「……れすとらん。なのですか」
事の真相を知って茫然自失、魂が抜けまくってる羽入ちゃんを見て、おじさまとおばさまが唸っていた。
「うぅむ。なんという……」
「話には聞いてたけど……」
確かに、村のみんなはなにげなく馴染んじゃってるけど、冷静に考えたら羽入ちゃんの髪とツノの組み合わせは奇異に見えるのかもしれない……。
「圭一……」
二人はゆっくりと圭一くんに向き直り、重々しく告げた。
「……これは萌えるッ!」
あはは……、うん。
前原家の皆さんのセンスのほうが、よっぽど奇異でした!
「だろ? しかもこいつは、外見だけじゃないんだ」
ひょいと手を伸ばした圭一くんが羽入ちゃんの喉をこしょこしょしたら、すぐにびくっと身を震わせて再起動した。
「あぅ!……あぅ、し、失礼しましたのです」
ふかぶかと頭をさげる。
「ここ雛見沢は古手神社にて、代々オヤシロ様をお祀りする古手家頭首、古手羽入と申します。ふつつか者ですが、妹ともども末永くよろしくお願いしますのです」
礼儀正しいけどなにかいま凄いこと言ったよ!?
「ははは、こちらこそ息子のことをよろしく! 孫たちにもそんな可愛いツノが生えてたら最高だよっ!」
「ふふふ、よろしくね羽入ちゃん。こんな可愛いお嫁さんたちに囲まれて、圭一はつくづく幸せ者ねぇ~」
さ、さすが圭一くんのご両親、まったく動じないどころか普通に色良い返事をしてるよ……!?
「僕のほうこそ、圭一がいてくれてずいぶん助かってますのです! 圭一はですね、梨花と一緒に機会あるたびに悪戯をしてくれますのです。嫌がる僕を無理やり隅々までお風呂で手洗いされてなにか大切なものをなくしましたがそれはそれは気持ちよくて生まれ変わったような心持ちでしたし、お昼寝して目が覚めたら素肌の上にお刺身が綺麗に並んでいて二人が舌鼓を打っていたときなんか泣きそうになりましたが、僕にもあ~ん☆って食べさせてくれて、とても美味しかったのですよ!」
羽入ちゃんの衝撃の告白にも和やかな雰囲気は崩れない。
「ははは、仲良くやっているようで結構結構!」
「ふふふ、お役に立ててるみたいで安心したわ」
「次にするときは絶対レナも呼んでほしいな!」
思わず私までそう言ってしまうくらい楽しそうだから無理もない。羽入ちゃんでお刺身……おおおお持ち帰りッ!?
「萌え要素の塊な上にいぢりまくってもどこか楽しそう、これが羽入の魅力なんだよ! あぁもうお持ち帰って毎日抱いて寝たくなるぜ! 毎日抱いて寝てるけど!」
拳を突き上げて元気に宣言する圭一くんだった。
け、圭一くん……いいな。いいな!
レナもお持ち帰りして抱いて寝てみたい!
むしろ圭一くんにお持ち帰りされて、抱いて寝てほしい!
