった。

 

「おお、また獲ったぞ!」

 

「さすが圭一さんだ!」

 

紅組、雛見沢の応援席から歓声が上がる。

 

「悪いが、レナの鉈や沙都子のトラップに比べればパワーもスピードも感じねえ……! この前原圭一様がいる限り、羽入には当てさせねえぜッ!」

 

ボールを振りかぶり、敵コートの残り数人がわっと散ったところでサイドへと投げ放つ。

 

外野のレナがそれを受け止めると同時、手首のスナップだけで対面の沙都子へワンバウンドさせて鋭いパスを出した。圭ちゃんの台詞がコンビネーションの指示になっていることに、敵さんはまだ気づいていないらしい。

 

「いただきですわー!」

 

足元を抜かれ、背後から狙われた白組、興宮の子供たちに逃げ場なし!

 

ばん、と背中をボールで叩かれてひとりの男の子がよろめく。

 

「はいもう一丁!」

 

私は素早く走り、はね返ってきたボールを空中で捕まえて内野に送る。

 

「……ふ。遊んであげるわ、雑魚どもが」

 

すでにジャンプしていた梨花ちゃんがそのボールを両手でキャッチ、着地する前に近くにいた中学生の足へと叩きつけた。

 

「にぱ~☆ わーい、当たったのです!」

 

ぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを表現する黒い豆ダヌキだった。

 

「くっくっく……圧倒的じゃないか、我が軍は!」

 

ドッジボールのような駆け引きを伴う勝負事で、百戦錬磨たる我が分校部活メンバーに死角などあるわけがない。たちまち敵の内野陣は駆逐され、紅組の勝利が宣言された。

 

今日は、興宮の小学校の運動会。

 

もちろんその分校にあたる雛見沢分校も参加し、伝統的に組分けは興宮出身の子供たちによる白組、雛見沢から通う子たちと分校生徒による紅組となっていた。

 

で、分校の年長組、つまり中学生は興宮の中学校の運動会に行くのかといえばそうではなく、小学校の競技に決められた数まで飛び入り参加を認められていた。逆に白組も、OBである中学生の助っ人を同じ人数まで投入していいことになっており、条件は五分。

 

いや、中学の運動部で現役として活躍する中学生、それも3年生男子を優先的に引っ張ってこれるのだから、本来このルールは白組に有利だといっていいくらいだ。

 

でも、そんな常識は我が雛見沢分校には通用しない。

 

短距離走ではレナが県大会記録を持つ中学陸上部のエースとやらをあっという間に置き去りにし、集団競技ともなれば圭ちゃんの熱いアジテーションで雛見沢っ子魂が炸裂して圧倒する。

 

そもそも年少組、小学生の基本スペックでは沙都子や梨花ちゃんを筆頭に、全体的に雛見沢のほうが高いのだから、てんで勝負にならない。本来興宮育ちの私としてはちょっぴりだけれど悔しくなるくらいの戦力差だ。

 

かろうじて部活メンバーと競り合えるのは敵の助っ人だけなのだが、それもあの手この手で切り崩されて、本来の実力を発揮できずに敗退する。もはや得点表はダブルスコアとなっており、盛り上がっているのは雛見沢の応援席ばかりだった。

 

「うぉぉぉー、圭一さぁーん!」

 

「レナちゃーん、ファイトぉー!」

 

「ジーク・ミオン! ジーク・ミオン!」

 

「羽入様~ありがたや~ありがたや~」

 

「いやっほーう、アホ梨花最高ぉーう!」

 

「きゅんきゅん、悟史っきゅーん☆」

 

「沙都子ちゃん、死守同盟がついてるぜ!」

 

……さすが雛見沢の土地柄とでも言うべきか、応援は無駄に豪華だった。

 

私はルチーアにいて参加していないものの、聞くところによれば昨年はOBの亀田とやらが率いる野球部メンバーが大暴れしてお姉や悟史くんにもどうにもできずに惨敗だったというが、今年はそれを取り返すみたいな部活メンバーの暴れっぷりだからいやがうえにも盛り上がろうというものだ。

 

「いいか、ここが正念場だぜ……富田くん、岡村くん、気合いを入れろよ!」

 

「はいッ!」

 

「もちろんです!」

 

騎馬戦では、圭ちゃんが馬の先頭に立ち、富田・岡村コンビがその後ろ。

 

