ひぐらしのなく頃に~神楽舞   作:晃晃

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第64話 敵か味方か?

身体の下で圭一が動くたびに、私の身体はゆっくりと上下する。そのリズムと彼の息遣いが好きだから、こういう時間も悪くないなと思ってしまう。

 

でも、その時間もそろそろ終わり。

 

圭一はフィニッシュを迎えようとしていた。

 

「九十九ぅ……、ひゃあ~くッ!」

 

ぎりぎりと苦しげに両手で突っ張ったあとで、ばったりと畳の上に突っ伏す圭一。

 

「どけー、梨花、重いぞー」

 

「なによ、協力してやってるっていうのに失礼ね」

 

どのくらい前だったか、レナが逆立ちでの腕立て伏せができると知って圭一は自分ももっと負荷が欲しい、でも逆立ちは正直まだきついし、うちのちゃぶ台に足を乗せてやろうとしたら羽入に「食卓に足を乗せるだなんて不作法なのです」と小一時間ばかりあぅあぅ言われたものだから、代案として私を背中に乗せての腕立て伏せをするようになった、というわけだ。

 

くすくす、エローイ場面だと思っちゃった人はごめんなさいね。心が汚れているなんて落ち込まなくてもいいわよ、わざとだから。くすくす!

 

「なにを笑ってますか梨花さんや」

 

背中からお尻をどけてやったら、圭一は大きく息をつきながら身体を起こして座りなおす。

 

「なんでもな~い」

 

私は子供みたいな返事をしながらその胸によりかかって甘えた。……子供だけど。

 

「汗くさいぞ~?」

 

「それがいいのよ。汗の匂いがもうたまらんのよ」

 

じゅるりと涎を拭う。

 

「汗フェチかよッ!?」

 

圭一はそう言うけど、やっぱりわかってないな。

 

私にとっては圭一の匂いだけが特別なんだってことをそろそろ気づいてほしいものだ。

 

やれやれと私の身体に腕を回してくるのがくすぐったくて思わず笑みがこぼれる。最近風が冷たくなってきたせいもあって、夏の頃よりもこうして身体を寄せ合うことは多くなっていた。

 

それはなにも圭一に限ったことではなく、家では羽入やレナもそうだし、学校なら沙都子も有力なターゲットだ。心情的にはちょいと複雑だが、柔らかくてふっかふかの詩音もそこに加えてやってもいい。

 

でもやっぱり圭一が最高だ。ごつごつして硬いから感触がいいとはとても言えないが、身体も心もほかほかしてきてあぁ私ってばこのアホをこんなに好きなんだなと乙女な自分に酔ってしまうのが余計にいい。

 

引っ越しのときにワインが見つかってレナに取り上げられてしまったので、最近の楽しみはコレに限る。

 

「しかし甘えんぼの梨花は本気でかぁいいよな~」

 

私の身体をふわふわ撫でる圭一との顔ときたら、それこそ猫を愛でている人のようにわけもなく満足そうだった。

 

あんたのその顔のほうがよっぽどかぁいいよ、と思いながらも口には出さない。

 

「思わずレナ直伝のお召し上がりをしてしまいそうだぜ」

 

「圭一がすると絵的に犯罪にしか見えないからやめたほうがいいと思うわよ。畳の上は勘弁してほしいから布団敷いてもらうし、そうすると余計にね☆」

 

「……あー。パトカーに押し込められる自分を幻視した」

 

お召し上がりというのはそのくらいレッドゾーン一直線の危険行為だということだ。具体的に何がどうとは聞かないでね、レナにたびたびお召し上がられている私としては、詳しく語ることであの恐怖を呼び覚ますのは御免だ。

 

まぁ、圭一が本気でお召し上がりたいならどうぞお好きにとしか言えないのだけれど。

 

ちなみにここは、前原屋敷の2階にある圭一の部屋。

 

屋敷の外観からすると洋室でベッドで……なんてのを想像しがちだけれど、数多の世界で私が見てきたとおり、あの防災倉庫で私たち三人の生活空間だった六畳間より若干は広いものの一般的な和室だ。

 

一緒に暮らす私たちがよく出入りするぶん他の世界の圭一の部屋よりは片づいているし、布団も防災倉庫での生活で習慣がついたせいか万年床にはしていない。

 

ちなみに伊知郎と藍子の部屋は彼らが来たときのために手つかずでとってあり、私たちの部屋は別にある。

 