「それより、ごはんはどうなったのよ~!」
腹ぺこ梨花ちゃんが、圭一くんをかじりながら言う。
「はっはっは、俺の頭蓋骨の耐久限界を超える前に食事に出掛けようじゃないかマイファミリー☆」
だらだらと髪の間から血を流しながら圭一くんが笑顔で提案したので、ようやく車に乗り込むことになった。
「後部座席に4人も乗れるかしら。あんまり大きな車じゃないし……」
おばさまが冷静な意見を言う。
「いいじゃないか母さん。一人余計なのもいるけど、女の子ばかりだ。このくらいはいいハンデだよ……リアのトラクションも稼げるしね」
「誰と公道バトルをおっぱじめるつもりですか」
「……えーと、母さん。できればそこじゃなくて、余計なのって俺ですかーっていう。確かホラ、俺がメインで呼ばれてなかった?」
おずおずと圭一くんがツッコミを入れると、ご両親は不審そうな様子で愛息を見ながら、
「メインは我が家の嫁たちに決まってるだろ常考」
「よそ様のお子さん乗せて公道バトルをしろと?」
にべもない。
圭一くんはすごすごと引き下がり、「うん、そうだね。そこ大事よね……」と言いながら石段で体育座りを始めてしまった。
「ま、気にするな。ささ、お嬢さんがた、座席へどうぞ。ちょっと狭いが、君たちが心に描く素敵なフォーメーションを私たちに見せておくれベイビー」
なにか無茶なネタ振りをされてしまった気がするけど、とりあえず私たちは視線を交わして、不公平のないように結論を出す。……圭一くんの隣に座りたいのはみんな同じ。
「圭一くん、こっちこっち。真ん中に座って」
体育座りしていた圭一くんを立たせて後部座席の真ん中に座らせ、次に私と羽入ちゃんが圭一くんの左右に陣取る。そして最後に、いちばん身体の小さな梨花ちゃんが圭一くんの膝の上にちょこんと乗った。
「こ、これが究極のハーレムフォーメーション!?」
おじさまはそんな私たちを眩しげに見つめて叫んだ。
「や、やばいよこれ……なんか、見知らぬ宇宙に辿り着いてしまいそうさ、父さん!」
感動の面持ちで叫ぶ圭一くんは、両腕を私と羽入ちゃんの背中から脇へ回し、膝の上の梨花ちゃんの頭に顎を乗せて至福の笑顔を見せる。
「これぞ男の夢ッ……! あぁあ、よくばりんぼうなこの俺を許してくれ……!」
許すも許さないも、圭一くんに抱き寄せられた上にかぁいい梨花ちゃんが至近距離にいるなんて、私にとっては幸せすぎるんですけど!?
「僕は許すのですよ圭一~、オヤシロ様は許す神ですし、縁結びが得意技なのです☆」
ほわほわしながら言う羽入ちゃんの右手と私の左手が、梨花ちゃんの膝の上で組み合わされる。
「圭一の膝は私の定位置だからぜんぜん問題ないわよ~。私が上で、圭一が下だ!ってとこね☆」
梨花ちゃんもやたらと満ち足りた笑顔でそう言った。
「えと、レナはね……もう全員まとめてお持ち帰り~ってしちゃいたいくらいかな……かな☆」
思考回路がうまく働かない中でそう言うのがせいいっぱいだった。
「代われよ、父と代わってくれよ圭一……ッ! その地上の楽園を万人の夢にするための仕組みが社会ってもんじゃないのかよ……!」
がつんがつんとおじさまがハンドルに額をぶつけていて、おばさまもハンカチをそっと目に当てながら、
「いまは泣いていいわ、あなた……理想は常にその手をすり抜けて、他の誰かの手の中へ零れ落ちるもの。しかもそれを手にしたのが実の息子だなんて、悔しいでしょう悲しいでしょう。でも、あなたはきっと、それを乗り越えていける人だと信じてる……!」
あぁ、未熟な私には理解しがたいけど、あれも愛の形なのかもしれない……!
「というわけで、現実を見つめなおしたところでおなかもすいてきたところだし、食事に行こうか」
朗らかにそう言っておじさまは車をスタートさせた。
圭一くんの家系の特徴なのか、異常に切り換えが早い。
「さて諸君、なにか食べたいものがあるかな?」
ハーレムに浸っていた私たちは頭にかかっていたピンク色の靄を振り払い、食欲に注意を向ける。
「あぅ、甘いものを!」
「みぃ、辛いものを!」
「おう、寿司がいい!」
「レナはなんでも……」
そう言ったら、ぎろりとみんなに睨まれてしまう。
な、なんで~!?
レナは我が儘言わない良い子なのに~!?