そしてその上に立って不敵に腕組みするのは沙都子だった。

 

「ふっ……この風、この肌触りこそ騎馬戦ですわ!」

 

気勢を上げる沙都子に、雛見沢の応援席から『沙都子ちゃん』コールが飛ぶ。

 

以前の空気はどこへやら、沙都子はもうすっかり村の人気者だった。……お姉にも見せてあげたいな、この光景。きっと自分のことみたいにひっくりかえって大笑いして喜ぶだろうに。

 

「ちっくしょう……俺も後ろがよかったぜ! 角度とか!」

 

「前原さん、最高の眺めですよぉッ!」

 

「北条の脚線が今、僕の目の前にッ!」

 

いらんことを言って、がすがすと沙都子に蹴られる三人だった。

 

「うっおおおおお、いくぜぇえッ!」

 

競技開始の笛の音とともに圭ちゃんが咆哮をあげ、真っ先に敵の先陣へと乗り込む!

 

「このトラップマスター北条沙都子、街育ちのもやしっ子どもに後れはとりませんわッ!」

 

群がる敵の騎馬の上、ハチマキをつけた子供たちへと素早くその腕を沙都子が振るえば、空を切り裂くような音が響き渡る。

 

「あ……!」

 

「えッ!?」

 

まるでハチマキのほうが沙都子の手に吸い寄せられるみたいにすぽりと抜けてその手の中に飛び込んでいくのだからたまらない、たちまち3組、4組と脱落させられていく。

 

「さすが沙都子ね。……手首のリストバンドから釣り針つきのテグスを放ってハチマキを引っかけてる。バレなきゃあイカサマじゃない……、ってわけね」

 

くすくすと梨花ちゃんが笑う。まさにトラップマスターの本領発揮とも言える荒業だった。

 

「悲しいけどこれ、騎馬戦なのですわー!」

 

圭ちゃんたちは、敗者に一瞥もせずに戦場を縦横無尽に駆け抜ける!

 

「をーっほっほッ、敵の大将は眼前ですわ、気合いをお入れあそばせ!」

 

「おうともよ! 富田くん岡村くん、当たり負けるなよッ!」

 

そう、敵はまさに白組のエースだった。

 

なにしろ4人の中学生を全部ひとつの騎馬に投入したのだから、小学生など物の数ではなく、身長差で頭のハチマキに手が届かないから無敵モード。

 

その迫力、まさに機動ビグ=ザム!

 

圭ちゃんたちの騎馬にも劣らない怒涛の勢いで紅組の騎馬隊を壊滅させている。敵はドッジボールと並んで配点の高いこの騎馬戦に、助っ人を集中投入してきたのだ。

 

「だ、大丈夫かな。かな!」

 

「あぅあぅ、後ろ足が富田と岡村では、ぶつかり合えばパワー負けするのですよ!」

 

レナと羽入は不安そうな顔をするけど、心配ご無用!

 

「……なぁに、心配することないよ。沙都子と圭ちゃんには、策を授けたから」

 

にやりと笑い、沙都子がぐっと身を低くする。そして両手で、自らの体操着の裾に手をかけていた。

 

「な……!? いったい何を!」

 

ばっと体操着を一気に脱ぎ捨てた瞬間、相手の中学生たちは中学生男子であるが故に……目をそらすしかなかった! 見たい知りたいでも恥ずかしい、それを逆手にとったこの作戦ッ!

 

「行くぞ……、いまだッ!」

 

「応ッ!」

 

富田くんと岡村くんが一瞬身を沈めて、立ち上がる反動で沙都子がロケットのように騎馬の上から飛ぶ!

 

「行けぇえ、沙都子ぉッ……!」

 

同時に馬は3人に分割し、敵の馬の横を素早く駆け抜ける。

 

その間に沙都子は敵の馬の先頭を踏みつけて、さらに高く跳んでいた。

 

「なに! 俺を踏み台にしたぁあ!?」

 

「やらせはせん、やらせはせんぞお!」

 

目をそらしていた敵の大将はさすがに向き直り、吠えつつ手を伸ばしたが……その手が掴んだのは沙都子の脱ぎ捨てた体操着の上着のみ!