一階の奥にある客間で、そこに私と羽入の家財が運び込まれ、名目上は『お泊まり』に来ていることになっているレナの荷物も置いてある。客間はもうひとつあるけど、いままでの防災倉庫よりは格段に広いのだから私や羽入が不便を感じるはずもなく、レナはレナで私や羽入と寝るのが楽しみだからと同じ部屋に泊まっている。

 

夜は別に申し合わせたわけでもないのだけれど、いや私がそもそも抜け出して圭一の部屋に潜り込んだのがきっかけになったのか、次の夜は羽入が同じように忍んでいき、その次はレナが圭一をお召し上がりに向かい……としているうちに、自然と交代で圭一のところへ添い寝にいくようになってしまった。日替わりで美少女三人に添い寝してもらえるなんて、圭一も本当に果報者というか、男の敵かつ女の敵、ひいては全人類の敵みたいな奴よね。

 

羽入が行ってるときにレナと二人にされると、ちょっぴり生命やら貞操やらの危機を感じなくもないけど、なんというか……人の順応力というものは偉大だと感じてしまう私だったりもする。

 

「む、なにかしみじみとエローイことを考えていないか、幼女よ」

 

「人聞き悪いこと言わないでよ、あと幼女言うな」

 

私がしみじみ思うとしたら、前原屋敷で、それも圭一やレナと一緒に暮らすなんて奇妙な世界があることだろう。

 

それは奇妙だけれどもとても幸せで、あとは私の沙都子が隣にいてたえずツッコミを入れてくれたら文句はないのにと思ってしまうくらいだ。

 

まぁいまの沙都子は北条家で悟史、それに鷹野と暮らしており、悔しいことにほかの世界で私と防災倉庫にいた沙都子と比べても幸せそうなので無理は言えないのだ。

 

……それにしても鷹野の本性というか、この先起こすであろう惨劇への行動を知っている私としては、圭一に頭の中身を掻き回されてしまったのだろうかと思わされるいまの鷹野の言動には戸惑うほかない。

 

といっても鷹野が沙都子にわりと親切なのは珍しくない。村で冷遇されている沙都子にとって、北条家の子でもわけへだてなく扱ってくれる彼女は数少ない信頼できる大人であっただろうことは想像に難くないし、あやしい猟奇趣味があっても、いや、その欠点があるからこそ私も彼女を、その趣味が高じて祭具殿に忍び込み、毎回富竹と一緒に祟りに遭って殺される哀れな女だと思いこんでいたくらいなので、普段の彼女が多少人の心を推し量ることのできない面を持っているとしても、冷酷な殺人狂だなどとは思っていなかった。

 

だけどこの世界でメイドと化した彼女の沙都子に向ける愛情は私の目から見ても本物に見えるし、その沙都子に近しい私たちに対してもいつも以上に親しみをもって接してくれるのは確かだ。

 

この前の引っ越しにも手伝いにきてくれて、防災倉庫から運び出したいらない雑誌や新聞、着なくなった服などを枯れ葉と一緒に燃やしているところにどこで用意してきたのかお芋を持ってきて、みんなでほくほくしながら食べていたときなど、思わず鷹野グッジョブと感じてしまった自分にあとで自己嫌悪に陥ったっけ。

 

……あのお芋、美味しかったな。

 

「また涎だ。絶対なにか妙なことを考えているな!?」

 

「あぁもう、だったらあててみなさいよー!」

 

圭一はむぅと考え込んでから、

 

「わかる、わかるぞ……! ララァ、私にも見える!」

 

「誰よ!?」

 

「鷹野さんのことだな」

 

いきなりざくりと核心を突かれた気がして、私は目を見開くしかなかった。圭一ってエスパー!?

 

「鷹野さんは最近ますます癒しの女神たる実力を身につけてきているからな。彼女に尽くされる沙都子を見て羨ましくなり、あのばっきゅうぅうん☆なお胸に包まれてみたいと梨花がせつない想いを募らせてもいたしかたない!」

 

「あんたと一緒にするなッ!?」

 

……言われてみればちょっと包まれてみたいけどさ!