「ふぅむ。よし、では希望を聞いたことは忘却のかなたへと追いやって、エンジェルモートで食べるとしよう!」
エンジェルモート。たびたび罰ゲームに使われたり、逆にデザートフェスタのチケットがご褒美として提示されたりと私たちも何度か縁のある興宮のファミリーレストラン。お料理はファミレスとしては普通だけど、デザートの類が豊富で美味しい。そしてなにより売りにしているのは、刺激的な制服を着たウェイトレスさんたちだった。
「あぅあぅ、文句なしのチョイスです父君!」
「辛口のパスタも美味しいから、別にいいわ」
「じゃ、レナは梨花ちゃんとお揃いにするね」
「エンジェルモートに寿司は……ないですね」
ただひとり圭一くんだけががっくりとうなだれる中、車は山道を抜け興宮市街へと入って行く。その間、車内の話題はこの間の運動会のことでもちきりだった。
「そう、圭一がねぇ……あんた、体育は得意じゃなかったのにどうしちゃったの?」
圭一くんの尋常でない活躍っぷりは、ご両親にとっては信じがたいものだったらしい。
「これでもこっちに来てから、すこしは鍛えてるんだよ……なぁ、レナ?」
「うん。いまの圭一くんならきっと、普通の学校でも体育の時間はヒーローになれるんじゃないかな。かな!」
素直に思うところを言ったら、圭一くんは照れたようなすねたような顔をする。
「べ、別にヒーローってほどじゃねぇだろ。レナには全然かなわないしさ……」
せっかく褒めたのに、男の子の反応というのはよくわからない。親御さんの前で褒められると恥ずかしいのかな。
でも、圭一くんは本当によく頑張っていると思う。
私との模擬戦でも……まあ、最初と比べれば格段に進歩してると思うし。
「圭一、鉈女を人類の尺度ではからないの」
なんか梨花ちゃんが酷いこと言ってる!?
「そいつは酷いぜ梨花、俺の可愛いレナのどこが人類外だって言うんだ!?」
あ、圭一くんが擁護してくれた……ッ!?
「服の下まで全部ちゃんとチェックした? ありえない紋様が浮かんでたり、どこかにスイッチついてなかった?」
梨花ちゃん……、レナは悪魔と契約もしてないし、アンドロイドやサイボーグでもないよ……?
「そ、そこまでは……わかった、今度ちゃんとチェックしてやるよ。徹底的にな!」
「け、圭一くんッ!?」
悲鳴をあげる私だけど、羽入ちゃんが悟りきった顔で私に微笑みかけてくれた。
「大丈夫ですレナ、最初は抵抗があって悲鳴のひとつも出ますが、圭一や梨花の徹底っぷりにかかればそのうち声を出す気力もなくなり、最後には夢見心地でセミの一生とかについて考え始めてる自分を発見するのですよ……」
な、何があったのかな……目が虚ろだよ、虚ろだよ!?
「レナが普通の人間の女の子だって証明するためだ、耐えてくれるよな?」
「証明しなくていいよ、鉈女でいいから!?」
どう考えても小中学生が保護者の前で話す話題ではないのだけれど、おばさまは微笑ましげに私たちを見ていた。
……おじさまはとてつもなく悔しそうだったけど。
「はっはっは。我が息子よ、ちょっとばかり車の屋根にしがみついて、ノースタントのアクションスター気分を満喫してみる気はないかね」
「なんでッ!?」
そんなことを話している間に、車はエンジェルモートの駐車場に入っていた。
6人がけのテーブルについた私たちはメニューを見ながらわいわいと騒ぐ。
「みんな、デザートも好きなのを頼んでいいからね!」
「父君様素敵すぎるのです、あぅ☆」
もちろん羽入ちゃんは大喜びで、『山盛りシュークリームパフェ』という、ジャンボパフェの上に埋め尽くすほどのシュークリームが載っているという正気を疑いそうなデザートを注文していた。メインのほうが『きのこご飯和膳』だったりするあたりが和の心を忘れていないことをそこはかとなく感じさせる。
「私はアラビアータと生オレンジジュースで。デザートは濃厚グレープゼリーね」
「レナもアラビアータと……、飲み物はアップルティーがいいかな。デザートは、双子のショートケーキ!」
そう言って圭一くんにバトンを回したら、彼はメニューを見もせずに答えた。
「適当に握ってくれ」
「お客様、いきなり握れだなんてセクハラは困ります!」
お寿司ボケに下ネタでボケ返し!?
と思って顔を見たら案の定と言うべきか、そのウェイトレスさんは魅ぃちゃんだった。アルバイト、かな?