 

「ふッ!」

 

沙都子は空中で優雅に身体をひねりながらそのハチマキを一瞬の早業で釣り上げ、背後へとすり抜けていた。

 

「ば……馬鹿な……ッ!?」

 

そして沙都子の着地点にはすでに、再度合体した圭ちゃんたちの騎馬が待ち受けていて鮮やかにキャッチ!

 

その後ろで敗北した白組の騎馬が、がたがたと崩れ落ちた。

 

ハチマキを手に騎馬の上に立つ沙都子は、まるで脱皮したかのようにスクール水着姿になっていた。

 

「ふ、甘い奴らよ。紺ブルとスク水の光沢の違いすらわからぬとは……! それがうぬらの敗因よッ!」

 

「う、迂闊……だったぜ……!」

 

なんで負けたのにあんなに満足そうなんだろう、あの連中は。

 

沙都子はげしっと圭ちゃんの後頭部を一発蹴り飛ばしてから勝利の高笑いをあげた。

 

「をーっほっほ、鬼の雛見沢っ子の実力、思い知りまして!?」

 

圭ちゃんも気をとりなおして顔をあげてにやりと笑う。

 

「おお! 雛見沢の結束は……!」

 

「絶対無敵ッ!ですわー!」

 

歓声の中で、圭ちゃんと沙都子がひときわ愉快そうに叫びをあげていた。

 

お昼をはさんで午後の競技も順調に進み、運動会の締めの競技は毎年恒例、『二人三脚障害物借り物リレー』!

 

両軍ともに、最大戦力を投入してのメインイベントだ。

 

二人三脚のパートナーを交換しながら障害物を抜け、ラストは単独での借り物競争まで待っているというこの競技、もっとも責任重大なメインランナーはもちろん圭ちゃんだった。最強部活メンバーの誰と組んでも相性がいいのは、圭ちゃんしかいない!

 

「ようい……スタート!」

 

ぱん、という銃声とともに飛び出したのは圭ちゃんと最初のパートナー、梨花ちゃん。

 

一見身長差がありすぎて二人三脚には不利な組み合わせだったが、なんと両者の足を結ぶ紐をはずさないまま圭ちゃんの足の付け根までずり上げて、お姫様だっこで走り出した。

 

「みー♪ らくちんらくちんなのです☆」

 

ってかただの荷物!?

 

「うおりゃあああ! アホ梨花様のお通りだぜ、有象無象は道をあけなッ!」

 

「誰がアホ梨花よッ!?」

 

爪で顔をひっかいてくる梨花ちゃんを抱えたままこの区間の障害であるハードルを次々クリアした圭ちゃんは、まともな二人三脚でハードルを飛び越えようと苦労している白組走者を置き去りにして、パートナー交代地点へと辿り着く。

 

そう、もっとも体重の軽い梨花ちゃんを第一パートナーにしたのは、スタートダッシュで差をつけるためなのだ。

 

「ピットインですわ!」

 

「合点なのです!」

 

梨花ちゃんを下ろすと同時にしゃがんだ圭ちゃんの逆側についた沙都子が、自分の足首の紐を圭ちゃんの腿に結びつける。梨花ちゃんはその間に紐をはずして離れた。

 

ひとつの紐を使えというルールがないのをいいことに、パートナーチェンジのタイムを短縮するために私たちが編み出した最速のピット作業だった。

 

「スク水沙都子のお姫様抱っこ最高ぉーう!?」

 

「変なとこ見るなですわ、この変態ッ!」

 

暴れる沙都子を抱き上げた圭ちゃんがなにもない空中から落ちてきたタライの一撃にもめげず走り出してからようやく交代地点にたどりついた白組は「急げ急げ!」といいながら紐をはずし、相手を交換してまた結びなおすという二度手間を強いられている……くっくっく、もはや勝ったも同然!

 

第2区間の障害は、3連続、S字型に並べられた平均台の上を走り抜けるバランス勝負だ。

 

「我に秘策ありだぜ!」

 

圭ちゃんは体育用シューズの真ん中にマジックで書いた線を平均台の中央に合わせ、横抱きにした沙都子の体重を使ってうまく左右のバランスをとりながら平均台をクリア、次の交代地点へと駆け出していた。

 

「圭一、次はネットくぐりなのです!」

 

「おう!」

 

沙都子と羽入が素早くチェンジ、今度は羽入の右足首と圭ちゃんの右足首を結ぶという変則的なパターンだ。

 