 

あと圭一、たぶんそれ、頼めばやってくれるわよ。

 

どうにも最近の鷹野は圭一に対して不穏な、というか正確には憧憬に近いまなざしを浴びせていて、富竹のことはいいのかなーと思わされることが少なくない。

 

ここのところ早めに沙都子を迎えにきては部活をやっている私たちを教室の中で待っていることが多いのだけれど、せっせと編み物をしていて、沙都子と悟史のものと思われるマフラーのほかに『ほわん』とした表情でKの文字が編み込まれたマフラーを編んでいたのを見てしまった。

 

あれは絶対、クリスマスにでもプレゼントすることを夢見て恋する乙女気分だったに違いないと思う私だった。

 

「それにしても、いつも待っててくれて悪いよな。今度、部活に誘ってみようぜ」

 

無邪気な圭一の言葉に、私はうっと詰まるしかない。

 

「鷹野さんも、もうすっかり俺たちの仲間だもんな!」

 

確かに、それを提案すれば部活メンバーの誰も異議は唱えないだろう。それくらいに、いまの彼女は私たちの日常に頻繁に顔を出すし、みんなの輪の中に溶け込んでいる。

 

油断すれば腹を引き裂かれた私の警戒心さえ溶かしてしまいそうなあの柔らかな笑顔が演技だとは到底思えない。

 

……さて、どうしたものか。

 

考えてみれば私は鷹野が凶行に走る理由をまったく知らない。部活メンバーのように雛見沢症候群によるものならまだ話は早いのだ。一応の対処手段もわかっているし、レナを救った圭一ならきっと鷹野も説得できると思う。

 

症候群の現れ方には個人差があるから、山狗を使っていたことを以て発症していないと決めつけることはできないけど、毎回毎回発症して、そのたびに私の腹をかっさばいているというのもそれはどうなんだろう。

 

「……そうね。今度、誘ってみましょ」

 

「だよな! 鷹野さんあぁ見えてなかなかのキレ者だし、こりゃあ手強いメンバーがまた増えるぜ!?」

 

楽しげに言う圭一だけど、私の内心は少しばかり違う。

 

要するに、悩むよりも彼女との接点をより多くすることでその内心を推し量り、どうして彼女が敵になるのか、なぜ私が殺されなければいけなかったのかを知るためだ。

 

多くの世界で部活メンバーを深く知ることで惨劇に対処してきた私だからこそ、鷹野を知ることは重要なのだ。

 

……惨劇防げてないじゃん、って?

 

んなことないわよぅ! 百年もかかって、いろんなくだらない原因で部活メンバーが殺し合う原因を調べて最近はだいぶ惨劇フラグ折れるようになってきたんだから、本当なのよ、信じてよぅ! ふわぁぁぁん!

 

「なぜ泣く!? しかも沙都子的に!」

 

わけがわからないという顔で私を抱きしめてあやしてくれる圭一だった。私はひとしきりその胸で泣いてから、

 

「フ~、スッキリしたわ。私は羽入やレナと違ってちと荒っぽい性格でね、トチ狂いそうになると泣き喚いて頭を冷静にするのよ」

 

「いやいや、泣いてる時点で思いっきりトチ狂ってるようにしか見えなかったが……」

 

ですよねー。

 

間違った対処なんじゃないかと頭の片隅で思ってはいたけどネタを見つけると逆らえないのよね、これが。

 

……と、ともかく。

 

私と圭一はこの件を詩音たちにも話し、鷹野を部活に誘うことに決めた。

 

「皆様並んでください。撮りますよ~」

 

で、今日は学校行事で紅葉狩りを兼ねた秋の遠足だった。

 

わざわざ雛見沢から興宮に降りて、さらにその反対側の山にすこし入ったところにある湖畔までという無意味に気合いの入った行程なんだけど、もともとが健脚な雛見沢っ子は低学年の子たちも平気な顔でついてきた。

 

なぜここにメイド鷹野がいるのかというと、最近頻繁に学校にやってくるし、放課後は職員室の台所を借りて私たちのついでに知恵にも給仕したりする縁で、校長が出張でついてこれないから引率を手伝ってほしいと知恵が頼んだらしい。ついでに、富竹譲りのカメラも持ち出して記念写真の撮影係はするし、山菜やきのこを採ろうとするたくましすぎる雛見沢っ子たちに圭一と二人でその知識を披露し、食べられるものとそうでないものを選り分けてみせたりと大いに役に立っている。

 

「ありがとうございます、鷹野さん、そして前原くん! これで山菜きのこカレーが作れます!」

 