私たちの視線に魅ぃちゃんはにんまりとして、
「あまり変質的な言動をされると退店をお願いする場合がありますのでご注意くださいませ、お客様」
「ニギれないってことは……まさか、この俺に石を置けというのか!? お前の後ろには秀策でもいるのかよ!」
圭一くんはさらにボケ返しているけど、ここは流そう。
「久しぶりだね、園崎さん。相変わらず見事なスタンドパワーだ。暗黒空間でこなみじんになって死ぬのもいいかなと真剣に考慮してしまうよ」
……意味がわからないけど、多分退店スレスレの発言だ。
「お久しぶりです、おじさま。そちらは奥様ですか?」
お辞儀をしておばさまに視線を送る。
「圭一の母です。あなたが園崎魅音さんね。お話は主人や息子からかねがね……圭一がお世話になっております」
おばさまのほうも上品な笑顔で頭を下げた。
「噂に違わない素晴らしい造形美ね。同性ながら惚れ惚れするわ。拝んでもいいかしら?」
とてもにこやかにそんなことを言うものだから、さすがに魅ぃちゃんが「ひっ……!?」と後ずさる。こっちに助けを求めるような視線を送ってくるので、私と梨花ちゃんと羽入ちゃんはうんうんと頷いてみせた。
それで納得した様子で、
「……さ、さすが圭ちゃんのご両親と言うべきかね。一筋縄じゃいかないわ」
その後は注文も滞りなく済ませ、空になった食事のお皿が下げられてデザートを一口ずつ交換してみたりと平和な時間を過ごしているときに、おじさまが圭一くんに鍵の束を差し出した。
「圭一、私たちはこれからお前たちを送ったらそのまま東京に帰る予定だ。アトリエはもう完成しているが、私が使わない間の管理はまかせる。電気、水道、ガス、電話などは明日から使えるように手配してあるし、基本的な家具や家電製品は用意してあるから、住み込みで管理してくれても構わない。住まないならそれでもいい、たまに掃除と空気の入れ替えだけ頼めるか」
梨花ちゃんに話は聞いていたけど、あの家は実質圭一くんが預かることになるらしい。
この場合、圭一くんを信頼してのことなのだからちょっぴり羨ましかった。
「……わかった」
鍵を受け取って、圭一くんが頷く。
「私たちはお前やお前の選んだ大切な人間が納得できる幸せを得ること、そのために努力することを頭ごなしに否定したくはないと思ってる。それだけは覚えておいてくれ」
おじさまの言葉は難解だった。
でも、なんとなくわかる気がする。
それは、いざというときには可能な限り理解し味方になるから、思うようにやってみなさいという宣言だと思う。
見た目はそれほど変わらないはずなのに、放棄と放任の間にはずいぶん差があるんだな、と考えてしまう自分がすこしだけ哀しくなった。
「……できる、とは言い切れない。やっぱりたよることも迷惑かけることもあるかもしれない。でも、やってみる。いつかそうしなきゃいけなくて、その時期を自分で選べるなら、俺はいま、目の前の道をまっすぐに進みたい。だからその機会を与えてくれたことを心の底から感謝するよ。父さん、母さん……ありがとう」
そう言って圭一くんは頭を下げた。
きっと圭一くんが選んだのは、とても困難な道。
大切に思うみんなを、誰か一人じゃなくて全員を、幸せな未来へ導こうとする途方も無い決意。
願って叶うとは限らない。
祈っても叫んでも届かないかもしれない。
けれどその確証のない荒野へと踏み出す圭一くんの決意と勇気だけは、掛け値なしの本物なんだ。
どうしてかな……胸が、痛い。
「……ね、圭一くん」
古手神社で車を降りてご両親と別れ、送ってくれるという圭一くんと二人きりの夜道で……私は、足を止めた。
「ん?」
彼も足を止めて、私を優しく見つめてくる。
もしかしたら圭一くんは、私の言いたいことにもう気づいているのかもしれないと思ってしまう。
そこに生じる迷いを振り捨てて、私は笑顔を浮かべた。
「レナをね、圭一くんの新しいお家で……雇ってくれないかな。住み込みのメイドさんとして☆」
それは村の噂のひとつで、冗談として流せる程度の話。
「……駄目かな。レナ、ちゃんとメイド服着るし、ごはんも作るよ。お掃除やお洗濯も頑張るし、はぅ……圭一くんがしてほしいなら、お背中だって流すし、添い寝もしちゃうよ。おはようからおやすみまで、毎日きっちりご奉仕三昧……だよ。だよ?」