息を合わせてネットまで走った二人は、羽入に圭ちゃんが覆いかぶさる形でネットの前で四つんばいになり、ネットの下をくぐっていく。二人でばらばらの動きをするから絡みつかれるのであって、ネットに触れるのが圭ちゃんだけなら時間のロスはひとり分ですむというまさに画期的な作戦、だったのだが……。

 

「おおう……ッ! この体勢、この感触……メチャ興奮モノだよなぁッ!?」

 

「あぅあぅ、邪念を捨てるのです圭一!?」

 

……いけない、これはちょっぴり失敗だったかも。

 

ネットの下で圭ちゃんがなにかを楽しんでいるかのようにもたつき、羽入が圭ちゃんに頭突きを浴びせながら泣きそうな声であぅあぅ言っている間に白組走者も追いついてきて、ネットに潜りこんでしまった。

 

「おっと、遊んでられなくなったか!」

 

「あぅ、自重せよこの下郎、なのですぅ!」

 

「圭ちゃーん、立って歩け、前に進めー!」

 

圭ちゃんは羽入を抱えてネットから出たものの、今度はその独特の結び方が仇になってうまく前に進めない。

 

「くっそう、なんで目の前に魅惑のラインがあるんだよ!?」

 

「ってあぅ!? 意味もなくホックを外すのはやめるのです、圭一!?」

 

なんてアホなことをやっている間に、遅れてネットを抜けてきた白組走者が二人を追い抜いていった。

 

「うぅ~、ますますお嫁に行けなくなる僕なのです……」

 

交代地点までたどりついて紐をほどきながらさめざめと言う羽入に、

 

「なんだなんだ羽入、まだ俺以外のとこに嫁に行く気があったのか?」

 

さらっととんでもないことを言う圭ちゃんだった。羽入は目を見開いて真っ赤になり、あぅあぅと言葉にならない言葉を発するばかり。……ったくもう。

 

「ほら圭ちゃん、急ぐよ!?」

 

その間にチェンジを済ませた私が、圭ちゃんの腰に腕を回す。すると圭ちゃんもすぐに私の肩をぐっと掴んでくれた。

 

「おうよ!」

 

何秒か遅れたものの、白組走者の背中を見ながら私と圭ちゃんが練習どおりのペースで走り出す。身長差はほとんどないから、ノーマルな二人三脚が一番効率がいい。

 

「いち、に! いち、に!」

 

重なる呼吸、重なる鼓動……あぁ、練習のときも思ったけど、このリズムは癖になるほど気持ちいい!

 

そしてこの第4区間の障害は、大きなタイヤくぐりだった。

 

「くうぅ、こいつはまた憎い障害だよなあ!」

 

「いいからはやく!」

 

白組はそれぞれがタイヤを潜り抜け、相手がくるのを待ってから次のタイヤまで走るということを繰り返している。なるほど、あれが一番確実な方法だろう。

 

でも、私たちがそんな無難を選ぶはずがない!

 

私と圭ちゃんは抱き合うような姿勢になり、密着した状態のまま地面を蹴り、二人同時にいっきにタイヤの穴を潜り抜ける。そのまま地面を転がって立ち上がり、次のタイヤまで圭ちゃんが私を抱えて全力疾走だ。このときのために髪はちゃんとポニーテールにしてきている。

 

「でぇぇい、ツインキャノンの直撃を食らっていまにも昇天しそうな俺のV-MAX発動をなめるなよ!」

 

な、なに言ってるかなこいつはッ!?

 

青いオーラをまといながらいくつものタイヤを抜ける間に、前を行く白組走者との差はじりじりと詰まっていた。

 

「くそ、また追いついてきやがった!」

 

「な、なんてうらやま……いや、破廉恥な方法で!」

 

悲鳴をあげながらも、パートナーチェンジを済ませると白組は次の障害へ向かっていく。

 

抱き合ったまま何度も地面を転がったせいで土埃まみれの私と圭ちゃんは次のパートナー、悟史くんと交代した。私は息を切らしながら足首の紐をほどき、ふたりの背中を押し出す。

 

「二人とも、まかせたよ!」

 

二人はうなずきながら駆け出した。

 

「行くぜ悟史、根性見せろ!」

 

「まかせてにゃん!」

 

なぜかネコミミの悟史くんとともに驚くべき速さで前を行く白組に並ぶ。さすが、体格差がもっとも少なくて運動能力も同じくらい、そして親友同士の息の合い方は並ぶものなしだ。

 

「……おそらく、だけど」

 

梨花ちゃんが真剣な声音で状況を分析する。私たちははっとしてそちらに目を向けていた。

 

「メイド服では走りにくいから、やむなくもうひとつの属性、ネコミミを選択したんじゃないかしら」

 

「死ぬほどどうでもいいですわー!?」

 

ダメだ、……この古手家軍団のアホっぷりには、正直ついていけない……!