一番喜んでいるのは、お弁当の時間にひとりで火を起こしカレーを作り始めている知恵なのかもしれないけど。

 

「わぁぁぁん……、破けちゃったぁ……!」

 

「あら、転んじゃったのね? ちょっと脱いでごらんなさい、繕ってあげるから」

 

しゃがんで上着を受け取るとポケットから裁縫セットを取り出し、裏地から丁寧に縫いつけてあっという間に破れた痕跡さえもなくしてしまう。

 

「はい、できたわよ」

 

「わぁあ、速い……!」

 

「たかのさんすげぇえ!」

 

なにより、メイド鷹野の優しさと手際の良さは天下一品なので、健康診断のときくらいしか接点のなかった小さな子たちも優しいお姉さんの引率に大喜びだ。

 

「エプロンのポケットにお裁縫セットを常にしのばせてるあたりは、見習わないとね……!」

 

メイド悟史が対抗心も露わに炎を背負っていたが、沙都子はため息まじりにずばりと指摘する。

 

「にーにーはそもそも不器用ですから、お裁縫を先に修練なさいませ」

 

「むぅ……、いつも沙都子の服につぎあてをしてあげたのは僕なんだけどなぁ」

 

あぁ、そうだっけ。……あれはひどかった。

 

膝のくまさんがくしゃくしゃになっていて、これなんて人面瘡?ってかんじで沙都子がわんわん泣いていたのも今となっては良い思い出だ。

 

「準備できましたよ~、皆さん」

 

そう言ってる間にもてきぱきと動いた鷹野は持ってきた大きめのビニールシートをその場に広げて風で飛ばないように荷物で重しをして、重箱のお弁当と魔法瓶に入っていた暖かいお茶を紙コップに注いで並べていた。

 

「おぉう、さすがだ……この心憎いまでの完璧なセッティングと苦とも思わない笑顔こそ、まさにメイドの鑑!」

 

「た、たしかに……これが圭ちゃんや監督の言うまごころメイドってやつかぁ。見習わないとね……」

 

「お料理も凄いよ、凄いよ! 三四さん、これってとっても手間がかかるんですよね!?」

 

「あぅあぅ、忙しい仕事の合間を縫ってここまでのことを……鷹野、恐ろしい子!なのですよ」

 

部活メンバーは私も含めて感心しながらビニールシートに陣取る。鷹野は照れくさそうに、でも嬉しげな笑みを浮かべて「おそれいります」とそつのない答えを返していた。

 

「ふふん、鹿骨市中、いえ日本中探したって三四さんほどの素敵なメイドさん、いいえ素敵な女性はいらっしゃいませんことよ~!」

 

笑顔満面、鼻高々の沙都子だ。

 

沙都子にとってはもはや鷹野はかけがえのない理想の家族であり、大好きな母親にも等しい存在。……前の世界で、薄ら笑いとともに沙都子の頭を撃ち抜いた鷹野を記憶している私には信じ難いというか、大いに複雑なのだが。

 

……そう、沙都子のためにも、鷹野をどうにかして凶行を起こさない方に向けさせなければいけない。いまの沙都子が鷹野に裏切られるようなことがあれば、それこそ地獄の苦しみを味わわせることになってしまうのだから。

 

「うんうん、沙都子ちゃんの言うとおりだよ。レナも、三四さんみたいな人になりたいな!」

 

「私も同感。……そこでさ、みんなにひとつ提案があるんだよ。彼女、鷹野三四さんを我が部のメンバーとして迎え入れたいと思うんだけど、どうかな!?」

 

詩音が魅音さながらの強引さで話をそこに持っていった。

 

「うん、レナは異議なーし!」

 

「も、もちろん賛成ですわ!」

 

「あぅ、楽しそうなのです!」

 

「相手にとって不足なしよ!」

 

「こりゃあますます熱いぜ!」

 

元気に賛成の声をあげるメンバーたちと、突然の話にきょとんとする鷹野。

 

「……どうかな。もちろん忙しくないときだけで構いませんから、仲間になってくれると嬉しいです」

 

悟史が笑顔でそう言ったら、鷹野はすこし考えてからとても嬉しそうに頷いた。

 

「前々から楽しそうだと思ってたの。仲間に入れてくれるなら、喜んで!」

 

「よっし、それじゃ決定だね!」

 

それからお弁当を出しあっての賑やかな昼食を済ませた私たちは、はじめての8人での部活をすることになった。

 