とん、と圭一くんの指が私のおでこを軽く押した。
「……メイドは必要ないよ」
そう言って、どこか寂しげな顔をして肩をすくめる。
「そ……、そうだよね。梨花ちゃんや羽入ちゃんがいるもん、メイドさんはいらないよね、あははは!」
慌てて圭一くんから離れながら、くるりと回って背中を向ける。彼に涙なんか見せたら、きっと心配するから。
どうしようもないくらいに、心配してくれるから……。
「レナ、変なこと言っちゃった。ごめんね。ごめんね!」
と、ふわりと背中から抱きしめられる。
とっさに振りほどこうとっしたけど、全然力が入らない。
「メイドは必要ない。……でも、家族ならもう何人かいられるくらいの広さはあるんだ。レナ」
抱きしめる腕から、彼の暖かさがじわりと身体に染み込んで来るのがわかった。息苦しくて、胸がいっぱいになって……ああ、駄目。泣いてしまう。
「親父さんとうまくいってないのはわかる。逃げたいときは逃げていいし、泣きなくなったら泣いていい。でも俺にはちゃんと、そう言ってくれ。レナは嘘つくのうまいし、俺は鈍いから気づいてやれないこともあるかもしれない。レナが一人でそっと泣いてるのなんて、嫌だからさ」
零れ落ちる、涙が。
身体が震えてしまうのを、止められない。
「レナ。俺たちは、支え合おう。家族になろう。俺たちはひとりになっちゃいけない。みんなでつながってるから、強くなれるんだ」
いまの顔だけは、圭一くんに見られたくない。
きっと鏡を見たら死にたいくらいにひどい顔してる。
「転がってるやわな不幸なんざ蹴っ飛ばしてさ、泣いてる暇なんかないくらいに馬鹿笑いして、一緒に行こうぜ」
圭一くんがそう言ったら、本当にそうなりそうな気がしてしまうから……不思議だった。
「……ま、いいんじゃない? ただし、明日の引っ越しは全力でお手伝いしてもらうわよ~」
「あぅ。僕も異存はないのです。レナは好きなだけ圭一のところにお泊まりするといいのですよ」
びっくりしてそっちを見たら、梨花ちゃんと羽入ちゃんが並んで立っていた。
「二人とも、……どうして!?」
慌てて圭一くんから離れて、顔を両手で覆いながらそう言ったら、二人はにっこりと笑顔を浮かべる。
「レナがあんな泣きそうな顔してたら、さすがに心配になるのですよ」
「そーゆーこと。それが、……家族ってもんじゃない」
すこしだけ照れくさそうにそう言った梨花ちゃんがかぁいくて……私は、思わず駆け出してしまっていた。
「ひゃ!?」
「か、かぁいいよぅ……、おもちかえりぃぃぃ!」
梨花ちゃんを無理矢理に抱きしめて泣きながらそう言ったら、三人とも苦笑いをする。
「そこは違うのですよ、レナ」
「お持ち帰る必要はないんだぜ。これからはいつだって、一緒にいるんだからさ」
「そうよ、レナ。ほら、だから放して……」
私は顔を上げて、せいいっぱい笑った。
「じゃ……、この場でお召し上っがりぃぃぃ☆」
「みぃぃぃぃぃぃぃッ!?」
梨花ちゃんの悲痛な声が、秋の夜空にこだまする。
「う、うぉ……そこまでするか……!?」
「あぅあぅあぅ……がくぶるなのです!」
ひきつりながら立ち尽くして呆然と見守る二人。
「たすっ、たすけっ、おね、が……ッ!」
梨花ちゃんが大変なことになっちゃったけど……、それも団欒なのかもしれない。
「……夜道でソレは、団欒とは何か違うな」
「あぁあ……僕の大事な妹が無惨な姿に!」
心ゆくまで梨花ちゃんを堪能してから、私は顔をあげる。
まだ痙攣している梨花ちゃんの右手、その指先は地面をかすかに『ナタ』と読める形にえぐっていた。
「次は……どっちかな、かな……?」
にっこり笑ったら、二人が震え上がった。
「ままま、待てレナ! クールになれ、クールにッ!?」
「僕はおいしくないのです! おいしくないのですよ!」
互いに互いを盾にしようと後ろへまわりこもうとする様がとてもかぁいくてかぁいくて……あぁ、我慢できない!
「二人一緒に、お召し上がりぃぃぃぃぃッ☆」
秋の夜長は、まだまだこれからだ。
「あぅあぅううううッ!?」
「ぴきゃあぁあああッ!?」
ごめんね。
こうしていないと、涙が止まらなくなりそうだから。
みんな……ほんとうに、大好き!