 

二人の前に立ちふさがる障害は、滑り台からジャングルジムへと渡されたロープだった。これを渡って、地面につかずに向こう側まで辿り着かなければいけない。

 

白組はやはり安全確実、ふたりが並んでロープに両手でぶらさがりじりじりと手の位置を前に進めていく方法をとっているが……圭ちゃんと悟史くんは、結ばれた足首を軸にそれぞれがロープに両手両足で掴まり、さかさかと気味の悪い動きで渡っていく。

 

その昔私がサバイバルとかの訓練を受けたときに教わった方法を二人に伝授したんだけど見た目に気持ち悪いのはなんとかならないものか。

 

「ファイトぉーう!」

 

「いっぱぁあーつ!」

 

いらないネタを挟みながら、いくぶん早く渡りきった二人はジャングルジムから飛び降り、最後のパートナー、レナが待つ交代地点へと向かった。

 

「圭一くぅぅん!」

 

「レナぁぁぁあ!」

 

呼び合いながら手を伸ばす二人の距離が近付いていく。

 

「待って待って、圭一! 引きずってる、引きずってるにゃー!?」

 

……飛び降りたときにコケた悟史くんを引きずりながらなので、あまり速くはなかった。

 

「ネコミミつけてると、つい空中で身体をひねっちゃうのよね……」

 

「そんなしみじみ言われても困りますわー!?」

 

梨花ちゃんと沙都子の漫才はさておいて、ようやく交代地点にたどりついた圭ちゃんがぼろぼろの悟史くんをパージ、レナとドッキングする頃には白組も交代地点に辿り着いていた。

 

わずかに先んじた圭ちゃんとレナのコンビがクラウチングスタートからダッシュをかける。

 

……って、なにあの全力疾走!?

 

というか、圭ちゃんの全力に余裕でタイミングを合わせて走れるレナが凄いだけか!

 

「レナぁあ! 触れ合うフトモモの躍動感が……たまらねぇぜ!」

 

「け、圭一くんはいっつも一言多いよ! 多いよ!」

 

圭一くんの馬鹿馬鹿、とスピードを緩めずに走りながら軽めのレナぱんをびしびし放って圭ちゃんの頭を揺らしまくるレナはどんだけ余力を残しているのだろうと疑問を持ったのは私だけではないはずだ。

 

最後の区間の障害は、まさに最大の難関ともいえる三連続跳び箱だった。

 

二人三脚で跳び箱ってどう考えても無理でしょ!?

 

例年どんなに順調にここまでをクリアしてきても、うまく抜けられずによじのぼっては降り、よじのぼっては降りという作業になるのでどうしても差が詰まる。

 

最後で盛り上げようという意図が見え隠れする、その難問を……、

 

「……いくぜ、レナ!」

 

「うん、圭一くんっ!」

 

互いの肩をしっかりと掴み、身体を密着させた二人は加速しながら駆け抜け、最初の跳び箱の踏み切り板を強く蹴った。

 

「なっ、なにぃぃ!?」

 

二人の結ばれた足が、跳び箱の上に着地し、さらにそれを間髪いれず蹴る。そのまま二つ目、続いて三つ目の跳び箱を三段ジャンプでクリアした二人は、最後のマットに綺麗に着地してから笑い合った。

 

「やるね、さすが圭一くん!」

 

「レナこそやるじゃねぇか!」

 

例年のペアが例外なく苦労するこの障害をあまりに美しい三段跳びで飾った二人に、両サイドの観客席から惜しみない拍手が贈られる。

 

大きな差をつけてラインまで走り抜けた圭ちゃんとレナ。

 

「ラストだよ、がんばってね圭一くん!」

 

「おうよ!」

 

レナが素早く紐をほどいて、身軽になった圭ちゃんは最終区間、単独での借り物競争へと進み、テーブルへと駆け寄った。並んだ二つ折りのメモ用紙から、適当に選んで開く。

 

「な……、なにぃぃ!?」

 

圭ちゃんは愕然としながらまず悟史くんを見て、次に私を見た。

 

「オーノーだズラ!」

 

わけのわからないオーバーアクションで頭を抱える圭ちゃん。

 

その間にも圭ちゃん・レナペアほどではないものの驚くべき速さで跳び箱を乗り越えてきた白組ペアもパートナー解除の作業に入っていた。く、向こうも運動能力の高さはさすがに折り紙つきか……!