「ビリの罰ゲームはこれ、犬耳犬尻尾と鎖つきの首輪をつけて分校まで一位のワンちゃんとして帰ること!……それに加えて、鷹野さん加入記念スペシャルとして、ご褒美がビッグだよ!?」

 

「な、なんだよ魅音!?」

 

「ご褒美があるのは久々だね!」

 

圭一と悟史が身を乗り出す。スケベ心剥き出しの二人はもちろんのこと、私たちだって期待しないわけじゃない。

 

「ふっふっふ……午後の自由時間、好きな相手とふたりっきりでボート遊び! いまの時期はやってないけど、叔父さんの持ってるボート小屋が向こうにあってね!」

 

それを聞いてみんなの目の色が変わる。

 

というか、圭一以外の全員が圭一に注目する。

 

「ふーん、ボート遊びか。いまひとつぱっとしねぇな」

 

当の圭一は首をかしげるばかりだったが、ボートでふたりきりになるというのはなかなかおいしい。ほかの皆に邪魔される心配なく、思う存分いちゃつけるというものだ。

 

それ即ち、二人の世界ッ!

 

「圭一……、わかってない、わかってないよ!」

 

私たちの希望の星である悟史が、力強くその固有結界を発動する。

 

「この時期のボートに圭一があまり魅力を感じないのはわかる、だけどこの季節だからこその楽しみがあるんだ。それは想像、イマジネーションさ! 枯れ葉の浮かぶ湖の上で二人はその心揺れる時間を満喫しながらも思うんだ。来年、暖かくなったら……もう一度ここに来よう。暖かい陽射しの下で、薄着の彼を彼女を笑顔で見つめられたなら、それはどんなに素敵な時間になるだろう。だからいまこのときをこの目に焼き付けてその日がくるのを想像しながらのんびりと楽しもう、ってね!」

 

あ、なんだかほんわかした気分になってきたかも。

 

圭一ほどの派手なインパクトはないけれど、そのイメージを持ちながら次の機会を想像するのは乙女的な意味で心をくすぐられるものがある。以前のメイドストリームの時もご主人様を思いながらお買い物をするメイドさんの心情で攻めてきたりと、悟史は悟史なりの独特の切り口をもっているらしい。

 

「な、なるほど……こいつは盲点だったな。つまりそれは来年の湖畔でデートの予約権でもあるってわけだな!」

 

「そうだよ圭一、わかってくれて嬉しいよ!」

 

かたく抱き合ってイヤッホゥ☆とばかりに気合いを入れる男子二人。悟史グッジョブ!

 

「け、圭一くんとボートの上でふたりきり……」

 

「いいねぇ……しかも来年のデートも予約つき」

 

「あぅ、なんだかどきどきしてきますのですよ」

 

「この時期のボート遊びも悪くはないですわね」

 

「逃げ場のない場所で迫るのも楽しそうね……」

 

「ご主人様とボート遊びなんて……贅沢な時間」

 

みんなが顔を赤らめ、勝利した自分を夢想する。

 

こうなると、部活は俄然熱くなるから面白い!

 

「……ってことで、始めようか。葛西!」

 

詩音が指を鳴らしたら、近くの繁みの中からいきなりサングラスに黒スーツの葛西が姿を現す。……え、いままでこのために隠れてたわけ!?

 

「お呼びですか、魅音さん」

 

「審判と進行役をお願いね。もちろんイカサマはなしで」

 

「承知しました」

 

葛西は詩音の手の内の人間だけど、その人となりはみんながよくわかっている。イカサマなしだと公言してそれを受け容れた以上、詩音に対してもえこひいきするような狭い了見をもつ人間ではない。

 

「それじゃ、このカードを一枚ずつ配って。みんな、自分のカードは見てもいいけど、人に見せたり教えちゃダメだからね。ルールはいまから説明するから……」

 

みんなが詩音の説明に聞き入った。聞き逃すわけにはいかない、もう戦いは始まっているのだから。

 

「……ということで、第1戦! いってみようか!」

 

みんながルールを理解したところで詩音が宣言し、熱い戦いの火蓋が切って落とされた!

 

「ご協力ありがとうございます。こちらをどうぞ」

 

「あ、これはどうも……」

 

……ところで、葛西が鷹野からお茶を受け取りながら頬を染めているのはツッコむべきかしら?

 

「ぽ」

 

口で言うな!?

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