 

「……消去法で考えれば、すぐにわかることよ」

 

「あぅ……悟史に、魅音。わかりましたのです!」

 

「そうですわ……『メイド』ですわ!」

 

ちびっ子3人組がおそらくは正解であろう答えを導き出すものの、私も悟史くんも選手だったから当然ながら体操着で、いまから着替えている暇があるわけもない。白組のランナーがテーブルへと向かい、一枚の紙を開いてにやりと笑う。

 

「めがねっ娘はいませんかぁー!」

 

同じ萌え属性のひとつであっても、運動会の会場でどちらが容易に見つかるかは明白だった。最後の最後で、こんな不運が……!?

 

「あ……、圭一さん! 鷹野さんがいますわ!」

 

沙都子の叫びで応援席に振り返り、監督と一緒に声援を送っている、おそらくこの会場で唯一のメイドさんをきゅっぴーん☆とロックオンする圭ちゃん。

 

すでにめがねっ娘を見つけて白組応援席から駆け出していく白組ランナーとすれ違い、紅組応援席へとダッシュした圭ちゃんは鷹野さんの前に立つと、いきなりその手をとった。

 

「鷹野さんを、雛見沢最強メイドと見込んで頼む! この俺についてきてくれッ!」

 

「え……、えぇえ!?」

 

なぜかほんわと鷹野さんの背景が淡いピンクになってる!?

 

「わ、私などで……よろしいのですか?」

 

「ああ、鷹野さんじゃなきゃダメなんだ!」

 

その一言で、鷹野さんの顔が遠目にもわかるくらいに真っ赤に染まる。圭ちゃんのを両手でぎゅっと握り締めて、こくこくとうなずいた。

 

「え、えぇ……喜んで参りますわ、ご主人様!」

 

「よっしゃあ!」

 

圭ちゃんは頷くなり鷹野さんを引き寄せると横抱きに抱えて、一気にダッシュする。

 

鷹野さんは鷹野さんで、うっとりと幸せそうに目を閉じて圭ちゃんの首にしっかりとつかまっていたりするわけで……えぇと、ここ、焦るとこ?

 

「うぉぉぉ、逃がすかよぉ!」

 

「な……なにぃぃぃ!?」

 

背後からの叫びに思わず振り返って、メイドを抱えた圭ちゃんが追いついてくるのを見つけた白組ランナーが驚愕の表情となる。

 

自分もペースを上げようとするのだが、彼はひとつ、忘れていた……そう、小学生のめがねっ娘はたいてい運動が苦手だということを……!

 

「きゃん☆」

 

案の定、転んでしまう。ちょっとかわいいぞ、めがねっ娘!?

 

「う、うわ、すまん!……くそう、追いつかれる!」

 

転んでしまっためがねっ娘を助け起こしながらも、見る間にメイドを抱えて突っ込んでくる圭ちゃんに戦慄とともに絶叫する。

 

「何故だ、なぜメイドを抱えていながらそこまで速く走れるというのだ!?」

 

圭ちゃんは汗だくでにやりと笑いながら、さらに大きく加速していく。

 

「貴様にはわかるまい……、この俺の身体を通して出るメイド力が!」

 

無駄にカッコいい顔でなに言ってんのぉー!?

 

「メ、メイド力だとぉぉぉお!?」

 

一歩も動けない白組走者をひとまたぎで飛び越えて……圭ちゃんはそのまま鷹野さんを抱きしめながらゴールラインを駆け抜けていった。

 

「ゴォォォォル!」

 

その瞬間、紅組の文句なしの大勝利が決定したのだった。

 

紅組観客席はまさに総立ち、スタンディングオベーション!

 

いや、でもさ……。

 

メイド力で勝つ運動会ってのもどうなのよ?

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